スタート地点
毎度お付き合いありがとうございます。
今回は短めです。
勇者を相手に互角に戦えた事実を噛み締め、俺は何気なく手をグーパーさせながら身体の調子を確かめていた。
……見たところ何も問題点は無さそうである。最後は竜脈の力で強制的に急成長させたような結果になったが、厳しい修行も無意味ということは無いだろう。
ようやく俺も、ノルやフロストに並んで戦う事が出来る。
土の勇者との戦闘は、せいぜい修行の成果を確認するための試練といった所か。絶妙なタイミングでここに来た勇者にはある意味感謝しなければならない。
だが、やっとスタート地点に立てた。
「いやー、それにしても竜脈ってすごいんだな。何か一気に強くなったみたいだ」
「確かに、世界を巡る力の根幹である竜脈に触れれば強大な力を得られるがの。いきなり大きな力を得たとて、それを制御出来なければ力に呑まれる結果になるぞ。今シンヤが当たり前のようにしているのも、この半年間の頑張りの賜物だと思うのじゃよ。」
「力に呑まれる……ってことは死んだりするのか?」
「そうじゃのう……オーソドックスなのは破裂死かのう? こう、身体が膨れ上がってパァンとな。辺り一面が血で赤く染まるから、掃除も大変なのじゃ」
「うっわ……フロスト、実際に見たことあるのか?」
「妾達ドラゴンは竜脈から力を得ているのでな。」
何でもない事のように語るフロストの恐ろしい発言に、俺は青い顔で震え上がった。どこがオーソドックスなんだと内心悲鳴をを上げたい気分だったが、軽いノリで竜脈に触れてしまった事には反省しなければならない。
そりゃあ、そんな末路が待っているのならば、ノルがあんなに怒ったのも頷ける。
「ま、まあ俺死ななくて良かったなーアハハハハ……」
「うむ、本当に無茶をしたものじゃ。もしシンヤが死んだりすれば、ノルや妾も……特にノルはどうなっていたか。自ら命を絶ってもおかしくないのう」
「いや、流石にそれは……って、ノルさん、どうして視線を逸らした!?」
「あり得なくもないかなーって思った」
ノルは一体どんな想像をしたのか、潤んだ瞳でしんみりとしている。ふと俺の視線に気付いたのか、少し怒っていると主張するように頬を膨らませている所がまた可愛い。
これは愛されていると喜ぶべきか、それとも真面目に冗談でも死ぬとか考えるな、と咎めるべきか。
俺が真剣に考え込んでいると、ノルは急に真顔に戻って今までとは違う冷めた目を向けてきた。思い出したら腹が立ってきたとか、そういうものだろうか。
「それよりもシンヤに聞きたい事があるんだけど」
「どうした、藪から棒に」
「勇者と戦う前なんだけど。シンヤ、「俺のフロストを傷付けやがって」とか言ったのを覚えてる?」
「そ、そんな事言ったっけ……いや言ったかも知れないな」
「俺のって、どういう意味?」
「俺の……フロスト? ……はっ!?」
ビシィッ、と身体を硬直させた俺は、まるで時が止まったような錯覚を覚える。
いくら切迫した状況で俺が激昂していたとはいえ、そんな発言をすれば――
「今さら驚いても騙されない。シンヤ、いつからフロストと仲良くなったの? ――私を差し置いて」
「いや違う! 誤解だ!!」
「ふーん……どう誤解なの?」
「あ、あれは口をついて出てきただけっていうか、特に深い意味は無くて。本当にフロストとは何も無いし、そもそも俺が好きなのは……」
「好きなのは?」
「俺が好きなのはノルだけだから。そんな心配しなくても」
「むぅ……それは嬉しいけど、何か引っ掛かる」
得心が行かぬとばかりにノルはじと目を向け、ややむくれ顔になる。
案外ノルの本質は甘えん坊さんなのかもしれない。初対面では無表情で冷たい氷のような印象だったが、最近は割と感情を表に出す事が多い。
まあ後はフロストがいい感じにノルを説得してくれるだろうと思いフロストに目を向けると、珍しく唇を尖らせて上目遣いにこちらを見ている。
穏やかで優しく、常に一歩引いているようなフロストが、こうも感情を露にしていじける光景はそうそう見れるものではない。
思わず心のカメラを激写してしまった。
