表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/23

生徒会1

 教えられた通り廊下を進むと、生徒会室のドアの前に到着した。

 それは当然と言えば当然なのだが、何となく意外だった。春日さんの事だから面白半分にデタラメを言ったかも知れないと、少し不安だったのだ。だから肩透かしを食らったような気がして物足りない。


 いやいや、それこそ気の所為だ。早くも毒されたか。


 でも、こうして無事に生徒会室に到着した。あとは役員の誰かに入部届けのコピーを渡せばお役御免となる筈だ。

 落ち着く為に軽く呼吸を一つ。それから胸の位置に手を上げノックする。


 コンコン。


 思いのほか軽い音がする。

 見た目は重厚そうなドアだが、他の教室と同じ合板なのだろう。

 暫く待ってみるが返事はない。まさか、もう帰ったとか言うなよ。 さっきグラウンド歩いてただろ。

 今度は声を掛けながらドアをノックしてみる。


 「すみません、誰かいませんか」


 すると僕の声に応えるかのように室内で物音がする。良かった、誰かいる。

 ドアが開いたらコピーを渡す。

 たったそれだけの動作を何度も頭の中でお浚いしていると、ガタッと内側からドアが開かれる。


 「あ……」


 驚きの余り声が出ない。

 ドアを開けたのはファンクラブがあるのではないかと思うぐらい騒がれている生徒会長その人だった。

 近くで見ると思ったより背が高い。思わず足元を見下ろして段差がない事を確認する。それぐらい背が高い。


 「君は一年の、」


 深みのある低音で問われて、思わずハッとする。小さく頷いて用件を切り出そうとするのだが、生徒会長の動きの方が早かった。

 何故かその場でターンをして、こちらを向くのと同時にアイドル顔負けの笑顔。

 でも、僕は別にアイドルに深い思い入れはないし、この人ちょっと大丈夫かなと心配になるだけだ。

 取りあえず、ターンとスマイルはスルーしとこう。


 「君塚です。部長の代理で来ました」


 そう言ってコピーした入部届けを差し出すのに、会長の五十嵐さんは目を逸らしてしまう。僕に好意を寄せてるって聞いたんだけど、そうじゃないのかな。別に期待してた訳じゃないけど、何だか少しガッカリしてしまうのは、目の前の生徒会長が稀に見る美形だからだろう。


 「あの、」


 目を逸らすだけでなく背中まで向けられてしまって、手にしたコピーをどうしたらいいのか分からなくなり、僕は途方に暮れる。

 ドア開けた時は、よく分からないけど歓迎されてるのかなって思ったのに、そうじゃないらしい。

 幾ら何でも失礼じゃないか、この生徒会長。こっちは初対面なんだけど。


 「君塚真澄くん」


 フルネームで呼ばれて今度は首を傾げてしまう。

 今まで気が付かなかったけど、この学校では相手をフルネームで呼ぶ決まりがあるのかも知れない。

 そんなどうでもいい事を考えていると、急にこちらを向いた生徒会長が一瞬で距離を詰めて、僕の両手を握りしめる。痛い痛い。

 でも、痛がるより先に続けられた言葉に僕は顔色を変えてしまう。


 「四月六日生まれの牡羊座、血液型はB。好きな食べ物はパスタ、特にクリームソースの物。今度一緒に食べに行こう。なに、店はこちらで調べておくから心配しないでくれ。そして嫌いな物は特になし。両親との三人家族で、今年の春に他県からこちらに引っ越して来た。幼少の頃には合気道と柔道を習っていたものの、正座が苦手で辞めてしまった。それ以来、特に習い事はなし。ついでに付き合っている彼女はなし。特に親しくしている友人もいない。そして肝心な事だが、私と君の相性は最高だ」


 えぇっと、何これ。怖いんですけど。

 特に隠している訳じゃないから、調べようと思えばすぐに分かるような事ばかりだけど、初対面の相手にズバズバ言われて楽しい気分になるようなものじゃない。


 どちらかと言えば気味が悪い。もしかしたらストーカーと呼ばれる人種なのかも知れない。

 しかも最後の相性がどうこうってのは全くもって理解出来ない。僕と生徒会長の相性がいいからって何がどうなると言うのか。お互いに男だから恋愛面での相性ではない筈だ。そう思いたい。

 きっと……そうだ。先輩後輩としての相性とかそういうのだ。


 若干、現実逃避を起こしてはいるものの、目の前の生徒会長が消えてなくなる訳ではないので、相性云々については棚に上げとく。一旦、置いとくのは僕の得意技だ。


 「部長に言われて持って来ました」


 さっさと用件を済まして逃げよう。どんなにカッコ良くても変人は変人。春日さんとユノさんだけで既に僕の容量はオーバーしている、これ以上、変人と関わって堪るか。

 差し出したコピーをマジマジと見下ろし、五十嵐さんがフッと溜め息をつく。

 変人だと分かっているのにカッコ良くて見とれそうになる。きっと年齢よりも大人びて見えたからだろう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