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転職魔王の勇者討滅録  作者: 先祖代々貧乏
32/68

隠密の勇者

10日以上!! 本当にごめんなさい!

多分多くの読者様が離れてしまったはず・・・・

と、とにかくお待たせしました。

お楽しみ頂ければ幸いです




 海に面した小国マリアナ。アルトイラ王国の南に位置するその国は、小さいながら豊富な水資源に恵まれ、水産業が盛んになっている。白く美しい浜辺の景観は大陸にまで広く知られており、年中暖かな気候は観光客を寄せ付けて離さない。

 国全体が巨大な観光施設であるような気質があり、大通りに面した建物はそのほとんどが商店や露店で埋め尽くされている。高台から見下ろす街並みの景色は正確な区画整理の賜物か、クモの巣状に広がる街並みが見る者の目を奪う。



 物事の要とは何事も中心に集まるらしく、マリアナの中央にある建造物はこの国を統治している勇者、ヒューゴの所有している城である。城の内部には霧が立ち込めており、進む先は(かすみ)がかって何も見えないという噂は嘘か本物か、朧城(おぼろじょう)と呼ばれるこの城は中世ヨーロッパを思わせるロマネスク調の建物で、塀に囲まれた広大な土地の中止にどっしりと構えている。噴水が高く飛沫を上げる庭には幾千もの赤い薔薇が大地に絨毯を敷いており、宝石も顔負けの燦々たる輝きを見せていた。



 そんな朧城(おぼろじょう)の内部にある一室。

 壁面を埋める本棚に囲まれて一人執務机に向かっているのはこの城の(あるじ)、勇者ヒューゴだ。カーテンを閉めきった暗い部屋で、蝋燭を立てたシャンデリアの光が揺らめく中、革で装丁された分厚い書物に目を通し羊皮紙に何かを書き付けている。とても趣のある雰囲気だが、アロハシャツに短パンという、場にそぐわないヒューゴの風体がそれを台無しにしていた。

 羽ペンが紙を滑るカリカリという音と時折ヒューゴが書物をペラリと捲る音だけが響く中、不意に部屋の外からコツコツと足音が聞こえてヒューゴは作業の手を止めた。

 執務机の横隣に位置する扉が静かにノックされる。

 ヒューゴが入れと命令すると、黒い執事服に身を包み、縁の細いメガネをかけた初老の男が室内に入り、ヒューゴの前で跪いた。



 「失礼します、ヒューゴ様。国務中でしたか」

 「イルワか。随分帰りが早いな。まあ、今は私用だ。問題ない。用件は何だ?」

 「急にお邪魔してしまい、申し訳ございません。北の国で少々厄介事がございまして。至急ご報告に参った次第です」

 「ほう………? よい。では聞こう」

 「アルトイラの勇者ガザルが何者かに殺害されました」



 イルワの言葉は室内に沈黙を呼び込んだようで、シャンデリアの蝋燭の一本がふっと消えて細い煙を発した。

 表情は動かないものの、僅かに見開かれたヒューゴの目からは隠せない動揺が見てとれる。眉間に手を当てて静かに瞑目したヒューゴはそれまでの緩慢な動作を一変させ、手にしていた羽ペンを乱雑に放った。羽ペンがコトリと音を立てて落下したのを引き金に、じっとりと重く、肌を刺すような空気が室内に広がった。



 「少々では済まない事態だな、イルワよ。概要を詳しく話せ」

 「はっ。先日より進めておりました輸入品の調整についてアルトイラへ赴きました。お互いの利益に関わる事ですし会談は夜遅くにまでなったのですが、その時です。妙に城内が騒がしいと思い探索した所、城の地下でガザルが何者かに殺害されているのを発見しました」

 「ふむ。あの城に地下と呼べる空間があるとは聞いていないが。食料貯蔵庫か何かで見つかったのか?」

 「いえ。()()()()()城の地下には牢獄と思われる施設が存在していました。入り口は巧妙な仕掛けによって隠され、牢には罪人の代わりに数多くのモンスターが収容されていました。恐らくアルトイラの一部の人間のみが知る重要機密なのでしょう」

