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転職魔王の勇者討滅録  作者: 先祖代々貧乏
30/68

絶望の行方

 10日もお待たせしてしまい、申し訳ありません!! いつもなら17時から19時ですが、今回はもう出します!


 今回の話は、非常に悩みました。

 お楽しみ頂ければ幸いです。




 あと何度この空虚な思いをすれば良いのか。フロストは一体どういう状態で、ノルは俺をどう思っているのか。不安や葛藤がない交ぜになってぐちゃぐちゃな気分のまま、再び家に戻る。



 今度こそあの勇者は帰っただろう。根拠は無いが、正しくそうだと俺の直感が告げていた。フロストが倒れた件が決定的となって南国勇者の疑念を晴らしたらしく、当初の予定では一週間程ノル達を縛っておくはずが、最早その必要も無い。



 「お帰りなさい、勇者シンヤ」

 「俺は勇者じゃない」

 「魔王という存在は知らない。それよりも私達を拘束しようとした事の方が問題」

 「………あの程度の結界は無意味だったか」

 「壊すのは簡単だった。………それより、説明して」



 戻った先の玄関口には、ノルが立っていた。

 背中の黒翼はこちらを威嚇するように大きく広げられ、スラリと抜かれた精霊刀の切っ先はまっすぐ俺の喉元に向けられている。多少の威圧もかけているのか、重苦しい空気に混ざって肌がピリピリするようなプレッシャーも感じた。



 「フロストは? ノル、フロストは大丈夫なのか!?」

 「あの様子を見なかったとは言わせない。無事なように見えた?」

 「っ!? もしかして、死んだ………のか?」

 「し、シンヤの拘束が迅速な対応を遅らせた、原因!」

 「俺が、俺のせい………」

 「そう、シンヤのせい。うん」



 ―――重い。あまりにも、重い。

 あまりの現実に打ちのめされ、思考を放棄したのは咄嗟の防衛本能からか。茫然自失となった俺は、重力に逆らう力もなくがっくりとその場に崩れ落ちた。つい今しがたノルによって伝えられた言葉が飲み込めず、全身が金縛りにでもあったように動かない。実に断片的でまとまりの無い思考は、要領こそ悪いものの、しかし着実に真の()()()に近づいていた。



 現実に思考が追い付いたとき、一拍空けて周囲の時が止まる。

 顔のみならず全身から血の気を失った俺は、全身を逆撫でする冷たさにぞわりと身を震わせた。血だけでは飽きたらず水分をも失わせようというのか、滝のような汗がぶわりと滲み、呼吸もままならない。



 「嘘、だ。嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だッ!!!! 俺は、俺は………フロストを、こ、ころ、ころ、殺、し、殺してなんていない!!!! 違う、違う違う違う違う違う違うッ!!!!! 全部あいつだ………あいつが悪いんだッ!!」

 「嘘じゃない。何も違わない。誰のせいでもない。そう、シンヤのせい」

 「何故? ………何故!? 俺はただ、守りたかっただけなのに!?」

 「守りたかった? 戯れ言を。その結果がこれ?」

 「違う………いや、結果は………こんなはずじゃ」



 アルトイラ王城の地下牢で会ったとき、初めて見るドラゴンの姿に胸を踊らせた。壁を破って出てきたフロストに窮地を助けられ、満身創痍だった俺を介抱してくれた。ノルとの仲を取り持ってくれたのもフロストで、朝ご飯に作ってくれた手料理はとても美味しかった。

 付き合いこそ浅いものの、既にフロストは俺の中で誰にも代えがたいほど大切な位置を占めている。

 その大切を守るために動いた結果が自分自身で手にかける事だったと言うならば、こんなに酷い話はない。不幸を呼び込む体質だとか運命に嫌われている以前の問題で、最早悪夢と呼ぶ外ない。



 ノルの視線は冷たく、無表情に俺を見下ろす姿は地底湖で初めて出会った時を彷彿とさせた。その瞳には落胆や蔑みに似た感情が映っており、「大好き」と言って微笑みかけてくれた優しい面影は欠片も見当たらない。

 どんな事情であれ、裏切ったのは事実。覚悟はしていても恐れていた事態が現実味を帯びて目の前に迫っていた。



 「それで、騙した理由は何?」

 「騙した、理由………。 俺は違う。伝える暇が無かった」

 「裏切り者が開口一番に言う台詞(セリフ)。信憑性の欠片もない。言い訳は聞かない」

 「全部、話す。ただ、せめて言い訳だけは聞いて欲しい」

 「………善処する。早く話して」



 ノルに促されるまま、アルトイラでヒューゴが接触してきた事から、その後リエル村へ戻ってから今に至るまでを出来るだけ詳細に語った。ノルには言い訳がましいと注意されたが、神出鬼没な勇者が監視している中では下手に情報を与えるような真似は出来なかったことや、演技と分かるような手加減や中途半端な情をかける事は危険だったことについては、ヒューゴの持つスキルへの考察も含めて特に詳しく説明した。

