探知と防衛
ダカルさんの印象が薄かったので、捕捉。
魔法術についての実験をした翌日。
今日も青空の元、俺はダカル相手に戦闘訓練をしている。
「よっ、はっ!」
「ほらほら、後ろ疎かになっているだろ。目の前だけに集中しすぎるんじゃねぇぞ!」
「相変わらず無茶苦茶速い! そんな事言ってもダカルの叔父さん、前と後ろを同時に見るとか無理だろ!」
「グハハッ、そうだぞシンヤ。目では見えないからこうして感覚を養うんだ。勘に頼れ!」
「んな無茶苦茶な!?」
今日の剣の稽古でも、ダカルには一太刀も入れる事が出来なかった。
毎日基礎訓練の後にこうしてダカルに挑戦しては負けているのだが、手が届かずに悔しいというよりはダカルに遊んで貰っているようで楽しいというのが本音だ。
もちろん技術面での発見などもあるが、自分の容姿に比例して心まで子供に戻っているような感覚になる。
余計な気配りや面倒なしがらみも無く、思い切り動き回る事のどれだけ幸せな事か。
地球にいた頃では、よく上司や取引先の上役に誘われてゴルフやらジムやらに連れていかれたものだが、本気勝負などと言うアレはただの茶番だ。
相手の機嫌を伺い接戦を演じるのは苦痛でしかない。
木刀を片手に殴りあっている構図が遊びに見えるかはさておき、俺は父親と遊んでいるような気分で訓練に勤しんでいた。
「クソッ、やっぱりダカルの叔父さんには敵わねぇ!」
「感覚だ、感覚。全方位を肌で感じれりゃいいんだよ」
「んなこと言ってもなー、人間前向きの顔面に目が二つ、見えても百八十度が限界。叔父さん、後ろに目でも付いてんのか?」
「人を化け物みたいに言うんじゃねぇよ。風向きとか地面の音とか、そういう気配を察知出来れば背後を視るなんざ誰でもできる」
ダカルは簡単に言っているが、戦闘中に細かな音や環境の変化を感じとるような芸当は一朝一夕に身に付くはずもない。
それが出来る実力こそ、ダカルを金ランクの冒険者足らしめているのだろうが、俺には到底真似出来ないだろう。
「うーん、言いたいことは分からないでもないんだが……それが出来ないから困ってる訳だ」
「感覚さえ掴めればどうにかなる。まあ頑張るんだな。ま、俺の知り合いには「後ろなんざ見えるか」とか言って、土壁を後ろに作って戦うようなヤツも居る。お前も何か他の所で埋められれば強くなれるんじゃねぇか?」
「そうか、他の部分か。ありがとう、考えてみる」
何も感覚を磨く事にこだわる必要はねぇ、と笑うダカルに心が少し軽くなる。
後ろに壁を作ってから戦うのは悪くないかも知れないが、場合によっては自分で自分の首を絞める結果になりそうだ。もし一対多数ならば、その分敵は前方に集中することになる。
前衛に対して絶対的な自信が無いとこんな戦法は取れないが、そこまで自信が持てるかと言えば微妙だった。
「うーん、俺の強み……魔法術くらいか? 魔法術なら少しは自信あるぞ」
戦闘における行動の選択肢はたった二種類だけ。
能動的行動と受動的行動である。
今回は相手の攻撃に対処するので受動的行動になる訳だが、カウンター狙いでもない限り受動的行動は不利な立場にある。
つまるところガードや回避をクッションに、どうにかして能動的行動に持っていけるような立ち回りが必要になる訳だから、こちらが相手の攻撃に気付ければいい。
常に後ろを気にして戦場でキョロキョロと辺りを見回していれば、格好の的でしかない。ダカルは視認出来ない面を音や風の動きで判断しカバーしているから、俺もそれに代わった物を使えばいい。
「よし、こんなものかな」
数日かけて試行錯誤を繰り返し索敵魔法術を完成させた。
自動ドアが人を感知するように、センサーを使って敵の位置を探るのだ。多方面へレーダーを飛ばす形で、物体からの反射波を読み取る事によって相手の位置を特定する。
現代知識を使うのは多少反則ではあろうが、使わないのもそれはそれで勿体ない。技術的な均衡がどうのとか言うのは俺が話さなければいいだけの話だし、細かい事は世界の管理者や幻想の住人と名乗る自称神に任せておけばいいだろう。
そして、いざ再戦。
苦労して作成した索敵魔法術は思惑通りの効果を発揮し、前後左右に移動するダカルの位置を正確に教えてくれた。
俺が背後からのダカルの剣を視覚に収める事無く避けると、ダカルは一瞬驚きの表情を浮かべ、そしてニヤリと笑って見せた。俺も笑みを返して再度剣を構える。
「まだ危なっかしいがやるじゃねぇか。何か見つけたみてぇだな」
「お陰さまでな。魔法術を使ってるんだ」
「ふーむ、そこまで高性能な探知……自作の魔法術か?」
「ああ。凄いだろ?」
「ああ。そうだな……続きをやるか」
どうだダカル。俺はYDK(やれば出来る子)なんだぜ。
まぁ相手の位置が分かるならば後は楽だ。ダカルに一矢報いるのも簡単に……!?
ダカルが消えるような速さで動いた後、索敵魔法術が三つの影を捕らえて俺にその位置を知らせてくる。
慌てて振り向いた瞬間、横からの衝撃を受けて俺は思い切り吹っ飛ばされた。
身体に付いた土を払い立ち上がる俺に、木刀を担いだダカルがニヤニヤしながら近付いてくる。
「なぁシンヤ、まだまだだな。お前の探知魔法は泥の塊でも反応するのか? 全く、高性能だな!」
「ぐっ……うるせぇ! 次こそはきっちり殴るからな!」
「おうおうやってみろ。ま、一つ言うことがあるとすれば、避けて捌くか反撃に繋げるまでが重要な所だ。敵の位置を知っただけで喜ぶようじゃあ話にならんぞ」
「さーて飯だ飯だ」と言いつつ去っていくダカルの後ろ姿が、悔しいがメチャクチャ格好良く見える。
何となく地面に仰向けに寝転び青空を見上げると、俺は索敵魔法術の改良を考えるのであった。
それから数ヶ月後。
自重する事無く現代知識をフル活用した俺は、千を越える試行錯誤を繰り返し、探知魔法術と自動防衛術を開発した。
レーダー式、アクティブ・パッシブ両方のソナー式・振動センサー・サーモセンサーに魔力検知までを搭載し、より正確な情報を収集できる超高性能な探知魔法術。
「避けて捌くか反撃に繋げるまでが重要」というダカルの意見を取り入れ、一定の領域侵入に反応して様々な攻撃魔法術や防御魔法を自動で放つ、自動防衛術。
これに加えて現代のコンピューターに似た要領の演算魔法術を付与し、起動の簡略化やより複雑な魔法術、与えられた範囲の外までフォロー出来るようにした。
尚、魔法術の詳細な開発過程については企業秘密である。
魔力の暴走による爆発で家の屋根が吹っ飛んだ事もあったが、それはそれ、これはこれだ。
そしてこの探知魔法術を使ってダカルに勝てたかどうかは……ご想像にお任せする、とだけ言っておく。
あの速さと感覚の鋭さは異常レベルだろう。
更新できず、すみません。
疑心暗鬼に陥っていて書くのを止めていました。