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転職魔王の勇者討滅録  作者: 先祖代々貧乏
28/68

不穏

 少し長くなりました。

 駆け足で書いたので、また修正するかもしれません。




 朝を照らし出す日の光が窓から侵入し、眩しい視界がモーニングコールを鳴らした。だが、そんな程度で起きられる程俺は朝に強くない。サラリーマンをしていた頃でさえ夜更かし上等な生活をしていたくらいで、毎日のように音の鳴る悪魔との激闘を繰り広げていたのを記憶している。

 芋虫のようにもぞもぞ動きながら手元の抱き枕を胸に抱き寄せ、毛布を無造作につかみ頭から被る。ふわりと甘い香りが鼻腔をくすぐり、毛布とは違った暖かさが心地よく、俺は手元の抱き枕をさらに強く抱いた。



 「ん………ふぁ。シンヤ? 物凄く嬉しいけど、もうちょっと緩めて」

 「うーん。おはよう、ノル。………え、ノル!? 何でノルが俺の部屋に? いや、そんな事よりごめん!」

 「大丈夫だよ?」



 抱き枕の正体はノルだった。

 自分がどれだけ大胆な行動に出ていたかを振り返り、穴があったら入りたい気分になる。さしてそれを嫌がる様子もないノルに安堵し、嫌われていたらどうしようかと冷や汗を流しながら必死に謝った。

 今いる場所はノル達が俺を休ませるべく選んだ廃墟ではなく、俺がダカルと住んでいた家だ。

 ベッドの感触も周囲の雰囲気も、勝手知ったる我が家の自室であり、恐らくそのせいで気が緩んでいたのかもしれない。

 ノルに粗相をしてしまったことに青ざめながら一人百面相していた俺だったが、その心配は全くの杞憂に終わった。



 「むぅ。何で離すの………しっかり捕まえておいて」

 「うわっ、いきなり飛び付くなよ。凄く嬉しいし、そんなノルも好きだけどさ」

 「………照れる。私も、好き」

 「ノル………」

 「シンヤ………」



 この甘々過ぎる二人の空間に誰かが足を踏み入れてもみれば、量産する機械のごとく大量の砂糖を吐くこと間違いない。

 既に二人の世界へとトリップしてしまったシンヤとノルは、それから徐々にお互いの距離を縮め、熱い包容とともに口付けを交わした。数分に渡ってお互いに確かめあった後、どちらからともなく唇を離し、幸せそうに微笑み合う。



 バンッと音がして、寝室のドアが乱暴に開かれた。そこには肩をいからせて不機嫌な顔をしたドラゴンのフロストが、触れれば噛みつくとでも言わんばかりに仁王立ちしている。



 「起こしに来てみれば朝からイチャイチャと!! おのれバカップルめ、ドアの外で入るタイミングを窺う身にもなるのじゃ! 居たたまれんであろう!?」

 「「入っても気付かなかったと思っ………!?」」

 「お主らよ………何と? 妾は空気とでも?」

 「「………すみませんでした」」



 体から洒落にならないほどの冷気を発するフロストは怒り心頭といった様子で、有無を言わさない無言のプレッシャーを放っている。その迫力に気圧された俺達は、某ウサギの人気キャラのように口をバツの字にして黙りこんだ。



 「………コホン。ま、まあ言い過ぎたようじゃ。仲睦まじき事は良いことじゃが、多少なりとも周りに気を使って欲しいのう。夜は何も言わぬから、せめて朝までは止めてくれぬか。何だか気が滅入りそうなのじゃ」

 「それは悪かった。これからは気を付ける」

 「うむ、よろしく頼むぞ。それと、僭越ながら朝食の用意をしておいたのじゃ。今日は忙しいのじゃろ?」

 「ああ………悪いな、食事まで。正直何も考えてなかったし助かるわ」

 「むぅ。何だろう、このフロストの若妻な感じ。ちょっとイライラする」



 フロストに連れられて居間へ入ると、そこにはパンと野菜炒めのような料理に剥き身の果実が食卓に並べられていた。作りたてを証明するように料理からは湯気が立っており、スパイスであろう香ばしい香りが食欲を刺激する。



