再会
お待たせしました。
過激な表現がございます。
食事中や苦手な方はご注意下さい。
地下牢への続いていそうな通路が中々見つからないと思っていたら、特殊な仕掛けによって隠されているらしい。
元々が存在を秘匿しているからそれもそうか等と思いつつ、階段に隠された仕掛けを解いていく。
ちなみに、施されていた仕掛けとは階段の手すりの始点に置いてある銅像の向きを合わせる事だった。古典的にも思えたが、普通なら誰も考えないだろう。
階段下に狭い隠し通路が開き、その突き当たりから降りた先には、アルトイラの王城に隠されている地下牢が広がっていた。
どうやら、貴族の男が語った情報に嘘はないようだ。
ガザルへの忠誠心よりも我が身の安全の方が大切だったらしい。
所詮は城に籠っている貴族共だ。普段から荒事に慣れているような軍の大将ならいざ知れず、あの場において反抗を考える程の脳は持ち合わせていなかったのだろう。
地下牢は全体的に水滴の滴る音が聞こえ、じめじめとした空気の悪さが目立つ場所だった。
通路には苔が絨毯のように生えており、歩けばヌメヌメして滑りそうになる。五メートル間隔で設置してある檻の中にはモンスターと思われる様々な生物が飼育されており、一様に大人しく眠りについている。
………何らかの生物実験でも行っているのだろうか。
精霊であるノルが生かして捕らわれているのにも関係があるのかは分からないが、ノルがモルモット扱いを受けるなど冗談じゃない。
「おっと。こいつはレッサードラゴンか!?」
少し広めの檻の中にいたレッサードラゴンを見てリエル村での惨状を思いだし、はっとした気分になった。
ここで飼育されているモンスター達はアルトイラで軍事利用されているに違いない。
モンスターを使役するテイマーのような職業があるのかは知らないが、ここにいるモンスター達は全員調教でもされたかのように暴れる気配もなく静かに過ごしている。
きちんと制御さえ出来ていれば、モンスター達は切り捨てても惜しくなく、際限なく産み出せる強力な兵力になりうる訳だ。人道的かはともかく、良く頭が回ったものだと感心する。
「ん?………もしかして、ノルもちょうきょ……」
しばしの間、俺の脳内でひよこが飛び交う。
今、自分がどれだけ不謹慎な事を考えたのかに思い到った俺は頭を打って死にたくなるくらいの後悔に悶絶した。
「クソッ。この牢獄、マジでくだらねぇ。健全なる俺の思考に変な工作を入れやがって」
そもそも俺は真面目な疑問を抱いただけだ。
モンスターの飼育をする施設にノルが拘束されているということは、精霊にも効果のある何かを持っているか、対精霊への実験をしているかのどちらかではないか、と。
ノルが自我を奪われ、軍事利用されるなど考えたくもない。
やましい事など、ほんの少し頭を過っただけに過ぎないのだ。
ええい、免罪だ。免罪にしてしまえ。
「確か、道順は右、右、左の繰り返しだったか」
迷路のように入り組んだ道を貴族の男が示した通りの法則に従って進んで行くと、重厚そうな重い鉄製の扉の前にぶつかった。
「ここか。成る程それっぽい雰囲気はあるな。罠でなければ良いんだが、果たしてどうだか」
そもそも限られた人しか来ないせいか扉に鍵はかかっていない。
俺は深く深呼吸すると、覚悟を決めて扉を開いた。
「ん?また扉か」
覚悟も空しく、扉を開けた目の前に現れたのは短い通路とその先にある二つ目の扉だった。
二重扉自体は特段珍しくもないが、どの扉にも鍵が掛かっていないのは少し疑問に思う。そもそも鍵らしい鍵も見つからないし、この扉もただの飾りなのだろうか。
二つ目の扉の先にもまた扉があり、呆れながらも次々に扉を開け進んで行くと、十二番目の扉を最後に俺は開けた場所に出た。
