決意
今回はすごく早めの更新です。
大分遅いですが、ひとまず一つのくくりとしてのお話になります。
疲労の溜まった体に容赦なくビシバシと突き刺さる寒さに震えつつ、これからの自分の処遇に若干恐怖しながらフロストに付いていくと、氷像と化した人影―――もといノルの姿があった。
「はっ!? ノル、ノル! どうしてこんな事に!」
「なに、傷つけてはおらんよ。ちと暴走気味だったので拘束したまでじゃ」
「いやいや、だからといって氷漬けは酷くないか? これじゃあ凍えてしまうだろうし………しかも、意識が無い!?」
「自ら翼を斬り飛ばそうとしていたのじゃ。止める手段など選べるはずも無かろ? 止められただけでも僥倖、ましてやノルは精霊。ちょっとやそっとでは傷付きもせんよ」
「翼を斬り飛ばす? 本当に何があったんだ………」
脳裏に次々と浮かんでは消える疑問符に頭を抱え、俺は思わずうなり声をあげた。首から下を巨大な氷塊に埋められているノルを見ると、かの精霊刀を手に、翼は大きく広げられている。冷静に見てみると本当に翼を斬ろうとしているようにも見えなくない。こんな状態で気を失っている状況からしても、ひとまずフロストの言葉を信じるしかないようだ。
「フロスト、もう十分だ。拘束を解いてやってくれ。それとどういう経緯でこうなったのかも教えて欲しい」
「経緯についてはノルに聞くがよい。一先ず拘束は解くが、また暴走するようであれば容赦はせんよ」
「分かった。何かあった時は頼む」
フロストが手をかざすと、ノルを縛っていた氷は粉微塵になって散っていった。砕けた極微細な氷はダイヤモダストとなり、キラキラと幻想的な光景を生み出す。辺りを漂う霧も晴れて、温い風が頬を撫で吹き抜けていった。
地面にくずおれるノルを優しく受け止めると、まずはその手に持つ刀を回収し、すぐには触れられないような位置に置いておく。自分の翼を斬り飛ばそうとしたというから、目覚めた時に何か予想外の行動に出るかもしれない。フロストはやや離れた所で俺の様子を伺い、何やら楽しそうに口元を緩めていた。先程までのシリアスな雰囲気は一体何だったのか、今すぐにでもフロストに問い詰めようかと思ったが、ぐっと堪える。経緯を訪ねても教えてくれなかったのには意図があるだろうし、どうせノルに聞けと突っぱねられるだろう。なんだか手のひらで転がされているようで癪だが仕方がない。
「………お姫様抱っこ、か。いや、駄目だ。ノルが起きたら殺される」
特に何かを意識した訳ではない。未だぐったりとするノルを助け起こしただけだ。決して俺に罪はない。一度はやってみたかったとか、そんなやましい気持ちは一切無い。無いったら無い。
下心がとか、余計に変な勘違いをされるのも困るが、さりとて地面に直で寝かせるのにも抵抗がある。あーでもないこーでもないと言いながら結局は膝枕をするような形に落ち着いた。
訳もなくふと視線を落とすと、膝元にノルの綺麗な顔があり、思わずじっと眺めてしまう。まるで磁石に引き付けられるように、ごくごく自然に俺の目はノルに吸い寄せられる。
ノルの顔をじっと見る機会など無かったが、改めて見てみるとこの上ない美少女だ。理想のパーツを集めて精巧に造られたような完璧な美しさと、つい守ってやりたいと思わせる儚げな少女の可愛さが絶妙なバランスで見る者の心を揺さぶってくる。
新雪のように白い肌にすっと通った小さな鼻。薄い桜色の唇は艶やかに光り、無意識に目が釘付けになってしまった。
息をするのも忘れてノルの容姿に見惚れていると、長いまつげがふるふると動き、ノルが目を覚ました。不意に合わさった視線を慌てて逸らしたが、気恥ずかしさに体温が上がるのを感じた。
「シンヤ………ん、ぅう」
「エッ、ええぇぇえーーーッ!? ナニコレ? マジで何なの超可愛い今すぐ抱きしめてやりた………って違うわ!!」
「むぅ。もうちょっと………」
「あっ、ハイ! どうぞ何なりと!! ………って、おいぃぃぃ、フロストォォ!! ノルに何をした!?」
「プークスクス。い、いや、妾は何も。それより、随分と大胆じゃ………アハッ、アハハハハ」
