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転職魔王の勇者討滅録  作者: 先祖代々貧乏
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VS.ガザル

 最近忙しく、更新が出来ておりませんでした。

 ご心配お掛け致しました。申し訳ございません。





 正義感に溢れ、困難にも怖じ気づく事無く立ち向かい、時には自らを犠牲にしてでも平和を守る者。

 その偉大なる功績は人々に勇気や感動を与え、感謝し称える人々はその者をこう呼ぶ。

 すなわち、勇者と。

 勇者の称号は自分で名乗るものではなく、周囲のの人々によっていつしか付けられているものだ。



 だが、この世界の勇者はどうだろうか。

 大きな功績があり、国を形成できるほどの力さえあればその者は勇者と呼ばれる。

 それが果たして本当の勇者と呼べるかと問われれば、答えはノーだ。

 勇者は決して職業には成り得ないのだから、国を持ち、民を従える立場になった時点でその者はただの王だ。



 ずっと勘違いしていた。勇者はその名の通り、勇者なのだと。

 その称号に騙されてきたが、考えてみれば何て事のない単純な問題だった。

 つまり、目の前の勇者(ガザル)は偽物で、自らの私利私欲の為だけに動く偽善者だという事だ。

 人殺しも厭わず、精霊を差別しノルに危害をもたらした。

 罪状はそれで十分だろう。



 「………殺しても、良いよな」



 理性を失う程の激しい怒りがすっと息を潜め、暴走していた魔力が瞬時に俺の制御下に戻る。底冷えするような殺気が奥底から湧き溢れ、牢獄内の空気が急激に変わった。



 「ハハハハ、それは滑稽な。この間こっぴどく負けたのは誰だったか忘れたのか?」

 「三流勇者が。黙れ」

 「んなっ、貴様………ッ!!」



 話す暇など与えない。

 脳天目掛けて熱光線を数十本纏めて放ったが難なく避けられた。もとより避けられるのは予想済みだったので、気にせず次の魔法術の展開に移る。



 魔法術士の決定的な弱点は、攻撃の予備動作が長い事だ。刹那に敵を切り捨てる速さや強さは無く、剣士等とは逆に速い攻撃程威力が乗らず弱くなる。

 裏を返せば、時間さえかけてやればそれ程複雑で高威力の攻撃が出せる訳だが、強力な攻撃が来ると分かっていてそれを待っていてくれる敵など居ない。

 魔法術の準備中を狙って俺に攻撃しようとしたガザルが、しかし数歩も動かぬ内に立ち止まり地面に膝をついた。

 俺が怒りを押さえきれず放出しまくった魔力が重力場を形成しているからだ。



 魔力を魔素へと変換させる拘束具をドラゴンや精霊等に着けているせいか、この空間には膨大な魔素が詰め込まれている。魔力に変換して使えば戦うのに支障はないし、どうせなら魔力そのものでも便利なものは利用したい。



 「体が、重い。何なんだ?これも魔法術だというのか………!?」

 「ただの魔力だ」

 「魔力を、繰るなど………聞いた、ことも無い、が………」

 「随分辛そうだな、三流勇者。さっきまでの威勢はどうした?」

 「このような屈辱………きっと後悔させてやる」

 「そうか。死ね」



 【魔法術:噴土大破】



 俺のオリジナルが入っていない、この世界に本来から存在する上位魔法術。

 魔力消費や発動時間が比較的短いためダカルがよく使っていた魔法術で、俺にとっても数少ない強力な攻撃魔法術だ。

 この魔法術を選んだ背景には、ダカルへの手向けの意味も込められている。



 本当にダカルからは何かを貰ってばかりで、俺は何一つ返せていない。

 死に際に感謝の言葉一つでも掛けられなかったばかりか、葬式をする事も無く、あの場所に花を手向けてやることもしていない。とんだ親不孝者だと思う。

 俺の独り善がりかもしれないが、仇を討つという意味でもこの魔法術でガザルを倒すことに意味があった。

 全て終わったら、墓参りにでも行こうか。



 ガザルの真下の地面に亀裂が走り、猛烈な勢いで土砂が噴き出してきた。戦闘中でも無く軽装のガザルにはこの攻撃に耐えることは難しいだろうが、念のために防御結界を張り経過を見守る。

