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転職魔王の勇者討滅録  作者: 先祖代々貧乏
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異世界生活

説明回になります。

ヒロイン登場まではもう少し、お時間を頂きます。申し訳ございません。




 心地よいまどろみから醒めるように、俺は意識を取り戻した。



 そこかしこに電気が普及し、夜でも明るかった現代からは想像もつかない程の綺麗な星空が目に映る。空気も澄んでいて、冷たい夜風が心地いい。首筋にちくちくとした感触があり、辺りを確認してみると、草原に倒れていることが分かった。

 周囲に人の気配は無く、何かが動く影はない。ただひたすら風に靡く草木の音が聞こえるだけだ。



 結局、飛び降りるのも実行せず、幻想の住人(ファントム)の男に救われた形になってしまった。なんだかんだで飛び降りを躊躇い、グズグズしていたのは結局の所迷いがあったのかもしれない。全てが嫌になったのは事実だが、逃げようというのは少し傲慢だったかと反省する。

 あの地獄のような生活から離れ、冷静になった今だからこそ言えることだが、またあの生活に戻ることにでもなれば死にはしなくとも、ストレスで胃に穴が空くことは間違いない。



 だが、それでも学んだことがある。

騙され、裏切られるのは運や巡り合わせというのもあるだろうが、それ以上に騙される方も悪い。それを弁えず、覚悟しない者は脆く簡単に崩れる。会社でも、盗まれた書類やデータに気付かなかったのは俺の落ち度でもある。どん底にあり、藁にもすがる思いだったとはいえ、碌に考えもせず上手い話に乗ったのも浅はかだ。

 利益とは、損益を受け入れてはじめて生まれるものだったのだ。中途半端な覚悟で背負ってはいけない。



 だから、これからは何に対しても慎重に、決して高望みせずゆっくり過ごしていこうと心に誓った。



 周囲は見渡す限りの広い草原で遠く離れたところに街明かりが見てとれた。取り敢えずはそこへ向かい、休養をとるのがいいだろう。ほぼ確定で間違いないのだろうが、異世界に飛ばされた事に関してもまだ確証がない。

 それに、あの幻想の住人(ファントム)とやらの男が最後に放った言葉も気がかりだ。あの言葉を真実と捉えるなら、俺がここへ連れて来られる理由は無いはずだ。俺の失業や来栖(くるす)による一連の事件は、つまる所騙された俺が悪かったという事だろう。



 しばらく考えてみたが結局解決には至らず、時間も勿体ないので俺は街へと歩きだした。




  **********************



 二時間くらいは歩いただろうか。



 たどり着いた所は、塗装もされていない木造建築の平屋が点在し、除草をした程度のボコボコとした道が広がる場所だった。舗装された道路が当たり前の俺にとっては、砂利や段差のある道は不便であることこの上ない。

 街の中心部と思われる場所では、おそらくだが火灯りが焚かれており明るい。宿屋でもあればと思ったのだが、考えてみれば俺は現在無一文。それどころか財布すら持っていない。



 「おいおい、異世界(こっち)に来てまでコレかよ…………流石に堪えるわ」



 頭を抱えたくなってきた。世界が変わっても俺の不幸体質は変わっていないのかもしれない。



 「全く、こんなガキが夜中に一人歩きだと?こいつぁどういう冗談だ?」



 声にふりかえると、精悍な顔つきをした30代位のおっさんがいた。別にまだおっさんと呼ばれるような歳では無いのだろうが、一八◯もある身長から来る大きな貫禄。酒を飲んでいるのか些か赤い顔に、口許の無精髭をみるとおっさんと呼ぶのが一番しっくり来る。



 「おいガキ、聞いてんのか。返事くらいしろよ。名前は。どこの家だ? 何でここにいる」

 「ガキとは、失礼な。俺は水澄深夜(みすみしんや)。この辺りの出身じゃない。草原の方から歩いてきた」

 「グハハハハハッ、シンヤとか言ったなぁ。面白い冗談だぜ。よくて十五、六のガキが、ミレイ大草原を歩いてきたって?それが本当なら、冒険者ギルドなんざ要らねぇや」

 「冒険者ギルド?…………まぁ、そんなことより俺が十五、六だって?そっちこそ冗談キツいぞ。俺は二十一歳だ。」

 「ほーう、そんなものなのか? どう見てもガキにしか見えなかったんだがな。ほら、その面見せてやるよ」



 (失礼な)おっさんが、俺に向けて手をかざす。その手が若干光を帯びているのは見間違いではない。



 【光よ、()の者の真実を示せ。 トゥルースミラー】



 命名が、まんまじゃないかと思った次の瞬間、俺の目の前の空間が歪み、気付いた頃には、そこには等身大の鏡が現れていた。実体は無いらしく、触れたところは虚空をつかんだ。それなのに鏡には俺の姿が映っている。突然の不思議な現象もさながら、俺の意識は鏡に写った自分の姿に向けられていた。


