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転職魔王の勇者討滅録  作者: 先祖代々貧乏
22/68

決着

 お待たせしました。

 何とか間に合いました。





 ガザルが俺の元へとたどり着き、真上で剣を振り上げた。

 どんなに動こうとしても、酷使した俺の体は限界の悲鳴を上げるだけで全く動かない。



 「クソッ!動け、動けよ!! まだ、終わってねぇんだ………」

 「何か、言い残すことはあるか?シンヤ君」



 自分が優位に立ったと悦に浸るガザルの顔が憎くて仕方がない。

 どうせ俺を殺した後、ガザルはノルを弄びに行くのだろう。

 ノルの正体が精霊だと分かった途端に婚約を諦め、自分の性欲の捌け口として扱っていた程だ。「姫」とまで付けて呼んでいたのが、今では人形呼ばわりで、ノルがどのような末路を辿るのかまでもが容易に予想がつく。

 だからこそ俺がそれを防がなくてはならないのに、この様である。



 俺が死ぬのはどうでもいい。元々死んだも同然の人生だ。

 でも、ノルだけは違う。

 俺に付いてきたばかりにこんな事に巻き込んでしまった。

 命を賭しても、守りたいものの一つも守れない不甲斐ない自分が、堪らなく醜い存在のように思えた。



 「頼むから、ノルだけは、見逃してくれないか」

 「あれだけ強気だったシンヤ君が、懇願か。応えてあげたい所だがそう言うわけにもいかない事情があってね」

 「そうかよ。期待はしていなかったがな」



 ガザルに物乞いしてしまった事に激しく自己嫌悪し、それから起死回生の一手を考え始める。

 体は動かずとも、魔力はあるし魔法術も使える。

 刺し違えてもガザルを殺すことは出来るはずだ。



 「もう、言い残すことは無いか。なら、死ね」

 「うるせえ、てめぇもくたばれや!!――【崩城の大筒(キャッスル・キラー)】!!!」



 ――【纏気:闘鬼ノ威圧】――!!!



 正に一瞬の出来事。強い殺気と共にガザルが俺の首元に剣を振り降ろし、俺が【崩城の大筒(キャッスル・キラー)】をガザルに向けて放った。

 どんなにガザルが速くとも、この至近距離から放たれた【崩城の大筒(キャッスル・キラー)】を防ぐことなど出来ないだろう。

 もうやり残すことは無い。後は黙って首に刃が通るのを待つだけだ。



 何かが壁に激突する、鈍い音が聞こえた。

 いつまで待っても痛みや意識の無くなる感覚が来ず、そっと目を開けてみると、吹っ飛んでいったのがガザルだと分かった。俺の砲撃が速かったのか、壁に激突したガザルは仰向けに倒れて起き上がって来ない。

