竜脈
話が進むにつれて、始めに言っていた事と実際のストーリーが異なっている気が。
近い内にまた冒頭部分(主に世界渡ってから)を帰ようと思います。
行ったり来たりで申し訳ありません。
再び修行へと戻った俺は、一歩踏み出す度に全身を駆け巡る痛みと戦いながら、せめて回復をしてから来るべきだったと後悔していた。
ボコボコにされた後だというのに、様子がおかしなノルが心配で、立って歩ける程度の中途半端な回復で戻ってきたからか全身が悲鳴を上げている。
久しぶりにノルと言葉を交わし触れ合った俺は、「待っててくれ」とノルに約束をした事に加えテンションが高く、そのまま気分任せで走り込みのコースに突っ込んで行った。
冷静な判断もできなくなるとは、本当にバカな事をしたと思うが、痛みと戦いながら走るというのもこれはこれで現実味のある訓練かもしれない。もし勇者相手に敗走するとしたら、絶対に無傷とはいかないはずだ。
そんな言い訳をしながら走る今日のコースは、名付けて「恐怖の魔橋コース」だ。
このコース上には、辺り一面が岩盤に囲まれていなければ、ここが地下空間だという事実を疑う程深い奈落が広がる大穴が幾つか点在している。そのどれもが一本だけ細い道が通っていて、気分的には手すりのない橋を渡っているようだ。道幅は二メートルと、若干広いのが救いではある。
始めは俺もすぐ隣に広がる奈落の底を想像して足がすくんでいたが、慣れればこっちのものだ。地面に這いつくばって芋虫の如く匍匐前進をしていた最初の頃が懐かしい。
何なら今ここで体操技でもして見せよう。肉体強化さえ使えば、ひねりまくる事で有名な某体操選手の技だって美しく決めることが出来る。
ひたすら高いテンションだけで気力を維持してきた俺は、ずっとこんな調子で意味の分からない無駄な行動を繰り返している。自分でもバカみたいだと自覚しているが、それよりもこのテンションが下がっていく方が怖い。
「どうせ誰にも見られていないし………」と肉体強化を施し助走をつけようとした俺は、技に突入する寸前で背後からの高速接近反応を読みとり、臨戦態勢を取った。
「まさかここでモンスターか? 魔力波の反応だと、大きさは人間位か。出会った事のない相手かもしれない」
周囲が暗いため視覚での情報は役に立たない上に、接近してくる敵は速度が速すぎて魔力波だけでは形を捉えにくい。
この洞窟で今まで出会ったモンスターはどれも小型で動きも遅く、ここまで速い個体は初めて見る。魔力波で何となく見えたのはどうやら人形に近いという情報だけで、もしかしたらこの地下の主という可能性もある。
下手につつくのも憚られるし、あわよくばそのまま通り過ぎてくれればありがたい。
取り敢えず上空に避けてみようと身構えた俺だったが、もう間も無く接敵という所でさらに加速した相手は、転移もかくやという速度で俺に突っ込んで来た。
衝突してきた物体と共に宙を舞う感覚に見舞われた俺は、穏やかな心でこの世の終わりを悟った気がした。
「ハウアッ………!! ダメだやっぱり死ぬほど痛いィ!!」
「シンヤ! やっと捕まえた!」
「………えっ!? もしかしてノルなのか?」
「えへへ、我慢出来なくて会いに来た」
暗くて姿は見えないが、この甘い声は確かにノルのものだ。満身創痍な俺に止めを刺した理由はよく分からないが、一先ずやって来たのが敵ではなかった事に安心感を覚えた俺は、そのまま意識を失った。
「うふふ、しんやー? ここどこだっけ? あれ? 何か私達、落ちてる!? ちょっと待って緊急事態!!」
底無しの奈落へと落ちていく中、ノルの叫びは虚しく闇の底へと吸い込まれていった。
***************
ぬるい水滴がポタポタと降りかかり、顔を濡らしている。
全身を巡る痛みや気だるさとは別に、腹の上には何かが重くのし掛かっていて少し息苦しい。
周囲の音はやけにうるさくて、熱い風が頬を撫でていった。
(一体何がどうなったのか)
確か最後の記憶は、走り込みの途中でノルが思いっきり突っ込んで来た所だった気がする。
奈落の大穴が広がる岩の一本橋の上で、ろくに回復もしていなかった俺にはあの衝撃はキツかった。
(………まさかあれも訓練なのか?)
いやいや、唐突な衝撃に耐える訓練だとしてもそうは考えにくい。何よりノルが「我慢出来なくて会いに来た」とか言っていたような記憶がある。
だとすると、もし俺に会いに来たならノルは今どこに………?
