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転職魔王の勇者討滅録  作者: 先祖代々貧乏
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冒険者登録

 お待たせ致しました。




 すっかり冷めてしまった食べ物を暖め直し、俺とノルは遅めの朝食を摂った。宿の朝食もあったが、食堂に移動しなければならない。周りの目も気にして宿の朝食は諦めた。



 「んー、この串焼きは美味。シンヤは買い物が上手い」

 「ノルが美味しいものが食べたいって言ってたしな。ちゃんと味は確かめているし、気に入って貰えたなら良かった」

 「ありがとう。それから……疑ってごめんなさい」

 「気にするな。何も伝えずに出て行った俺も悪かった」

 「………うん。ところで、今日の予定はどうするの」

 「ああ、それのことなんだが―――」



 俺は今日の朝、串焼き屋の親父さんに聞いた会話をノルに伝えた。まだ詳しい話はしたことが無かったので、俺があの地底湖に辿り着いた経緯も含めて話す。幻想の住人(ファントム)のことや地球の話はややこしくなると悪いのでしなかった。リエル村への襲撃やダカルが戦場へ救援に向かった事など、ノルは割と真剣に聞いてくれた。



 「ふぅん、そんな事があったの。それで、シンヤはそのガザルって勇者に復讐しようとしてるの?」

 「復讐か。どうなんだろうなぁ……許せないとは思うしガザルを殴りたいのは最もなんだが」

 「でもアルトイラに喧嘩を売るんでしょ。何か策はあるの?」

 「ぶっちゃけると、まだ無いな。俺はリエル村を取り戻せればいいし、それもまずは現状を理解してからだ。これからリエル村を目指すわけだが、まずは旅の支度をしなければならない。」

 「そう。旅の支度って何をするの」

 「そうだな。飯を買うのも馬車で移動するにしても、まず金がいるだろ?後は、身分証だな。色んな街を抜けるのに、関所で引っ掛かると面倒だ。何処で検問があるかも分からないしな」

 「私は精霊。身分証など作れるかな」



 背中の翼を気にしつつ、ノルは不安げな表情を見せる。そんな不安を払拭するように、俺はノルに笑いかけた。



 「大丈夫だ。この世界には冒険者証なんていう便利な物がある。今日はこれから冒険者ギルドへ向かうぞ」





  **************




 所はイラ領、街の中心部。宿屋から二十分程の場所が冒険者ギルドの支部となっている。



 大勢の人間に囲まれている環境が落ち着かないのかノルは終始無言で、俺の隣をピッタリ着いて離れない。肩が触れるほどの距離で歩いていると妙に意識してしまい、俺まで一緒にそわそわした気分になった。



 「ノル、着いたぞ」

 「うん、分かってる」



 イラ領の冒険者ギルドは割と大きく、三階建ての建物の中にはギルドの支部以外に武器や防具、雑貨等を扱う店が詰め込まれている複合施設だ。一階部分が主たる窓口であり同時に酒場としての盛り上がりも見せている。



 俺達が中へ足を踏み入れると、中の冒険者達が一斉にこちらへ視線を向けた。ノルが歩みを止め、警戒体制に入る。

 ほとんどは奇異の視線であり、わざわざ気にするほどでもない。俺はノルの手を引くと、冒険者登録受け付けまで歩いていった。



 「冒険者登録に来た。俺と、連れの二つ分頼みたい」



 途端に辺りがざわめきだした。成人もしていない、うら若き少年と、これまた同年代くらいの少女。戦力どころかモンスターの前に立てるのかすら怪しいと周囲は思ったのだろう。

