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転職魔王の勇者討滅録  作者: 先祖代々貧乏
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フロストの過去

お待たせしました。


長く時間がかかってしまい、申し訳ありません。




 地底湖の湖畔。



 湖の主であるノルが風を撒くスピードで猛然と飛び出して行き、一人取り残されたフロストは、適当な結晶石の上に腰掛けると短く息を吐いた。



 「妾は本当に、何をしておるのじゃろうな」



 ぽつりと小さく呟いた言葉は、誰にも聞かれる事無く虚空に溶けて消える。



 ドラゴンは基本的に他種族との接点を持たず、自らの不干渉を貫いている。

 個々の力では間違いなく全生物中最強とまで言われる力を持ち、時にドラゴンを討伐しようとすれば、例え勇者と言えども単独で相手にするのは厳しい。

 またドラゴンは気高く誇り高く、悠久の時を生きる個体は知識も豊富で思慮深い。

 一つ難を挙げるとすれば、それ故にプライドも高く、他人に協力したり等の協調性に欠ける部分が玉に傷といった所か。



 自己完結型で物事を完璧にこなせる分、他者に関わる事が嫌いだったのは、もちろんフロストも例外ではなかった。

 拠点となる場所は標高六千メートルを越え、その気温は氷点下を軽く越えるほど。

 とりわけ寒冷に強かったフロストは、同族であるドラゴンとの接触さえも拒んで、誰もが近付かない天然の隠れ家で静かな生活を送っていた。

 同じドラゴンをも拒んだのは、毎日のように縁談を持ち掛けられるのが煩わしかったから。

 珍しくも美しい白銀の身体と冷静沈着で思慮深い言動は数々のドラゴンを魅了し、『氷霜の令嬢(ドーターオブフロスト)』という二つ名まで付けられた暁には非常に困惑した。

 始めこそ丁寧に応対しその都度断りを入れていたフロストも、断れば断るほどに増えていく縁談に我慢しきれず、ドラゴンでさえも近付かない場所へ逃げてきたのだ。



 そうして暫く時が経った頃。

 暇を持て余したフロストは世界を巡る旅に出かけ、あろうことか最初に訪れた場所で勇者に遭遇し、捕まってしまう。

 戦いは数日にも及んだが、炎を操る当代の勇者が相手ではフロストでは分が悪く、ついに捕獲されてしまった。戦闘中も捕縛された後も逃げようとはしたのだが、その悉くが失敗。

 止めも刺されず無様に捕まった挙げ句、家畜の如く檻で飼われ生かされる屈辱は今でも忘れない。



 「くっ、思い出すのも憚られるのじゃ。あのような忌々しい空間、薬剤まみれの餌。つまらぬ鎖なぞ付けおって、安全地帯から高見の見物をする始末。それを百年じゃぞ。忘れぬ………妾は決して忘れぬ。思い出すだけでも気が狂いそうじゃ」



 いくら牢獄に囚われている身とはいえ、百年もいれば内部の情報など割と簡単に手に入る。

 他のドラゴンともそれなりに仲良くしていれば助けにも期待が出来たかもしれないが、自ら関係を断ったが故に望みは無い。仮にドラゴン達の誰かが助けに来たとしても立地条件や勇者が駐在している事実が壁になる。この牢獄はアルトイラ王城の地下で、他の何からもその存在を厳重に隠蔽された実験場であるからだ。

