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転職魔王の勇者討滅録  作者: 先祖代々貧乏
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襲撃 2

今回の話と関連して、前の部分の内容を一部変更しております。


予めご了承ください。



 時は少し遡り、ダカル達冒険者がレッサードラゴンと戦っていた頃。



 俺は逃げ遅れた住民が居ないか確かめながら臨時避難先となっている小高い丘の上へと向かった。



 「町にモンスターが迫ってきています! 逃げ遅れた人は居ませんかー?」



 既に人影の無くなった道で必死に呼び掛けてみる。

 最初の方は数人見つけたのだが、もう全員避難したのか人が家から出てくる様子はない。ここも戦場になるかもしれない以上、そろそろ俺も避難しておかないと不味い。

 ここらが切り上げ時だろうか。



 丘へ歩く道の途中で武装した兵士に出会った。甲冑の上から軍服を羽織っていてアンバランスな印象だ。こちらに向かって歩いてきている。



 「おや、君は……もしかして村の避難者かい? 早く丘へ避難するんだ……ここは危ないからな」

 「救援に駆けつけてくれたんですか。ありがとうございます。戦場へ行かれるのなら、気を付けて下さい」

 「ああ……そうさせてもらうよ。そうだ、丘に着いたら一番大きな白いテントへ向かってくれ。人数の確認がしたいから、それだけしないと他に紛れられると面倒だしね」

 「親切にどうも」



 歩いていく兵士を見送る。リエル村は兵士の駐在がなく、また最寄りの町から兵士を呼ぶのにも時間がかかる。この騒ぎを察知して駆けつけてくれた迅速な対応には舌を巻く。



 安心感と同時に違和感も感じたが、その正体に気づくまでには至らなかった。




 **********************




 目的地に着いた。道で出会った兵士のいうとおり白く大きなテントが丘の天辺に張られている。数人の兵士が物資の運搬をしており、周りには小さなテントが複数点在している。



 おそらく小さいテントはは仮設住宅といった所か。村人の姿が見えないが、中に居るのだろう。



 よくもこんな短時間でここまで作るものだとつくづく感心せざるをえない。襲撃を知ってから俺がここへ来るまでに、体感だが五時間も経ってないように思える。



 「すみません、リエル村から避難してきた者なんですが。」



 門番だろうと思われる、テントの入り口付近で立っている兵士に声をかけた。強面で四十代そこそこのおっさんだ。獅子に絡み付く蛇の紋章が施された旗を持っている。



 「ふん、まだ生き残りがいたのか。よくぞ来た。まずはテントのなかで案内を受けてくれ。」



 まだ生き残りが、といった部分の言い方に若干トゲを感じたのだが、門番の顔を見るとそんな雰囲気が嘘のようににこやかな笑顔で道を譲ってくれている。聞き間違ったのかもしれない。



 テントへ入ると通路の突き当たり部屋へ案内された。

 部屋の奥では法衣のような衣装の若い男が奥の座椅子に腰かけており、俺の姿を見止めると、人の良さそうな笑顔を顔に張り付けこちらへ歩いてきた。

 その表情はかつて俺の人生を狂わせたあの詐欺師、来栖啓太が俺に起業の話を持ちかけてきた時と同じようで、温かく笑っているように見えて瞳には妙な緊張感がある。

 不快感や警戒心が沸き上がるともに、何かきな臭いものが動き出している予感がした。



 「始めましてかな。私はガザル。ガザル=アルトイラだ。村にモンスターの襲撃があったと聞いてきたが、大変だったね」



 俺の心中を知ってか知らずか、ガザルと名乗った男は世間話でもするような態度だ。

 少し口角の上がっているその表情は何かを楽しんでいるような印象を与える。



 開け放していた後ろの扉は何故か閉まっており、何となくだが閉じ込められている気がする。念のために探知系の魔法術を展開した。

 もちろん無詠唱で、これは体内にて魔方陣の構築と発動を行うために魔法術の行使がばれにくい。常に体内を通っている魔力が魔法術行使中の魔力の流れを押し流していくからだ。

 体内埋め込み式と呼んでいるこれは、俺が発見したオリジナルだ。



 【探知魔法術:高精度 発現、実行。正しきを見よ、偽りを暴け】



 何もなければそれでいい。ただ、用心に越したことはない。



 「ガザルさん、少し腹の調子が悪いので、お手洗いに行ってもよろしいですか」



 もちろん外へ出る口実だが、その瞬間ガザルの目付きが鋭いものに変わった。



 「そうか。では用件を手短に済ませるとしよう。こちらへ来てくれたまえ。」



 やはり、先に外へ出してはくれないみたいだ。仕方がないので手招きされた通りガザルの前へ進む。何を思ったのか、フッとガザルがほくそ笑み、俺の頭に手を添える。



 咄嗟に身構えると同時、俺の脳裏でけたたましいアラートが鳴り響いた。



 【異常事態発生 脳波調整、記憶改竄系統の魔法術の使用を確認。特殊ケースにつき自動防衛術の使用を開始します】



 

 精々が身体拘束程度の魔法術だろうと踏んでいた俺は予想外の事態に反応できなかった。頭の中で鳴り響く探知魔法による警告アラートや次々の状況報告がひっきりなしに飛び交っている。



