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女王の裁判2

 手のひらが汗ばむ。緊張しているのは僕だけじゃない筈だ。

 この場に残った全員がユノさんと春日さんをチラチラと盗み見ている。


 「女王様、こちらの三名の者はこの屋敷の住人を存じておりました」

 「そうですか。では彼等を解放なさい」

 「はぁい」


 緊迫感ゼロのユノさんに被さるように「えっ」と声が聞こえる。

 それはまるで意表を突かれたような驚いた声だった。

 五十嵐さんが腰を浮かし掛けた僕の肩を押さえる。その目を見上げると、僕を安心させようとしているのか頷かれてしまう。


 「女王様、」


 その時、手を上げたのは服部さんだ。真直ぐに春日さんを見て言う。


 「僕もこの場に同席させて下さい」

 「断ります。事件に関係ないと分かった以上、この場に留まる事は許しません」

 「でも、僕も疑われていたのでしょう?ならば無実だった僕は誰が犯人なのか知る権利があると思います」

 「その権利は認められません」

 「女王、俺からも提案」


 僕の背後にいた五十嵐さんが手を上げる。


 「服部はいてもいいと言うか、いた方がいいと思う」


 キッと春日さんがきつい視線を寄越す。視線だけで失神してしまうんじゃないだろうかって程、怖かったが、五十嵐さんはそれに怯まない。


 「この裁判、記録を残すんだろ。だったら記録係がいた方がいいんじゃないのか?」


 春日さんの目が増々吊り上がる。何を言いたいのか分かる。

 『阿呆、ボケ、カス、役目終わったなら口出すな』って絶対に言いたいんだ、春日さんは。

 結局、春日さんはそれ以上服部さんを追い出そうともせず、五十嵐さんを完璧に無視して裁判を続けた。


 服部さんがノートを広げ、ペンを持つ。本気で書き留めるつもりらしい。

 それを横目で眺めていると、春日さんが気を取り直すように溜め息をつく。


 「さて、そろそろ犯人を特定しましょうか」


 コツ、と音をさせて春日さんが四人に向かって歩く。


 「名前は?」


 春日さんに訊ねられてチャラい外見に似合わない狼狽えたような仕草で目を逸らす。


 「綿井礼、3-Bだ」

 「去年、転校して来た?」

 「同じクラスなんだから知ってんだろ、そうだよ!」


 ドンと春日さんが押す。綿井さんが服部さんの方に転ぶ。


 「貴方は?」

 「守坂雪野。学年も?」


 守坂さんの態度に少しだけビックリする。

 同じ学年なのだから、春日さんの事は知っている筈なのだ。今はこうだけど、普段は言葉より手が、手よりも先に足が出る、それが春日さんなのだ。

 それなのに守坂さんは平素と変わらぬ猫のようなニヤニヤ笑い。

 この人の心臓は鉄で出来ているのかと疑いたくなる。

 守坂さんの目が勝ち気そうに春日さんを見据えている。それに苦笑を漏らして、春日さんが首を振る。


 「いいえ、結構。貴方はアチラへ」


 言われた通り守坂さんはユノさんの横に並ぶ。


 「大森勇太」


 今度の人は春日さんに問われる前に名乗る。

 この人も有名だ。この人がいるおかげでバスケ部の練習はいつも見学者で溢れている。守坂さんと同じく、こういう行事に興味がありそうには見えなかったので待ち合わせ場所でその姿を見た時は驚いた。


 「大変、結構です。アチラへ」


 すらっと春日さんの指が伸びて僕の方を示す。

 分け方が何だかチグハグで誰が犯人なのか分からない。


 一年生は帰らせた。入学してまだ間もない一年生は美波を知らないから、無関係だと判断したって事だ。

 でも、さっき帰らされた三人はここに美波が住んでいたって知っていたんだ。それなのに春日さんはどうして無関係だと思ったんだ。


 そうじゃない。ここに美波が住んでいたと絶対に知っている筈なのに『知らない』と答えた人物がいる。どうして嘘をついたのか。

 それはきっと犯人だからだ。


 息を詰めて、僕は残った一人を見つめる。


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