 ガザルに直撃した【崩城の大筒(キャッスル・キラー)】はそのまま牢獄の天井に当たったらしく、跡には天にまで貫くほどの大穴が空いていた。



 「シンヤ………。良かった、無事で!!」

 「ノル………!?」

 「良かった………!私の威圧が遅れていたら、シンヤは死ぬところだった!」

 「威圧って、あの殺気はノルだったのか」



 動けない俺にノルが駆け寄り、優しく助け起こしてくれる。

 その瞳にはうっすら涙さえ浮かべ、余程心配してくれていたのだろうと感じた。

 俺が相討ちを避けられたのは、ノルの威圧による殺気でガザルの意識が逸れたせいだった。結果的に最後までノルに助けられ、さらに申し訳ない気持ちになる。

 もっと怒って俺を責めてくれれば良いのに、その優しさが俺の心に解けない鎖を巻いていく。



 俺はただ巻き込んだ訳で、ノルは被害者だ。この場で殺されても文句は言えないし、ノルの優しさを感受する資格もない。

 ここまで酷い扱いを受けてなお俺の事を心配するなど有り得ないとさえ思う。



 「ノル………。俺の事はどうでもいいから、君だけでも早く、ここから逃げないと。これだけ派手に戦えば上の兵士たちも起きてくるし、また捕まったら元も子も無いだろ」

 「シンヤはどうするの。そんな身体で逃げられるの?」

 「俺は動けないな。満身創痍だし、大人しく捕まるのを待つよ。死刑にでも何でもされれば良いさ」

 「やっぱりそうだろうと思った。大丈夫、私がシンヤを連れていくから」



 ノルが背中の翼を広げ、強く羽ばたかせて見せる。

 脱出路は、先程【崩城の大筒(キャッスル・キラー)】が外までの風穴を空けてくれていた。

 またノルに世話になるのか、と惨めな気分になる。



 「ソレは、俺の人形だ。逃がしはしない。」

 「あっ………」



 突然響いた声にノルが小さく悲鳴を上げ、その身体を小刻みに震わせる。

 倒れていたのは気絶していただけなのか、いつの間に息を吹き返したガザルがふらふらと立ち上がった。

 【崩城の大筒(キャッスル・キラー)】の直撃を受けてなお生きているとは、いよいよもって人間ではない。



 「成る程、あれは出口を作っていたのか。小賢しい――【封磔光鎖】!!」



 忌まわしい光の鎖が天井の風穴を塞いでいく。

 俺は動けないが、固定砲台としてなら辛うじて戦える。一度に展開出来る【崩城の大筒(キャッスル・キラー)】の数は十門までで、一門でも天井の鎖に回せば脱出路の確保など容易いことだ。

 問題は相手がガザルだということと、トラウマに陥ったノルが動けないであろうことだ。



 「ノル、下がってて」

 「でも、シンヤ。これ以上は」

 「いいから」

 「何だ、そんな状態でも戦うのか。随分な力業だったが、縮地に追い付かれた時は君もスキルを使えるのかと焦った。まぁ、蓋を開けてみれば代償を必要とした使えない技で正直助かったが。そこの人形に邪魔されなければもう少し早く仕留められたものを。時間が惜しいな」

 「随分な自信だな、三流勇者。見ろ、ここに十門の【崩城の大筒(キャッスル・キラー)】がある。塵になりたくなければ逃げるんだな」

 「魔法陣が十個か。随分手の込んだ細工だが、そんな紋様の魔法陣は知らん。今まで奇抜な魔法の数々を見せて貰ったが、いくらお前とて魔法陣の製作は出来ないだろう。アレは失われた技術だ」

 「どうかな。失われたのはお前の記憶なんじゃないのか」



 強がってはみたが、俺がガザルに勝てる確率は強運に強運が重なっても数パーセント程が限界だろう。

 今、こうして会話をしている中でもガザルの行動には一挙一動見逃さないように注意をしている。

 このまま待たれても精神力が持たないし、かといって無暗に攻め込むのもいただけない。

 どっちかが立てばどっちかが立たなくなるような、危うい局面ばかりが続いていて、俺は内心で苦笑した。



 「まぁその魔法陣が何であれ、もう通用すると思うな」

 「また、スキルか」

 「ふん、喰えない奴だ………。剣豪の真髄、ここに極まれり。覗きたる深淵を顕現せよ――【縮地】」

 「また縮地か!?キャッスルキ――はえ!?」



 【崩城の大筒(キャッスル・キラー)】を発動しようとした時、ガザルの横の壁が爆散して崩壊し、銀色の影がさっと俺たちの前を横切った。



 「ふぅ、ここの壁は分厚いのう」

 「お前は、あの時のドラゴン!!!」

 「そうだぞお主。妾、足は痺れているわ全身が凝り固まっているわで苦労したのじゃぞ。じゃが、やっと復活出来たぞ! 妾もあの勇者を一発殴ってやらねばのぅ!!!!」



 目の前に立つドラゴンの背中が、今は物凄く頼もしく感じる。

 誰もが平伏し崇めるであろう圧倒的な王者のオーラを身に纏い、先程まではくすんでいた鱗が、まるで解放を喜ぶかのように燦然と輝いて見えた。

 急激な安心感からか全身の力が抜け落ち、俺は地面にへたりこんだ。



 「この、大喰らいがぁぁぁ!!忌まわしいッ!!!」

 「喧しいぞ、小僧。この百年余り、妾は貴様らの仕打ちを一度も忘れたことは無い。この場に拘束されたその日に誓ったはずじゃ。妾が解き放たれた時、貴様ら王族に未来などあると思うな、とな」