背後で閉まっていく扉を見た俺は、裏側にドアノブ等が無い事に気付いた。内部からの脱出を防ぐためだろう。
今や扉のあった位置は普通の壁と同化しており、完全に出口が分からないようになっている。それも魔法術なのかは分からないが、その隠蔽力の高さに俺はは舌を巻いた。
取り敢えず出口であろう位置に目印を付け、今いる空間を見渡してみる。
全体的に白い塗装が施してあるこの空間には、俺が入ってきた位置から見て正面と両サイドの計三つ、銀製のドアが構えていた。
「よし、右から見ていくか。お邪魔しまーす」
ガチャリと、割りと大きな音を立てて開いたドアの先は格段に広く、黒く光る石で出来た空間の中では厳めしい拘束具が一際大きな存在感を放っている。それ以外にも多種多様な拷問器具が乱雑に散らばっているが、とにかくこの部屋には誰も居なかった。
本物の拷問器具を目にする日が来るとは思わなかったが、案外俺の中での反応は薄かった。鋸や鉄の楔など日曜大工に使う工具にも似たようなものもあるし、むしろ工具でも見ているような気分だ。
血の跡でもあったなら話は別なのだろうが………。
右側の扉を閉めて今度は真ん中のドアを開けてみる。
黒く光る石で出来た部屋は右の部屋と同じだが、しかしそこには先客がいた。
「うおっ!マジか、ドラゴンだ。格好いいな」
レッサードラゴンとはその存在感も品格も明らかに違うそのドラゴンは、くすんだ銀色の見るからに重厚そうな鱗を持ち、筋骨隆々の逞しい身体に頭にはクリスタルのように透き通った青白い角を持っている。
俺の存在に気付いたのかそのドラゴンは鎌首をもたげると、目を開け、その金色の瞳で静かに此方を見据えた。
紛れもない本物のドラゴンに、俺は眼福とばかりに手を合わせて拝む。地球では、龍やドラゴンは神として祀られる程の神聖な存在だ。拝んでおけば何かの御利益があるかもしれない。
お終いに手を二回叩いて一礼をし、俺はそっと踵を返す。
「まあ待て、お主。まさか出ていくつもりでは無かろ?」
静かで落ち着いた女性らしい声が聞こえ、俺は驚いて振り返る。
その声が目の前のドラゴンから発せられたのだと理解するのに数十秒かかった。
「ドラゴンが喋った!?」
「妾が人間の言葉を解するのはそんなに珍しき事かの。下級の個体ならいざ知れず、ドラゴンが皆言葉を話さぬと思うてか?」
「いや、そう言うわけでは無いんですけど。始めから何もお話し頂けなかったので、つい………」
「それはすまぬことをした。妾としたことが礼儀を忘れようとはの」
「それで、一体何の用件でしょうか………お許し頂ければ先を急ぎたいのですが」
「む。お主はこの状況を見ても妾を助けてくれようという気持ちは湧かんのか。人間って薄情じゃ………妾、悲しい」
チラチラとこっちを伺いながら意味深な視線を向けてくるドラゴンに、俺は今更ながらこのドラゴンも拘束されているんだという事実に気付いた。
足元を見れば、大型車のタイヤでも嵌めているのかと言うくらい巨大な枷が両足に付いており、その上さらに鉄の鎖がその足をがんじがらめに固定している。縛られてから相当な時間が経過しているのか、その鎖は錆び付いて焦げ茶色に変色していた。
真っ先にノルを優先したいと思っていたが、大空を駆るドラゴンがこんな狭い空間で永い間拘束されているなど、どれだけのストレスを抱えていたのだろうかと考えた俺には見過ごす事など出来なかった。
物事に囚われ、同じところで燻る苦しみは多少なりとも理解しているつもりだ。精神的に縛られていた俺と、物理的に縛られている目の前のドラゴンとでもそれは大差ない。
当時の惨めな気分を思い出すと、自然と涙が溢れてきた。
「縛られるのは、辛いよな………【時の凱旋:風化】」
ドラゴンを縛っていた鎖がボロボロと崩れ、地面に落ちていく。