目を覚まして間もなく、寝惚け眼のノルは何を思ったのか俺の腰に腕を回すと、下腹部に顔を埋めてぐりぐりとやり始めた。無表情で近付きにくい雰囲気を纏う普段の印象とは違い、甘えきった子供のような仕草は圧倒的な破壊力をもって俺の心を抉っていく。目の前の可愛いを求めて今すぐに飛び付きたいという本能的な衝動を理性で抑え、目を細めて幸福そうな表情を浮かべるノルを引き離した。
「おーい。ノル、起きて」
「うぅん、ん。………あ、シンヤ」
「ああ、うん。帰ってきたらノルが氷漬けになっていたり、フロストは何も教えてくれないしで困ってるんだ。ノル、俺のいない間に何があったのか、教えてくれないか?」
「それは、その………」
余程言いにくい事があったのか、ノルは歯切れの悪い返事で目線を泳がせている。チラチラとフロストに向けて懇願するような視線を送り、そっぽを向いて無視するフロストを見てちょっぴり涙目になっていた。
ここにきて忘れていた感情を取り戻したように表情をころころ変えているノルは、たとえそれが泣きそうな顔だったとしても、ひたすらかわいいと思う。
だが、それと同時にそんなノルがひどく困り果て、涙さえ滲ませているというのに何もすることが出来ない自分に俺はひどく鬱蒼とした気分になった。
「フロストと喧嘩でもしたのか? 言いにくいなら、別に無理に言わなくてもいい。どうせ明日になれば俺はノルとは関係なくなるし、とにかく、そんな大事じゃなきゃいいんだ。変なこと聞いて悪かった」
ノルがその目を大きく見開いた。一瞬で瞳に涙を浮かべ、少し青ざめた顔で俺を見つめる。
「ねえ、シンヤ。明日になれば関係が無くなるって、どういうこと?」
「ああ、やることも済んだしそろそろあの地底湖に行こうかと思って。また変なのに目をつけられる前に行動した方がいいだろ? 次は転移で行くから一瞬だと思うけど、俺の処遇についてはそれまでに考えてくれると嬉しいな」
「そんな、明日で終わりなんて、聞いてない。そんなの嫌。嫌だ。絶対、ぐすっ、やだぁ………」
理由を話すのがつらいならと、ノルをこれ以上困らせない為に話したつもりが、逆にノルを泣かせる結果になってしまった。何だかキャラ崩壊が激しく、今や女の子座りで、駄々をこねる子供のように「嫌だ嫌だ」と連呼するノルに、俺は頭の片隅に思い浮かべた推論には目もくれず、何が嫌なのかと困った顔になる。
「子供じゃないんだし、泣くなよ。そんなにあの洞窟は嫌なのか?」
「場所じゃない………シンヤと一緒がいい! この翼が邪魔なら斬ってもいい! だから、見捨てないで………」
並々ならぬ決意を込めてノルが必死に訴えかけてくる。薄々気付きはじめていながら、それでもあり得ないと無視していた考えが現実味を帯びていた。
何で、どうしてなどの様々な感情が入り乱れるなか、それに反して事実に気付いてしまった俺の内心は狂喜乱舞だった。
「ノル、俺の事が………その、好きなのか?」
俺の問いにノルは俯いたまま、答えはない。
闇精霊で、包容力があり、強く頼りがいがあって、一緒にいると心から安心できる。分不相応だと思っていただけで、この手が届くなら掴んで離したくないくらい、俺自身はノルの事が好きだと思う。完璧になりきれていなくて、少し残念な所も愛しい。だが、それをノルに先に言わせる訳にはいかない。ここまで葛藤して身を砕いているノルに恥をかかせたとあれば一生の不覚。これで勘違いだったら………明日はヤケになるしかない。
万感の想いを込めてノルに向き直り、深呼吸を一つ。泣いているノルを抱きしめた。俺の顔を見つめ、驚くノルに目線を合わせる。
「シンヤ………?」
「ノル、好きだ。弱くていつも助けられてばかりだし、正直人間と精霊なんて俺のほうが明らかに分不相応なんじゃないかって思うけど、それでも俺はノルと一緒に居たい。絶対に幸せ………にできるかは分からないけど、努力はするから。普段は無表情なノルだけど、沢山笑顔にするって約束するから。だから、もしノルが良ければ、こんな俺で良かったら俺と………付き合っt、むぐっ!?」
