海と水着
不定期です。申し訳ありません
「ヒイィッ、た、助けてくれ。俺が悪かった!!」
「すみませんでした! 出来心で、つい……」
「こ、これもイイ……はぁはぁ……グハッ」
ファナを連れて海に戻ると、その場の楽しそうな雰囲気にそぐわない悲鳴が耳に入ってきた。
一部変な声も混じっていたような気がするが、そんなものは俺には聞こえていない。気のせいだろう。
「あそこにいる二人、もの凄い美人ね。それに、喧嘩も強いみたい。あの変わった服装も真似したら流行るのかしら」
「どれどれ……って、おおう。ノルとフロストじゃねーか。また何かあったのか」
「知り合いなのね。連れの女の子ってあの二人かしら?」
ファナの指差す先では、ノルとフロストが数人の若い男を締め上げている所だった。
「全く、シンヤがどっかに行くから。凄く面倒なんだけど」
「まさかシンヤ以外に妾達に近付いてくる人間が居るとはの」
「ハハハハ。弱っちい若者では話にならないようだな、腕っぷしの強い嬢ちゃん達。やはりここは銀ランクの上位ハンターであり……ふぐぉっ!?」
「「やかましい(わ)!!」」
一連の騒ぎを見て何となく理解した。
恐らくノルとフロストの虜になってしまった憐れな男達が、二人にアタックして物理的に玉砕しているのだろう。
二人は一般的な美人とは比べ物にならないくらいの美女美少女だし、護衛とか取り巻きとか、余計な物が付いていなければ絶好の狙い目であることは間違いない。
しかし、これ以上犠牲者を増やす訳にはいかないので俺は二人を止めるべく近付いていった。
何よりも他の男に言い寄られている場面が気に食わない。
「あのさ、二人とも……うおっ!?」
一言発する前にはもう、顔面にノルの神速の拳が飛んで来た。
寸での所で受け止めたが、思わず【不滅の鉄壁要塞】が発動し反撃しかけたのでヒヤヒヤした。この魔法術は常時発動しているから、攻撃が飛んで来た途端にすぐさま反撃をしてしまう。
「あっ……シンヤだ。ごめんなさい、つい反射的になって」
「いいんだ、別に。俺の方こそ置いてきぼりにしてごめん」
「遅いぞシンヤ。もう待ちくたびれたぞ」
「ごめんごめん。その代わりと言っては難だが、二人にプレゼントがあってだな」
「プレゼント……わぁ、嬉しい」
「ほほう。それなら待った甲斐もあるかも知れぬが……時にシンヤよ」
「ん……?」
「ん、ではない。その後ろに連れておる女は誰じゃ?」
俺を射抜くフロストの視線が、突き刺さるように鋭い。
後ろを振り替えると、ファナがにこりと笑いかけてきた。
「そうだな。まあ何か、街の市場で知り合った。ファナだ」
「挨拶が遅れたわね。ファナよ」
「ひとまず分かった。ファナはいい。でもシンヤはプレゼントの前に一発殴らせて」
ノルが頬を膨らませて不機嫌な顔をしている。意地らしくて可愛い反面、このまま許してくれなくなったら困る。
あっ、フロストの視線が氷ように冷たい。ゴミを見る目とはこんな感じなんだろうか。
まるで獲物を捕捉したかのように鋭く光る金色の瞳に目を合わせていると、いつの間にか催眠術にでも掛かったかのように身体が動かなくなった。
「何でシンヤとフロストは見つめ合ってるの」
「妾は眼力でシンヤを縛りつけていただけじゃ。もうしばらくの間は動けなくなっておるじゃろ」
「いや、動けるけど……?」
「な、何じゃと!? 一定時間ドラゴンの瞳に目を合わせた者は例外無く全身感覚が麻痺するはずなのじゃが……?」
「いやそれどんなチートだよ」
「チートとやらはよく分からぬが、ドラゴンに目を合わせてはいけないと言うのは世界共通の常識だと思うのじゃが!?」
「そうなのか? ドラゴンって案外不便なんだな。目も合わせられないなら、見つめ合ってキスすることも出来ないんじゃないか?」
「なっ、なな何を言うかと思えば、キ、キスじゃとぉ!? そんな、シンヤは妾にそこまで……うぅ、ぐぬぬ」