 「秘匿された地下にモンスターの塊………ハハッ、そうか。「戦場を駆けるは疾風の如く、戦いの内ではモンスターさえも彼の味方になる」だったか? 縮地の速さは認めるが、後者は随分と人をガッカリさせる。モンスターを手懐けて戦場に放っているだけだとは。必死に秘匿する訳だ」

 「はっ。失礼ながら私も同意見にございます。その勇者ガザルはその地下牢の最奥で死亡。原因は凍死。近くにはドラゴンのものと思われる白銀の鱗や精霊のものと思われる黒い羽が数枚残されており、多数の血痕と激しく争った形跡がありました」

 「ドラゴンに精霊だと? では、ガザルは異端者だったのか?」

 「いえ、魔力を霧散させる枷や数多の拷問具、厳重なセキュリティーに守られた堅牢な作りの牢獄を見る限りそういった事実は無いかと。あの場にはガザル以外の人間の痕跡があり、重い魔力が充満していました。奇しくも異端者がいた模様です。勇者か、あるいはそれに準ずる力を持った人間でしょう」

 「成る程。ガザルではないが、異端者絡みの事案か。この短期間でよくここまでの情報を集めたな」

 「はっ。勿体なきお言葉、感謝致します。異端者の追跡には魔香を、そしてアルトイラの城付近に『影』を既に手配してあります」

 「周到な事だ。それならば俺は今から行って見てみよう。異端者を始末した後はすぐ戻る」



 深々と頭を下げるイルワを余所に、外へ出たヒューゴは物陰に移動し、自らのスキルを起動させた。

 地面に手を当て静かに集中力を高めると、濃密な魔力がヒューゴを中心に渦巻く。



 「姿なき追跡者よ、其は万物に宿りし暗き姿見。音なく、気配なくしてそこに有れ――【現影繰々(げんえいそうそう)】」



 スキルが発動した瞬間、足元の影が深く濃く変化した。影はまるで底無し沼のようにヒューゴの身体を引きずり込み、その姿を完全に消し去った。



 (いつまで経ってもこの感覚は慣れんな)



 ヒューゴは顔をしかめて独り言のようにぼやく。

 影の中は水より重く肌にねっとり纏わりつくようで、己の身体をまさぐられる感覚は慣れる事のない不快感がある。

 しばらく耐えていると身体がゆっくりと浮上し、ヒューゴは確かな地面の上に降り立った。辺りを見回せば薄暗く小さな廃屋にいることが分かる。周囲には瓦礫やゴミなどが散らかっており、小さな窓は軽く割れていてヒュルヒュルとすきま風を吹かせている。部屋の中央には古ぼけた燭台が置いてあり、紫色の蝋燭が一本、今にも消え入りそうに揺らめいていた。



 「アルトイラ王城の近くか。流石はイルワの仕事だ。場所の選択も悪くない。ただまあ、蝋燭形の魔香とは、随分と奮発したな。相手が異端者だし仕方ないとも言えるか。実際にガザルは殺されている訳だし、配慮の一つとして受け取っておこう」



 魔香とは、生物が無意識に発している魔素を捉えてその相手を追跡するためのアイテムだ。通常は粉末状の物を燃やすのだが、蝋燭形のタイプはその追跡の精度と範囲が格段に高まる。その代わりに値段は高く、通常の魔香の十倍は下らない。重要な部分でしか使えない希少品である。今も揺れている蝋燭は紫色の煙を発しながら廃屋の外へと流れており、確実に異端者の元へと繋がっている。

 ヒューゴは近くにあった古びた椅子に腰掛けると、適当に紅茶を淹れて寛ぎはじめた。長く使われていない廃屋に紅茶などが置いてあるのは、ひとえにイルワが気を利かせて用意したものだろう。勇者の持つスキルは強力な反面、対価として多くの魔力を消費する。ガザルのスキルが圧倒的な加速の力だとするならば、ヒューゴの持つそれは影を繰る能力。

