襲撃 1
予定より遅くなってしまいました。申し訳ありません。
少々過激な表現が御座います。食事中などにはお気をつけ下さいますようお願い致します。
急いで書いたので、読みにくいところなどありましたら後々修正していきます。
この世界に投げ込まれてから、二年程たった。
相変わらずダカルによる鍛練は続いていて、そこそこの戦闘技術は習得した。
剣術や体術の腕前なら銀ランクの冒険者にも劣らないだろうとダカルには言われたが、実際にはどうだか。唯一の比較対象であるダカルが強すぎて分からない。
肉弾戦はそこそこだが、一番技能が伸びたのは魔法術の習得だ。
科学では説明できない不可思議な力は、自分自身の好奇心も相まって、鍛練というよりは趣味を楽しむようだ。いくつかのオリジナルの魔法術を生み出せるまでになり、毎日毎日次々と仮説を立てては実験を繰り返している。本当に森羅万象を再現できるなら、とイメージの赴くままに実験をしていたのだが、結構、というよりかなり魔法術でできることの自由度は高かった。
出来る範囲が広く、調子に乗って自重せずに魔法術を製作していたが、気付けば自分でも驚くレベルの魔法も出来ていたりする。おいそれと出してしまっては危険かもしれないと思った俺は、誰にも打ち明けず自分の心にしまっておくことにした。ダカルと鍛練をするときは、なるべくメジャーな魔法術の行使を心がけている。
「さてと、お前もだんだんモンスターと戦える時期だろう。次は実戦だなぁ。弱っちぃガキだった癖に、見違えたぜ」
ある日の午後。剣術の稽古が終わった後、ダカルが神妙そうな表情で呟いた。
「そんなに変わったとは思えないけど。そんなことより、弱っちぃガキは一言余計だな」
「へっ、お前なんかまだまだガキと同じだ。悔しかったら実戦でモンスターを倒してみやがれってんだ」
「おうよ、やってやるよ。どうせ初心者向けの雑魚ばっかだろ?片っ端から片付けてやる」
「ふん、素直じゃねぇな。あまり余裕こいてると、ホントに死んじまうぞ。そういった連中はどこに行っても数多くいるもんだ。危なけりゃ助けるが、この話だけは覚えておくこったな」
それだけを言うと、ダカルは足早に家の中へと入っていった。
まぁ、いざとなれば俺の開発した魔法をぶっ放せばそれで済む話なので、ダカルが思っている以上に実戦の危険は少ない………はず。勉強用にとダカルに貰った本にあった魔法術は初級から上級のものまで全て覚えたし、流石に勝てないことは無いだろう。
おそらく実戦の現場になるであろうミレイ大草原は、モンスターの出現率こそ多いものの、強さのレベルはそんなに高くない。
出現するモンスターの例だと、人形で知能を持ち、得物を片手に攻撃を仕掛けてくる小鬼やその上位種大鬼。トラップラントと呼ばれる、毒や麻痺などの各種異常状態で獲物を捕食する食肉植物。大体この3体のモンスターが主に出現するのだが、たまに巨大な蛇が出てくる事がある。フレイムオロチという名で文字通り炎をまとっている。ミレイ大草原の主とも呼ばれるそれは、出会ったら即逃亡といわれるほど冒険者の間で有名なモンスターであり、金ランク以上の冒険者五人以上での討伐が推奨されている。
フレイムオロチが現れると厄介だが、それ以外は大したことが無いようだ。後は野生の蜂やサソリ等に気を付けていれば完璧。高ランク冒険者一人を護衛に雇えば中々良い経験になると言うことで、初心者にはわりと美味しい狩り場らしい。
倒したモンスターは、討伐証明と呼ばれる部位を持ち帰ることで冒険者ギルドから報酬が出るという。
小鬼なら耳、大鬼なら牙といった具合で、それぞれ十マナ~二十マナで買い取ってくれる。
マナというのはこの世界の通貨で十マナ銅貨、百マナ銀貨、千マナ金貨、1万白金貨が世界共通で使われている。
1マナ辺り1円換算なので計算が楽なのは都合が良かったが、小鬼の換金率には呆れた。討伐証明である耳一つにつき五十マナ、つまり銅貨五枚だ。