徐々に覚めていく意識の中で、その答えは割と単純に明らかなった。
「シンヤ! ………シンヤ! お願いだから目を覚まして! い、いきなり突っ込んだのは悪かったって反省してるから! だから意地悪しないで………嫌だよ、シンヤ。起きて。ねぇ起きて。死んだとかお別れだなんて嫌! 絶対嫌ッ!」
薄ぼんやりと目を開けた俺が見たのは、仰向けに倒れ意識を失っていたらしい俺の上で、馬乗りになったノルが泣きじゃくっている姿だった。
「ノル、ごめん。ちょっと気失ってたみたいだ。別に死んでないから、安心しろよ」
「グスッ………良かった。二時間くらいずっと意識なかったから物凄く心配した。 次からは五分以内に起きてきて」
「えっ、何その理不尽さ。意識失ってる人にそれは厳しいだろ。そもそもノルが俺に突っ込んで来たのが悪いんだし」
「うぅ………ごめんなさい。それはきちんと反省しているから。でも、修行ばっかりに集中していて最近は全然会えなかったし、ずっと寂しかったから。もっと一緒に居たかっただけ」
「あー、いや俺もそんなに怒ってないから。だからそんなに目をうるうるさせるなよ………」
五分以内はあんまりだと思わず真顔で返したが、涙目が返ってくるとは反則だ。まさか自分に「可愛いから許す」なんていう考えが浮かんでくるとは思わなかった。
ノルが落ち着いた所で状況を確認すると、あの道から俺達はそのまま奈落の底へと落下してしまったらしい。ノルは翼を持っているからそのまま転落死する事態は避けられたものの、飛んで戻るには厳しい位深くまで落ちている。強靭な肉体を持ったドラゴンであるフロストならともかく、小柄なノルに人一人は重荷だろう。
「………とすると、俺達はこのよく分からない洞窟を通って上に行かなきゃならないのか。上まで道が繋がっていてくれれば有難いんだがな」
「私でもこんな所に落ちてきた事はないから、道案内は出来ないけど頑張る」
「ノルは飛べるんだから、先に戻っていてもいいんだぞ?」
「むぅ………シンヤのいけず。心配だから一緒にいる。そうじゃなくても一緒がいい」
「ノルは可愛いな」
「………そんな嬉しい事言っても、何も出せない」
赤面してそっぽを向くノルがいじらしく、ついからかってしまう。奈落の底に落ち、帰る見込みが無い現状を忘れてしまいそうなほど平和な空気だ。
謎の洞窟の内部は広く、上へと繋がりそうな通路もいくつか見付かった。
洞窟内は常に明るく、地面や壁面には血管の如く枝分かれした形でオレンジ色の光が漏れだしている。自然に出来たものにしては割と平らな道が広がっており、所々に階段に似たものもあって、まるで作為的に作られた洞窟のような雰囲気だ。
中に充満している魔力の量も桁違いに多く、上で倒していた個体と同じモンスターでも強さが倍以上違っているのが興味深い。
「この辺は色々と活性化しているんだな。魔力は多いし、モンスターも質が違う。上の湖付近の環境といい、この空間って何なんだ?」
「シンヤには説明してなかったっけ? ここは地下深く、竜脈の走る場所。シンヤがいつもお世話になっているエリクサー結晶も竜脈のエネルギーが蓄積されて出来てるものだし、何ならそこら中で漏れているオレンジ色の光は竜脈そのもの」
「へぇー、これが竜脈なのか。これってエネルギーの塊なんだろ? ちょっと分けてもらえれば、俺も簡単にパワーアップとか出来たり?」
「どれだけ膨大なエネルギーが詰まっていると思うの? 下手に欲をかいたシンヤが死ぬ未来しか見えないんだけど」
ノルがジト目で非難するような視線を向けてきた。
やはり手っ取り早く楽に強くなる方法は無いのかと思いきや、強くなれるかどうかについては肯定も否定も無かった。
もしかしたら強くなれる可能性はあるかもしれない。
(ならば、少し触ってみるくらいなら大丈夫か!?)
にやりと邪悪な笑みを浮かべた俺は、ノルに見られていない事を確認し、光を発する壁の亀裂にそっと指を差し入れた。
じんわりと暖かな金色の光が、指先から体内へと侵入していく。特に体に不調は無く、それまで満身創痍だった体の傷がみるみる癒えていくのを感じた。
尚も全身を巡る竜脈の光は潜在的な魔力量を倍へ倍へと引き上げ、体が重力を感じさせないくらいに軽くなっていく。
「おお! これが竜脈の………あ、あれ何だ? 熱が、いや体が自由に動かなくなって………ゴフッ!」
咳き込んだ途端に吐き出されたのは血の塊だった。頭もグラグラとして、正常な判断が付かない。壁の隙間に差し込んだ指を離そうとするも、何故か指は動かない。
「シンヤ!!! 何をしてるのっ!?」
「ふぐおぁぁぁあ!!!?」
気が付いて戻ってきたノルに脇腹から蹴り飛ばされ、俺は数メートル先の壁に激突した。
ノルのお陰で何とか壁から手を離すことが出来たものの、未だに気持ちの悪い感覚が抜けない。
「だはぁ………た、助かった。ありがとう、ノル」
「ありがとうじゃないッ! もうっ! だから先に忠告しておいたっていうのに、何で竜脈になんかに触ったの! もう何なの!? 死ぬの!?」
「ご、ごめん。少しだけならって思ったんだけど」
「その少しで死にかけたんでしょうが! シンヤは私の事が嫌いなの? そんなに私を独りにしたい? もう泣いていい?」
「ごめん、ごめん!! 泣くなノル!」
結果的に俺の体調は元に戻ったのだが、ノルを宥めるのに結構な時間を費やしてしまった。
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