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転職魔王の勇者討滅録  作者: 先祖代々貧乏
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弄ぶ




 「遊ぶ……? 私の本気がこの程度だとでも思ったのかネ。むしろ遊んでいるのはこっちの方ネ」



 一人で武器を構え、不敵な笑みを浮かべるノルを鼻で笑い、勇者リ・メイは【神槍如意(ゲイボルグ)】を構えた。

 多少の攻防程度で舐められている事に腹を立てたものの、一匹づつ確実に仕留める事が楽になったと思い直す。

 今ではめっきり姿も見せなくなった他種族も、探しだして討てばその勇者の栄誉は計り知れない。ここで精霊とドラゴンの二匹を始末し、一番の功労者に名を馳せる事が出来ると、リ・メイは心中でほくそ笑んだ。



 「ふふ……甘い。闇よかしずけ、汝らが王は闇精霊ノルである。王の勅命は必ず守られる事と心得よ──【闇の箱庭(パンドラ)】」



 ノルの小さな桜色の唇が三日月を作ると同時に、周囲の空間が闇に包まれる。

 光という光の一切を吸収し通さない闇の空間で、視界が完全に閉ざされた。



 「視界を奪った程度で勝てるとでも思ったのかネ。そんな小技程度で勇者は揺るがないヨ」

 「ふふふ……遊んであげると言った。シンヤの力量を見誤った愚かな勇者」

 「こんな結界もすぐに壊してやるヨ……【神槍如意(ゲイボルグ)】!」



 暗闇の中、リ・メイが【神槍如意(ゲイボルグ)】を前後の空間へ向けて伸ばした。

 スルスルと猛スピードで伸びていく【神槍如意(ゲイボルグ)】だが、いくら伸ばせども限界点に達する事は無い。結界の内壁を破壊しようとしていたリ・メイは、すぐさまそれが無駄であると知る。



 「クッ……怪しげな結界ヨ。だが、気の流れを読めば森羅万象を感知できるネ」

 「それもさせない。ノルの名はそこまで安くない」

 「どうでもいいネ、精霊もドラゴンも、全員雑魚ヨ──ハァッ、【気力解放】!!」



 裂帛(れっぱく)の気合いと共に、リ・メイの体表を赤いオーラが包み込む。

 そのまま【神槍如意(ゲイボルグ)】を手放したリ・メイは、ゆっくりと掌底を構えて拳法の型を作った。



 「ふむ、随分と近くにいるネ。私は【神槍如意(ゲイボルグ)】を握るより素手の方が強いヨ」

 「出せる手は打った方がいい。どんなに頑張っても私には届かないけど」

 「余裕で居られるのも今の内、ネッ!!!」



 リ・メイが叫び、その場で強く踏み込むと、間合いを瞬時に詰め迫り、鋭い蹴りを放つ。

 余波だけで結界内の空気をビリビリと震撼させるその蹴りは、リ・メイが本気で動いている証拠である。


 ノルは涼しい顔でそれを(かわ)すと、これからが本領発揮であると気を引き締める。

 サッと勇者の背後に回ると、ノルは無防備な肩を叩いて自分の位置をわざと知らせた。



 「遅い遅い」

 「攻撃しないとは挑発のつもりかネ!」

 「そ。高みの見物」

 「生意気な……絶対に殺してやるヨ!」

 


 激昂したリ・メイの身体から発せられる赤い気力(オーラ)が爆発的に増加し、筋肉の膨張により衣服が破砕する。

 これまで以上の力と速度を手に入れたリ・メイは目の前の精霊を抹殺するべく動き出した。

 掌底、回し蹴り、正拳、ローキック、突き上げと隙の無い連携技を繰り出し、無数の貫手で相手の小さな身体を串刺しにしようと迫る。



 「ハイタッチー、回って避けてお手。ジャンプして跳び箱、全部避けるー」

 「どうして一発も当たらないネ! クソッ……気配が薄くて読みづらいヨ!」

 「これでも手加減している……いつでも殺せる」



 リ・メイの耳元でノルが呟く。

 バッと振り返ったリ・メイだが、その瞬間から精霊ノルの気配が完全に見えなくなった。

 周囲を最大限に警戒し、次に来る襲撃の予兆を必死に探すリ・メイ。

 しかし、その努力を裏切るようにリ・メイの背筋にススッと指が触れなぞられた。全身をゾワゾワと駆け抜ける恐怖に、リ・メイは短く悲鳴をあげる。



 「触れられるまで気づけなかった?」

 「闇に隠れている暗殺者気取りが、調子に乗るんじゃないヨ!」

 「無駄無駄、どんな攻撃も通らない。ここは混沌の闇。【闇の箱庭(パンドラ)】の中において、希望は私だけ」

 「卑怯な手を! 明らかに別格ネ……貴様は何者カ!?」

 「資格者以外には教えない……解除」



 ノルが指をパチンと鳴らすと、闇の結界が消えた。

 何事も無かったように微笑みを浮かべ立つ精霊相手に、久しく感じていなかった恐怖がリ・メイの身体を侵食する。



 「グッ……【神槍如意(ゲイボルグ)】、三節棍!!」

 「おー、武器を持った」

 「私が敗北するなど有り得ないネ。黒龍も赤龍も、私が沈めてやったネ!!!」

 「私には勝てなかったね」

 「殺ス!!! 【真・気力解放】!!!!!」



 リ・メイを中心にして気力による爆発が起こった。

 その衝撃波に地面が捲れ、数本の竜巻が乱立する。

 身体に纏う気力を輝く黄金色のオーラに変え、リ・メイはノルに向かう。



 「頭蓋粉砕して、その忌々しい微笑みをグチャグチャに消してやるネ!」

 「正面から受けて立つ──【纏気:闘鬼ノ威圧】」

 「グゥッ……恐怖には慣れたヨ! 他種族に屈する不名誉はお断りネ!」

 「そう──【瞬刀:閃戦驚凶】」



 精霊ノルと勇者リ・メイ、両者の武器が交錯する。

 ビリビリと(いなな)く空気が止まった後、リ・メイがその手から武器を取り落とす。


 「クソッ……手が痺れて武器が持てなくなったカ。ならば脚で……」

 「闇よかしずけ、汝らが王は闇精霊ノルである。王の勅命は必ず守られる事と心得よ──【影縫い】」

 「何……動けない!?」

 「お疲れ様……勇者の敗北、だね」



 影を支配することで相手の行動権を奪ったノルが、必死に足掻こうとするリ・メイの頬を指でなぞる。



 悪魔のように薄く微笑むノルに恐怖したリ・メイは、完全に戦意を失った。



 「もういいヨ……殺すネ」

 「さ、次はフロストだね」

 「うむ、良い戦いだったぞノル。後は任せよ。ドラゴンバスターバスターになってやろうぞ」

 「何を言っているのかネ……?」



 続く第三ラウンド。

 リ・メイの顔が青くなった。

「私は勇者! 勇気ありし者」

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