「のう……シンヤ? 妾、悲しいのじゃ。颯爽と助けに現れて「俺のモノに手を出すな」とか言うてくれるから、少しはその後に期待しておったと言うのに……裏切られたようで悲しいのじゃよ」
「え、えっ? フロストは俺に何を期待していたんだ!?」
「それを妾の口から言わせると? 少しは自分で考えるのじゃ。もう知らぬ、ノルの事は自分で何とかせい!」
「何で怒ってるんだよ……」
何をした覚えも無いのに何故か怒られた。
「そんな理不尽な!」とか叫びたい気分だったが、いつの間にノルは何かを悟ったようで、機嫌を直して安堵の表情を浮かべている。
もう何が何だか分からない。残念ながら女心とかそういうやつを察する技能は俺には無いみたいだ。
理解の外にある問題にそっと蓋をして、一先ずリエル村の我が家に転移で舞い戻った。
修行をしていたのは半年くらいだったが、まるで一、二年位離れていたような錯覚を覚える。
日の光を受けた明るい部屋は眩しく、光る鉱石や植物に囲まれていたとはいえ薄暗い環境に慣れていた目が多少の悲鳴を上げた。
「ヒューゴにしてやられて以来か。土の勇者には勝てたが、果たしてあいつには勝てるかどうか」
「シンヤは頑張ったんだから、きっと大丈夫……な気がする。私かフロストがサポートするならもっと余裕」
「竜脈を取り入れたなら勝てるじゃろう。話は戻るが、アレは資質が足りなければ身体の構造からも変質させてしまうからのう。今のシンヤの身体は適切に力を振るえるようになっているはずじゃ」
「身体を変質って……竜脈ってそんなに恐ろしいヤツなのか」
「無事に収まる場所が無ければ暴走してしまうからのう。そうなる前に容れ物の拡張なり最適化を図るのは合理的だと思うのじゃ。内包するに足る器であれば、竜脈は徹底的に対象の構造を変えてしまう」
「そうなのか……俺の基礎体力とか保有魔力量が根本的に変わってしまったのもそれが原因なのか?」
「まあ、急に変わったと言うならまず間違い無くそういう事じゃろう。見た目は全く変わっていない所を見れば、骨や筋肉等の作りが変わったのじゃろうな」
「見た目が変わる事もあるのか?」
「言ってなかったかの? 竜脈の力が留まるのに相応しい素質があれば、その器はどんなに醜い姿であろうと竜脈が安定を保てる形に変質するのじゃ。そうじゃのう……例えば腕の数が増えたり、額に新たな目が開眼したりした、とかは人伝で聞いたことがある話じゃ」
「「知らなかった……! 竜脈怖い」」
俺とノルの言葉が被った。
見た目が変わってまで力が欲しいとは思わないし、最悪は破裂死するとか、何も知らない癖に安易に竜脈を取り入れた過去の自分を蹴飛ばしたくなって来る。
「たとえ化け物なろうとも、守って見せる」とか、本気で言えるような自信は俺には無い。いや、絶対に無理だ。
ただ、まあそれでも……いざという時は仕方がないかもしれない。
「シンヤ……本当にこれ以上はしないで? 私を置いてシンヤが先に死ぬなんて許さないし、別に勇者と戦うのもシンヤは一人じゃないから。今のままでも十分強いから」
「お、おう。無理はしない。化け物にはなりたくないからな」
しまった、考えを読まれたかもしれない。
俺の肩をガクガクと揺らして必死の表情で訴えてくるノルの頭を撫でる。頬にキスを落とすと、ノルは顔を赤く染めて静かになった。
「どうじゃろうな。勇者も大概じゃが、今のシンヤは身体の内部構造は変わっているじゃろうし、もう人間ではないのじゃから化け物の仲間入りかも知れぬ。もしかすると手遅れかものう」
「んなッ……!? 俺は……手遅れなのか」
フロストの言葉が心にクリティカルヒットする。
四つん這いになって項垂れる俺を見据えて、フロストが呆れたようにため息をついた。
「冗談じゃ、先程の仕返しじゃよ」
「俺が何をしたって言うんだ……」
「まあ普通の人間ではない事は真実じゃがな」
フロストさん、止してくれ。
もう俺のHPはゼロだよ。
フロストの言葉は耳に痛いが、勇者と戦うにはこれしかないのも事実だ。
もういい、もう自分の正体には拘らない。どうせ職業が魔王なんだ、今更気にする事ではない。
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