 「貴………様ァ!何を企んでるん、だっ……」



 「アルトイラの繁栄のためにね、リエル村は必要なんだよ。モンスターの襲撃は、面倒な冒険者を消すためだ。ささやかなプレゼントは気に入ってくれたかな?」



 これ見よがしに暴露したガザルが声高々に笑う。



 モンスター討伐に向かったダカルは無事なのだろうか。余りにもふざけきった現実への怒りで視界が歪んで見える。



 迅速な対応としては速すぎた救援。現場へ向かうのに慌てる様子の無い兵士。村人の見えないテント。



 小さな違和感の正体は、仕組まれていたことだった。



 「困るなぁ、暴れてもらわれると。作業が止まったら君、廃人になっちゃうよ」



 離れようともがくもが、ガザルの力は思いの外強く上手く振りほどけない。



 必死の抵抗も空しくやがて視界は暗転し、俺は意識を手放した。




  **********************




 薄暗い洞窟の中。ボロ布を縫い合わせた粗末な服を着、手にはツルハシを持っている。



 ……少し前の記憶が曖昧だ。どこか靄のかかったような覚束無い思考の中、ツルハシを振るう。洞窟の壁面からボロボロと崩れてきた土から鉄鉱石を含んだ石を取り出し、カゴに入れる。



 カーン、カーンと壁を掘っては鉄鉱石を見つける。



 ただただ、ひたすらそれを繰り返す。



 俺は、確か――考えるな。



 ―――大事な事を、忘れて――鉄鉱石を探せ。



 ―――思い、出せない――働け。



 上手く物が考えられない。何かを考えようとする度、別の声に邪魔されている。でもまぁ、考えなくてもいいのかもしれない。



 作業に戻ろうとした時、激しい頭痛が襲った。思わず膝をつき、ツルハシを放棄してその場に蹲る。



 【一定水準以上の思考能力の回復を確認。肉体、及び精神ともに異常無し(オールグリーン)。あと五秒で次のフェーズに移行します】



 機械的な音声が頭の中で響いた。立てないほど酷くはないが、未だ頭痛は止まない。



 【記憶(メモリ)のバックアップデータ、異常無し(グリーン)。既存の記憶(メモリ)に上書きを行います】



 二度目の強烈な頭痛。叫びそうになるのを理性で堪え、その場に倒れこむ。永遠に続くかと思われた痛みは一瞬で終わり、今まで思い出せないでいた記憶が甦る。



 【データの同期を確認。通常探知に入ります】



 「クッ……、はぁ、はぁ。危ねぇ」



 ガザルが記憶の改竄を行うと予想外だったが、探知魔法術を張っていたお陰で助かった。これももちろん俺のオリジナル魔法術で、探知したものを解析するだけでなく、状況に合わせて他の魔法術を強制発動することもできる。今回は自己防衛術を発動したことによって、記憶の復元に成功している。



 さて、記憶が戻った今、やらなければいけない事は山積みだ。



 第一に現状の確認と、この場からの脱出。



 状況証拠から考えればリエル村の村人全員がガザルに捕まっており、こうして働かされているのだろうと考えるのが一番しっくり来る。

 その真偽を確かめるのもそうだが、ガザルの言うようにモンスターの襲撃が意図的に行われたとすればリエル村は既に占領下にあると思っていいだろう。



 言わばここは敵地真っ只中と言うわけだ。

 そんな所にずっと身を置いていては危険だし、何より俺の記憶が戻ったことは何時かは気づかれてしまう事だ。

 どんなに注意していてもどこかで絶対ボロが出る。

 あわよくばその前にトンズラしておきたい。



 もし脱出したなら、第二はダカルの行方を調べる事になる。

 なんだかんだで身内が心配だというのもあるが、それ以外にも未だに常識に疎い部分がある俺にとってダカルの存在は大きい。

 正直ガザルが冒険者は皆殺しみたいな事を言っていたが、俺にはどうも信じられない。いや、信じたくないだけなのかもしれないが。



 既に脱出の算段だけは用意してある。坑道内での落盤事故に見せかけるのだ。

 逃げるための偽装工作がしやすいという点では、採掘の仕事に回されたのは幸運だったのかもしれない。



 情報が集まり次第逃げるつもりだが、思考力が低下させられているのか表情も乏しく、生気の無い目でもくもくと作業をしている人達を見ているのはつらかった。



 あのガザルとか言う黒幕の正体は未だによく分からない。



 確かアルトイラ家がどうだとか、繁栄がこうだと言っていた事からどこかの国の貴族か何かなのだろう。

 推測で考えるならば領土侵攻、つまりは戦争を仕掛けているように思える。



 世界では勇者同士の覇権争いが行われているらしいから、俺らはそれに巻き込まれたのかもしれない。

 そう考えれば多少は理解は出来るというものだが、平和な日本生まれの俺にとっては何だか釈然としない物ではある。

 第一、リエル村のある場所は末端とはいえ五大大国に数えられるレギナ王国だ。そんな大国に侵攻というのも些か考えものだ。



 ただ一つだけ分かっている事があるとすれば、それはガザルがリエル村に侵攻し、俺を含む村人達の生活が脅かされているという事実だ。何を差し置いてもその事実は変わらない。



 日々をゆっくり過ごすと決めたが、邪魔をするのなら話は別だ。生活なら何処かに亡命すれば何とかなるだろうが、村や俺を育ててくれたダカルを見捨てるのはまた違う話だ。

 そんな恩を仇で返すようなことはしたくない。



 迷い無く決断する。もしかすると殺されるかもしれないが、その時はその時だ。リエル村は取り戻さなければならない。

またもや更新が遅れてしまいました。申し訳ございません。

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