一難去ってまた一難
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城の周辺では、フォークスの子飼いの部下が色々と嗅ぎ回っている可能性が高いと判断した俺達は、中心部から離れて庶民街へと移動する。
食事も兼ねて適当な店に入ろうと思ったら、懐かしい店を見つけた。
「いらっしゃい……って、この間のあんちゃんじゃねーか」
「おっ、やっぱり親父さんか。見たことある看板だと思ったら、ビンゴ」
「ハハ、ついこの間ここに越してきたのよ。勇者ガザルが亡くなってから、税金の一部が免除されているからな。こっちもボロ儲けよ」
「商魂逞しいな……取り敢えず、二人分頼むよ。メニューはお任せで」
「あいよ。ドリンクはサービスしとくぜ」
ノルと出会ったばかりの頃、リエル村に向かう途中でお世話になった串焼き屋の親父さんだ。
情報通は相変わらずのようで、以前は屋台だった店が今度は座席も完備しており、店内には中々の数の人々で賑わっていた。
すぐ近くのカウンター席にファナと並んで座る。
「シンヤ君、ここの店主と知り合いだったの?」
「会ったのは別の所だけどな。前に少し世話になった人だ」
「それならここで話しても心配なさそうね」
お通しをつまみつつ、ファナが口を開く。
チキン南蛮のような料理と、寒天ゼリーに魚介出汁を掛けたものだ。マヨネーズはあって豆腐はないのかよ、と思わず心の中でツッコミを入れてしまった。
「どうよ、俺の新作料理は。特にこの白いソースには自信あるんだが」
「……! 初めて食べるけど、凄く美味しいわ」
「そうだろう、そうだろう! 流石、綺麗な姉ちゃんは話が分かるなぁ」
ファナに褒められ、ドヤ顔で頷く親父さんに対し、俺はどう反応すればいいか分からず微妙な顔になってしまう。
ソースの味は、タルタルソースそのもの。
てかこれ、原点がこの店になるのかよ。マンガやアニメでよくある異世界マヨネーズ無双はどこに行ったんだ。
くそ、こうなったら豆腐で世界を支配するしかないか……!
「どうよ、あんちゃん旨いだろう?」
「ああ、負けたよ……親父さん、世界を取れるぜ」
「本当か! 調子がいいな、あんちゃん!」
親父さんは満面の笑みだ。
ま、せいぜいマヨネーズの座で胡座をかいているといい……俺は豆腐で対抗してやる。
って、話が違う。
「で、ファナ。フォークスが勇者と繋がっているってのはどう言うことなんだ?」
「アルトイラの金の流れがおかしいのよ」
「会計が誤魔化してるのか」
「そうね。あくまで推測でしかないのだけど、あの時渡された資料には不審な点がいくつもあったわ」
「俺にはよく分からなかったけどな」
「会計はね……まあそこは適材適所ってやつよ。資料にはここ数年の貿易高が載っていたのだけど、数字が滅茶苦茶だったわ」
「それって見て分かるのか?」
「そうよ。一目見て分かったのはマリアナとの取引履歴ね。マリアナに残っている正しい帳簿と比較すると、利益が大幅に減算された数字が計上されているわ」
「それって経費じゃないのか? 粗利と純利で数字が違う、みたいな」
「いい質問ね。でも、そもそも商品自体がマリアナが売った金額の二倍近くで計算されているのはおかしいと思わないかしら?」
「それは、確かに」
「ついでに言うと経費は大幅な水増しがされているわ」
詳しく聞いてみると酷い話だ。
ガザルが死んで一安心していたのだが、思った以上にアルトイラの内情は黒く染まっているらしい。
やはり元から腐っている国なだけあるようだ。
「他にはどうだ?」
「この改竄を行ったのが誰かは分からないけれど、どうも数字が弄られた所は一の位がゼロか五で終わっているみたいよ。そう考えると、他国との貿易高と、自国の税収に修正跡があるわね」
「安直な。初心者かよ」
「あら。シンヤ君もやったことあるの?」
「流石にないわ!」
「冗談よ。あと、修正されてはいなさそうなのだけど、この異常に高い研究開発費……」
「それは本当かも知れん。いや、確実に嘘じゃない」
異常に高いアルトイラの研究開発費。
俺にとっても因縁深い話だが、どうやら地下でのモンスターを使った研究はまだ続いているらしい。
全く胸糞の悪くなる話だ。あの趣味の悪い研究は早々に潰さなければならない。
その経緯の一部始終を話すと、ファナはあの冷たい瞳を見せて怒りを顕にしていた。
「あんちゃん達、ずいぶんと面白そうな話をしているな」
「え──!」
いつの間に現れたのか、席の横で親父さんが二人分の料理を片手に立っていた。
失態だと思ったファナの表情が凍りついている。
「全く、かわいい姉ちゃんを連れてくるもんだから、あんちゃんも立派になったと思ったんだが。一国の内部情報なんて若者のする会話じゃねえぞ」
「いや、まあな。でも情報通な親父さんなら、俺の事も分かっているんだろう?」
「鋭いなぁ! こりゃ一本取られた。なら、ついでに一つ教えてやろうじゃないか」
「何か知っているのか?」
「東の国タイショウに居る勇者、ドラゴンバスターのリ・メイだ。少し前から、アルトイラの金はそこに流れているぜ」
「何ですって──!?」
声を落として告げた親父さんの言葉に、ファナが悲鳴に近い声を上げる。
その勇者が何者かは知らないが、ドラゴンバスターという言葉に俺も眉をひそめた。
「ファナ。そいつはヤバいのか?」
「世襲制の珍しい勇者よ。代々ドラゴン狩りを生業にしていて、城には数々の剥製が飾ってあると聞いているわ。もしフロストさんの情報が流れていたら……」
「……それはクソヤバい」
一難去ってまた一難だ。
だが、事前に知れたのは幸いだった。親父さんの情報に助けられたと言える。
本当にこの親父さんは何者だ……?
「親父さん。悪いが、料理は持ち帰らせてくれ」
「助けになったみたいだな、あんちゃん。頑張れよ」
「ありがとう。それと──今度マリアナに来ないか? 色々と優遇するぜ」
「ありがとよ。前向きに考えておく」
袋に包んで貰った料理を受け取り、俺は親父さんと握手を交わした。
有能そうな人材を引き込むのは忘れない。
握手は、友好的な印象付けには最適な方法だ。
そして店を出てすぐ、俺達はマリアナへ転移した。
★「あれ、親父さんって何者?」って思った方!
親父さんは第8部分、『水面下の事実』に出てるぞ!
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