 鏡の自分に見惚れた訳ではない。むしろ逆に唖然となった。



 「嘘……………だろ?何で、俺、コレじゃぁ中学のっていうか、え、何で?」



 鏡に映っていたのは正真正銘、十五歳の頃の俺の姿だった。



 それから何だかんだと一騒動あったりもしたが、俺について知っている人も居ない事、常識に疎いと言う点から、取り敢えず記憶喪失の少年と言うことで周囲は納得したらしい。

 身寄りのない俺は、養子としてあのおっさんの元へ引き取られた。おっさんはダカル・マグナという名前で、結構名の知れた人らしい。強面なのにおおらかで優しく、何も知らなかった俺に色々と教えてくれる。



 ダカルのお陰でこの世界についても大体理解できた。

 俺が居る場所はレギナ王国と呼ばれる国の辺境に位置するリエル村という場所だ。

 このレギナ王国は俗に五大国と呼ばれる世界的勢力図の上位五本指の一国で、大陸の一番中央に位置する。それぞれ東のデルアド皇国、西のカルメラ商国、南のパダワース・ワイズ同盟国、北はバレルロード帝国を入れた五国が、主要勢力として数えられている。その周りには数多くの小国がひしめいており、日々小競り合いは堪えない。



 統治形態は王政が一般的なのだが、世襲で決まる王や民の支持によって立つ王は非常に少ない。



 では、一体誰が王になるのかといえば、それは勇者という存在だ。

 ここでいう勇者とは何かについてだが、様々な形で存在する。大まかには単純に大きな功績を残した者だ。最上級のドラゴンを狩ったりする者もいれば、聖人と呼ばれるほどに高度な医療技術を扱い人を癒した者など、それぞれの勇者には何らかの逸話がある。勇者の持つ力は強大で、それが国の抑止力として働いている。



 ただ、ほとんどが一代で他の勇者に敗れ王位を手放しているらしい。



 つまり、何らかの功績をもって当代の国持ちの勇者を倒せば易々と一国の主になれるというわけだ。とても分かりやすいが、相応の実力でもないと実現は難しい。出る杭には必ず先手が打たれるので、国持ち勇者の代替わりは頻繁には起こらないという。



 また、その他でダカルから教わったことの中でも、この世界での職種については興味深いものが多かった。



 大きく分けて四つあり、建築や物作り等を生業とする生産職。判事や役員、騎士団などの公職。(この中には聖職者なども含まれている)流通全般を担う商人。最後に、害のあるモンスターや動物を狩る戦闘職だ。


 

 戦闘職だが、この世界では一般にモンスターと呼ばれる動物とは別ベクトルの生物が居る。モンスターの素材は様々な用途に利用され、皮や骨などが物作りに使われる他、食材にもなったりするのだが、異常なまでの攻撃性に加えてその繁殖力の高さから定期的に討伐の必要が出てくる。



 そしてそのモンスター討伐をするのが、戦闘職の冒険者だ。

 元は野生の獣を狩る狩人や遺跡などの金品を探すトレジャーハンター等の副業だったそうだが、人口の増加に伴うモンスターの素材の需要が増えたことなどにより、その素材の供給等を行い、その合間には雑多な仕事をこなす職種としての冒険者が正式な組織としてギルドが立ち上がったのだそうだ。

 冒険者は主に、未だ子持ちや幼体の発見が無く地中から出てくるとか、異界から突然現れる等と議論されるほど突発的かつ無限に現れるモンスターを狩り、素材を売買することによって生計をたてている。



 ギルドというのはモンスターの出現やその討伐の依頼等を統括する施設であり、政治権力には関係しない。そこに登録さえすれば冒険者としての資格を得られるので、出身を問われることも無く、楽に職が確立出来る。



 モンスターには種類ごとに階級があり、それを元に冒険者のランクもまた決まってくる。ランクは下位から(ブロンズ)(シルバー)(ゴールド)白金(プラチナ)の順番となっており、それ以上の冒険者の中からは勇者が生まれる事もある。



 かくいうダカルも冒険者であり、ここリエル村では冒険者筆頭と呼ばれるほど腕が立つらしい。ちなみにランクは(ゴールド)なんだとか。



 俺が歩いて来たミレイ大草原は実はモンスターの巣窟であるらしく、二時間近く歩いてただの一体にも出会わなかったのはよっぽどの幸運だったようだ。視野が悪くなる夜中の討伐は、特別な場合を除き基本的には行われていない。もし襲われていたとしても誰も助けは来なかっただろう。