 魔力を無効化する鎖さえ外せない現状、自力での脱出が不可能となっている事は自明だった。



 そして、他種族を敵とする勇者が何の目的も無くフロストを捕縛する訳は無い。そこから百年にも渡って続けられたのは、生物の兵器転用を目的にした調教実験だ。

 こちらを薬物漬けにして物理的な精神支配をしようという腹積もりを隠そうともせず、食事(エサ)に大量の薬を混ぜてくる始末。

 自分がモルモットとして扱われるばかりか、薬に呑まれれば兵器転用、死して尚素材として売り捌かれる事実に些かの恐怖も禁じ得ない。

 既に同じ名目で既に多数のモンスターを支配下に置く事に成功しているみたいだったが、強い毒耐性を持つフロストに薬物が通用しなかったのが唯一の救いと言えた。



 ―――成る程、これが人間という種族。平気な顔で恐ろしい事をする姿は正に残虐非道。頭の中には真っ黒な悪が詰まっているとしても信じられる。



 勇者が代替わりしても、毎日の食事(エサ)を運んでくる人間が代わろうが、フロストに対する扱いは変わらない。



 全てを諦め、閉鎖的な空間で死を遂げる事を覚悟していた時、長くに渡って独りだった牢獄に新たな犠牲者が増えた。

 ちらりとしか姿は見られなかったが、隣の牢に入れられたのが精霊である事は分かる。同じく兵器転用の実験台にでもされるのかとフロストは同情したのだが、その予想は外れた。

 夜遅く牢獄に現れた勇者に驚いていたのも束の間、その後に起きた出来事は口にするのも憚られる事案。物音だけでしか状況を判断できないまでも、勇者が何をしているのか察したフロストは、何食わぬ顔で躊躇い無く他者を冒涜する人間への恐怖と怒りに震えた。



 それから毎晩、精霊の娘が絶望のまま死ぬまで続く事になるだろう勇者の凶行に何一つ行動出来ない自分を呪ったフロストだったが、突然その場に現れた少年によって事態は予想の斜め上を行く。



 「あの時は驚いたのう。妾を見て格好いいなど言うから、ただの無垢な少年だと思ったのじゃが、本当にあの忌まわしい鎖を砕いてくれるとは。全く、妾は人間が嫌いだったはずなのじゃがな。あんなに面白い人間ならば、興味が引かれない方が珍しいというものじゃ」



 愚かで卑劣、暴虐で悪辣。人間など所詮そんなものだと一度は結論付けた事を覆したのはシンヤだった。

 勇者は間違いなく最強の人間なのに、それを分かった上で()()()()()()為だけにアルトイラ王城の地下へと潜入してきたのだ。

 その眩しいばかりに美しい在り方に、フロストは感動した。



 たとえ他者との関わりが嫌いであったとしても恩には報いなければならないし、ならばついでに人間についての見聞を深める目的でフロストは行動しているのだ。

 まさかノルとシンヤが愛し合っていた事実に関しては予想もつかなかったが。



 「さーて、辛気くさい過去の話など終わりじゃ。妾はここらでゆっくり二人の帰りを待とうかの………」



 突然背後からの視線を感じてフロストは言葉を切った。静かに振り向くと地底湖の入り口に視線を向け、大気をも凍らせる冷気を放つ。衝撃が壁を伝って洞窟内が震撼すると同時に、ダイヤモンドダストがキラキラと光を反射しながら宙を舞い踊る。

 破壊された結晶塊の後ろより二つの影が飛び出し、フロストの前に正体を現した。

 背丈は双方で違っているものの、どちらも同じような格好をしている。人間界では確か、おーばーおーる? とか言ったような上下一体型の服を着ており、それぞれその下には単色の袖が長い服を着ている。頭には下の服と同じ色の帽子を着用し、両手には白い軍手と、建築関係の作業者のような見た目だ。



 ずいぶんと場にそぐわない者達ではあるが、この場所は本来人間に見つかる可能性が限りなく低い場所である。静かに戦闘体勢に入る準備を整え、警戒も露にフロストは目を細めた。



 「お主ら………二人か? 妾の根城に何の用事かの?」

 「「ほう………よくぞ聞いてくれた」」

 「我々は土を繰る勇者。またの名を、サンドブラザーズである!」

 「そこに御座(おわ)す美しきお方は………ドラゴンとお見受けする。巧みに変化しているようではあるが、頭部の角が隠しきれていないな!」

 「………勇者とな。装飾品は一つではないのかのう?」

 「「ピアスである! 左右兄弟で分ければ問題ない!」」

 「して、何用じゃ?」

 「「無粋なことを聞かないで欲しいものだ」」

 「今は数も遭遇も少なきドラゴンと相見えた機会!」

 「それを倒さずに何が勇者か!」

 「「いざ、尋常に勝負!!」」



 土の勇者を名乗る二人はそう高らかに宣言すると、二手に分かれて挟み撃ちの要領で向かって来た。

 二人で一人の勇者など聞いたことも無いが、目の前の兄弟と覚しき人物に勇者の力を与えている装飾品はピアスだという。普通は考えないだろうが、折半して使えば二人の勇者になるというのはあり得ない話でもない。

