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転職魔王の勇者討滅録  作者: 先祖代々貧乏
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棺の少女

 3、4日のペースで更新していけたらと思っていたのですが、中々難しいです。


 今話も相当悩みました。




 俺の優秀な探知魔法術は警告を発していた。

 目の前の少女が危険だと。演算によれば戦闘時の敗北率は六十パーセントを越えるらしい。



 だがその瞬間だけは、俺は何も見えていなかった。聞いてすらいなかった。

 ただただ、目の前にある人智を越えた美貌に釘付けにされた。



 なめらかな漆黒の翼を背中に宿し、さらさらと流れる菖蒲色の鮮やかな髪。

 肌は陶磁のように白く、決して大きくはないが主張する胸の双丘は体型にベストマッチしている。



 何とは無しに一目その姿を瞳に映した瞬間、俺の心は打ち砕かれていた。

 鮮烈な風が吹き抜けたように、ただただ驚いてしまう。

 戦う意欲などとうになくし、俺は自然に魔法術の制御を手放す。



 気付けば眉間から数センチの距離に、いつの間に手にしたのか少女が持つ剣の切っ先が迫っていた。体に叩きつける風圧の強さがその剣の速さを物語っており、もはや避ける選択肢すらなくせいぜい目を閉じることしか出来ない。



 地下湖内に再び静寂が訪れる。

 つう、と鼻筋に暖かいモノが流れてきた。痛みは感じないが多分出血している。綺麗に頭を貫かれたのか、死とはこういうものなのだろうか。



 「おかしい………武装解除の上にこの程度の攻撃すら避けられないなんて。もしかして、勇者ではない?いや、でも仮にそうだとしてもただの一般人では入り口すら見つけられないはず。ここにたどり着くならなおさら……」



 少女が何事かを呟いているのが聞こえる。

 ゆっくり目を開けると、刀身が鏡の如く磨きあげられた剣が眉間をわずかに切り裂く程度で止まっていた。



 「そこの人間、私が誰だか知ってる?」

 「はい? え、えーっと羽があって、湖から出てきたラスボス……じゃなくて美少女です」

 「そうじゃなくて……私が誰だか知らない?ならばどうしてここに居るの?」

 「いやー、ちょっと地中に埋まっちゃって、転移したら謎の洞窟で。出口を探して歩いてたんですけどね………」

 「茶化さないで。転移は専用の魔方陣を特殊な魔素だまりのある場所へ描いて初めて使えるもの。地中に埋められたのが事実としても話の辻褄が合わない。誤魔化せるとは思わないで」

 「ひぃぃっ、あ、危ないから剣を降ろして!本当だって!君もこの場所も知らないし、転移だって使えるから!」

 「仮にそうだとして、じゃぁここで何をしようとしていたの。相当の魔力を操作していたみたいだけど。私を殺しに来たんでしょう?もう言い逃れは出来ないはず」

 「出口無いし転移の準備してただけだし……。殺すなんて物騒なこと言ってるけど初対面で、しかもこんな美少女を殺すなんて出来るわけ無いだろ。それとも君は命でも狙われているのか?」

 「い、今私を美少女って………。いやいや、私は騙されない。武勲のため、功績を残すため、いつだって私利私欲のため私達精霊を狙うのはあなたたち人間、勇者達。今度は何、精霊を傀儡にして慰みものにでもするっていうの?」

 「精霊?君は精霊なのか?それで勇者っていうのは……相変わらずクソみてぇな事しかしない連中なんだな」



 リエル村の一件といい、あの鉱石採掘現場といい、さらに精霊というらしい彼女が言うには勇者とは私利私欲にまみれた行動しかしないクソ供の集団だ。表だけはいい顔をさらしている分、タチが悪い。



 苦虫を噛み潰したような顔で吐き捨てた俺に、精霊の少女が目を丸くした。



 「勇者をよく思わない人間も居るの?」

 「ああ、勇者とかクソ喰らえって感じだな。そもそも俺に勇者なんか関係ないし、たかが活躍が大きかった程度の輩だろ。普通に暮らしていりゃあ良かったものを。俺の村はその勇者のお陰で滅茶苦茶だ」

 「人間は皆、勇者には盲目的だと思ってたのに……。どうして?貴方からは嘘の気配が感じられない」

 「嘘をつく理由がないな。それに、勇者をよく思わないやつなんてごまんと居るだろう。とにかく、俺は君と戦うつもりはない。魔力を使うのは転移のためだけだ。それが疑わしいなら取り敢えず外へ案内してくれないか?」

 「そうなの。そうしたい所だけど……」




***********




 精霊の少女は考える。



 数百余年前に突如として現れた圧倒的な力を持つ人間、勇者。

 勇者は瞬く間に勢力を拡大し、当時世界中に存在していた数ある精霊の悉くを狙った。逃げる先どこまでも勇者は精霊を追いかけては殲滅せんと攻撃を仕掛け、居場所を失った精霊は秘境の地で過ごすことを余儀なくされた。



 そして現在。

 数百年経った今でも精霊は窮屈な暮らしを迫られている。今までは安全だと思われていたこの地底湖も、人間の侵入が確認された今では勇者が見つけないという保証は何処にもない。

 このままでは破滅を待つことと同義であり、それは断然許容できることでは無い。



 このままで本当にいいのか。少しでも動いていかなければならないのではないか?



