修練
長くかかってしまって申し訳ありません!!
一応手直ししました!これで大体は大丈夫だと思います。
名も無き洞窟の最深部に位置するそこは、美しく透き通った湖を擁する巨大な地下空間だった。淡い光を発する苔がその空間を優しく照らし、結晶化した鉱石は夜空に瞬く星のよう。
申請さえすればまず間違いなく世界の絶景スポット百選に選ばれそうなその地下空間は、俺とノルが初めて出逢った思い出深い場所でもある。
そんな地下空間に来て早六ヶ月。
太陽の光も届かない場所で、俺はただひたすら修行に明け暮れていた。
地上での体力作りはただの体力と根気勝負だが、洞窟内だとその効果も難度も全く異なる。
視界は不明瞭で足元は安定せず、水溜まりやぬかるみ、尖った岩等に気を配りつつ、闇コウモリを始めとしたモンスターの襲撃にも対応しなければならない。重りが欲しければ握りやすさを考えた設計もクソも無い岩塊が、天然のダンベルとしてそこらじゅうに転がっているし、洞窟内に数ヵ所存在する湖では水中訓練も出来る。
景観だけなら美しいその洞窟の環境は、より実践的な訓練をする為だけに作られたように錯覚してしまうほど修行にはぴったりな場所だ。
その日の修行を終えた俺は今、エメラルド色に淡く輝く結晶石に囲まれた小さな空間に三角座りで独り項垂れていた。
周囲を囲むエメラルド色の結晶石は、ノル曰く「竜脈の漏れだす場所で長い間に渡って蓄積された生命エネルギーが結晶化したもの」らしく、その名をエリクサーという。削った粉末を飲めばあらゆる傷や病を癒す万能薬になり、その価値はグラム単位で国の財政が揺らぐ程だという。
まあ、隣に等身大のデカい結晶があって、まともな値段も聞いたことがない代物に関しては実感も無いが。
エリクサーの結晶は、大きい物だと服用せずとも癒しの効果を発揮してくれる。背丈ほどの結晶に囲まれた俺は、絶賛修行で受けた傷の治療中だ。
―――この狭い空間で傷の治療を受けるのは、これで何度目だろうか。
剥き出しの岩肌が広がる天井を生気の抜けた虚ろな目で眺め、この地獄のような修行がいつまで続くのかという思案にふける。
俺が修行しているのは、勇者に打ち勝つ程の強さを得るため。そうだ、確かにその通りだ。
確かに自分は強くなったのだろう。
少なくとも修行前の実力と今出せるであろうとを思い出して雲泥の差を感じる程には。
ステータスで見る肉体の基本値は三倍程度まで膨れ上がり、肉体強化術を施せば、今や五割程度で以前のガザルを上回る速さを手に入れる事ができる。
毎日毎日限界まで鍛えてはエリクサー結晶で超スピード回復、そしてまたボロボロになるまで修行を繰り返す。何故か睡眠も不要になり、肉体の自然回復を待つという時間が必要の無いこの鍛え方は、短期間でより効率的な成長を与えてくれた。
洞窟内での修行は一周十キロメートルのコースでタイムを競うのだが、三つだけルールがある。光を照らさない事、肉体強化術を使わない事、そして決して休まない事だ。
当然、整備された道などはない。高低差も激しく、尖った岩も数多くあれば地下水の漏洩によりぬかるんだ場所もある。自然環境である以上、毒を持つ危険な生物や、野生のモンスターまで俺を襲ってくる。そんな中を光を照らさずに進むのは自殺しに行くのとさして変わらない。
この修行の発案者は、ノルとフロストだ。最初にコレを提示された時は余りに危険過ぎると断固否定し、せめて光を照らす事、肉体強化を三割まで着ける事を要求したのだが、「甘えるな」と満面の笑顔で全て却下された。
目尻に涙を光らせながら始めたものの、始めは本当に酷いものだった。滑って転がったり、倒してみれば何と言うことはない雑魚モンスター相手に長期戦を強いられたり。何度か死にかけては隠れて付いてきたノルに連れ戻され、トラウマを植え付けられるよりも速く再挑戦させられた。