 やがて溢れる土砂が収まった頃、ガザルの姿は消えていた。



 「やったか………?」



 そう呟いてからフラグという言葉を思いだし、嫌な予感が脳裏をよぎる。

 シュッ、と短い風切り音と共に、頬に鋭い痛みと焼けるような熱を感じた。

 目の前には剣を振り抜いた状態のガザルが居り、防御結界を突き抜けて俺に切りつけてきた事が分かる。急ぎ後退して距離を取り、防御結界を張り直しておく。



 「チッ。きっちりフラグ回収して来るんじゃねえよ」

 「体が重いのは厄介だな。一撃で仕留めるつもりが浅い傷しか付けられないとは」



 重力を受けた状態で、地中の多大な重圧にも耐えた俺の防御結界をも破り俺に傷を付けるというのは、正直言って化け物じみた強さだ。素でこれだけなのだから、勝てるかどうかの勝算すら分からない。



 これ以上後退すれば、後ろでガザルの姿に震えながら恐怖しているノルまで巻き込みかねない。

 本当なら寄り添ってあげたい所だがそんな余裕はなく、出来ても俺にはその資格が無い。

 俺に出来ることと言えば、ただこれ以上の被害を起こさない事だ。



 「あれで死んでおけば良かった物を。残念だ」

 「君については認識を改めなければならないな。実力差をこのような形で埋めようとは、中々頭も回るようだ」

 「もうノルには触れさせない。ここから先は通行止めだ」

 「そんな事が、果たして出来るかなっ!」



 掛け声と共に、剣を腰だめに低く構えたガザルが弾丸のような速さでこちらへ突っ込んできた。

 刺突系の攻撃は正面からだと受けがたく、しかし今の俺は避ける事も出来ない。俺の後ろには通さないと豪語した後の事だから、尚更引いて避ける訳にもいかなかった。

 重力によって不利な状況にも関わらずガザルの攻撃は重く、狙いもほぼ正確でブレが無い。

 一体どれだけ鍛練をすればこれ程動けるのか検討もつかないが、急ごしらえの防御結界では容易く破られそうだ。



 「守れないなら攻めるしかないな」



 【肉体強化:基礎身体能力補正値千パーセント】



 肉体強化の補正は、現段階では自身の能力を十倍に増やすのが限界だ。一般的な肉体強化は三倍が限界なので革新的と言えばそうなのだが、流石に十倍の強化は使用後に少なくないダメージも伴う。

 それでも、そうでもしなければこの火事場には対応ができない。

 床が爆発するほどの強い一歩を踏み込む。



 「おらぁぁぁあぁぁあ!!」

 「んおぉ!?………ガッ!!」



 向かってくるガザルの背後に素早く回り込み、その首を掴んで引き戻し、強引に後ろへ投げ飛ばす。

 ガザルに付いている重力場が仇となり、自身の力が押さえられ後ろへ投げ飛ばす際には存外の苦労を要した。直ぐに肉体強化を解除したものの、全身の疲労感と肩が外れたような痛みが襲ってくる。



 投げ飛ばされたガザルは遥か遠くの壁へと激突し、衝撃で崩れた壁の中に埋もれていた。

 切り札とも言うべき肉体強化を使ったのだから、多少の手傷でも負っていてくれなければ困る。

 痛みを隠して平静を装いながら内心冷や冷やしていた俺の視界の中、瓦礫が音を立てて崩れ、剣を杖のようにしたガザルが立ち上がった。額から血を流し、肩で荒い息をしている。

 どうやら相当効果はあったようで、ふらふらと眩暈で足元も覚束ない様子だ。

 普通の人間なら即死レベルの攻撃を受けても生きているガザルは異常とも言うべきだが、俺は攻撃が届いた事への安堵に少しだけ息を撫で下ろした。



 「何と言う速さだ………。魔法術士風情が俺の背後を取るなどあってはならないと言うのに。一体どんな仕掛けだ?」

 「言ったはずだ。ノルの元へは行かせない」

 「そうか、ならばスキルを使うしかあるまい」



 ガザルの放った言葉に、こめかみがピクリと動く。

 この世界に来て初めて聞く『スキル』という言葉。実態は知らずとも何となく予想は出来るが、俺を鍛えてくれたダカルからは『スキル』の存在など聞いた事がない。勇者だけの特殊な技か何かだろうか。

