反撃
いつも遅くてすみません。
今回も話を捻りだすのに苦労してました。
今すぐ目の前の二人組をボコボコにしてやりたい気持ちを抑え、俺は状況の確認に徹する。
目の前の二人組は……まぁ、何と言うか全面的にふざけたなりをしている。某人気ゲームの配管工兄弟をイメージでもしているのだろうか? それともこの場合は悪い方か。
赤と緑の二人組を見ていると、たまたまでしたと言うには苦しい気もする。もしや俺と同じように日本から来たのか……?
取り敢えず気にくわない奴らだ。
まさか俺とノルが不在の間に何者かが襲ってくるとは思わなかったが、フロストが傷だらけで捕らえられそうになっている辺りを見れば、この二人組が単にふざけているだけの人物ではない事がうかがえる。
考えるとすれば相手が勇者である可能性だが……二人で一人の勇者なのか、それとも双方が別々に力を得た勇者であるか。
圧倒的に後者のほうが可能性としては高いが、まあ何とか倒せるだろう。
何れにせよフロストが捕らえられる前に駆けつけることが出来て本当に良かった。
こんなにも早く上に登ってこられたのは、竜脈の反動から立ち直った後の出来事に起因する。
迷惑ばかり掛けている俺への罰だと言ってノルがとある提案をしてきたのだ。
「私を困らせるシンヤには、罰としてお姫様抱っこを要求する。上に着くまで降りないから」
「えっ、本気?」
「拒否権は無い。さあ早く!」
不機嫌そうな口調でありながら、ノルは明るい笑顔で瞳を輝かせており、その可愛さに俺は身悶えた。
そうして罰とも言えないような罰を賜り、喜んでノルを腕に抱いて走った訳だが……
「ちょっと、シンヤ!? 肉体強化までして走らなくても」
「いやいや肉体強化は使ってない。普通に走っているだけなのに俺も驚いているんだ。ヤバい、慣れなさ過ぎて止まれないかも」
「それはいいけど、衝突だけは避けて」
「うおっ!? 急カーブ……【肉体強化:基礎身体能力補正値四百パーセント】!!」
「シンヤ! 頭大丈夫!? もう私でも見切れないくらいの速度出てる!」
「大丈夫、俺には視えてるから! いざとなれば本気出して止まる!」
「何も大丈夫じゃない!?」
竜脈の恩恵を得た事に加え、ノルが腕の中にいてテンションが上がっていた俺は化け物レベルの速度で洞窟を踏破する事が出来た。速度が上がっていた分、止まる為に地面に足が埋まってしまったが仕方がない。
「おっと忘れていた、普通に閲覧できるんだっけ。【ステータス開示】……ふむふむ、土の勇者か。スキルは厄介そうだな。二人とも同じなのは気になる所だが、まあいい」
「「いかにも。我々は土の勇者、サンドブラザーズ。もしや貴様はそこのドラゴンや精霊に荷担すると言うのか?」」
「フッ……俺か? もちろんノルやフロストの味方だ。間違ってもお前らの下らない兵器実験になんか渡さねぇよ」
「愚かな事を。我々勇者を前にしてそれだけの自信を持つという事は貴様、異端者だな? 小国アルトイラで勇者ガザルが没落したと聞いているが、もしや貴様か?」
「ガザルの神器……指輪だったかを奪って力を得たのだな。あの辺であればマリアナの隠密が気付きそうなものだが、まあそれはいい。異端であれば始末するのみ!」
「大きな功績があればなれるとか、いまいち勇者の定義が分からないんだが……この指輪やお前らの付けているアクセサリーは神器って言うのか。それに加えて土とか隠密とか、勇者にはそれぞれ得意分野が存在すると」
「「これから死に行く者に教える義理はない!」」
弾丸のような速度で飛び出してくる兄弟をサッと躱し、俺も戦闘体勢を整える。
面倒な押し問答を繰り広げずとも 【ステータス開示】で情報などは丸裸なのだが、あまり知りすぎている事を悟られても面倒が増える。
もちろんフロストを傷つけた手前、五体満足で逃がすつもりは毛頭ないが。
それにしても名前がパレオとヴィージって……本当に何を狙っているんだ、こいつら?
……と考え事をしている間にも、勇者兄弟は怒涛の勢いで畳み掛けてくるように攻撃してくる。反撃する隙を与えないように一定の連続性を以て仕掛けて来る辺りは流石勇者と称賛するべき所か。
それら全てを危なげなくいなし、時には躱して捌いていく。決して逃げに移らないようその場に留まって攻撃を受けるのは骨の折れる仕事だが、今の俺ならできる。
「「くっ……異端者のくせに中々の強さ!」」
「お前らが弱いだけだろ。むしろ俺からすればお前らこそ異端だ。そうやって他人を邪険にする意味がまるで分からん。ノルも、フロストも……あんなに可愛くて頭も良くて優しいというのに、どこがいけないって言うんだ?」
「「何と愚かな! これだけの強さを持ちながら、君は見た目に惑わされている!」」
「その狡猾さ、残虐な仕打ちは決して赦されるモノではない!」
「仮にも異端者、その右手にある指輪はガザルの物であろう? 嵌めているのであれば指輪は教えてくれたはずだ。他種族の悪逆を、罪を!」
……ああ、あのクソみたいな憎悪の記憶か。確か、勇者への昇格の儀だったか?
