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転職魔王の勇者討滅録  作者: 先祖代々貧乏
45/68

圧倒

お待たせしました。




 草木も眠る丑三つ時には、魔が潜むという。

 宿を出て独りで海岸へと足を運んだ俺は、因縁の相手でもある勇者ヒューゴと対峙していた。

 両者の間を、ひゅるりと冷たい風が吹き抜ける。



 「また会ったな、勇者シンヤ。昼は俺の部下が失礼したようだ。済まないな」

 「ふん、あの変な口調は止めたのか。お前の指示で動かしておきながら、白々しいことだな」

 「ハハハ、そう言われると痛いな。以前の君は異端者だったから、敢えて得体の知れない男を演じたまでさ。真に勇者となったシンヤ殿には、きちんと敬意を払うつもりでいる」

 「異端者か。嫌な響きだ。その辺は勇者間で何か決まっていることなんだろう? 俺は何も情報がないんだ、教えてはくれないか」

 「ああいいとも。この世界には忌まわしき種族が数種類存在することは知っているな。君が使役している精霊やドラゴンもそうだが、他には獣人や妖魔などが挙げられる。我々勇者の役割は悪しき種族を滅ぼすことだが、稀に悪しき種族を信奉する狂者が出ることもあるのだ。異端者とは悪しき種族に魅入られた人間であり、秩序を乱すゴミのようなものだ」

 「成程。異端者はゴミであり、悪しき種族共々抹消せねばならないと」

 「その通りだ。勇者は国を運営する傍らで他種族を探し出し根絶やしにすることが使命なんだ」

 「国の運営? 戦闘に専念するだけではダメなのか」

 「勇者と国は切っても切れない縁がある。国土が広くなればなるだけ、悪しき種族達の居場所が削れていくというものよ」

 「それは本当の話だろうな。少なくともガザルはそんな崇高な理念を掲げているように見えなかったが」

 「何のことはないさ。勇者の活躍によって守られているのだから、民はそれに応える義務がある。身を捧げるも財を差し出すも、全ては勇者の沙汰次第さ」

 「例えば市井(しせい)を歩いて気に入った女を攫っても問題ないと?」

 「君も好きだな。だがそれも問題ないだろう。自国内であれば、勇者の権限は絶対だ」

 「ありがとう。よく分かった」

 「どうだ、勇者シンヤ。特に行く当てもないのなら、しばらく俺の所に来ないか?」

 「それが本題か、勇者ヒューゴ」



 そうかそうか。なるほど十二分に理解した。

 要約するに勇者とは「我こそ至高」を地で行くクズどもの集まりということだ。俺の敵で間違いない。頭の腐った独裁者には早々にご退場願わねば。

 勇者ヒューゴ、光栄に思え。お前は最初の粛清対象に選ばれた。



 「スキル……【ステータス開示】」

 「何か言ったか? 済まないがもう一度言ってくれ」

 「ふぅん、影の勇者ね。敏捷は三万と高いほうだが、筋力や頑強の値は二万にも届かない。諜報や暗殺に特化した感じか。厄介そうなのは【現影繰々(げんえいそうそう)】とか【影分身】辺りか?」

 「なぁっ……どこでその情報を!?」

 「【肉体強化:基礎身体能力補正値五百パーセント】……破ッ!」



 小手調べは五割ほど。爆発的な加速から打ち出す神速の右ストレートを、ヒューゴは紙一重で躱した。空を切った拳が摩擦熱で煙を上げている。

 完璧に不意を突いたと思っていたのだが、流石の敏捷力とでも言おうか。



 「笑えない冗談だ、勇者シンヤ。私を殺す気か?」

 「いつまで自分の立場が上だと錯覚しているんだ、勇者(ゴミクズ)。お前の間違いを二つ、正してやろう。冥土の土産だと思ってありがたく拝聴しろ」

 「何ということだ……まさか勇者が異端者に墜ちるなど、前代未聞。勇者、いや異端者シンヤ。勇者ヒューゴの名において貴様は滅さねばならない」

 「一つ、俺は魔王だ。勇者などという肩書だけの雑魚どもと同列に語るな」

 「マ王? 何だそれは、聞いたこともない。狂った異端者め!」

 「二つ、お前は俺を屈服せしめたと勘違いしていたようだが、それも違う。ノル──精霊も服従させてはいないし、お前が死んだと判断したドラゴン──フロストも五体満足で生きている。隠密とまで呼ばれる勇者が、抜かったなァ?」