 こちらが警戒する間もなく、ガザルが剣を横に水平に構えた。



 「剣豪の真髄、ここに極まれり。覗きたる深淵を顕現せよ――【天地破斬】」

 「ノル、危ないッ………!!!!」

 「あっ………きゃっ!?」



 本能に身を任せるがままノルを押し倒し、出来るだけ低く地に伏せる。

 強い風圧を伴った斬撃で斬られたのは数本の髪の毛だけだった。

 唇が触れあうか否かの距離にまで近づいたノルの綺麗な顔にドキドキする間も無く顔を上げると、どこまで続いているのかも分からない程深く、広範囲に渡る切れ込みが壁に刻まれていた。



 「マジか………これは勝てるのか?」



 ガザルの『スキル』の絶大な威力に、少々弱気な感情が出てくる。

 当たれば即死。相手の手札も見えず、頼れるのは初見での対応力のみ。

 気の抜けない格上相手の戦いなのにも関わらず、対応が後手に回るなど悪手でしかない。



 そうこうしている内にガザルは剣を上段に構え、次のスキルの準備に移っていた。



 「剣豪の真髄、ここに極まれり。覗きたる深淵を顕現せよ――【縮地】」

 「縮地だと………マズイ!」



  【肉体強化:基礎身体能力補正値千パーセント】!!!



 縮地と言えば、尋常ではない速度を出す特殊な移動法。

 マンガやアニメ等で見聞きしたものだが、ただ速いだけでもその影響は大きい。

 短時間の内に再びの肉体強化を強いられるが、ガザルの速度に対抗するにはこれ以外に無い。



 ガザルが動き始める。

 俺が地面を砕く程の力業で無理矢理速度を出しているのに対し、ガザルの動きは至って静かだ。

 それでいてその動きは強化された動体視力でも付いていくのがギリギリな程だから、最初のスキルと比べて効果は地味に見えてもこちらの方が何倍も凶悪だ。



 「『縮地』を使ってここまで立っていられる人間は君が初めてだよ、シンヤ君!君は魔法術士だろぅ!?一体どんな術を使ったのか非常に興味深い!!」

 「喧しい!!」

 「この間の君には心底ガッカリしたが……。あれは実力を隠すためのカモフラージュだったのか。でなければ、あの人形を所有する事すら許されなかったであろうしな!!!」

 「今ノルを何て言ったオラァ!?」

 「何も。ハハハハ、楽しい、楽しいぞ!!」



 右上からの袈裟斬り、斬り上げ、水平薙ぎと、嵐のように襲ってくる連撃を何とかしのぐのに精一杯で、まるで反撃の隙が無い。

 それに比べガザルはまだ余裕を残しているようで、その攻撃は徐々に苛烈を極めてきている。

 最大補正値の肉体強化も、そろそろ反動が無視出来ない時間使用してしまっているし、これ以上の負担を考えるといつ終わるかも分からないガザルのスキルが切れるのを待つ訳にもいかない。



 どうしたものか考えあぐねていると、ふとガザルが攻撃の手を止め、俺から距離を取った。



 「どうやら疲れているようだな、動きが遅い。今なら君より速くあの人形の元にたどり着けそうだ」

 「絶対にさせるか、ボケ」

 「強がるのも今のうちだ!!」



 ガザルが動きだし、ノルの元へと向かう。

 肉体強化を解かず警戒していた俺は、すぐさまガザルに追い付くとその腕を掴んで止めた。



 「掛かったな、馬鹿め!!」

 「なっ………うぐっ!?」



 振り返ったガザルが、ニヤリと卑下た笑みを浮かべる。

 掴んでいない方の腕には剣が握られており、その刃の切っ先が俺を貫かんと真っ直ぐに飛び込んで来た。



 咄嗟にかわそうとして、肩に強い衝撃が走る。平衡感覚を失い足がもつれた俺は床へ倒れ込んだ。

 肉体強化が解除され、その反動が俺を襲う。

 肩口から吹き出る血を見たとたん猛烈な痛みに襲われ、俺は叫びながらもんどりうって床を転げ回った。



 「残念だったな。守ろうと消耗するくらいなら、始めから捨て置けばいいものを」

 「う………ぐっ………!!」



 俺の血に濡れた剣を持ち、ガザルが向かってくる。

 肉体強化の反動で今や体を動かすことも出来ず、死の宣告でもされているかのような足音を、俺は呆然と見守る事しか出来なかった。

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 増えた分だけ頑張って書きます!!


  今後とも、転職魔王の勇者討滅録を宜しくお願いします!!

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