 受け付けの女の人も少し戸惑いつつ、登録用紙を差し出してきた。



 「冒険者は過酷な仕事です。危険も当然ありますが、本当によろしいのですか?」

 「ああ。問題ない」

 「そう……ですか。では、こちらが申請用紙になります。あちらの台で記入してきて下さい」

 「どうも」



 紙を持ち記入台へ向かうと、冒険者の男の一人が通り道を塞いできた。

 背に負った大きなハルバードに重厚な鉄の鎧。やたらガタイがよく、腕には無数の傷跡がある。歴戦の戦士とでも言えそうな風貌だ。



 「そこの小僧。ここはお前みたいな戦いも知らん奴が来ていい所じゃねえんだ。俺らを冷やかしてんならとっとと帰りな」

 「別に冷やかしに来たわけじゃない。そこを退いてくれないか。申請書が書けない」



 大体予想はついていたが、全くもってしょうもない。どこの世界にもこういった頭の悪い連中はいるもんだ。



 「なめた口叩いてんじゃねぇぞ、オラァ!」

 「………ぐっ、がふっ」



 俺の返事が気に喰わないのか男が激昂し、鳩尾に拳を入れられる。

 俺は膝をつき、鳩尾を押さえた。咄嗟に身構えたのだが、予想以上に男の拳は重かった。日常的にハルバードを振り回しているだけの事はあってか、ただ腹筋を固めただけでは厳しかった。