試行錯誤の末、超音波をイメージした魔力波を使った障害物センサーを開発したのだが、これが無ければここまでスムーズに修行は出来なかっただろう。若干、気配を感じる力も備わってきた気もするのだが、まだ生身ひとつで走る勇気は無い。毎日同じ道なら良かっただろうが、日によってコースは異なり、また一度通った道でもノルやフロストが地形をねじ曲げてしまっている。同じ道を走れる希望など無い。
こうして何とか走り込みをすること十本。いくらエリクサー結晶での回復があるとは言え、百キロ相当のマラソンは厳しいという言葉でも足りないくらい鬼畜な所業だが、それでもこれを終えると次はスキルについての自主トレになる。
スキルは常時発動のパッシブスキル、及び自らの意思で発動させるアクティブスキルの二種類に分類され、パッシブスキルである【魔王の加護】は主に身体能力の向上や無意識下で発動している。
それに比べ、アクティブスキルの方は【魔王の福音】という場所に記載され、魔力を対価に発動できる。
自身のステータスを確認できるのも【ステータス開示】というスキルだ。
俺に力を貸してくれている指輪だが、他人に力を与えるだけ与えて後は放置と、少々不親切だ。ヘルプや説明のような物が無いため、実際にどのような効果があるのかがまるで分からない。
自分が強くして貰っている身である以上とやかく言う気は無いが、一から手探りで検証していく必要があった。
その検証の結果、未だにまだよく分かっていないスキルもあるが、効果が予想できて今すぐに使えそうな物はいくつか発見した。
現在取得済みのスキルは七つ。
眷属契約、ステータス開示、転移、転送、真言、弱点看破そして超越者だ。
真言や超越者といったスキルは、その目的も効果もついぞ分からなかったが、他は何となく分かる。
転移、転送、弱点看破はその名の通りのスキルである。
転移や転送には魔法術とは段違いの消費魔力や展開速度があり、弱点看破はあらゆる事象を切り崩す。
眷属契約に関しては未検証だが、名称を見るに半分正体は割れているようなものだろう。
それはさておき。
俺の得たスキルの中でも別格なのは、ステータス開示だ。
このスキル、実は「自分のステータスを確認できる」などと言うお手軽なものではなく、その真髄は別の所にある。
ある意味このスキルが最強ではないかと思わせるほど驚異的かつ脅威的なその効果は、ステータスだと認識したモノ全ての情報を丸裸にする事。
相手の基本ステータスはもちろん、スキルや魔力量疲労度、構築中の魔法術、動いている者はその速度まで、その全ての情報をステータスとして開示するのがこのスキルだ。
古今東西、情報を掴む事は戦いを制する上で絶対優先。手の内がばれている事ほど恐ろしい事は無く、このスキルは絶対不変のアドバンテージになる。
もはやその能力は【不落の鉄壁要塞】に並ぶチート級。
目にしたもの全ての情報を開示してくれるという事であるならばこれ如何に。
これは俺の持論だが、力は常に最大限有効活用されるべきである。どうしても気になる謎があれば、それは究明せねばならない。
修行で得た技能を漏れなく駆使して、音をたてず、しかし速度は速く気配を殺して走る。いつもノルがいるのは、棺が沈めてある湖だ。土埃も立てずに忍び急いで手頃な結晶石の陰に隠れた俺は、座って刀の手入れをしているノルをばっちり視界に捕捉し、スキルを発動させた。
さぁ【ステータス開示】よ、今こそその真髄を。
ノルの、ステータスをッ!!!
☆身長155cm
体重47kg
B:82
W:57
H:79
胸のサイズ、推定Cカップ
「………お、おぉぉぉ!! これがノルの! 何と言う綺麗なプロポーション! それでいて超絶可愛いとか理想………いや、これこそ究極!! ブハッ………は、鼻血出てきた………!」
よくやった、俺のスキル………!