フロストは何やらぶつぶつと呟きながら、地面に蹲ってしまった。その横顔をちらりと見れば、頬が少し赤く染まっている。
二人見つめ合ってする事なんて、大概がキスくらいなもんだろうと思ったが、違うのだろうか。
一人の世界にトリップしてしまったフロストはさておき、今では膨れっ面になってしまったノルに向き直る。
「ノル、何も考えずにファナを連れてきてごめんな。ただまあ本当に何も無いっていうか偶然っていうか、ファナには少し協力して貰っただけなんだ」
「シンヤなんか知らない。私はずっと待ってたのに」
「本当に、ごめん」
冷静に考えてみれば、遊んでいる途中で無理やり抜け出した挙げ句、他の女性を連れて帰ってくるなんて字面が最悪過ぎる。
どうやって許して貰おうか考えていると、ファナが俺の前に進み出てきた。
「ごめんなさいねノルちゃん。でも安心して。シンヤ君は私のお店に来た、ただのお客さんよ。面白そうなものを作るものだから付いてきちゃったけど、それだけで他意は無いわ」
「むぅ。そこまで言うなら信じてあげるけど、勝手に飛び出していったシンヤは許してあげない」
「うぐっ、そんな殺生な……」
「取り敢えずシンヤが持ってきたプレゼントだけは受け取ってあげる。出して」
「わ、分かった。二人の為に水着を作ったんだ。こっちがノルので、これがフロストの分。着替えてみてくれ」
ノルの水着は濃いめの紫を基調にし、露出は控え目なワンピースタイプにしてある。肢体の幼さを考えれば、ただ露出度が高いだけの水着は却って見映えを損ねるだろう。
一方、フロストの水着は少し露出度が高めなクロスホルタービキニである。サラサラと透き通るような銀髪と黒い水着のコントラストがフロストの美麗さを一際目立たせ、下から持ち上げた胸はもはや破壊力抜群の兵器だ。
下心は満載なものの、やはり考えるべき所はきちんと考えて作っている。濡れた時に透けるのは言語道断だし、布面積を小さくなども全く考えていない。
その辺の思春期真っ盛りなガキとは違うのだ。
とまあプレゼンはさておき。
ドヤ顔で水着を手渡した俺に返ってきたのは、ノルとフロスト双方からの怪訝な目だった。特にノルに至っては人を殺しそうな目をしている。
「うーん。俺、何かまずったかな?」
「どうであろうな。濡れてもいい服という触れ込みでは、動きやすさも鑑みてこんな形になるのも理解出来なくはないがの。少なくとも嘘の雰囲気は感じぬし、これを着ること自体は吝かでも無いのじゃが」
「ふーん。シンヤはこんなものを作るために私を置いていったの。私は海を楽しみにしていたのに、何か言い残す事はある?」
「待て。誤解だ。これには理由があってだな」
「うんうん、それで?」
「まず、こんなに綺麗な海に来て泳がないなんて五割は損している。これは海を目一杯楽しむための水着だし、その、俺としては二人のもっと可愛い部分を見たいっていうか。ほら、ただでさえ二人は美人さんだろ? きっと水着を着たら凄く似合うだろうし、そんな姿を見逃すのは嫌だと思って」
畳み掛けるように言い訳を並べたものの、結構ヤバいことを口走ってる気がする。
問答無用に怒られるかと身構えた俺だったが、それとは対照的にノルはへにゃりとした笑顔になった。
「そんなに私がこの水着っていうのを着た姿が見たかったなら、初めから言ってくれれば良かったのに」
「美人だなんて、褒めても妾が嬉しいだけじゃぞ。着替えてくるから、少し待っておれ」
フロストが腕の一振りで氷室を作りノルと連れだって入っていくのを見送ってから、俺は何とか首の皮一枚繋がったことに安堵の息を吐いた。
ファナが隣に来て、悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「ふふっ、シンヤ君はモテるのね。二人とも幸せそうで羨ましいわ」