あんな物を見せられた程度で俺の意思は変わらない。しかもアレは実際の所、他種族の実態を見せるというよりは、強制的に悪感情を植え付けているような、言わば洗脳に近い状態だった。
「ふん、お前らの下らん怒りは理解に苦しむな。どこぞの物とも知らない、実在していたかすらも怪しまれる記録をまんまと信じて逆上する。なら聞くが、お前らは他種族に何かされたって言うのか?」
「「何故、我々が他種族ごときに遅れを取らねばならない!」」
「全ては平和の為に、我々は悪行を為す他種族を狩るのみ」
「理由ならこのピアスが示してくれた。神器は我々に力を貸し、我々は神器の示す道を守る! 則ち、他種族の滅殺は我々の使命なのだ!!」
「つまり、何もされた覚えは無いと。ちんけな使命感に囚われて動いてるだけだと言うのか?」
「我々神器を持つ者としての意識が欠落し、さらには崇高なる使命に泥を塗る所業! やはり異端、排除するべき思想! そこのドラゴンや精霊諸とも始末してくれよう!!」
ブチッと、俺の中で何かがキレる音がした。
もう我慢の限界だ。これ以上は話を聞く価値もない。
百歩譲って人間が虐げられた時代があったとしてもだ。今この瞬間に何の危害を加えた訳でもないノルやフロストが傷つけられるのは、どうしようもなく腹が立つ。
誰彼構わず問答無用に始末するというのなら、結果的に同じ穴の狢だ。
こんな、信念もクソも無い輩など許しておく訳にはいかない。
「もういい、お前らのように他人に押し付けられた薄っぺらな正義に、俺は振り回されない。そんなものより目の前でフロストを傷つけられた俺の怒りの方が強い」
「「防戦一方に追い込まれている貴様が何を言う!」」
「スキル……【転移】」
「「何! 消えただと!?」」
「後ろだよクソ勇者!」
多分弟と思われる、背の高い緑の勇者――ヴィージの首を掴んで地面に叩きつける。地面にクレーターが出来て地下湖の景観が崩れるのはお構い無しだ。
どうせ神器によってあり得ないほどのタフさを発揮する勇者の事だから、この程度では死なない。追撃に脇腹を思い切り蹴りつけると、ヴィージは体をくの字に折って弾丸のように飛び、遠くの壁に激突した。
「ヴィージィィィィ!!! おのれ異端者め、我々に手を出した事、その命を以て償わせてやる!」
「ほっほぅ? 良いねぇ、勇者の使命だ何だと御託を並べているより、弟を傷付けられて逆上している今の方がよっぽど戦う理由としては強いんじゃないか?」
「な、何!? 貴様……私が兄だと分かったと言うのか? 頭一つ分の背丈の違い……一見で分かってくれたのは貴様が初めてだ!」
「お、おぅ。そんな……変な所で感動されても」
赤の勇者――パレオが目端に涙を光らせている。
有名過ぎて周知の事実のような感じがあったが、現実世界に置き換えるとあの兄弟はそんな悩みを抱えているものなのか。
しかしそんな事はどうでもいい、問題は土の勇者の始末だ。
「クソッ! 敵でなければ是非懇意にしたい所ではあったが、異端者には与える慈悲もない!」
「慈悲を与えられる筋合いも無いな」
「ええい黙れ異端者! 母なる大地の子。吹けよ舞えよ踊れよ、荒ぶる無数の矢――【矢砂嵐】」
「スキル……【転移】」
「なっ……消えて! いや違う、ヴィージ避けろォォ!!」
フロストを傷付けられた俺の怒りが簡単に収まると思ったら大間違いだ。待ってろ、心の底から泣いて謝りたくなる位の見返りを用意してやる。
転移で壁際までの距離を詰めた俺は、未だに衝撃で目を回しているヴィージの頭を掴んで持ち上げた。
この兄弟は二人掛かりで戦闘していた分、そこまで被弾する事が無かったのだろう。衝撃に対しては以外と弱いようでガザルを吹っ飛ばした時よりも立ち直りが遅い。
「おら、立て」
「グッ、ゲホッ。この異端者め。母なる大地の子。吹けよ舞えよ踊れよ、荒ぶる無数の――」
「させると思うか?」
ヴィージが詠唱を終わらせる前に地面に叩きつける。血を吐いて苦しそうに呻くのを無視し、さらに腹部を踏みつけにした。
「異端者ァァァ!!! ヴィージに何を!」
「ふん、もう追い付いてきたか、邪魔だ」
「うぬぬ……何だこれは……体が重い!?」
「ただの重力場だ。そこで這いつくばってるんだな」
「スキルに加えて魔法術も使えんだと!? 一体何をした!」
ガザルといい、土の勇者といい、魔力の停滞による重力場を知らないようだ。
魔力を直接操るのは聞いたことが無いとか何とかをガザルが喚いていたのを思い出したが、本当にそうなのかも知れない。
