アルトイラへ
忙しいッ!! 7、8月厳し過ぎる(´;ω;`)
「さて、僕の用事はこんなものかな。良ければ、ここに滞在させて貰いたいと思っているんだけど、どうかな? 勇者シンヤくん」
「断る理由がないな。ノルも妹と再会したばっかりだし、これからもよろしく。勇者エル」
俺の差し出した手を取り、エルは小さく笑った。
エルが滞在するというのは、こちらに取ってもありがたい話だ。事情を知っている味方がいるのは、何かと安心できる。
一先ずエルの電撃訪問は終わりを告げたのだが、俺にはまだまだやることが山積みである。
後の事はノルやフロストに任せ、部屋を出た足で急ぎファナの元へ向かった。
ファナが普段使っている執務室の前で、隠密七面のゼストが、警備員のようにして立っている。
「ゼスト、ファナはいるか?」
「はい。ただ、中には誰も入れるなと言われております。何でも、一人でやるべき事があるのだとか」
「……何だって? いや、すまないが今は緊急時だ。退いて貰えるか」
「かしこまりました。シンヤ様の命令では、仕方がありません」
ゼストが扉を差し出してスッと横に逸れる。
三回だけ扉をノックし、扉を開ける。
「ファナ、入るぞー」
「~♪、あ、これもかわいいわ」
「何を……やって……!?」
「──ッ!? ちょっと! まだ私は許可していな──って、シンヤ君!?」
「……あッ、すまん」
「止めて! ……これは違うの!」
そのまま逆再生の如く扉を閉めた俺は、ドアノブに手を掛けたまま、大きく深呼吸をすると宙を見上げた。
ファナは必死に弁明しようとしていたが、その声はもう扉に阻まれて聞こえない。
いや、元々から予想できていた事だ。
マリアナの女王になって政務に追われているとは言え、元々は小さな雑貨屋の商人である。
俺の作った水着に目を輝かせていた、年頃の女性なファナもまた、本人の本質だ。
「えっと、シンヤ様。ファナ様は何をしていらっしゃったのですか?」
「いや、俺の口からは何とも。まあ確かに、ファナ一人でしか出来ない、極秘の作業だった」
「そうだったのですね。シンヤ様、どうなさいますか?」
「いや、待つよ」
……俺の口からは言えない。
まさかファナが、鼻歌を歌いながら鏡に向かって色々な水着を試着していたなんて。
結構食いついていたし、きっと水着にハマったのだろう。俺が布の加工やら何やらを教えた後、隠れて色々と試作していたっぽい。
「……シンヤ君、もう入っていいわよ」
小さく扉を開け、頬を赤く染めたファナが顔を出す。
ゼストは引き続き扉の前で待機だ。
「急に来たからビックリしたわ……」
「悪い悪い……今度、海でも行くか?」
「それ、言わないで……恥ずかしいわ」
手で顔を覆い、しおらしく俯くファナとの間に微妙な雰囲気が流れる。
もう少しプライベートについて考えた方がいいかも知れない。俺も配慮に欠けていた。
「その……最後に着ていたやつ、結構良かったぞ」
「……ありがとう。それで、何の用事かしら?」
「ああ、レギナ王国に行った時、アルトイラと国を合併させる話になってな。俺と一緒にアルトイラに来て欲しい」
「分かったわ。今から行くのかしら?」
「そうだ。このまま転移するぞ」
ファナの肩に手をかけ、そのまま転移でアルトイラの旧ガザル城前へ転移する。
「本当に別の街に来たの……? 転移って凄いわね」
「ここはアルトイラの城前だ。俺が初めて相手にした勇者が支配していた国だな」
「大きな城ね。国力を誇示する意味もあったのしから?」
「さあな。行くぞ」
以前、俺が【崩城の大筒】で吹っ飛ばした正門はすっかり元に戻っており、以前と変わらない兵装の門番が控えている。
近づいていくと計ったようなタイミングで門が開き、城の敷地内から一人の男が歩いて出てきた。
「おや? 君は、この間の……」
「これは、レギナ王国の。「韋駄天」様ではないですか」
「新たな「隠密」の勇者だね。たった今、アルトイラの重鎮達に話を付けてきた所だ。行くがいい」
「ありがとうございます」
何事もなく終わったが、ヒヤヒヤした。
目の前にいるだけで威圧感がハンパない。
一陣の風が吹き、勇者はかき消えるように去って行った。
流石は「韋駄天」と呼ばれるだけの速さはある。まだ目で追える範囲だが、本気で走られると見失ってしまうだろう。
「あれ、勇者よね?」
「そうだな。レギナ王国にいる四天王らしい。「韋駄天」って呼ばれてる」
「四天王……ね」
勇者が走り去った方向を見つめ、ファナが呟く。
その瞳は冷たく、鋭い殺気を放っている。
「ファナ?」
「あっ、ごめんなさい。少しボーッとしていたわ。行きましょ?」
「あ、ああ。行こうか」
ファナについては、知らないことが多すぎる。
さっきまでの冷たい雰囲気を嘘のように霧散させてにこやかな顔を作ったファナに、俺は少しだけモヤモヤとした気分になった。
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