 「クソがぁぁァ!!!!」



 嘲笑の意を込めて思い切り鼻で笑ってやると、ヒューゴはさらに怒りを増したように吠えた。

 自分の失態がよほど堪えたと見えて、その顔色は真っ赤を通り越して青黒い紫に見える。こめかみに浮かぶ血管は脈動が見える程に浮き上がっており、まるで理性を失った怪物のような形相だ。

 この程度の男に恐怖していた自分がひどく矮小な者に思えてくる。



 できればこの姿は全ての罪なき国民には是非とも見せておきたい。

 コレが勇者なのだ。

 私利私欲のために生きる自己中心的な存在であり、たかだか一つの神器を得ただけの愚かな人間。

 勇者TUEEEEはたっぷり満喫したか?

 宜しい、ならば粛清を以て代償としてやる。



 「【不落の鉄壁要塞(イモータル・フォート)】、完全起動!」

 「スキル……【現影繰々(げんえいそうそう)】、【影移動】!」



 場が動きだした瞬間、ヒューゴの身体が闇に溶け込むように掻き消えた。

 影移動とか口に出していたくらいだから、影から影へ瞬間移動する術なのだろう。

 反射的に振り向くと、地面から飛び出したヒューゴのナイフが俺の喉元を掠めていく。すかさず【火炎】の魔法術で反撃したが、ヒューゴは影に潜ってそれを躱した。

 少し離れた地面にヒューゴの頭が生えてくる。

 影から影への移動だけだと思っていたが、フィールドが夜だとほぼどこにでも移動できるらしい。おそらく「影ある所」が条件になっていて、空中には姿を出せないのではと推測する。



 「初撃は運よく躱したようだが、次はない。俺への攻撃は無駄だと知れ、異端者め」

 「もう勝った気でいるのか」

 「異端者と無駄話をするつもりはない。スキル……【現影繰々(げんえいそうそう)】、【影針】」

 【警告! 要塞の守護領域第二圏内に攻撃性の物理反応アリ! 緊急防御を実行シマス】



 ガキンッ! と鈍い音が走る。いつの間に放ったのか、黒い針のようなものが魔力で生成された物理バリアとせめぎ合い、やがて靄となって霧散した。

 影の形状を操り、暗器として扱うこともできるのか。ますます厄介だが……その影が消えた時、どうなるんだろうな?

 要は辺りを光で埋めてしまえばいいのだ。肝心の魔法術は、今から作れば問題ない。



 「光よ集まれ、わが手中に収まれ。やがて砕け散りて万物を照らさん……【光砕(スパーク)】」



 ポシュッ……光が手元に集まって弾けたが、夏の花火程度の光量にしかなっていない。失敗だ。規模を大きくするためには「大いなる」とかを付ければいいのか、よく分からない。



 魔法術というのは確かなイメージと適正な魔力コストの二点さえあれば、詠唱など無くても発動するが、確かなイメージというのは結構シビアな部分だ。普段使っている魔法術でさえ割と苦労して練習しているというのに、思いつきの魔法術を無詠唱で行使するなど無理な話だ。