小鬼退治で生計をたてるには、日々相当量狩らなくてはいけなくなる。
ちなみに言うと、フレイムオロチの討伐証明がその皮で、報酬は四十白金貨らしい。流石はミレイ大草原の主といったところだが、ダカルは大体こんなものを狩っているから慣れたと笑っていた。明らかに考え方はおかしいのだろうが、俺がここまで不自由なく過ごせていたのはダカルが稼いでるお陰だ。本当に感謝しかない。
少々話がそれてしまったが、以上が下調べの段階で分かっていることだ。冒険者達が残した記録を漁っていたときに見つけた情報なので信憑性は高い。
明日になればダカルの驚く顔が見られるだろうと、一人ニヤニヤしながら俺はベッドに入った。
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シンヤが異世界に来て初めてのモンスターハントに若干の緊張とわくわくを感じながら眠りについた頃。
普段は静寂漂う夜のミレイ大草原は、その日だけは少々の雑音が混じっていた。
小さく響く地響きの音。モンスター達の断末魔。その中には人間の話し声も混じっている。差し迫ったモンスター退治の必要なども無い今、動くものたちは明らかに毛色が違うことが窺える。
やがてリエル村付近に近づいてきたのは、無数の人影だった。月明かりに反射する鈍い金属の光は、そこにいるほとんど全員が鎧で武装している事を示している。大きな荷物を抱えた荷車もちほら見えるが、とても旅の行商人とは思えない。
足音を立てずに村へと侵入した人影は、人数を二つに分けると持ってきた荷物を持ち、それぞれ散開していった。その場に残った数人が、何事かを話しながら堂々と村の中心部へ向かって行く。
「守備は――」
「上々――。全ては上手く――」
「そうだな。なら――」
「全ては、――の為に」
村全体を吹き抜けた風は生温く、不穏な空気を纏っていた。
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リエル村へ侵入者が出てから数時間後。
カン、カン、カンと警鐘が、夜のリエル村に鳴り響いた。続いて大きな爆発音。
近隣の冒険者仲間と酒を嗜んでいたダカルは、何事かを確認するため外へ出た。道を行く人々は慌ただしく、口々に「モンスターが出た」と叫びながら慌てた様子で走って行く。
人々の流れに押されながら、一人の衛兵が息を切らして駆け込んで来た。
「た、大変ですダカル様。町にモンスターが! 既に複数の冒険者が向かっていますが、どうか、ダカル様のお力もお貸しください!」
「分かった。武器を取ってくる」
幸い家は近くで、全速力で部屋へ戻ったダカルは、愛用している黒い大剣を取ると、今だに寝ているシンヤの部屋へ飛び込んだ。
「シンヤ、居るか!?」
少し焦るダカルとは対象にシンヤは眠たそうな目を擦り、ゆっくり体を伸ばすと大きくあくびをした。
「ちゃんといるよ、ダカルの叔父さん。それより、外が騒がしいんだが。」
「騒がしいどころの騒ぎじゃねぇ。村にモンスターが侵入したんだ。討伐前に心配して来てみりゃ、全く暢気なもんだ。おかげで損した気分だぜ」
「モンスターが侵入………結界魔法術で防いでるんじゃなかったのか?」
「何にでも例外はあるってこった。俺は討伐に参加するが、お前は避難だ。いいか? くれぐれも好奇心で来るんじゃねぇぞ。今回のは特別だ。俺でもギリギリって所だからな。」
「初陣には重いってか。じゃあ俺は他の村人の避難勧告でもしてから行くよ」
「そうか、助かる。後はよろしくな」
シンヤと別れたダカルは、少し遅れてモンスターが出たという報告があった場所に着いた。村に侵入したモンスターはこの地方ではめったに見られないとされるレッサードラゴンで、総勢五体。
村にはモンスターを引き付けないようにする結界があったはずだが、正しく作動しなかったのか。そもそもレッサードラゴンは一体の遭遇でも珍しいのに、それが五体ともなると流石に何か不吉なものを感じる。
