ツアー決行3
ユノさんにしては早口で参加者の名前を呼び上げている。
その声を聞きながら改めて全員の顔を見ようとするが、辛うじて守坂さんがいる事しか分からなかった。
僕を見て不思議そうに首を傾げていたが、すぐにニコッと手を振って来る。まさか、僕だと分かったのか。
慌てて目を逸らし、集まった全員をボンヤリと眺める。みんな、ユノさんのコスプレに呆然と見とれているようだった。
それはそうだろう。薄闇の中に建つ廃墟、その前でフワフワと動き回る白ウサギのようなユノさん。怖いんだか可愛いんだか、よく分からない。
と、ユノさんを追いこして五十嵐さんが中に足を一歩踏み入れる。
何処から取り出したのか黒い帽子を頭に乗せ、恭しくお辞儀をする。
「さぁ、皆さん。ようこそ気狂い帽子屋のお茶会へ」
吃驚、だ。
これには参加者よりも僕の方が驚いた。
「さ、主役は当然アリス」
そう言うと僕の手を取りエスコートする。
「アリスを案内するのはウサギなのにー」
不満そうに頬を膨らますユノさんに五十嵐さんは冷たく振り返る。
「早くしないと女王に首を刎ねられるぞ?」
「五十嵐の癖に……と、アリス!!」
「え?」
突然、五十嵐さんの手を払い除けるようにユノさんに手を取られ吃驚して声を上げてしまう。
「女王からの伝言。予定変更、このまま裁判に参加しろ」
「は……?」
確か春日さんには『お化け屋敷』に皆を案内したら帰っていいって言われていたけど。
それよりユノさんの口調がいつもと違う事にビックリしてしまう。
語尾を伸ばしす甘ったるい喋り方じゃなかった。事務的な素っ気ない口調だったのだ。
訳が分からずに聞き返すがユノさんは「遅刻だ遅刻だ」とブツブツ呟きながら奥のドアを潜ってしまう。