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あれから2週間程、お店を開けて閉めての繰り返しだった。最初の5日間くらいは忙しすぎて、何度かビートに手伝ってもらったけれど最近は落ち着いている。念願だった読書をしながらの仕事ができている。
あと、もっとカフェに本を集めようと思って古本屋に寄ったり、いらない本をもらい受けたりしている。古本屋って意外と発掘物があって探すのが楽しいのよね。この感覚誰か共有できないかしら。
カラン…
「いらっしゃいませ」
ドアを開けているのは常連になりつつあるお客さんだ。いつもコーヒーを頼んで静かに本を読んでいる。
ただ、どうしたのかドアの位置から動かない。困ったように眉を下げチラチラ後ろを振り返っている。
「ベティさん、どうしましたか?」
「あぁ、サラちゃん。午前に知り合いの店に用があってここを通ったんだけど、そのときにいた子供がまだ店の前にいるんだ」
「子供?」
「10歳くらいの男の子だ。俯いていて状態がわからない」
とりあえず様子を見ようと店の外にでる。すると、かなり痩せている茶髪の男の子がいた。栄養状態が良くないのか、顔色も悪い。
最近はますます暑くなってきたため、熱中症を起こしたらまずいと店内へ誘う。反応がなくて焦っていると、ベティさんが男の子を抱えて店内へ入れてくれた。
「ありがとうございます。今何か飲み物を持ってくるので、こちらに下ろしてもらってもいいですか?」
ベティさんに話しかけながら、カウンターの内側にある長椅子に寝かしてもらう。午前からずっといたから、熱中症になりかけているのかもしれない。
急いでキッチンに戻り、麦茶を持ってくる。本当は塩と砂糖とかでちゃんとしたものを作りたかったけど、今は麦茶で我慢する。
身体を支えながら起こしてもらって、口元にコップを近づけていく。
「飲める?少しでも飲んだ方がいいわよ」
「うっ……」
辛そうだが自分で起き上がり、少し口に含むと勢いよく飲み始めた。
「慌てないで。ゆっくりでいいのよ。まだたくさんあるから」
そう言っても勢いは変わらず、結局子どもはおかわりをしてすぐに2杯飲みきってしまった。
ようやく意識もはっきりしてきたところで、なぜ店の前に居たのか聞いていく。
「落ち着いた? どうしてお店の前にずっといたか聞いてもいい?」
「……妹に食べさせたかったから」
「何を?」
「……アイス。仕事先の大人たちが言ってるのを聞いて、食べたいって言ってたから……」
「妹は今どこに?」
「いつもいる路地裏で待ってる」
「路地裏?」
「サラちゃん、少し離れたところに家のない子どもたちが集まっている場所があるんだ。きっとそこだよ」
聞き返すと、ベティさんが答えてくれた。
「孤児院とかはないの?」
「孤児院より、自分でお金を稼いで好きに使う方がいいって子供が意外といる。孤児院は自由にお金なんて使えないからね。でも子供が働ける場所なんて限られてるし、グループのボスにほとんど取られてしまうみたいで下の子はほとんど……」
話しながらベティさんの視線は目の前の子供へ向くが、また男の子は俯いてしまった、それを見て決心する。
「わかった! じゃあ妹のところに案内して!」
「サラちゃん!?」
「妹の体調も心配だし、何よりこの子をこのまま放って置けないから」
「待ちな、いくら子供でもサラちゃん1人は危ないから、代わりにおじさんが行くよ。坊主、妹の名前を教えてくれるかい?」
「ヒナ……」
「ヒナちゃんか。よしおじさんがヒナちゃんを連れてくるから、サラちゃんはこの子を見てあげて」
「ベティさん、でも……」
「いいからいいから。おじさんに任しときな」
そう言って男の子の頭をグリグリと撫でると、ドアから外へ出ていった。