神の顔に2度目はない
「それで、またトラックに轢かれてここへ来たわけかの?」
「ああ、そうだ! 大体チートをくれたはずなのに、全然これっぽっちも役に立たなかったぞ!」
神様は『村田王子』の記憶を確認する。
「そりゃお前が1度もチートを使わんかったからじゃの」
村田王子は神様の言葉にムッとしながら尋ねる。
「そもそも、『あんたのくれたチート』って何だったんだよ?」
「最初に言うたじゃろ。『あらゆる分野で平均の2倍の伸び代がある』という、トンでもない能力じゃと」
「だったら何で俺は受験に失敗したんだよ?」
神様はその問いに静かに答える。
「お前は1度も努力をせんなんだ」
「チートなんだから、努力なんて必要ないだろ!」
村田王子は自分の愚かさを認めたくなかった。
努力して失敗すれば言い訳ができない。彼は、自分の無力さを知ることを恐れていたのだ。
「人は皆、どんな才能があるか知らずに生きておる。努力しても壁に突き当たって、その壁を越えられずに終わることなんぞ、当たり前に起こるのじゃ。
じゃが、お前は努力さえすれば、必ず平均の2倍も才能を伸ばすことができた。つまりお前は何をやっても成功が保証されておったのじゃ」
「何だよ? そんなのチートじゃねえよ。俺が望んだチートは、初めから最強で周りから称賛されるもんだよ!」
「それは誰が考えたチートかの?」
「神様のくせに知らないのかよ? ラノベ読んで勉強しろよ!」
「ふむ。ラノベを読めば分かるのじゃな」
神様はどこからともなく本を取り出した。
神様は、背表紙に『異世界……』と書かれた本をパラパラと1秒ほど捲っては、次々と新しい本を取り出してくる。
1分足らずで50冊以上の本を読み終わったようだ。
「なるほどの」
神様の小さな呟きを聞いた村田王子は、
「次の転生は、間違えずにラノベみたいなチートをくれよ……」
そう言ってみたが…… 神様の顔を見て息を飲んだ!
さっきまでの好々爺の雰囲気は消えて、阿修羅のような恐ろしさ……
「心配せずともお前の魂は転生させてやる。
大体のう、転生しない魂は現世で磨かれた『美しく輝く魂』だけじゃ。そういう魂は『天国』へ行くのじゃよ。
お前のような汚れきった魂は、1度地獄に落として、トコトン洗浄してまっさらにしてから転生させるのじゃ」
「俺、地獄に落ちるのか!? 神様、助けてくださいよ! 俺、次こそ努力しますから!」
村田王子は必死に神様にすがり付こうとしたが
「神の顔に2度目はないのじゃ!」
神様がそう叫ぶと床に穴が空いて、村田王子は地獄へと落ちていった。
「それにしても、最近あのようなどうしようもない魂が増えた理由がよう分かったわ」
神様は足元に積まれたラノベに視線を向ける。
「努力をせずに快楽のみを求める書物か…… このような悪書を世にばらまいた愚か者がここへ来た時には、前世の記憶を持たせながら未開の危険な世界へ送ってやって、『人生の厳しさ』というものをとことん教えてやるわ!」