一見、魔法術は成功したかのように思えたが、足かせだけはまだ健在だった。
「やはりのう、この枷だけは外れてはくれぬか。実に厄介じゃの」
「どういう事ですか?」
「この枷は魔力を霧散させるのじゃ。魔法は効かぬし、単純な強度も高くてそのまま壊す事も出来ん」
予想していた事のようにドラゴンは言い、それでもその声には明らかな落胆の色があった。
「まだ諦めないで下さい。ちょっと失礼しますね」
枷に直接触れてみると、魔力が魔素へと変わっていくのを感じる。魔法術が発動しない原因は、魔力が分散されることによって事象を具現化する器が無くなるためだ。
原因が分かれば、対処するのは簡単だ。要は、事象による威力破壊を行わなければいい。
俺はフッと微笑みを浮かべると周囲の魔素を操作し、枷の内部に集中させた。
「少し痛みがあるかも知れませんが、我慢して下さい。サン、ニ、イチ、ゼロ――――」
枷の内部に集めた魔素を一気に魔力へと変換し、さらに俺の魔力で枷全体を包み込む。
こうする事によって内外で急速に変換される魔力と魔素同士が干渉し合い、摩擦と振動を繰り返すようになると、その運動エネルギーは物質である枷本体に直接作用することとなる。
数秒も経つとドラゴンを縛っていた枷はパキッと音を立てて弾けてしまった。
「おおお、凄いぞお主。まさかこの忌々しい空間から解放される時が来ようとは。妾、超感激」
「そう言って貰えると頑張った甲斐があります。では、俺は急ぐのでこれで」
「あっ、待つのじゃお主!妾、ずっとじっとしていたもので動けんのじゃあぁあっ………!」
大分時間をロスしてしまった俺は後ろから響く悲痛な叫びを無視し、急いでノルが居るであろう、最後の部屋の扉を開けて飛び込んだ。
「シン………ヤ?どうして、此処にいる、の」
そこには望み通りノルがいて、しかしその声は酷く弱々しい。
「ノル………ノル………俺は、君を、君の、ために」
君を助けに来たと、そう続けたくて。
それ以上の言葉が出て来ず、俺は絶句してその場に膝をついた。
涙でぼやける視界に映る三角木馬。天井から吊るされる手枷。
所々に飛び散っている、ぬるりとした白濁色の液体は吐き気を催す程の臭いを放っている。
何があったか、ノルがどういう目にあったか、考えずとも分かってしまう。
衣服を裂かれた半裸のノルの瞳は完全に光を失くし、その表情は絶望に染め固められていた。
「傷付く覚悟が無ければ、何も守れない。」
「傷付ける覚悟が無ければ、何も得られない」
俺が転移する前ノルが言っていた言葉は何よりも重く、俺の心は混沌とした感情に侵食されていく。
「俺みたいなクズ、消えてしまえばいい………!!」
気付くのが遅すぎたのだ。
この世界で人道や道徳などを持っていては到底生きていけない。
何故なら、ここは地球ではないから。
殺しも独裁も、何でもありの異世界だから。
現実を見たくない一心で暴れまわった。
視界に映る物全てを消し飛ばし、跡形もなく消滅させていく。
魔力を霧散させるという枷さえも関係なく威力でねじ伏せ、目の前のノル以外の全てを跡形もなく粉砕した。
「ガザルゥァァ! ガァァァァァァァッアァ!!!」
もはや何も感じず、ただ、ガザルに対する怒りだけが俺の中を支配している。
その視界には何も映っておらず、莫大な魔力は止まる気配すら見せずに暴走していた。
「おやおや、これはこれは。シンヤ君じゃないか。いけないじゃないか、こんなところまで来たら。」
突然響いたのは勇者ガザルの声。
それに呼応するように、牢獄の中に魔力の旋風が吹き荒れた。
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増えた分だけ頑張って書きます!!
今後とも、転職魔王の勇者討滅録を宜しくお願いします!!