 先程のスキルは二地点の影同士を繋いで移動するスキルだ。影の汎用性は高く、情報収集などを得意とするヒューゴは他の勇者の間から「隠密」という名が付けられている程。



 夜になるまで待ち、ある程度魔力が回復した事を確認したヒューゴは、再びスキルを行使した。

 今度のスキルは自身の影を切り離し、分身体を作り出す【影武者】。影武者は影の中でしか自由に動けないものの、視覚や聴覚など触覚以外の感覚は全て共有出来る。光に当たると効力が失われてしまうが、それも夜の間ならほぼ問題無い。



 廃屋から飛び出したヒューゴの影は、魔香の煙を追って猛スピードで走り出した。実体が無いため人目も気にせず、障害物も無視して一直線に走ること数時間。煙はリエル村にある一つの建物の前で止まっていた。中を覗いて見ると、一人の少年がベッドに横たわっており、隣には恐らく看病しているのか美女美少女が控えている。恐らくガザルを殺したのはあの少年だろう。掛け布団に隠れて顔しか見えないが、それだけでも傷痕が多く伺える。隣の美女美少女は例のドラゴンと精霊だろう。



 (チッ、異端者風情がぁ。両手に花とは羨ま………いやいや、精霊にドラゴンを見過ごすのは勇者として看過できん)



 内心で悪態を吐いたヒューゴは、銀髪の美女がこちらを鋭く睨んでいる事に気付いた。「実体も無いのに見破られたか!?」と焦るが、相手の視線は何かを探すように泳いでいる。ほっと息を撫で下ろしたヒューゴは、万が一の事態に備えて早めにその場を離脱した。影武者を出している間にも魔力を消費し続けている。監視に穴が空くのは不本意だが、少しは休息を取らねば、いざという時に動けなくなる。



 監視も二日目に入ったが、シンヤという異端者の少年にかかっているダメージは思いの外大きく、一向に目を覚ます気配が無い。精霊やドラゴンの日常会話などから確認出来た情報では、どちらもガザルに捕らえられていた所を異端者に助けられたようだが、果たしてどんな経緯があったのか。

 眠ったまま動かない異端者の様子を眺めているのも時間の無駄だと判断し、先にガザルが殺されたというアルトイラの王城を調べる事にしたのだが、事態は思わぬ方向に動いた。ヒューゴが監視の目を離した少し後に目を覚ましたシンヤもまた、王城へやって来ていたからだ。

 イルワに聞いた通り地下牢へと通じる隠し通路を見つけたヒューゴは、そこで城内が妙に騒がしい事に気付いた。ガザル亡き今、慌ただしい時期であろうことは容易に察しがつく。しかし、兵士が走る音や殺気立つようなピリリとした空気は流石に見過ごせない。襲撃でもされたのかと思い、軽い気持ちで見物に行ったヒューゴは、だがそこで数多の兵士を徒手空拳で適当にあしらう異端者の姿を確認した。



 (普通の人間の速さではないな。勇者の力は感じないが、どうなっている? 武術に関して言えば特に型や流派は見受けられないものの、わりと洗練された動きだ。それに加え、武器を軽々へし折る力もある………思ったより厄介そうだ。負傷し寝込んでいたとは言え、圧倒的なスピードタイプのガザルに勝つだけはある。動体視力がいいのか?)



 戦い方の詳細を目に焼き付け、気付いた事にはメモを残しておく。人外の種族に誑かされた異端者は今まで何人もいたが、一人で騒ぎ立てて自滅するか、教団でも立ち上げて集団で暴徒化するとか精々そんなものだ。加護のお陰で根本的なステータスから異なり、一般人など取るに足らない勇者が殺されるなどというバカげた事態に前例は無い。

 丁度目の前で暴れているのは取り押さえる好機だが、相手の力量も測らず迂闊に飛び出して返り討ちに遭うのは本末転倒。幸い兵士の被害は軽微なもので、となれば今はこの異端者の行動を観察するのが最優先だ。



 そうこうしている間にも異端者は指揮官クラスの兵士を捕まえ、王城内に侵入を果たした所だ。立ち塞がる兵士達を物ともせず無効化し、一直線にアルトイラの重鎮が集まる大会議室の方向へと向かっている。飛び道具系の攻撃は当たる直前に悉く阻まれ、体術勝負では訓練を受けた兵士でさえ歯がたたない。