 それがどんなに見苦しい弁明ではあってもそれを気にしている余裕など無い。

 随分と身勝手で都合の良いことだが、今や唯一の心の拠り所であるノルにまで見放される事は何よりも恐ろしく、せめてそれを回避出来るように手を尽くすのに精一杯だった。



 「一通り辻褄の合う話にはなっているけど、まだ半信半疑。私達の存在に気付いていながら、何故その勇者は無視したのかが不可解」

 「あの勇者の中では、ノル達は俺の所有物扱いだった。勇者同士の争いは避けたいとも言っていた」

 「所有物? 存在を見掛けたらすぐに斬り込んでくるような勇者が、まさか自分の傍に他種族を置くと?」

 「ああ。どういう目的かは分からないが奴隷として使うとか言っていた。………ほら、その、ノルもガザルに似たようなことされただろ? あんな感じじゃないかと思うんだ」

 「………そう。話は分かった。でも、これ以上シンヤを信用できそうにない」

 「俺だってこんなこと、したくなかった。 だから、最大限配慮はしていたはずだ………束縛の魔法術も結界も割りと広い空間を取っていたし、攻撃に関しても威力が低い魔法術の中から出来るだけ派手に見えるものを選んだ。特に【雷電】なんかは一度使って無事を確認したから二度目の攻撃に使ったんだぞ? 攻撃も【雷電】二回、【火炎】一回しか使っていない。俺だってフロストが雷に弱かったなんて計算外で………。 むしろ耐性が無さすぎて、まともに俺が手にかけた実感が無いくらいだ」

 「………そ、そう?」



 ノルがさっと視線を逸らす。

 未だショックが抜けきらず、半ば上の空でぼんやりとしていた俺はそれに気が付かなかった。



 「………こほん。と、とにかく。シンヤはもう今後一切、私達に関わらないで」

 「何………を、言って」



 掛けられた言葉の意味を考え呆然としている俺の横を、もう用は済んだとばかりにノルが通り過ぎていく。

 それを目で追いながら遠ざかっていくノルの背中に、辛うじて心を繋ぎ止めていた糸がプツリと切れる音がした。

 心を黒く塗り潰す恐怖は白紙に墨を落としたようで、大樹の如く感情の深奥まで根を生やしたのは、強い喪失感だった。

 ダカルとフロストを失った今、突然この世界に投げ込まれた異物のような存在である俺に残っている繋がりは、ノル以外にもう誰も居ない。

 全て失ってしまえば、俺はただ勇者と戦い、中途半端に力を手に入れ、それ以上の強大な力の前に奔走し、挙げ句の果てには独り絶望しただけの存在だ。

 ただ失い、失わせる事だけが俺の存在意義だなんて考えただけでも恐ろしく、そんな苦痛には耐えられそうにもない。



 震える足を必死に動かし、何度も転びそうになりながら遠ざかる背中を追いかける。足を止めて振り返るノルを、絶対に逃がすまいと両肩を掴んで詰め寄った。 



 「まだ何か用があるなら、これで最後に―――」

 「どうしたら………どうしたら許してくれる? どうしたら、また一緒にいられる? 死んで償えと言わないなら、俺は一体どうしたらいい!? あの南国野郎を殺せば良いのか? それとも、勇者を全員殺せば信じてくれるか? それとも、蘇生魔法術でも産み出してフロストが生き返れば解決するのか!? 頼む………。 頼むから教えてくれ!」

 「………だから、私達には関わらないでって」

 「そんなの、無理だ。ノルが居なかったら、フロストも居ないなら、俺は、絶対に生きていけない。生きる自信がない。 ………後悔して、自分を呪いながら死ねば許してくれるのか?」

 「し………死んじゃダメッ!!」

 「勇者なんか、クソだ。何もかも俺から大切なものを奪ってく! 誰からも言われなくたって、勇者相手なら全部奪ってやる。でも、ノルは………ノルだけは、居なくならないでくれよ。今度は必ず守るから。 信じて貰えないだろうけど、全力で守るって約束するから、お願いだ………。 お願いだから………。 お願い、します。俺を、見捨てないで下さい」

 「えっと、うん。えぇと………」



 恥も外聞も無く、ただ必死だった。

 気が狂いそうになるほどの恐怖は涙で流し、失敗すれば死ぬ覚悟でノルに頼み込んだ。今までもこの先も無いくらいの本気で、一生のお願いを叫んだ。

 対してノルは、先程の冷たい態度とは打って変わり、目線を泳がせてわたわた、オロオロとしていた。その頬はほんのり朱に染まっており、恥ずかしそうな表情を隠すように顔を俯ける。



 「あ………ぅ………うぅ、シンヤは、強くならなきゃダメなの」



 耳まで顔を紅くしたノルの返答は、口調も崩れて今にも消え入りそうな声だった。



 「もちろんだ。あのまま勇者にやられっぱなしにはしない」

 「こんなの、予想と違う………。 フロストのバカ。アンポンタン。おたんこなす」

 「フロストがバカって………。 それに予想って」

 「も、もういい!! フロストは無事。シンヤの事は信じてる! ………あと、大好き。これでお終いっ!!」

 「………へ? フロストは無事って。ちょっと、説明! あっ、逃げるなぁぁぁぁ!!!」



 羞恥に耐えられなくなったノルが、遂に両手で顔を覆いながら脱兎の如くその場から逃走する。

 「説明を」という俺の叫びは虚しく、静かな夜空へ吸い込まれ消えていった。

 最新話の前に、1、2話の内容を一部改定・書き足しました。

 お時間があれば、どうぞお立ち寄り下さいませ


 「面白かった」 「更新早く」 など思って戴けましたら、是非下の評価やブックマークをお願いします!!!



  今後とも、転職魔王の勇者討滅録を宜しくお願いします!!

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