 「フロスト………? 一皿だけ、明らかに分量がおかしいんだが。他二つのと比べて五倍くらい違うぞ」

 「それは妾の分じゃ。ドラゴンは他種族に比べて一番維持費がかかるのじゃ。これくらいは食べなければ倒れてしまうのでな。腹を満たすには足りぬが、そこは我慢じゃよ」

 「維持費って、車かよ。ガソリン食うわ燃費悪いわって………まあフロスト本体の大きさを考えれば納得か」

 「むぅぅ。二人だけ楽しそうに………」



 孤立し廃墟となった村でどう食材を調達したのか気になる所だったが、相当大変だったはずだ。決して小さくないフロストの配慮には感謝しかない。

 隣にいたノルは何やら闇を漂わせ、怪しげな雰囲気で頬を膨らませていたようだが………頬をつまんでふにふにしてやると、幸せそうな微笑みを浮かべて大人しくなった。



 とりあえず料理が冷めないうちに食事を摂りつつ、これからの方針について話す。

 色々な後始末も大詰めとなり、その集大成とも言える今日は大忙しだった。

 アルトイラに求めていたリエル村の村人の解放が昼頃に行われる予定であり、それに先駆けて村内の一角に積み上がった屍の処理や、村人の解放に立ち会った後はアルトイラの重鎮との会談等、それが終われば個人的な事だが、ミレイ大草原辺りの戦場で、ダカルの黒い大剣も探したい。



 俺が予定について説明すると、ノルもフロストも概ね理解したと、必要な部分は協力する事を約束してくれた。人前に出るなどは危険過ぎるため、モンスターの屍や冒険者達の亡骸の処理と、ダカルの黒い大剣の捜索をお願いする。



 食事も終わって一息ついた所で、機会を逸していたせいで中々話せなかった話題を切り出す事にした。右手の中指に嵌めていた指輪を抜き取り、食卓の上に置く。訝しげな表情で指輪をじっと見る二人に、貰った指輪と、その後に起きた出来事について詳しく語った。



 「にわかには信じがたいのじゃが、人間の勇者の他種族嫌いは、植え付けられた感情の可能性があるとな………ううむ。さりとて、己の信じたものだけを貫き通せば勇者へと至らず、魔王なるものになる、と」

 「ああ。勇者以外は聞いたことが無いし、俺の体験だけが元になっているから、あくまで推論になるがな」

 「勇者が人間の王なら、魔王は他種族の王? ならば、勇者に対抗できる勢力に当たるはず。力の出所が同じ場所だというのも興味深い」

 「与えられた力だし胡散臭さもあるが、実際の能力は凄い。どんな効果があるかはまだ未知数だが、少なくとも使いこなせれば相当強くなれると思う。ノルやフロストと肩を並べて戦えるように頑張るよ」

 「そうじゃな。ふふ、魔王か。何だかいい響きじゃのう」

 「シンヤは凄い人。きっと強くなる」

 「ありがとう。それじゃ、各自動いていくとするか」



 まずは村人の解放までに、第一の戦場となった場所の処理をしなければならない。未だ腐臭を放っている屍の山を片付けなければ、疫病などの心配が出てくる。最も、一月も経っているお陰で今更感があるが、そこはノルやフロストがカバーしてくれるだろう。

 人化を解いて本来の姿である白銀のドラゴンへ戻ったフロストは近くの川から水を拝借すると、屍の山を次々に氷塊へ閉じ込めていった。地表ごと抉っていったらしく、地面には血痕や腐肉の人欠片も残っていない。集められた氷塊は最大火力の魔法術で焼き尽くし、火葬とした。墓地などは後で帰って来た村人に任せれば良いだろう。