 数週間たったのち、ダカルによる戦闘鍛練が始まった。理由は複数あるが、一番大きいのはモンスターに遭遇した時の自衛方法が必須だったのと、この世界に対する知識や常識にズレがある現状から将来的に冒険者を目指すのが職を確立するには手っ取り早いからだ。それに、身近に(ゴールド)ランクの冒険者がいて、何も教わらないと言う手はない。



 基本的にやることは主に三種類。

 一つは各ランクごとのモンスターの種類や有効な攻撃、戦闘時や拠点における行動の仕方、各種薬草の知識などの雑学。

 二つ目に剣術、体術、拳闘術等の鍛練と、基礎体力作り。

 最後が、魔法術。



 鍛練はどれも厳しいものだが、以外と苦にはならない。俺を拾ってくれたダカルに応える意味もあるが、煩わしい仕事や余計な人付き合いがない事が、むしろそれだけに集中出来る原因かもしれない。日々教えられ、練習し、また自分で考えて実験にふけるのが何より楽しいのもある。

 何より楽しいのが、魔法術の鍛練だ。この世界に来て間もないころにダカルが俺に見せた鏡こそ、魔法術である。あの時は色々と動揺していたりしてさらっと流していたが、この世界には魔法が存在する。普段は体内を循環し、自然に放出されている魔力というモノを媒介に、あらゆる現象を再現し操る力だ。理論上は森羅万象何でも起こせるという見解が多いのだが、魔力コストは起こす事象との等価交換であるため現実に大それたことは起こせない云々、とダカルが言っていた。



 いつものように剣術の鍛練を終えると、そこからは俺の魔法術研究に突入する。ダカルは肉弾派のようで、魔法術はあまり得意ではないらしい。教えて貰ったのは理論だけで、その他は自分で昇華させるしかない。

 魔法術発動に必要なのは、これから起こす事象への明確なイメージとそれにかかる適正な魔力コストの二つのみ。一応詠唱もあったりはするのだが、必要魔力が少し減るなど発動のアシストになるだけの効果なので無くても良い。というか恥ずかしいのでやりたくない。



 イメージのほうは何となくでも正確に出来るのだが、魔力量の方はコツをつかむのに苦労した。自分の魔力量の把握から始まり、魔力を視る為の訓練、魔力コストの計算から、各工程での時間短縮まで。やることは過剰なまでにあった。



 そうして魔法の研究を重点的にやるなかで、俺はとある疑問にぶつかった。



 (魔法によって産み出された物質はどうなるのか?)



 魔法術は、魔力という対価さえ支払えば物質さえも産み出せる。簡単な例でいうと、生活等多方面で使われる水が一番分りやすい例だ。



 では、仮にその水が魔力を対価に現実の物となった場合、何故世界は水量過多にならないのか。ここでありがちなのが、何処からか借りてきているというパターンだが、水かさがいきなり減少したりだとか飲み水が無くなっていたとかの話は聞かない。海からと言われれば納得もしかけるが、それは攻撃魔法術でよくありがちな土砂も一緒だ。



 これは気になる。ダカルに聞いてみるか。



 「ダカルの叔父さーん、魔法で出した物体ってどこから来てるか、知ってる?」

 「さあな。魔力が変換されたんじゃないのか?」



 ………どうやら知らないらしい。



 仮に魔力が物質に変わったとして、その物質があふれないとして、では魔力とは一体?



 魔力とは水の循環と似たような原理で動いている。根源は地中深くにある竜脈と呼ばれる大きな力の流れであり、それが地表から漏れ出すと、生命の体内に蓄積される。これが魔力だ。魔力は生命体から徐々に放出されながら魔素に姿を変え、それはまた竜脈へと帰る。



 …………この途中で魔力を物資に換えるのはマズくないか? このまま使い続ければ竜脈が底をつきることになる。



 「ん? 待てよ……?」



 脳内にとある仮説が上がった。これならば竜脈も、物量も均等に保たれる。それを実証するには、まずは実験からだ。



 ………と、言うわけで用意したのは、植物の葉っぱ二個。このうち一つは庭に生えていたもので、もう一つはそれと全く同じ葉を、魔法術で作ったものだ。



 実験の内容は至ってシンプルで、この二つを観察するだけ。



 結果は………庭で取ってきた葉は枯れ、魔法術で用意したほうは時間経過で消失した。



 まぁ、概ね予想通りの結果だった。思わず笑みがこぼれる。



 魔法術で用意した葉は始終新しいままを保ち、そして突然消えた。まだ仮説の域を出ないが、魔力、または魔素に還ったのではないかと思われる。それが真実だとすればこれは革命になるかもしれない。



 「ククク……ハハッ……ヤバ、魔法術面白すぎる」



 目の前に横たわる未知なる可能性を前に、俺は興奮を抑えることが出来なかった。

更新は、遅くても3~4日間隔の予定です。

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