涙に濡れた紺碧の綺麗な瞳が目の前に迫り、長い睫が降りて目が閉じられた。熱い吐息を感じて間もなく、物理的に口が封じられて俺の言葉を遮る。しばらくの間、俺の脳内は鼻腔をくすぐる女の子特有の甘い香りと、唇に感じる柔らかくもあたたかい感触で一杯になった。ノルがキスしてくるという予想外過ぎる出来事に俺はただ目を白黒させて狼狽える。
永遠に浸っていたくなる夢のような時間はあっという間に過ぎ去り、ノルは自ら唇を離すと、最後にシンヤのそれをペロリとひと舐めして悪戯っぽい笑みを浮かべた。散々泣いた後の潤んだ瞳は別の意味で潤い、心底幸せそうな雰囲気を見せている。
「私もシンヤが好き。離れるなんて絶対に嫌。ずっとずっと付いていくから、幸せにして?」
「ああ、うん。もちろんだ。幸せにする」
「あのー、妾が居ることも忘れんで欲しいのじゃ。始終傍観するとは決めていたのじゃが、こうも蚊帳の外だと流石に居たたまれなくなるのじゃよ」
二人抱き合い、再びいい雰囲気になっていたところにフロストからのストップが入った。ノルが俺の手からするりと離れ、フロストのもとに駆け寄る。
「精霊でもよかった。フロスト、止めてくれてありがとう!!」
「だから言ったのじゃ。全く、世話が焼けるのう。それはそうと、妾はシンヤに助けられた身故、何か礼をせねばならぬ。どうじゃ、ノル。妾は愛人でもよいぞ」
「そんなの、だ、ダメ。シンヤは私のなの!!」
あーだこーだと言い合うノルとフロストにあきれつつ、俺は大変な決断だったと天を仰いだ。緊張感に忘れていた疲れが一気にのし掛かり、仰向けに地面に倒れこんだ。そう言えば魔王とやらの称号を得たんだったと、右手の中指についた指輪を見つめる。一体何がどうなったのかと考えていると、目の前にコンピューターのウィンドウのようなものが浮かび上がってきた。どうやらステータスが載っているみたいだ。
【水澄 深夜】 性別:男
体力:8000 (魔王の加護+4000)
知力:20000 (魔王の加護+10000)
筋力:12000 (魔王の加護+6000)
敏捷:6000 (魔王の加護+3000)
頑強:4000 (魔王の加護+2000)
【不落の鉄壁要塞】
常時発動。 危険察知・自動防衛・魔力変換・攻撃アシスト・援護・予測演算・解析
【魔王の加護】
常時発動。 肉体強化・超速再生・基礎能力倍加・知覚能力倍加・覇気威圧・魅力・魔法術昇華(魔導)・種族愛
【魔王の福音】
眷属契約・ステータス開示・転移・転送・真言・弱点看破・超越者
「これ、チートじゃね? 何だよ、勇者ってばこんなの持ってたのか?」
自分のステータスを見た俺はひきつった笑みを浮かべてそう呟いた。一部、種族愛とか超越者とかよく分からないものが混じっているが、分かる範囲で見ても自身の基礎能力が二倍になっている事や、「魔王」とついた能力がどれだけ大きなものを与えているかが分かる。今見ているステータスは、【魔王の福音】にある「ステータス開示」のおかげなのだろう。勇者になる代わりに魔王へと転身した俺がこのような能力を持ったという事は、当然勇者にも「勇者」の名を冠する何らかがあるはずだ。そんな相手に勝負を挑み、よく勝てたと自分を褒めてやりたい気分になる。
「それにしても種族愛か………勇者になるとき、俺は人間以外に対する悪感情を植え付けられそうになったっけ」
頭のなかにむくむくと疑念が沸いてくる。人間以外の種族に対し、異常なな攻撃性を持つ勇者。それが植え付けられた感情であるとすれば、そこにどんな意図があるのか。そして、勇者を仕立て、力を与えるこの指輪は何なのか。次々と出てくる疑問は、いくら考えても答えは出ない。魔王になった意味を考えつつ、俺はとりあえず、愛しい恋人のノルと、仲間のフロストだけは何に変えても守ろうと誓ったのだった。
やっと一つのまとまった話としてここまでこれました。読んで下さった方には感謝申し上げます。そして、どうか今後ともよろしくお願いします。
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今後とも、転職魔王の勇者討滅録を宜しくお願いします!!