長年の謎、ノルのステータスを解明した。
「あゞ、今生に悔いは無い………」
ホロリ、涙を流してサムズアップをした俺の後ろで、ユラリと影が動いた。
「何をされたかは分からないけど、取り敢えずシンヤは一回死んでみるべき。何か大切な物が奪われた気がする」
「エッ………。ノル!? どうしてここに?」
「それはこっちのセリフ。シンヤはスキルの訓練をしているはずでしょ?」
「いや、これには深い訳があってだな。そう、スキルの練習だ! ステータス開示のスキルを練習していたんだよ」
「ふぅん………それで? 私の、何のステータスを見ていたの?」
「えっ、いや、そのまだ何も見れてないと言いますか」
「………問答、無用!!!」
「ギャァァァァァァ―――………」
洞窟内に俺の絶叫が響きわたった。
かくして俺は今、エリクサー結晶に囲まれているのだ。
ノルのお仕置きはトラウマレベルで厳しく、意識が飛んで危うく死にかけるほどボコボコにされた。
一瞬の抵抗すらも許されず、鬱になって修行の意味を再三自問するくらいには、心身共に割と深い傷を負った。
もうノルに悪戯するのは止めようと心内で誓う。自身の命の末路を考えると同じ事をフロストにする勇気も無かった。
どうせ治療が終わった後は、フロストとの実戦が待っている。走り込みとスキル修行の合間で定期的に実戦をしているのだが、これがまた死ぬほどキツい。
毎回ノルとフロストのどちらかが相手をしてくれるのだが、二人とも親の仇でも討つように容赦無く俺を殺しに来る。
ノル曰く「実戦で手を抜いてくれる相手は居ない」という事で、基本的にスパルタな上、面と向かって「好きだ」と言われた事でさえ嘘に思えるくらいそれはもう毎日ボコボコにされた。
それがこの半年。
毎日死にかけながら踏ん張り、数えきれない無茶の連続を重ねた。
実戦ではノルやフロスト一度も勝てたためしがなく、自分自身に戦闘の才能が無いのかとも疑った。いっそ「俺が強くなるよりもノルとフロストの二人で勇者を相手にしたほうが強いのでは」とも思った。
修行をはじめてからは体に傷が無かったことがないほど怪我をしまくった俺には、もはや並みの怪我では痛みも感じない。
毎日エリクサー結晶の回復に預かっているせいか、いつの間にかステータス欄【魔王の加護】には『治癒促進』の文字が出てきた。多少の傷なら数十秒で治るスキルだ。
そんな無茶苦茶な日々に耐えられているのは、ひとえにノルの隣に居たいからだが、残念なことに修行中の半年間、ノルとの進展は一切無い。
最近のノルはあまり目も合わせてくれないばかりか、近づくと逃げていくし、声を掛けても反応が薄い。何やら四六時中不機嫌でいることが多く、食事の時間にも顔を出さなくなってしまった。
「何か悩みでもあるのか」俺とフロストがノルに尋ねてみるも、「別に何も」と素っ気ない返事しか返ってこない。むしろその話題を口にする度に更に不機嫌になってしまうからどうしようも無い。
―――もしかして、とっくに愛想を尽かされていないか。
最悪な想像が脳裏を過ぎていき、俺は一人青ざめる。
文字通り一睡もせず努力したが、成長は遅いほうだ思う。走り込みを初めて一周成功させた時も、スキルを自在に操るまでも随分時間を使った。
実戦では未だに成果も挙げられないし、結局俺はいつまでも弱いままだ。
考えてみれば、ノルに愛想を尽かされる理由はいくらでもある。きっと今までも沢山我慢させてしまったはずだ。
「ほれ、シンヤ。もう実戦の時間じゃ。ノルが待っておるぞ」
「ああ、分かった。今行く。今日はフロストじゃなかったっけ?」
「ノルが代わってくれと言うのでな」
沈んだ気分だからネガティブになるんだと、憂鬱な思考を振り払った俺は、急いで実戦の場所へ向かう。
―――実戦の結果は、今日も惨敗だった。
かろうじて意識はあるものの、全身切り傷や打撲傷がひどくて立って歩くのもキツい。
そんな俺を冷たい瞳で見下ろし、ノルは言った。
「立って。意識があるならまだ戦える。今こうして話している間にも、敵はシンヤに何回止めをさせる?」
「いや………言いたい事は分かるけど。でももう体が動かないんだよ。骨だって数本はいってるし、視界も霞んで見える」
「何で? どうして………!? その程度では、勇者にはいつまでも勝てない!」
ノルが刀を持つ手を振り上げると同時、いつの間にかそこにいたフロストが間に割って入った。振り下ろされる刀身を素手で掴み、俺を守るように立ち塞がっている。
「もうよい、ノル。それ以上は止さぬか。シンヤを殺すつもりかや?」
「違う。違う! 私は、別にシンヤを殺すなんて思ってなくて、ただ、ただ………」
「とても手加減された攻撃とは思えなかったがの」
「………そんなつもりじゃ、ない。何でそんなこと。シンヤを、殺すなんて私は、私は………もう」
刀を納めたノルは俯き加減で肩を震わせ、そのままとぼとぼと部屋を出ていってしまった。
寂しそうな後ろ姿はやけに不安を煽るのに、満身創痍の俺は何も出来ずにただそれを眺めている事しかできなかった。
また4、5日周期に戻せるように頑張ります・・・・中々更新が不安定で申し訳ありません。
ノルのスリーサイズを勝手に考えて出しましたが、フロストさんのはどうなんでしょうねぇ~・・・・。
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今後とも、転職魔王の勇者討滅録を宜しくお願いします!!




