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転職魔王の勇者討滅録  作者: 先祖代々貧乏
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勇者の策謀

二日連続で更新しましたが、毎日は無理そう(´;ω;`)

週一では出せると思います(;・∀・)



 朧城(おぼろじょう)内、王の間。

 悠々と王座に腰掛ける勇者ヒューゴの前に、七名の男が跪いている。彼らは先程、王より課せられた情報収集の任から帰還した者たちだ。頭を垂れたまま微塵も動かず、王が沈黙を破るのを今かと待っている。



 「よくぞ帰還した。面を上げろ」

 「「「「「「「はっ!」」」」」」」

 「さて、先日お前らに言い渡した件についてだが。既に知っての通り、ここ半年間もの間行方をくらませていたフリーの勇者シンヤが、最近になってこのマリアナ内で活動していることが判明した。ついては、その勇者シンヤについて情報収集及び接触を図る命令を出したが、早速報告を聞こうか」

 「隠密七面が壱、ゼスト。ご報告致します。行方不明となっていた半年間の勇者シンヤについての動向ですが、残念ながらこれといった情報を掴むことはできませんでした。勇者ガザルを淘汰した事件の原因にもなったリエル村の住人達でさえ事件後は姿を見なかったと証言しております。アルトイラ王国が勇者シンヤの名を語り周囲を牽制している事実については、現在私の部下が確認を急いでおります」

 「なるほど、やはり記録は無いのか。予想していたこととはいえ、不可解だな。アルトイラについては任せるが、くれぐれも慎重に運べ」

 「かしこまりました。王命に必ずや応えて見せましょう」

 「よし、次」

 「隠密七面が弐、ヘイル。ご報告致します。勇者シンヤの過去についてですが、幼少期や出征に関する情報はほとんど残っておりませんでした。しかし、リエル村の村人の証言によりますと、どうやら彼は迷子の子供だったようです。年の頃十五の時に同村のダカルという冒険者に保護され、その二年後にレギナ王国、イラ領の冒険者ギルドにて冒険者登録を行っております」

 「ほう、冒険者か。活動履歴などは探れたか?」

 「もちろんです。ですが辿れた履歴はあまりにも少なく、僅か数件にとどまっております。一つ目は冒険者登録直後に、闇コウモリの羽を三百枚納品。その後はガザルとの闘争後、ほんの一週間にも満たない期間のみ、狂犬(カオスドッグ)やフレイムオロチなどの討伐を成した模様です。しかし残念ながら空白の半年間の活動記録は存在しませんでした」

 「ますます謎が深まるばかりだな。いや、闇コウモリの羽を三百も納品したとなればひと財産ではあるから、資金面では困っていなかったのかも知れん。他のいづれも世間一般では高位のモンスターであることからも、わざわざ労働する理由もなし。勇者を圧倒する力があれば何ら不思議ではないか」

 「私もそのように考えております。リエル村にあった旧冒険者ダカルの家は既に引き払っている模様でしたので周辺の宿なども対象に調査の対象にしましたが、成果はありませんでした」

 「この短期間でよくそこまで調べ上げたな。ご苦労であった。次の報告を聞こう」

 「隠密七面が参、ギメル。ご報告致します。諸外国での活動の線を調べてみましたが、情報は皆無でした。唯一気になる点があったとすれば、土の勇者の動向くらいでしょうか」



 土の勇者とはまた意外な者の名が出てきたと、ヒューゴは周囲に悟られぬよう短く息を吐いた。

 同じ分類の勇者として唯一二人組で存在している者で、神器はピアス。双子の兄弟同士であり、名はパレオとヴィージ。二人組故の手数の多さと戦略性を武器とする戦闘スタイルで、カルメラ商国に所属しレギナ王国との国境に位置する領土を運営する辺境伯でもある。

 頭も切れて戦闘力も高いことから、ヒューゴの中でも割と評価が高い勇者だ。

 そんな勇者の動向ともなると、自然に警戒心も上がるというものだ。



 「土の勇者か、興味深いな。続けろ」

 「はっ。事の発端はひと月ほど前の話になるのですが、土の勇者が兄弟そろって新たなる宗教に改宗したようで。なんでも、苦行に満ちた者を救済し自由へ解き放つ、美しい翼をもった慈悲深き女神を崇めているのだとか。今では勇者の治める辺境伯領内では徐々に信奉者が集まり、小さな教会が設立されるまでに広がっておりました」

 「新たな……宗教、だと!?」



 予想の斜め上を行くギメルの報告に、ヒューゴは思わず素で驚いてしまった。立ち上がりかけたせいで椅子から腰まで浮いてしまっている。

 気をとり直して腰を落ち着けたヒューゴだったが、未だ脳内の整理はついていない。

 ひと月前では、勇者シンヤはまだ姿を現していない。翼を持った女神と形容される存在については、勇者シンヤが飼っている精霊のようにも思えるが、相手は仮にも土の勇者だ。勇者としての活動歴は実に十年にも及び、その中では異端者の粛清やドラゴンの討伐などもこなしていると聞く。仮にも異端の片棒を担いでいるとは到底考えられなかった。

 どうして改宗するに至ったのかさえまるで分からないが、少なくとも勇者シンヤとは別件で考えたほうがいいだろう。

 悩んだ末、ヒューゴはそう結論付けた。



 「うーむ。どうも気になるが勇者シンヤとは関係がないと見ていいだろう。周囲の目撃情報や検問の履歴にもないとなると、国を渡った可能性は限りなく低い。確かに勇者シンヤの飼っている精霊も見た目だけは見目麗しいが、土の勇者はそんなものに引っかかるタマではない。次だ」

