0.蕾
そこは、まるでお伽話に出て来る世界のようだった。
手入れのされたイギリス式庭園。
自然の物のように見える花壇には季節の花々が咲き乱れ、その上を名前も分からぬ蝶がヒラヒラと戯れている。
それらを背景に、敷き詰められた芝生の上で思い思いに寛ぐ子供たち。
人数は日によって変わるが、揃う顔はだいたい同じだ。
彼らは目立つ容姿をしているので、見間違えようがないのだ。
一番に目が行くのは、矢張り揃いの服を着た双子だろう。
この二人が向かい合ってヒソヒソ内緒話する様は、鏡にうつったようにそっくりだ。白い肌に長い睫毛、赤い唇はまるで小さな花びらのよう。
しかし、双子とは言っても違いはある。一人は腰まで届きそうな艶やかな長い髪、もう一人は耳の下で揃えている。
お互いにしか分からないやり取りをして顔を見合わせ、クスクスと悪戯っぽく笑う。
その隣には真面目そうな顔をした男の子がいる。口数は少なく、いつも一人で本を読んでいる。
少し離れた所には猫のような少年と甘え上手なウサギみたいな子。
この二人は勝負事が好きらしい。いつも、目をキラキラさせながら賑やかにトランプやボードゲームをしている。
爽やかな紅茶の香りと甘い砂糖菓子。
その場にいる誰もが好きに話をしたりお菓子を摘んだりと、それぞれに楽しんでいる。
それを眺める僕の傍には香しい薔薇の蕾のような女の子。
彼女の名前は君塚美波。大切な、僕のイトコだ。