 俺の一歩後ろにいるノルは動かない。



 「その程度で崩れるなんてなぁ?鍛えてないんじゃねぇのか?」



 頬に平手打ちをくらった。痛みは感じるが、耐えられない程ではない。

 ダカルに受けた鍛練で一体俺が何発殴られたと思ってる。俺の意識を持っていかない辺り、相当優しい。

 考え事をしている間に、さらに数発の殴打を受けた。



 「お前は床でのびてるんだな。そんな様子じゃ、何一つ守れない。お前がいかに無力か、しかと教えてやるよ。感謝するんだなぁ?」

 「何を………?」



 顔を上げてみると男をは劣情にまみれた表情で視線をノルへ向けていた。いつのまにか俺達は冒険者に囲まれており、周囲のギャラリーも皆一様に卑下た笑みを浮かべている。



 「正気か?ここは冒険者ギルドだぞ。」

 「知らねえなぁ、これは教育だ。ギルドは関係ねえ。」



 男の手がノルの肩へとのびる。

 ぷっつり、俺の心で何かが切れる音がした。

 ノルに下劣な視線を向け、更には辱しめようとした罪、万死に値する。



 【肉体強化:基礎身体能力補正値三百パーセント】



 「ノルに手を出すのか。おっさん、自殺願望か?」



 男の手首を掴み捻り上げ、床上に叩きつけるように投げる。苦痛に呻く男の腹を踏みつけると、男は胃液を吐いて気絶した。全く、汚らわしい。



 「少年だからといってあまり舐めすぎないことだな」



 周囲の場が一瞬で静まり、ようやく理解の追い付いた者が初めて俺を警戒し騒ぎだす。



 「兄貴!ちくしょう、不意打ちが効いたからって調子に乗るんじゃねえぞコラァ!」

 「そうだ。俺達が(シルバー)ランクパーティー、"恐慌"だと知ってたか!」



 「いや、知らんな。"恐慌"?大層な名前をつけたな」



 ハルバードの男の仲間だろうか。槍や剣を持ち、皆一様に鉄の鎧を固めた男共が三人程わめいている。

 目の前で仲間がやられたというのに、全く頭の悪い連中もいるものだ。

 この程度の雑魚が何人居たところで俺が負けることはない。



 「シンヤ、私に代わって。床が汚れている。倒し方が良くない」

 「ああ、ごめん。殺すなよ」



 ノルが剣を手に前に立つ。俺よりも背が低いのに、凛とした後ろ姿は頼もしい。



 「おっと、お嬢ちゃんが相手してくれるのかぁ?」

 「そんな物騒な剣はしまっちまえよ。もっとお似合いの剣があるぜぇ?」

 「ギャハハハ、そりゃあ傑作だ。そうだ。楽しいコト、シようぜ?」



 「黙って聞いてりゃ調子に乗りやがって。殺すか!?」

 「シンヤは押さえて。全く、下らない戯言を。己が矮小さを露呈するだけ。」



 吠える俺を剣で制し、ノルは凍りついた冷たい表情で剣を構えた。



 【瞬刀:閃戦驚凶】



 ノルが何もせず納刀する。チン、と軽快な音がした。

 男共の持つ得物が、柄を残して崩れ落ちる。いや、何もしなかった訳ではなく、早すぎて見えなかっただけだ。

 男共は状況を理解出来ていないのか、柄だけとなった得物を見つめて呆然としている。



 「俺達の武器に……何をしたこのくそ(アマ)ァ!?」

 「もうお前らには我慢ならねぇ。優しくしてやろうと思ったがな!」



 「なっ!?こ、来ないで!!」

 「ノル!間違っても殺すな!!」



 まさか武器を破壊されてなお襲ってくるとは。こちらの想像以上だ。

 なりふり構わず向かってきた男に対し、ノルが抜刀の構えを取る。俺の声が届いているかも怪しい。



 【纏気:闘鬼ノ威圧】



 瞬間、ノルを中心に強風が発生し、むせる程強烈な殺気に叩きつけられた。

 悪寒と警鐘が全身を巡り、無意識に防御障壁を展開してしまう。

 周囲の冒険者は気絶。ノルを襲った三人にいたっては穴という穴から液体を垂れ流し、釣った魚のようにビクビク痙攣している。

 全員生きているものの、これはひどい。

 最初に俺にボコられた男の方が一番優しかったかもしれない。間違いなく戦闘に対する恐怖心を埋め込まれた事だろう。トラウマになり、戦えなくなる者が出るかもしれない。

 まあ、それもこれも全て自業自得だ。配慮してやる義理はない。



 「ノル、大丈夫か」

 「大丈夫だけど、怖かった。威圧を使うつもりは無かったんだけど、シンヤに任せたほうが良かったかも」



 ノルに服の裾をつかまれる。ちょぴり涙目でいじけるノルは反則だ。思わず見惚れてしまう。



 「どうしたの」

 「いや何でもない。ほ、ほら。取り敢えず申請書出しに行こう。」



 取り繕うように俺は記入台へと向かった。



 この後、このギルド内で戦意を失い、脱け殻のようになった冒険者達が続出する事件があったのだが、それは俺達の知ったことではない。




  **************




 「それではこちらが、シンヤ・ミスミ様及びノル・アンシャール様お二人の冒険者証となります。ランクは(ブロンズ)ですが、受注するクエスト自体に制限はございません。ただ、実績や信頼性の関係で依頼主から断られる場合がございますのでご注意下さい。また、冒険者証を紛失されますと、再発行に手数料三金貨を戴きます」

 「了解した。クエストの受注方法は」

 「掲示板に依頼書が貼ってあるので、剥がしてカウンターまでお持ち下さい。素材の納品等のクエストは、それぞれのクエストで余った手持ちの素材でも構いません」

 「ありがとう。早速見てみよう」



 ノルが、受け取った冒険者証を物珍しそうに眺めている。銅で出来た薄いカードだ。それぞれの氏名と年齢、発行元と識別ナンバーがあり、実績や信頼によって星が追加される。ランクが上がれば冒険者証の材質が変わっていくらしい。

 俺とノルの年齢は、取り敢えず十七歳という登録にしておいた。



 クエストの受注掲示板を見ると、難易度によって色が違っている。都合のいいことに、闇コウモリの羽を三百枚納品するクエストがあった。俺が地底湖にたどり着く前に歩いていた洞窟にいたアイツだ。

 闇コウモリの羽は一枚当たり一白金貨。三百枚の納品だと、白金貨三百枚に昇る。魔法術を起動し収納空間を確認すると、充分すぎる数の闇コウモリが眠っていた。

 受け付けの人に若干ひきつった顔をされつつ納品を済ませる。

 理由を訪ねると、「闇コウモリは暗闇の洞窟に生息し、動きが速く数も少ない」という事らしい。俺が歩いていた時は、光に集まる羽虫の如く湧いていたが。

 だがそのお陰で当座の資金には困らなそうだ。身分証も手に入れ、資金が足りなければ冒険者としてクエストをすればいい。正に一石二鳥というやつだ。



 そろそろイラ領に留まるのも潮時だ。リエル村に戻ろう。

 馬小屋で馬車を買い、荷物をまとめる。



 「ノル。そろそろリエル村へ向かう。大体二週間位馬車での移動だが、大丈夫か」

 「大丈夫。ダカルさんて人の情報を探すんでしょ」

 「そうだな。勇者への殴り込みは、その後だ。すまないが我慢してくれ」

 「分かってる」



 夜明け前、まだ暗いうちに俺達はイラ領を出立した。

 この間、書いていた原稿が、誤って戻るボタンを押してしまったことで全て消えてしまったので遅い更新となってしまいました・・・・お許し下さい。

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