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帽子屋のお茶会2

 「アリス急いで。他の人も早く」


 忙しなくこちらを手招きしている。

 ユノさんの傍に向かいドアの手前で振り返ると五十嵐さんがのほほんと手を振っていた。


 「ここからが本当の恐怖体験となる。間違いなく、誰か一人には」


 僕にだけ聞こえるように小声で囁く。

 それに首を傾げていると、とユノさんが間に入るようにして僕を押しやる。


 「早く、アリス。裁判に遅れちゃう」

 「裁判?」

 「そう、女王様の裁判だよ」


 パフパフと頭に取り付けた耳を振ってユノさんが答える。

 先に行く参加者を押し退け、ユノさんは廊下を進み突き当たりのドアに手を掛ける。


 「はいはい、注目して下さいねー。では、ここで点呼しまーす。い~ち」


 当然だが、誰もそれに続かない。


 「うわっ、ノリ悪ぅ。もう一回、い~ち!」


 ユノさんの後ろにいた人が渋々それに倣う。


 「に~」


 その声に振り返ると、僕がミス研に入る切っ掛けとなった綿井さんが不貞腐れたように立っていた。驚くと同時に苦手意識が立ってしまい、そっと距離を開ける。


 「さん、」


 次に答えたのは僕と同じクラスの山本だ。陸上部に入っていると思ったけどそれ程親しい訳ではないので良く知らない。


 「よ~ん!」


 やけにノリノリで答えたのは三年生だ。確か服部さんだったか。生徒会で書記をしているから顔は見た事がある。先程の五十嵐さんの話の間も何やらニヤ ニヤしていた。僕はそうは思わないけど、周囲からは堅物と思われている五十嵐さんがあんな事するから面白かったのだろう。


 点呼は進み、僕の手前までやって来た。


 「十三」


 静かに落ち着いた声で答えたのは監督役の教師である坂田先生だ。文芸部の顧問とか聞いたような気がする。ミステリ研究会は文芸部から派生した事になってるから春日さんが無理矢理頼み込んで監督役をさせたのだそうだ。

 僕が続こうとするとユノさんがそれを遮る。


 「全員いますねぇ。アリス、こっち来て」


 言われて横に並ぶとユノさんがギュッと僕の手を握る。その手は何故か汗ばんでいる。

 もしかして緊張している……?


 「行きますよー?」


 そんな事は気付かせないのほほんとした声で言うと同時に片手で重そうなドアを押し開く。

 中は大きな机。その上に火のつけられた蝋燭がポツンと乗っている。

 机に軽く腰掛けて僕達を待っていたのは予想した通り、春日さんだった。窓に向かってどうやら腕を組んでいるらしい。

 そんな春日さんの前に回り込んでユノさんが何やら説明する。

 フワッと重力を感じさせない動きで春日さんは立ち上がると僕を見て少し困ったように頬笑む。


 やっぱり春日さんは綺麗だ。


 続けて入って来た参加者を確認して春日さんは机を回って僕達と向かい合って立つ。

 スリットの深い黒のタイトスカート。覗く綺麗な足は網タイツにストラップの付いたピンヒール。上はフンワリとした真っ赤なブラウス。その胸元にはハート型のブローチ。

 長い髪は高い位置で結い上げ、後れ毛が頬に掛かって綺麗な上に妖艶だった。

 ブラウスと同じ真っ赤な唇がゆっくりとほころぶ。


 「ようこそ、皆さん。ハートの女王の裁判へ」


 誰もが見とれて身動き一つしなかった。


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