 「シンヤ、フロスト。今から空気を浄化する。一瞬だけ暗くなるけど、驚かないで」



 ノルが立てた人差し指を唇に当て、目を閉じた。途端に吹き付ける風が止み、その場から音が消え去る。まるで眠ったような世界の中で、ノルの声だけがはっきりと響いた。



 「闇よかしずけ、汝らが王は闇精霊ノルである。王の勅命は必ず守られる事と心得よ―――【呑み込め】」



 ノル言い終わった直後、目の前の世界が色を失った。驚く間もなく、灰色一色に染まった世界は瞬きの一瞬で崩れ、黒煙とともに霧散していく。ヒュゴオオッと、猛烈な勢いで風が吹き抜け、やがて静かになると変わらない景色が広がっていた。



 「………何をしたんだ?」

 「闇にここら一帯の汚染された空気を呑ませた。範囲が広かったし呑まれた空気は消えるから、真空状態になった空間を維持するのは大変。でも、空気の浄化は完璧」

 「闇って凄いんだな………」

 「在るもの全てを呑み込み、覆い隠し、深淵へと誘う。でも時に安らぎも与え、寂しいときには共に寄り添う。私はそんな闇を司る精霊。どう、凄い?」



 ノルが「褒めて褒めて」と言わんばかりにチラチラと上目遣いに目線を送ってくる。もちろん無視はしない。その期待通り頭を撫で、礼をと言うと、ノルは猫のように目を細め、嬉しそうに微笑んで見せた。



 「シンヤ、妾も終わったぞ。それと、アルトイラ兵に連れられて丁度村人達が到着した模様じゃ。妾達はそのまま、シンヤの言う冒険者の遺物を探してみようかと思うのじゃが、良いかの?」

 「ああ、頼む。俺は俺でやることをやって来る」

 「じゃ、また夜に会おう。待ってる」



 飛び立っていく二人を見送り、既に到着した人々が集まる場所へと向かう。俺が到着すると、村人たちは俺を「解放者」と口々に叫び、俺に向けての感謝と、些か崇拝の混じった目を向けてくる。中にはダカルの家の近所で顔見知りの人もいて、新たな勇者の誕生だと周囲を巻き込んで騒いでいた。

 実際は勇者などではなく、全くの対極にある魔王になっている訳だが、今度は皆一様に俺に頭を下げて俺を「勇者様」などと宣い、頭痛の種をばら蒔いている。ダカルの人望が厚かった事も相まって、中々収拾がつかないのが腹立たしい。

 宗教徒と化した村人を強引に引き剥がし、俺は村人の護衛で付き添っていた兵士と共にアルトイラへ向かった。



 「お待ちしておりましたシンヤ様。本日はわざわざお越しくださり、誠に恭悦至極でございます。すぐに準備致しますので、今しばらくお待ちくださいませ」



 場所はアルトイラの外れ。かつてガザルが別荘として使っていた屋敷に招かれた俺は、そこで手厚いもてなしを受けた。

 大方国が不安定なときに他国からの侵攻を妨げ、抑止力となる存在を確保しておきたいという腹積もりなのだろう。強者に媚を売るとはずいぶんと利口な事だが、実際の俺は弱い。ノルやフロストが動くなら俺を抑えるのも有効だろうが、アルトイラの貴族共がそれを知る手だても無ければ、二人を利用するなどまず俺が許さない。



 勇者を所有しない国など無いというのは、それだけ一個人の勇者の力がが強力だからという事実があるのだろう。

 きっと、ガザルという後ろ盾を失くしたアルトイラは風前の灯火のようなものに違いない。

 俺を囲おうという貴族共の真意は身分への保身か、それとも真に国の未来を想っての事か。何れにしろ、俺がアルトイラの王位に就くことなど無い。



 「へぇ、君がアルトイラの次代の勇者かぁ? 独特の雰囲気を持ってるなぁ」

 「………っ、誰だ!?」



 半開きになった部屋の扉の前に、いつの間にか男が立っていた。短パンにアロハシャツというラフな格好で、日に焼けた褐色の肌が正に南国でバカンスをしてます! といった雰囲気を醸し出している。