「そうだな。二人にはいつも助けられてるし、ファナから見ても幸せそうに見えるなら良かった」
「それにしても随分当たり前のように水着を渡したわね。悪く言えば下着姿を晒すようなものじゃない。あの二人もそうだけど、シンヤ君にも抵抗は無いのかしら?」
「いや全然。水着と下着は別物だぞ? 産まれたままの姿を覆い隠す下着と違って、水着はむしろ見せつける為にプロポーションを輝かしく引き立ててくれるアイテムだ」
「言葉巧みで納得しそうなのだけど……それでも釈然としないわ。大体シンヤ君、あの二人の分しか作っていないじゃない」
「何を言っているんだか。もちろん自分の分も作ってあるぞ? 俺も着替えてくるから、折角作ったんだしファナも着替えて来いよ」
「わ、私も参加するの?」
「別に、嫌ならいいけど」
「嫌とは言っていないじゃない……着替えて来るわ」
ファナは断ると思っていたが、参加してくるとは意外だった。
一人になり手早く着替えた俺は、砂浜にズラリと並ぶ露店を軽く見て回った。
少しだけ買い物をしてから借りてきたビーチパラソルもどきを設置していると、ノル達が着替えを終えて戻ってきた。
「シンヤ、お待たせ。どう、かな……?」
「う、うむ。待たせたのう。少し、落ち着かぬが……」
「おぉお……!! 二人とも、凄く綺麗だ。たかが高卒程度の蒙昧な表現力では、もはや何て言っていいのか分からない位に麗しいと思う」
「止すのじゃ、シンヤ。嬉し過ぎて溢れ出る冷気が抑えられないではないか」
「やっぱり恥ずかしい……シンヤの、えっち……!」
「グハッ!? ノル、それはダメだ。破壊力が……」
二人とも頬を真っ赤に染め、恥ずかしそうにもじもじしている姿がいじらしい。
しおらしく俯いているフロストは胸元を隠すように肩を抱いているものの、その色気溢れる身体は全く隠しきれていない。
ノルはノルで、少し涙目で上目遣いにこちらを咎める仕草なんか、俺の理性を簡単にぶち壊してくる。
「取り敢えずタオルでも掛けておこうか? 周りの視線もうざったいし」
「そうじゃな」
「ありがとう」
ただでさえ美人美少女なノルとフロストが、この世界では裸ともつかない水着姿であれば、周囲の視線が自然に集まるのも無理は無い。
周囲を見渡せば、遠くから眺めるしか能の無いチキン野郎共が、一様に鼻の下を伸ばして気色悪い表情を浮かべているのが見える。出来ることなら今すぐ殴ってやりたい。
心の衝撃に耐えかねて身悶えしていると、ファナも着替えを終えて戻ってきていた。
「思ったより悪くないわね。踊り子にでもなった気分だわ」
「そうだろう? ファナも良く似合っていると思うぞ」
「そう? それにしても……シンヤ君、いい身体してるわね。その辺の冒険者よりも逞しい筋肉だわ。さっきまで気付けなかったけど、着痩せするタイプなのかしら……ちょっと失礼」
「ん? おわっ、あ、ちょっ止めろ! ペタペタ触るな!」
「んん、凄い……左右で比較しても偏りが余りない、理想的な鍛え方をしているわね。押してもびくともしないし、体幹も完璧。少し重心が右側前方にずれてるかしら……うへ、えへへへへ」
「はい、ソコまで。シンヤは私のモノ」
「ああっ! そんな、もうちょっと……」
「助かった……ノル、ありがとう」
あのままだったら、俺の貞操も危なかったかもしれない。まさかファナが重度の筋肉フェチだったとは、世の中分からないものだ。
「それよりシンヤ、折角だから泳ごう?」
「おう、そうだな……しかしちょっと待て」
「うん?」
こてん、と可愛く首をかしげるノルに、ニヤリと笑みを浮かべた俺は、ついさっき露店で買ってきた小瓶を取り出した。
「それは何じゃ?」
「これか? これはサンオイルだ!!」
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