 「何代か前の、過去の事だ。俺には関係が無い」

 「だったら何故妾を解放しなかったのじゃ。訳のわからぬ薬まで盛られたがの? 言い逃れなどさせぬ。全て事実であろう」



 このドラゴンも一体どんな時間を過ごしてきたのか、ガザルに対する声には、心臓も凍るほどの冷たさを感じた。

 人間の事は、相当恨んでいるはずだが、このドラゴンにしてもノルと同じく俺には友好的な態度で接してくれる。

 どちらの心理も分からず、何だか釈然としない気分だ。



 「ドラゴンとの戦いは避けたかったんだが。道を阻むのなら仕方が無い。斬り捨てるのみ!!」

 「甘いわ!!勇者の刃を通すほど妾が軟弱だと思うてか?」



 ガザルの縮地で強化された速さをものともせず、ドラゴンはその体躯に見合わぬ素早さで互角に渡り合っていた。

 肉体強化を使わずに見ている景色は、黒と白銀の線がぶつかり合っているようにしか見えず、俺は改めて肉体強化の効果に驚く。大きな代償を払ってでも、その速さは有能だと感じ、それと同時に代償が必要無い、ガザルの『スキル』とは何かを考えてしまう。



 数十秒激しい攻防を繰り広げた後、両者は距離を取り、互いに睨み合いながら相手の隙を窺う。



 「チッ、刃が通らん。腐ってもドラゴンという訳か」

 「何の、貴様の剣がぬるいだけじゃろ」

 「誰がお前を生かしたと思っている!お前の飯代だけで国の財政は随分と厳しい目に合わされたんだぞ!?」

 「恩着せがましい奴じゃの。貴様がホイホイ出すからに、残すのも勿体ないのじゃ」

 「いちいち勘に障る………剣豪の真髄、ここに極まれり。覗きたる深淵を顕現せよ――【天地破斬】!!」



 ガザルがスキルを唱え、凶悪な威力の斬撃が放たれる。

 俺は反射的にノルも巻き込んで地面に伏した。

 あのドラゴンが倒れたら、今度は本格的におしまいかも知れない。斬撃のどさくさに紛れ、【崩城の大筒(キャッスル・キラー)】で天井の風穴を塞ぐ光の鎖を破った。



 「芸が無いの。――【暴威氷獄(コキュートス)】」



 呆れたような声の後、物理的な冷たさが肌に触れた。

 驚いて目を向けると、牢獄の空間内が凍結し、剣を振り抜いた状態でガザルが凍り固まっていた。

 呆気ない展開に驚く俺を尻目にドラゴンは何事もなかったようにガザルの頭を掴み、無理矢理地面から引き剥がす。



 「ぐあぁぁ!!?痛、痛い、放せこのクソドラゴンがぁぁあぁ!!!」

 「放せと言われて話す阿呆が居るわけなかろう。年貢の納め時じゃな」

 「待てぇぇ、俺を殺せばどうなるかぐらい分かるだろう!?」

 「知らぬわ。そうじゃな、慈悲を求めるならそこにいる人間の子に問えばよい」



 ドラゴンが振り向き、俺に向けてガザルを突き出した。

 怒りと屈辱が混じった表情でガザルは俺に向けて精一杯の媚びた表情を作る。



 「王を殺せば、勇者を殺せばどうなるか分かるだろう?この世界を敵に回すのと一緒だ。悪いようにはしない。頼む、見逃してくれ!」



 ガザルの命乞いなど俺の耳には入らなかった。

 どこまで人を下に見ているのか、静かな怒りで俺の顔から表情が抜けていく。



 「謝罪も無しか。勇者とはゴミ以下だ。塵芥など必要無いだろ」

 「止めろ、止めろぉぉぉぉぉ!!分かった、謝る!俺が悪かった!!」

 「もういい、聞きたくもない。ドラゴンさん、お願い出来るか」

 「あい分かった。言い残す事はあるか?」

 「家畜共の分際でェ、俺に楯突きやがってクソがァァーー!」



 ドラゴンの吐息によってガザルが凍りついていくのを静かに見守り、俺は脱力した。



 「終わったか………」

 「シンヤ………助けてくれて、ありがとう」

 「礼なんて要らない、むしろ巻き込んでごめん」

 「主殿、休むにはまだ早かろう。ここから脱出せねば。」

 「ドラゴンさん、俺達を運んで飛べるか?」

 「誰に聞いておる。妾に任せい」

 「よろしく頼みます」



 俺達はドラゴンの太い腕に抱えられ、天井に空いた穴から夜空へと飛び立った。

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 増えた分だけ頑張って書きます!!



  今後とも、転職魔王の勇者討滅録を宜しくお願いします!!

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