 詠唱の利点は発動時の魔力コスト減少と、イメージが必要なくなる点の二つ。

 考え方としては、頭で事象を想像するのか、言葉で事象を説明するのかといった違いだ。

 なので、思い付きの魔法術を行使する場合は詠唱を組み立てる必要があるのだが、俺はこれが苦手だ。恥ずかしいしやりたくないと言って避けてきたのが裏目に出てしまった。

 この戦いが終わったら、魔法術の詠唱についてもある程度は理解を深めておかなければ。



 「スキル……【現影繰々(げんえいそうそう)】、【影刃】【影針】【影鞭】」

 「【崩城の大筒(キャッスル・キラー)】、迎撃せよ」



 俺が光の魔法術に悶々としている間にも、ヒューゴの攻撃は止まらない。影を移動するヒューゴは、水を得た魚のようにすばしこく、ちょこまかと動き回っては影で攻撃を仕掛けてくる。

 別にダメージは食らわないが、そろそろうざいな。

 できるだけ()()()は使いたくなかったが、これもやむを得ないか。



 「勇者ヒューゴ……俺達を脅かした罪を贖って貰おう。地獄の業火よ、荒ぶり猛り全てを灰燼に還せ……【業火爆散(エクスプロージョン)】!!!」

 「──ギャァァァァアアァッァァ!!!」



 身体を駆け巡る力強い爆音と共に高熱の熱風が辺りを包み込み、赤々と燃え盛る炎が海辺一帯を照らした。周囲の草木も一瞬で消し炭に変わり、波打ち際の海水はボコボコと沸騰している。

 炎が出たのは一瞬の出来事だが、随分と派手にやってしまった。美麗な浜辺の景観が見事に台無しになったが、これも勇者ヒューゴのせいだ。

 ……やったのは俺だが、そうさせたのはヒューゴだ。俺は悪くない。



 全ての元凶であるヒューゴはというと、少し離れた場所の地面で横たわっていた。

 潜っていた部分の影がなくなり、爆炎の激しい地表へと引きずりだされたのだろう。それでも何かしらの防御をしたと見え、酷く火傷を負ってはいるがまだ息はある。

 俺はゆっくり近づき、その頭を掴み上げた。煤が混じって赤黒さを増した血が掌にべったりとはりつく。



 「おい。言い残すことはあるか、クソ勇者」

 「ガ八ッ、ゲホッ……俺を殺した所で、お前は…グッ、他の勇者に、潰されるだけだ。ゴホッ……俺より強い勇者はァ、存在……ハァ、する。勇者を、敵に回したことを、後悔しろ……、ッ!」

 「それだけか。せいぜいお前の神器は俺が有効活用してやる。じゃあな」



 【警告! 高速で飛来する物体を感知! 緊急防御を実行シマス】



 ヒューゴに止めを刺そうとした瞬間、鋭く研がれたナイフが数本飛んできた。ヒューゴは虫の息だから可能性は低いとしても、新たな勇者が現れた可能性もある。

 止めをは諦めて素早く飛び下がると、暗がりの中から黒い装束を身に着けた四人の人間が現れた。



 「ヒューゴ様! ご無事ですか!?」

 「ひどい火傷だ。清潔な布と、治療魔法術を!」

 「簡易治療ではダメだ、高位の治癒士を呼べ!」

 「ここは撤退するぞ!」



 黒装束達は少し慌てた様子でヒューゴの元へ駆け寄ると、その身を助け起こし、逃げるように走り出した。

 どうやら腹心とか、部下が助けに来たのだろう。警戒して損した。



 「【崩城の大筒(キャッスル・キラー)】、狙撃準備──点火」



 砲が火を吹き、部下に運ばれるヒューゴを容赦なく撃ち貫く。

 難敵だと思っていた勇者の最後は、ひどくあっけない幕引きとなった。

次回はヒューゴ編のまとめみたいな話ですね。

毎度お待たせして申し訳ございません。


「面白かった」 「続きが読みたい!」 など思っていただけましたら、ぜひ下の評価やブックマークをお願いします!!!


  今後とも、転職魔王の勇者討滅録を宜しくお願いします!!

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