 部屋の扉は確実に閉まっていたはずで、音もなく侵入してきた男が只者では無いことが分かる。

 男は、驚いた俺の顔をみて満足げにニヤリと笑い、サムズアップして見せた。



 「俺かぁ? 俺は隣国、マリアナの勇者だよぉ。おっと、誰かが来るなぁ。それじゃあ、今後ともよしなにぃ」



 それだけ言うと、男はもと来た扉を出て行ってしまった。そしてその直後、アルトイラの重鎮達が姿を見せる。追うかどうか迷ったが、もう居なくなっているだろう。相手は勇者だと名乗った。そうそう迂闊に行動できない。重要な話し合いの場だが、俺は真剣に勇者の意図を探っていた。こうして侵入までしてきたという事は、あれがただの挨拶という訳では無いだろう。いや、挨拶の可能性も無くは無いが。



 重鎮達の話の内容は、概ね予想通りだった。次代の勇者への即位だ。指輪も俺に押し付け、力があるのなら貸せと、中々巧妙な罠かもしれない。勇者の指輪については総司令のガリウスに布石を打ってあるから、返せと言われても返す義理はない。数分前までは断る気満々だった俺だったが、新たな勇者の接触があったことで少し逡巡してしまう。



 (ノルとフロストが居る以上、俺も常に狙われると思った方がいい。あの男が口にした「独特な雰囲気」っていうやつが勇者と魔王の違いか? 何かあったときに使えるコネは多いに越したことは無いが……… いや、いっそ勇者の隠れ蓑があった方が楽か? ただ、そうなると要らない戦いに駆り出されたとき俺が困る。ノルたちを戦場に出せば、一瞬で的にされるだろうし、やっぱり無理か。いや、王にならなければいいのか?)



 「シンヤ殿、どうだろうか。どうか我々の王に。」

 「王にはならない。お前らは既にガザルへの忠誠を誓ったんだ、信用できん。寝首を掻かれるのはごめんだ」

 「それは………残念な事だ」

 「王にはならない。だが、この指輪の礼のついでに名声だけは貸してやろう。ガザルを打倒した存在として俺が動くとか、仄めかせばいいだろう。戦争が起こるかどうかは俺は知らん。元々この国に興味はない。これが最大限の譲歩だ」

 「………そう、ですか。分かりました、良いでしょう。名前を出していただけるだけでもありがたい」

 「後は自分達で上手くやれ。俺も忙しいんだ」



 コネになりうる繋がりを維持し、だが極力関係は持たない。これが丁度いい落とし所だろう。反論が出る前に俺は席を立ち、有無を言わさず別荘を後にした。



 リエル村に転移し、ノル達が待つ家へ急ぐ。もう日暮れから大分過ぎた。護衛の兵士にのこのこ着いて馬車に乗ったのはとんだ時間の無駄だった。

 馬車の移動では、アルトイラまで行くには遅すぎる。サスペンションなどの衝撃を和らげる技術も無い馬車の乗り心地は最悪で、碌に整備もされていない道のせいで馬車は大いに揺れ、何度気持ち悪い思いをしたか。ただ座席が柔らければ良いというものではない。

 早くノルに会って癒されたいなどと考えていると、突然目の前に男が現れ、道をを塞ぐように立ち塞がった。日焼けした褐色の肌に、アロハシャツ。見覚えのある南国男の姿だ。



 「やあ、シンヤ君。王位を持たないフリーの勇者って、珍しいねぇ」

 「お前は、さっきの勇者………!!」

 「ちょっと話をしようやぁ、君の()()についてさぁ」

 「お前………ッ!?」



 勇者がニヤリと笑う。不穏な空気が漂い、嫌な予感にぞわりと鳥肌が立つのを感じた。「付いて来い」と言い、勇者が踵を返す。

 物語の展開は早い方ですかね・・・?



 「面白かった」 「更新早く」 など思って戴けましたら、是非下の評価やブックマークをお願いします!!!


  今後とも、転職魔王の勇者討滅録を宜しくお願いします!!

 

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