 (あれは………防御魔法か? 俺の知る物とは少し違う気もするが。何はともあれ、魔法術にも多少精通しているのか。防御魔法を展開・維持しながら肉弾戦もこなすとは、相当な使い手のはずだ。いよいよ面倒な相手だな)



 軍の総司令を下した異端者の目的地、大会議室の扉を睨み、ヒューゴは考える。

 アルトイラはマリアナとも友好関係にあり、貿易や優秀な人員を確保する上でも重要な国だ。万が一この国のトップが消えることとなった場合、国は確実に混迷を免れ得ないだろう。

 もしそうなった場合、マリアナにも少なくない経済的被害が出る。例えば、国が不安定な時に隣国へ観光しに行く人間がいるだろうか? もし国が破綻した場合、マリアナに移住する人間の規模は? またはその生活を支える為の資金源は?

 現実に起こりうる可能性を考えれば頭痛になりそうな問題の数々を抱えるのは、ヒューゴにとってもあまり面白くない。

 いざとなればこの場で異端者を始末する事を念頭に聞き耳を立てていたヒューゴは、続く異端者側の要求に思わず耳を疑うような衝撃を覚えた。



 (リエル村の住民の解放、しかも賠償は求めずに!? 何て事だ。虐げられた村人を救うべくガザルを殺したというのか。いや、正しい。美しい正義感だ。つついてはいけない藪もあると言うが、この事なのか? 殺そうかと思っていたんだが、無名にしておくのが勿体ない位の逸材じゃないか)



 常に国民を思い、また人間の為に行動する姿にヒューゴは一人感動していた。精霊やドラゴンを切り捨てさせ、勇者の装飾品をあてがえば、これ程勇者に適正のある者はいない。

 さらに嬉しい事に、ガザルの指輪はシンヤの手に渡っており、指輪を嵌めたシンヤが精霊やドラゴンに幻滅するのも時間の問題である。

 勇者の指輪は、元々この世界を支配していた時期の人ならざる種族の記憶を教えてくれる。血で血を洗うような記憶は吐き気を催す程酷く、ヒューゴをして未だに苦手意識がある。人ならざる種族は、決して許してはならない。その強い意志が人間を勇者にし、力のない人間の平和な暮らしを守る事に繋がる。

 これはチャンスだと判断したヒューゴは考えを改め、一度シンヤを説得してみる事に決め、早速準備を始めた。

 自らの「影」の技能を余すこと無く使って情報を集め、「全ては筒抜けである」という状況、【影移動】による神出鬼没さの演出、立場が上であると思わせて相手を誘導する行動等、持ちうる技能全てを使ってヒューゴ自身を無視出来ない相手と位置付け、その上で命令に従うことを強要した。



 勇者の加護を得る前より勇者に迫る実力を持ったシンヤが勇者の加護を得た場合、その力はもはや脅威だ。問答無用で襲われる可能性だけが心配で、シンヤに接触した後は緊張感に冷や汗を拭っていた訳だが、それも杞憂に終わったようだ。

 結果は言わずもがな。ガザルの指輪を受け継ぎ、真の勇者となったシンヤはドラゴンを殺した。精霊だけは殺さず傍に置いているようだが、魔法により拘束され愛玩奴隷に成り下がっている。



 一仕事終え、再びマリアナの朧城(おぼろじょう)に戻ったヒューゴの顔は、実に晴れやかなものだった。

 アルトイラの王にこそならなかったものの、シンヤはヒューゴの私兵としても利用出来るかもしれない。便利なカードが一枚手に入ったのも同然だ。



 だが、ヒューゴはまだ自分が盛大な読み違いをしたことに気付いていない。

 それは、監視の目をもう少しだけ延ばせば分かったかもしれない。

 それはそう。表現するなら、紙一重の運命的悪戯。

 正にそうと呼ぶしか無い程小さく降り積もった偶然とすれ違いの重なりがどうしようもない後悔を生むことは、この時点のヒューゴに見抜く事は出来なかった。

 主人公以外の物語を書くのは本当にキツかったです。話的に書かなければとは思っていたんですが、ここまで辛いとは・・・・。


 次回以降はまた主人公のお話なります。


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 今後とも、転職魔王の勇者討滅録を宜しくお願いします!!

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