スキルや魔法術の発動時、割と露骨に魔力は動いているはずなのだが、詳細は分からないままだ。
ただ、重力場でもスキルを放ったガザルがそれなりに強かった事だけは分かった。
「さーてさてさて。これから死に行く者に教える義理は無い。その言葉、そっくりお返しする。ただ、俺はお前ら勇者と違って優しいからな、これから起こる事だけは教えてやろう」
「ぐぅぅ、屈辱の極み! こんな事なら身体強化も学びいれるべきだった……!!」
「ふん……【封磔光鎖】チッ、この魔法術を使うとあのクソ勇者の顔がチラつくな。いいかよく聞け土の勇者。俺はこれから、お前らを使って実験をしようと思う」
「実験……だと!? 何をする気だ!」
「そうだな……人間の精神及び肉体に関する苦痛への耐久力をテストしようと思う」
「……は。苦痛への耐久力?」
「話に聞くよりも実際に自分の目で確かめろ。早速始める」
力を込めて蹴ったせいで気を失っているヴィージの口にエリクサーの粉末を捩じ込み、回復させる。そのまま暴れないように厳重な注意を払って縛ると、パレオの目の前に転がした。
そしてそのまま――思い切り蹴る。
「ガハッ、ゲホッ!」
「異端者アァァァァァ!!! 止めろォォォ!!!」
「どうだ、大事な弟を傷付けられる気分は。心が苦しいか? 身代わりになりたいと思ったか? 因みにこの実験に意味は無い。俺が個人的に知りたい事を試しているだけだ」
「クソガァ! この異端者め、【矢砂嵐】!!」
「おっと危ない」
「うぁぁぁっぁあ、ギャァァァ!」
「!!!!? んなっ……止めろ、ヴィージを盾にするな!」
「いやいや、お前が俺に危害を加えようとするからだろう? こっちとしても自己防衛はしなければ」
「止めろ……止めてくれ……お願いだ、もう見ていられない」
「ん? んん? 次は指でも折ってみるか?」
「痛い、イダイィァァ!!」
「も、もう君たちを狙わないと約束する! 後生だ、見逃してくれぇ!」
「ハハハ、お前らがフロストにしていた事じゃないか。あのままならフロストを逃がすつもりも無かった癖に、自分達が危機に陥った瞬間だけ、よくもまあぬけぬけと命乞いが出来るもんだ。そんなものが通用する世の中だとでも思ってるのか?」
やるなら徹底的にだ。今度はパレオを拷問し、ヴィージを傍観者にする。
生憎人の悲鳴を聞く趣味は持ち合わせていないが、こうでもしなければ偏見に凝り固まった勇者は分からないだろう。
恨みも復讐も考えられなくなるまで、とことん恐怖を叩き込んでノルやフロストを狙う愚かさを後悔させ――グフッ
「シンヤ、もういい。止めて。私達の為に怒ってくれるのは嬉しいけど、ここまでする事は望んでない。人間と同じやり方で復讐なんて、そんな程度の低い事はしない」
「ノ……ノル……そ、んな」
「なっ……精霊!」
「同じ被害をこっちが先に被ったのは事実だから、シンヤの暴走についても謝らない。だけど、今回は見逃してあげる。傷がひどいみたいだから、エリクサーを渡しておく。ほら、さっさと行きなさい」
「解放……してくれるのか。それに、この薬……」
土の勇者は生存本能のまま、逃げられるという状況に理解が追い付いた途端、ガザルの縮地に匹敵する速さで、一目散にその場を逃げ出した。
後に取り残されたのはガックリ膝をついた俺と、俺の腹に拳をめり込ませているノル、そして少し離れた場所にいるフロストだけだ。
「シンヤ。勇者を刺激するのは止めて。私達が余計に目を付けられると厄介なの」
「ごめん……でもフロストが」
「シンヤが怒ってくれただけでも十分じゃよ。また助けられてしまったのう」
「でも、シンヤもやっぱり人間なんだって思った。あんな事も出来るんだって……ううん、私達の為だって分かってはいるんだけど、少し怖かった」
「そうじゃのう。だが、少なくともあれはシンヤが好んでやった事ではなかろ? むしろ終始嫌悪感溢れる表情だったのが印象的だったのじゃ」
「そっか。俺が怖いか……ごめんな。まあ、あれでも土の勇者が改心してくれると良いんだがな」
「それはどうかな、勇者だし」
「あの狂気じみた考えが簡単に改まるとは思わんのう」
実はその後、某国内で二人組の兄弟が羽の生えた女性を女神として崇める新興宗教を興したりするのだが、その時のシンヤ達には全く予想も付かない出来事だった。
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今後とも、転職魔王の勇者討滅録を宜しくお願いします!!




