神様の思いつき Part2
白い靄のかかったガランとした空間で、2人の男性が椅子に座って向かい合って話していた。
1人はもちろん神様で、神様の前に座るのは30代後半の男だ。
「松田万千夫37歳。今日、入浴中に心臓発作を起こして死亡―― となっておるのお」
「俺、心臓発作で死んだんすか? 本当は、神様の『手違い』で死んだんじゃないんすか? 絶対に、そうっすよね? だから、俺にチート能力を与えて異世界に転生させてよ」
今回もまた、こんな奴が来おったか……
神様はあきれ顔で松田を見ながら
「さっき言うた通り、お前の死因は只の心臓発作じゃ。そもそも、神は下界のことに一々関わることなどせんぞ。それに、仮に神の手違いで人が死んだからといって、その者に『世の理を狂わせるような能力』を与えるわけがないことくらい、常識があればわかるであろう?」
「でも、神様の手違いで死んだんなら、責任を取って、チート能力を与えるべきっすよね?」
「1人の人間のために『神の如き能力』を与えて転生させるくらいなら、時間を少し巻き戻して、その者の死を『なかったこと』にする方がマシじゃ。儂なら、そうするぞ」
「ええっ? チートもらえないんすか?」
「当り前じゃ。大体そんな能力を与えて、その者が他者に迷惑をかけたら、それこそ『神による二次被害』のようなものではないか」
「仕方ないか…… じゃあ、とりあえず、時間巻き戻して生き返らせてよ!」
「否、儂の手違いでお前が死んだわけでないから、生き返らしたりせんぞ」
「なんだよ…… 生き返れないのかよ……」
松田はブツブツ文句を言っているが、神様は松田に尋ねたいことがあった。
「話は変わるが、お前に聞きたいことがあるのじゃ。お前は生前、どうしてあのような『他者を堕落させる小説』を書いたんじゃ?」
「『他者を堕落させる小説』って何すか?」
「それは、お前の書いた『チートをもらって、一切の努力もせずに、好き勝手に暴れまわって、ハーレムを築く』という、何の教訓にもならん欲望垂れ流しの『ラノベ』のことじゃ」
松田は、『チートハメ太郎』というPNを持ったラノベ作家だった。
「酷い言われよう。神様、めっちゃ正直!」
「転生させるにしろ、どうして普通に『努力して苦労して成功する』というような話にせんかったんじゃ?」
「神様、わかってないっすね。Web小説界隈じゃ『努力』とか『苦労』とか、そういうのはダメなんすよ。寧ろ、俺の書いた『ああいう話』しかウケないんすよ」
それは、神様にとって衝撃だった。
人間は努力して困難を乗り越えて、今の世界を築いてきた筈じゃ。
確かに、一部には『怠惰で欲望だけ』のどうしようもない者もいたが、それはあくまで例外的存在であり、大部分は『真面目で勤勉』であった。
それなのに――『努力』がダメで、あのような『どうしようもない話』だけがうけるじゃと!?
昨今は、人間の信心が薄れており、下界の声が神様まで届きにくくなっており、神様は下界の情報にかなり疎くなっていた。
これは大問題じゃ!
近頃『汚れた魂』が増えていたのは、『ラノベの影響』じゃと思っておったが、まさか人間全体が堕落し快楽だけを貪るようになっておるのか?
このままでは、天国へ送る『美しく輝く魂』がどんどん減って、現世に転生させる『汚れた魂』ばかりになってしまって、儂の管理責任にもなりかねない。何とかせねば……
神の力を用いれば、下界の人間を洗脳して『真人間』にすることは可能だが、それでは『魂の汚れ』が落ちない。人間自身が、自らの行いを反省し『真面目』になるように導く必要がある。
神様は『あること』を思いついたのだった。
とりあえず、松田の魂は『地獄行き』となった。