 「隠密七面が肆、キィロス。ご報告致します。現在の勇者シンヤの戦闘能力についてですが、申し訳ございません。解析ができませんでした。監視を行っていたのですが、特に戦闘を行う様子がみられなかった事に加え、潜在力を計測するはずの水晶も、故障したのか全く反応を示さないという状況でして」

 「そうか。そこは心配せずともよい。勇者に計力の水晶を使っても反応しないケースなど珍しくはないからな。ありがとう、次を頼む」

 「隠密七面が伍、ベルグッド。ご報告致します。勇者シンヤの人間関係についてあたってみましたが、親類や友人などはいないようです。育て親とされる(ゴールド)ランク冒険者のダカルもアルトイラと冒険者のぶつかり合いの際に他界しており、その後深く関係を持った人物はおりませんでした」

 「育て親が冒険者なのだから、同じ冒険者内には知り合いも多かったのだろうな。レッサードラゴンの襲撃やらでその者たちも他界していると考えるべきか。では次へ」

 「隠密七面が陸、ジオウ。ご報告致します。マリアナ国内での勇者シンヤの動向についてですが、彼は現在、従属させていると思しき精霊の他に正体不明の女性を一名、そして街の雑貨屋の店主であるファナという女性を連れて行動しております。把握している限りでは海辺の砂浜でバカンスを楽しんでいるようでもありました」

 「正体不明の女性か。雑貨屋の女と一緒にいるあたり、案外たまたま出会っただけの間柄かも知れん」

 「そうだと良かったのですが、どうも違っているようでして。こちらはイルワよりお聞き下さい」

 「ほう。むしろ一番の発見がその女という訳か。報告を」

 「隠密七面が漆、イルワ。ご報告致します。砂浜にて勇者シンヤとの接触を試みたのですが、結果は良くも悪くもといった形でした。まず精霊についてですが、アレは間違いなく勇者シンヤに従属されているとみて問題なさそうです。命令に対して表情すら動かさず、ただ彼に従っているだけのようでした」

 「それは重畳。うまく手綱を握っているようで何よりだ。続けてくれ」

 「は。実際に対面して感じたのですが、我々は勇者シンヤへの見解を改めなくてはならない。軽い気持ちで利用しようとすれば、逆に私たちが転がされることになりかねないでしょう」

 「ほう……? それについて詳しく聞こうではないか」

 「はい。まず私どもの諜報活動については、全て彼に筒抜けであると思われます。勇者ヒューゴ様が接触することに対しても予測していたかの態度であり、初対面で発せられた言葉が、情報を集めている私どもへの非難でした」



 イルワの報告に対し、隠密七面の他六名が色めき立つ。



 「……そんな馬鹿な」

 「いくらなんでも偶然ではないか?」

 「我々は隠密なのだぞ!?」

 「ありえんな」

 「むしろイルワ、お前が単純にミスしたではないのか?」

 「もしそうだとしたら甚迷惑な話だ。撤回したまえ」

 「静粛に! 全てはイルワの報告を聞いてからだ」

 「「「「「「大変失礼いたしました、ヒューゴ様」」」」」」

 「ふん、いいいだろう。続けろ」

 「かしこまりました。当たり前ですが精霊とは異端であり、いくら従属させているとはいえ生かしてあるのはあまり良い事ではありません。私は早々に精霊を始末するため、精霊に対して強い侵蝕性を持った毒を使うことを決めておりました。当然知っているでしょうが、霊毒という、無味無臭で人体には何の影響も及ぼさないものです。知覚することさえ難しいと言われる対精霊には大変希少な毒ですが、その使用すら勇者シンヤに止められました」

 「何と……ちなみにその時のやり取りは?」

 「精霊の容姿を誉めたてた上で、触れる許可を取りました。霊毒は肌に少し触れるだけで効果を発しますので。対する返答は「止めておけ。ソレが従属しているのは俺だけだ。変に手出しして暴れられてもも困る。死にたくなければ手元に気を付けろ」でした。やんわり断りつつも私の狙いを指摘するような言い回しには肝が冷える思いでした」

 「なるほど……確かにそれは脅威だ。こちらも勇者シンヤに対する態度を改めるべきかも知れん」

 「情報が欲しければ従者風情ではなく、ヒューゴ様自ら出向けとも言われておりました。下手に諜報を続けるのは愚策かと進言いたします」

 「了解した。しかし、話はそれだけではないな?」

 「はい。先の話に出た正体不明の女性についてですが、シンヤ殿が甲斐甲斐しく世話をしている場面を確認しました。多分整体マッサージではないかと思われますが、勇者を雑事に使うなど、余程高貴な身分なのではないかと。関係性についてお尋ねした所で強制的に話を打ち切られてしまいましたので、何か事情があるのは間違いないでしょう。問題はその後の話なのですが……」



 高貴な身分で権力も望まない勇者シンヤが仕えるという、謎の女性。

 ヒューゴが頭を悩ませていると、イルワが何かを言いよどむように話を切った。少し顔色が悪いようにも見える。



 「大丈夫か、イルワ。顔色が優れないようだが」

 「い、いえ。ただ、その時のことを思い出しまして。帰り際、私が背を向けた際にその女性の声を聞きました。曰く、「他の六人も下がらせよ。不愉快じゃ」と。直接相対していないのに関わらず、底冷えするような声音で、むせるような殺気を感じました。あの御仁にだけは敵対してはならないと、そう進言いたします。報告は以上です」

 「「「「「「「…………」」」」」」」



 隠密七面の中でも名実ともにトップであり、唯一、部下を持たないイルワの重い言葉に、その場に居合わせた七人はただ黙ることしかできなかった。

大丈夫です。深夜にそんな権謀術数の才はありません(笑)

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