レッサードラゴンはドラゴンの中では下等種に分類されるが、強さは他のモンスターに比べても別格だ。全長四メートルの巨体に、並の刃物では通らない程の固い鱗を持ち、ミレイ大草原の主であるフレイムオロチを基準にするなら、少なくとも三体分には匹敵する。腐ってもドラゴンだ。厳しい戦いになるだろう。
レッサードラゴンによる被害は、既に出始めている。
建物は数棟が破壊され、討伐に出た冒険者にも負傷者が数人。どこぞの馬鹿が火矢を放ったのか、あちこちで火の手が出ていて空気も悪い。まだ死人が居ないことが幸いだったが、今回の戦いでは絶対に出ないとは言えない。
【魔法術:噴土大破】
ダカルが地に手を触れると、レッサードラゴンの足元より土砂が噴き上がり激しくその腹部を叩いた。バランスを失った巨体が倒れ、レッサードラゴンが体を起こそうともがく。その隙をダカルが逃すはずもなく、首元の柔らかい部分を手にした黒い大剣で切り裂いた。
赤黒い血が大量に噴き上がり、雨となって降り注ぐ。一先ず一体は仕留めた。金ランクの冒険者という圧倒的な戦力の到着に、現場の士気が一気に上がる。中には戦いの最中だというのに歓声を上げる者までいた。
ダカルはそんな冒険者には目もくれず、すぐさま次への対象へと向かっていく。現場に駆けつけた金ランクの冒険者は、ダカルを含めて三名。他冒険者達はレッサードラゴンの足止めをし、高ランクの三名が止めをさしていく。レッサードラゴンは確実に倒され、戦う冒険者の士気は依然として高い。戦況は有利に進んでいた。
最後の一体に大剣を入れる。絶命したレッサードラゴンは倒れ、ダカルは安堵の息を吐いた。他冒険者達も互いを労い、既に祝勝ムードに入っている。
パチ パチ パチ………
まばらな拍手の乾いた音は、喜びに水を差すようにやたら大きく響いた。
「いや、五体のレッサードラゴンがこうも簡単にやられるとは。全く以て素晴らしい。」
声の方向を見やると、甲冑の上に軍服という出で立ちの男が拡声魔法術を傍らに佇んでいた。全体的に緑色で獅子に絡み付く蛇の紋章が刺繍された旗を持っている。これは、たしかミレイ大草原の奥にある小国のものだったはずだ。
「貴様、アルトイラ国だな。何をしに来た?」
真っ先に口を開いたのは、金ランクでも瞬戦と名高い、スピードタイプの剣士だった。
「そんなことは聞かずとも自明でしょう。我らが偉大なる勇者、ガザル様は仰せになりました」
甲冑の男は一息つくと、大仰に手を広げて見せた。
「国力増強のためにリエル村は有利な足掛かりとなるでしょう。故に、陥落させねばなるまいと!」
「たわけが。素直に喋るとはな。だが、それも失敗に終わったわけだ。負け惜しみでも言いに来たのか?」
瞬戦の冒険者が吐き捨てるように不快感を顕にする。他の冒険者も同様に、口々に避難や罵声を浴びせている。
それでも甲冑の男は動じず、その場で魔法術を展開した。魔法術の種類は分からないものの、何らかの魔法術を行使していることは分かる。
すぐにでも止めるべきだが、どんな隠し玉があるか分からない以上、迂闊に突っ込む訳にもいかない。
冷静な判断でそれを見守っていた冒険者達だったが、だがそれは悪手だった。
「お、おい………!!あれを見てみろ!」
一人の冒険者が些か震えた声を発した。
各員が一斉に目を向けると、新手のレッサードラゴンがその場に向かって来る光景が見えた。その数は数えられぬ程多く、場に居合わせた冒険者では到底太刀打ちできない。
視界を埋める絶望を前に、冒険者達の表情が凍りつく。流石の金ランクの冒険者でさえも顔が青ざめていた。
ダカルは瞑目し、無言のままレッサードラゴンに向けて黒い大剣を構えた。死地へ向かう覚悟を決めて。
「それでは、ご機嫌よう」
甲冑の男が身を翻し去って行く。
後には、阿鼻叫喚となった戦場が残されていた。
展開が速かったかもしれないと後悔半分ですが、投稿してしまうことに決めました。
7/28 内容を一部訂正。




