英雄
お待たせしました。
レギナ王国の勇者へ顔合わせした直後だと言うのに、今度は別の勇者の来訪だ。タイミングを見計らったようにしか思えない。
とにかく急いで走る。
城を案内するイルワの足が遅い。
いや、常人の範囲からすれば非常に速いのだが。
「シンヤ様、到着しました。この部屋です!」
「案内ご苦労!」
後ろを付いてきたノルとフロストに、側を離れないように伝え、例の勇者が居るという部屋のドアを開け放った。
少し勢いが過ぎたのか、扉はバンッと大きな音を立て、蝶番がガタガタと悲鳴を上げる。
そこには、シャンデリアの落ち着いた光の元、四人掛けの丸テーブルの対角に座った二人が、優雅にティーセットを傾けていた。
双方共に金髪の男女二人組である。
話に聞いた勇者だろうと思われる男は、綺麗な小麦色の肌に碧い目を持つ、爽やか系イケメンの代名詞みたいな美青年だった。一体どれだけの徳を積めばこんなに容姿に愛されるのだろうか。
一方、女の方はというと、真っ白な肌で金の瞳の、まるでノルのように可愛い超絶美少女……いや、ノル?
(……ん? ……んん⁉)
目の前の光景が信じられず、自分の目をゴシゴシと擦ってみる。
だが、何も効果は無かった。
「なッ────ノル!?」
「おや、君が例の勇者……あれ、ソル?」
俺と勇者、両方の視線が交錯する。
どちらの表情も驚きに目を見開いたものであり、俺は金髪のノル(仮)を、勇者はノル(本物)を指差して固まっている。
「むぅ、私たち、一応客人だよねっ! ドアを壊すようなスッゴい剣幕で部屋に入ってくるなんて、全く、失礼しちゃうなぁ。ぷんぷん、だぞ☆ ──って、ノル姉!?」
「あっ……ソル、久しぶり。無事だったんだ」
「ノル姉は相変わらず反応が薄いんだから! 本当に、離れてからは色々あったんだよ? スッゴく寂しかったんだから、久しぶりにぎゅっとして?」
「はいはい。もう、甘えんぼな所は変わらないね」
俺達が互いに指差し合って彫像のように固まっている間にも、状況は刻々と移り変わっていく。
ノルが、ソルと言う名のノルに瓜二つの少女に姉と呼ばれていて、二人は旧知の間柄のように親し気に話している……。
甘えるように抱き着くソルに対し、ノルは正に姉の如き優しく慈しみのこもった表情でそれを受け入れている。
ノルが人間になびくはずも無しともなれば、ソルの正体もまた、精霊であることが分かる。
『俺の大好きなノルが、天使と悪魔になって現れました!』……のようなムフフ展開かつ、両者の姉妹百合コラボは脳内を破壊する。
けしからん……これはけしからん。
いや、ありがとうございます。ハイ。
ふと視線を戻すと、勇者と目が合った。
バシっと、無言でハイタッチすると同時に力強く手を組み交わす。
(いい目だ。こいつは信じられる)
「ありがとう」
「いいや、こちらこそ」
言葉にせずとも通じ合う想いが、そこには確かにあった。
「シンヤ・ミスミだ」
「僕はエル。エル・ドラドだ」
「さっきは悪かった。察しの通り、勇者には狙われやすいからな。大目に見てくれると助かる」
「そうだね、それは僕にも良く分かる。自己紹介ついでじゃないけど、この通り神器こそ持っていても、勇者ではないから安心してくれ」
言いながら髪をかき上げるエルの耳元で、極彩色の鳥羽を模したピアスがシャラリと音を奏でる。
一見ただの装飾品に見えるが、放たれる重厚な力の波動がそれを神器だと主張している。
それは美麗な装飾が施された神器だったが、それよりも先のエルの一言だ。
「ちょっと待て……勇者ではない?」
「そうさ。精霊と対等にあるキミなら何か知っていると思ったんだけどね」
シンヤの瞳をまっすぐに見つめて、エルは言った。
一見穏やかな表情だが、その碧眼には何かを探るような深い思考を感じる。
前世のことは思い出したくもないが、営業で交渉の席に立つとき、何度も経験したことのある視線だ。
取引先のお偉い方なんかは、大体こんな目をしている事が多い。
思わずごくりと生唾を飲み込む。
(ここは思い切ってバラすべきなのか、相手の出方を探るのか迷うな。俺はプレゼンとか、あんまり得意な方じゃないんだが)
「対等、か。あくまで俺は他の勇者に比べて、亜人に対して寛容なだけだ。罪を成していない者を処分するのは気が引ける」
「ふむ……興味深いね。ますます僕に通じる何かを持っていそうだ」
「どうだかな。勇者ではないなら、エル。お前は何者だ?」
「それでシンヤくんの警戒が解けるなら教えよう──僕は【英雄】だ」
エルは、一切の冗談もなく大真面目な顔で言い切った。
初対面ではあるが、神器を持つ者の中では今までに見た誰よりもまともに見える男である。勇者に魔王とあるのだから、英雄という役割があっても何ら不思議はなく、嘘と言って斬り捨てることもできない。
神器に流され勇者と、抗う魔王。そこに加わる英雄というのは、第三勢力になるのだろうか。
「お義兄さん、お義兄さん! 噓つきは良くないよッ!」
「んなっ……ノルの、妹?」
「ふふん、正解です! 私が光のソルちゃんだぞ☆」
「あー、うん……」
「光の」という辺り、ノルの妹は光精霊で確定だろう。
ノルとは正反対の高すぎるテンションと、全身からあふれんばかりのキラキラしたオーラを放っている。
と言うより、何か「お兄さん」の発音がちょっと違ったような気がするが、気のせいか。
耐え切れずノルの方をちらりと見ると、無表情でやれやれとばかりに手をひらひらさせている。
「シンヤ、ソルには真偽を視る目がある。それはソルと一緒にいる金髪の男も知ってるだろうから、ここは本当のことを話してもいいと思う」
「ふーん、と言うことは何か教えてくれるのかい?」
そう言ってエルが、ニコニコと人の好さげな笑みを浮かべる。
完全に楽しんでいるようだ。中々良い性格をしている。
「むっ。エルとやらよ。こちらにも事情というものが……むぐぐ」
「フロスト、ここは黙るのが得策」
「ひどいのじゃ……妾の扱いがひどいのじゃ」
弁明に出てくれたフロストが、拗ねて地面に「の」の字を書き始めた。
後で慰めてやらなくては。
「エルは【英雄】と言ったが、俺に付いた称号は【魔王】だ」
「魔王……か。いいね、やっと始まるのか。面白くなってきた」
「何だよ。何か知っているのか?」
「いや、僕も大したことは知らないんだけどね……変革が起こるのさ」
しみじみと呟いたエルが、感慨深そうに目を閉じた。
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