 勇者一人を相手にするなら十分対抗しうる力を持っているフロストだが、二人掛かりだと話は違ってくる。装飾品も半分だから一人一人の戦力も半分………などと都合の良い事を考える程バカではないし、仮にそうだとしても狙うべき対象が分散するのは非常に戦いづらい。



 流石は兄弟というだけあって、抜群の連携力からなる連続攻撃の数々には、息をつく暇もない。

 洞窟内としては広い分類に入る地下湖の空間も、空中戦闘を得意とするドラゴンには狭く不利な環境になる。

 その上で回避や防御を迫られ、対応が完全に後手に回ってしまっているこの状況は最悪だと言っても過言ではない。



 「母なる大地の子。吹けよ舞えよ踊れよ、荒ぶる無数の矢――【矢砂嵐】」

 「母なる大地の子。吹けよ舞えよ踊れよ、荒ぶる無数の矢――【荒憤土】」



 吹き荒れる砂嵐は砂粒の一つ一つが鋭利な矢尻となって身体に刺さり、足元からは圧縮され高度の増した砂の刃が身体を貫かんとばかりに噴き上がってくる。勇者本人による物理攻撃などにも警戒しなければならないフロストは、元の綺麗な身体が見る影もなく赤い血で染まっている。



 「くっ、やはり厳しいようじゃ。ノルは飛び出してしもうたし………ハハ、妾もここで終わりかのう」

 「「何を言う、ドラゴンよ」」

 「先のガザルの件、聞き及んでいるぞ」

 「モンスターの兵器転用、誠に興味深い」

 「「貴様はここで捕らえ、我々サンドブラザーズが有効活用してやろうではないか!!」」

 「そんな………妾は、やっと抜け出して………」



 人間はどこまでも人間である。その本質が変わることは無く、立場が同じなら考えも似通うのかもしれない。

 慈悲も優しさも無い。

 真っ白になった思考はフロストに致命的な隙を産み出し、気がついた時には、フロストは砂によって拘束されていた。



 暗くて狭く、動く事もままならない牢獄。

 薬漬けの食事(エサ)

 ただ死を待つのみの絶望に彩られた生活。



 フラッシュバックするのは最悪の記憶。

 割り切ってはいても、心の底ではこの上なく強く拒絶していた日々が繰り返されるなど、耐えられそうにもない。



 「誰か………誰でもよいのじゃ………こんなのは、嫌じゃ………」

 「「無駄だ! 貴様を助けよう者などおらん」」



 フロストの頬を、一筋の涙がつたう。

 それと全く同時に、一人の影が両者の間に割って入った。



 「誰も助けないなら、俺が助けるさ。ノル、フロストを頼む」

 「分かった。シンヤも気を付けて」

 「ノル、シンヤ………あ、ありがとうなのじゃ………」



 「よく頑張ったな」と笑いながら頭を撫でてくるシンヤに、フロストが頬を染めてうつむく。

 振り返ったシンヤは仁王もかくやという程の深い憤怒の表情を二人の勇者に向けた。



 「よくもまあ()()フロストを傷付けやがって。覚悟は出来てんだろうな?」



 地下空間内に、魔力の旋風が吹き荒れる。

 大体の皆さんはお気づきかと思いますが……

 そうです、土の勇者のモデルは、あの有名な兄弟です(笑)

 急な思いつきでやってみたくなりまして。


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  今後とも、転職魔王の勇者討滅録を宜しくお願いします!!

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