 動くならばこれは好機だ。真偽は定かではないが、今目の前にいる少年は単独で転移魔法が使えるという。それほどの魔法術を習得していながら戦闘はあまり得意ではない様子だ。もし襲われることがあったとしても容易に対処できる。

 さらに好都合な事には勇者に反抗的であり、反旗を翻そうとしているようだ。上手く事が運べば拠点として、精霊の居場所を増やすための足掛かりとなる。



 懸念としては人間界での魔法術の水準が高くなっており、転移魔法が一般化されているかもしれないという点。

 その場合、一村人(しかも少年)によるごくごく個人的かつ無謀な復讐に付き合わされた結果だけに終わるかもしれない。だが、そんなことはすぐにでも分かることだ。都合が悪ければこの少年を見捨てて逃げれば良い。



 この機会、この少年には利用価値がある。少女はひとつ覚悟を決めた。




***********




 何を考えているのか、憂いの混じった少女の表情を俺はボーっと見つめていた。憂いさえも絵になる美しさは筆舌に尽くしがたい。



 やがて少女は俺の目を真っ直ぐ見つめ、おもむろに口を開いた。



 「あなたが転移するのも、私が外へ連れ出すのも、どちらでも構わない。ただし一つだけ条件がある」



 ……代償を支払えときたか。精霊が求める代償など想像も付かない。突飛なものでなければいいが。



 「ふむ……その条件は?」

 「私も一緒に連れていくこと」

 「え、え?それはつまり、君が俺に着いてくると?」

 「そう。そういう意味に他ならない」

 「あまり勧めはしない。旅とか冒険には慣れてないんだ。快適とはならないぞ」

 「別にそれでも大丈夫」

 「そうか、よし分かった。その条件でいいんだな。」



 冷静な態度を心がけつつ、俺は心のなかで歓喜にうち震えた。こんな美少女が着いてくるというのは棚から金塊が落ちてきたような幸運でしかない。正直彼女が何を考え俺に着いてくる事を決めたのかだけは気になるが詮索するのも野暮と言うもの。その点だけは警戒するとして、当面は協力関係を築けたならそれでいい。



 どちらにせよ両者ともに勇者に対して何らかの因縁があるのは確かだ。いざ戦うときに味方をしてくれるというのなら心強い。敵対した場合敗北率六十パーセントという探知魔法術の演算は戦力として十分過ぎるほどである。もしも不興を買ってしまったときは……それはその時だ。



 「じゃあ、よろしく。わたしはノル。闇精霊のノル・アンシャール」

 「ああ、よろしく。俺は水澄深夜。深夜でいいよ。」



 ホッとした所で疲労感に襲われ、その場に膝をつく。思えば体力は限界だった。少し休まなければならない。少し寝させてくれとノルに伝え、俺は意識を沈めた。




 ***********




 半日ほども眠っていたらしく、目覚めたとき「待ちくたびれた」とノルに咎められてしまった。俺の転移魔法術を実演することで手打ちとなり、転移した先は夜の平原だった。複数人での転移ができるか心配だったが、可能なようだ。ただ、必要な魔力量が異常に多く半分以上の魔力をゴッソリ削られたのはデメリットである。後々簡略化や効率化を考えなければならないが、今は一先ず後回しだ。



 先立つ問題としてはノルの見た目だろうか。

 やや丈の短い深紫のワンピースに光沢のある黒い革のブーツ。首元には赤いチョーカー。



 と、ここまではいい。多少珍しくとも至上に可愛いので怪しまれようとゴリ押す覚悟だ。



 「なぁ、ノル。これから人の町に行くことになるんだが、一つ問題がある。」

 「お金がないの?」

 「うーん……それもそうなんだが、違う。その………背中の翼はどうにか隠せないのか?」



 流石に背中の翼だけはどうにも誤魔化しきれない。体を包むほどの大翼はたとえ大きめのコートを着ていても目立つ。コスプレと言って通じる訳でもない。精霊が狙われるというなら、なおさらバレにくいようにしなければならない。



 「大丈夫」というノルの言葉とともに膝下まであった翼がどんどん小さくなり、肩幅より少しはみ出す程度の大きさになった。頭上に光輪でも着ければ天使と言われても納得出来るだろう。

 少なくともあの幻想の住人(ファントム)を名乗る胡散臭い男よりかはよっぽど神秘的で、頭を垂れ地に伏したくなってくる。



 「少し窮屈だけど。これで満足?」

 「あぁ……。取り敢えず人の住む場所まで行こうか。転移先とかがランダムだから、ひとまずここが何処なのか知りたい。」

 「私は人間のことについてよく知らない。シンヤがそれがいいと判断したならそれに従う。」

 「そうか、ありがとう。何か要望があったら言ってくれ。出来るだけ考えてみる。」

 「分かった。それなら一つだけ、ご飯は美味しいものがいい。最近はまともな食事をしていない。」



 少し期待の混じった目でノルが訴える。その子供っぽい仕草に、俺は密かに食事には気合いを入れようと心に誓った。自分としてもまともな食事は久々だ。あの勇者ガザルの襲撃以来、かれこれ一ヶ月近く自由な食事はしていない。



 幸い、街まではそう遠くないようだ。

 草原から少し進んでいくとちらほら明かりの点いた建物が見える。野宿の必要がなくなったのは嬉しい。



 「行くぞ、ノル。今日はあそこの街で泊まろう。」

 「うん。」



 俺たちは街に向けて疾駆した。



 

 ノルさんに当てられて主人公の雰囲気変わってないか心配です。また不自然な点がありましたらその都度修正していきます。

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