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ハートの女王と赤い薔薇3

 連休が明けて学校に行くと少し環境が変わっていた。


 それまで親しくもなかった山本が何だかんだと僕の周りをウロウロするようになった。

 まぁ、親切な奴だから構わないと言ったら構わないのだが少しばかり鬱陶しい。

 あと、綿井さんが休み時間の度にやって来るのにも閉口した。


 そして坂田先生が学校を辞めていた。

 健康を崩したと言う事だったがそんな筈ない。きっと春日さんが何かしたんだ。


 下駄箱の前で偶然、守坂さんと一緒になった。

 そこで聞いた話によると、守坂さんと大森さんはサクラだった。

 五十嵐さんに頼まれ、ミステリーツアーに参加したのだそうだ。


 「生徒会長に貸しを作って置くのも悪くないからね」


 そう言って猫のような目を細めて笑う。

 その顔を見て、何となく食えない人だなと思った。


 春日さんが企画したミステリーツアーが美波の仇を取るためのものだったのは分かった。

 そこまでするのだから、春日さんが美波と何らかの関わりがあったのも理解した。

 でも、どうして今だったのか。


 美波が死んで一年が過ぎているのだ。

 その間、坂田先生だと分からなかったと言うのなら仕方ないが、あのツアーはどう考えても下準備に時間を掛けている。

 まるで僕が入学するのを待っていたようなタイミングだ。

 思い出してみれば、僕がミス研に入った切っ掛けもちょっと不自然だ。


 春日さんはあの時、屋上で何をしていたんだ?


 守坂さんと別れて教室に行くと、坂田先生が失踪したらしいと噂になっていた。学校を辞めた人だからキチンとした発表はなかったが、誰かが家まで行って確かめたようだ。

 勝手気侭にそれぞれが憶測を並べ立てる。

 痴情の縺れで女から恨みを買って殺された。或いは、闇金に手を出して追われてる。等々。


 そういった噂が聞こえるのは、日頃の行いの所為なのだろう。外見に似合わず坂田先生は驚くほど評判が悪い。

 大人しそうな先生に見えたので、それが不思議に思えて普段は余り話をしない女子に混ざってみた。

 何でも部活の先輩が忌み嫌っていたのだそうだ。卒業した女子生徒のストーカーだったらしい。その卒業生は先生に執拗な嫌がらせをされ自殺したのだと言う。美波の事だろうか。

 適当な所でそっとグループから離れ、自分の席につく。


 元から余りいい噂の持ち主ではなかった坂田先生が学校を辞め、行方を晦ました。それは週末にあったミステリーツアーの所為だと思っていい。

 でも、本当に先生が美波を殺し、自分の子供も殺したのだろうか。

 それが発覚するのを恐れて逃亡したのだとしたら辻褄は合う。でも、僕は何故だか納得出来ない。

 だって証拠がない。

 そりゃ良くない噂が流れるだろうけど、このタイミングで失踪と言うのはやっぱり不自然だ。これじゃ自分が殺したと言ってるのと同じだ。だったら、どうして行方を晦ましたのだろう。

 春日さんが何かしたのだ。でも、何を?


 ジリジリと放課後になるのを待つ。

 構って来る煩い連中を無視して部室に向かうと、ユノさんが一人で本を読んでいた。


 「あれ、春日さんは?」


 そう声を掛けると、「うー」と唸りながら顔を上げる。


 「本当に来たんだねぇ」


 本日も派手な衣装に身を包み、僕を見る。

 黒いワンピースに白いエプロン、赤いフード付きのカーデガン。傍らには籠が置いてあり、ツインテールの髪は淡い栗色。多分だけど、赤ずきんなのだろう。

 フードを下ろしたユノさんの顔は困ったと言うように眉が下がっている。


 「もう来ないと思ってたよー」

 「どうしてですか。それより春日さんに聞きたい事があるんですけど」


 美波と知合いだったのか、坂田先生が本当に犯人なのか、そして坂田先生はどうして失踪したのか。

 この際、ユノさんでもいいから聞いてみようかと口を開きかけた時、部室のドアが引かれ生徒会長である五十嵐さんが顔を覗かせる。


 「春日はどうした」


 部室を見回して、僕と同じようにユノさんに問い掛ける。それに対してユノさんが逆毛の立った猫のように威嚇のポーズで言い返す。


 「教える訳ないじゃん。部外者は出てけー」


 ツアーの時も思ったけど、この二人は仲が悪いらしい。と言うより、ユノさんが一方的に嫌っているようだ。

 五十嵐さんはそんなユノさんに慣れているのだろう。アッサリとそれを無視して、部室に入って来るとソファに座り足を組む。


 「ユノ、お茶」


 その口調と仕草が春日さんにそっくりで驚いてしまう。

 ユノさんは五十嵐さんに従うつもりはないらしく、フーフー威嚇するように唸っている。


 「こんな物を手に入れたんだが」


 五十嵐さんがポケットからチラシみたいなのを取り出す。

 何だ?と覗き込んで仰け反ってしまう。

 新聞部の出した号外だった。大きな見出しの下にはやけに綺麗な写真。


 『アリスとティーパーティー』


 「人気者だな」


 ニヤッと笑って僕を見る。 気が滅入って細かい字なんて読む気もしない。

 パッと見た限りでは、ミステリーツアーであったお茶会の様子が書いてあるらしい。


 「何でアリスだけなの。ウサギはぁ?」

 「正体が分かってんだ。誰もそんな物好きじゃないんだろ」

 「うぅ、納得行かない」

 「それより、春日さんは?」


 話題を変えたくて露骨に大きな声で言ってしまう。


 「詩音はね、今日学校に来てなかったよ」

 「え、」

 「でも大丈夫。放課後来るって連絡あったから」


 そう言うと、本を片付けて冷蔵庫を開ける。覗いてみると、ガラス製のポットが冷やされていた。

 それからグラスを四つ取り出してセッティングする。

 あんなに威嚇していたと言うのに五十嵐さんの分も用意するらしい。人がいいと言うか何と言うか。

 それに、ここにいるのは三人なのに、コップは四つ。

 きっと春日さんの分なのだろう。そう思っていると、ガラッと戸が開く。


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