潜入
大変お時間お掛けしました。
お待たせしました。
王城の偵察をしてきた翌朝。
まさか日が上る時間から王城へ侵入する訳にもいかず、俺は夜になるまでの間の暇を潰しながら、引き続き情報収集に勤めていた。聞き込みの対象は今回は民衆ではなく、王城を出入りする兵士や貴族の住む区画に絞っている。
地球にいた頃営業をしていた経験をフル活用し、怪しまれない程度に情報を引き出していく。やはり王城に関わっている人間は情報に詳しく、齟齬の無い正確な情報が手に入った。
そこで分かったのは、ガザルの婚約相手が、確実にノルでは無かったということだ。
聞いた話によれば、ガザルの相手は王城に勤めるメイド長の娘だとかで、どこから接点があったかなどは分からないらしい。婚約の発表も突然行われたらしく、王城ではその経緯に対する噂話が横行しているらしい。
何だか俺の予想が悪い方向に的中しているみたいで、背筋が凍る思いだった。
この話が限りなく事実に近いであろう事は分かっているが、それならばノルは一体どこに居るのか。時間など待たず一気に王城へ入って確かめたいという衝動と、計画を壊すわけにもいかないという理性がせめぎあい、じれったさだけがが募っていく。
「おい、そこのお前。ちょっと良いか?」
「………ッ、はい。何でしょう?」
突然呼び止められて振りかえるとそこには一人のアルトイラ兵が俺を睨んでいた。一人一人には怪しまれない程度で情報を集めていたはずが、人数が多かったせいで疑われたのかもしれない。
ここでバレたら確実に終わりだ。冷や汗を流しつつ、俺は対人向けのにこやかな笑顔を顔に貼り付ける。
「お前、朝からガザル様の婚約について色々と嗅ぎ回ってるらしいじゃねえか。一体どういうつもりだ?」
「ああ、その事ですか。いやー、ほら、ガザル様の婚約って突然発表されたじゃないですか。町ではもうお祝いムード一色っていう感じなんですけど、詳細については誰も知らなくて。それで王城の人達に色々と聞いてたんですよ。こんなニュースは見逃しちゃいけないと思って」
「そうか。まあ、確かに気にはなるよな。色々と隠してる部分も多いだろうし」
「えーっ、もしかして兵士さん、何か知ってるんですか!?他の誰も知らないような事とか、あったりしちゃいます?」
「いや、まあな。気になっていても教えないが」
「ええー、残念だなぁ勿体ない。僕だけの好奇心に留めて置くんで、コッソリ教えてくださいよー!」
「いやー、でもコレばっかりはな」
最初は冷や冷やしたが、この兵士は釣りやすそうだ。
何か特別な情報を持っているようなそぶりだが、それが例え無駄な情報でも聞いてみるに越したことはない。
あと、一押し打てば行けると俺の勘が告げていた。見た目が少年だという事もあってか兵士の警戒は良い感じに解けている。
少し悪戯っぽく悪企みをしたような表情で、ポケットの金貨をちらつかせて見せる。
「フフフ、とっておきの情報なら兵士さんには特別に情報料を出しちゃいますよ………。もちろん、口外はしないと約束します。悪くはないでしょう?」
「うーん、そうだな。この情報は高いぞ、小僧。白金貨五枚だ」
「くう、上手いですね。僕の所持金全部を言い当てて来るなんて。それで、どんな情報です?」
「ハッハッハ、参ったか。よし、払ったからには教えてやる。実は―――」
我ながらうまく回る口だ。
しかし、兵士の言う情報を聞いた俺は、あまりの怒りに危うく素の自分を出してしまう所だった。
冒険者との戦いに参加していたという兵士の話は、俺が万一にも無いと思っていた最悪の事態だったからだ。
自分がどれほど重要な情報をもっていたかなど露ほども知らない兵士は、思わぬ所で大金を得たと、意気揚々と帰っていった。
その後ろ姿を完全に見送ると、俺は近くの建物の壁に向かって思い切り拳を叩きつけた。
「この、腐れ外道がぁぁーッ!! ノルを、ブタ箱にぶち込んだだぁ!? ざっけんなぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
殴った壁がひび割れ、小さな破片が飛び散る。俺の拳は骨が折れ、肉に食い込む破片によって血まみれになっていた。
ガザルの不興を買ったノルは今、地下牢に幽閉されている。そうなった原因までは兵士も教えてくれなかったが、俺には何となく分かる。ノルをただの人間だと見誤った結果、精霊であることが判明したとかいう下らない理由だろう。
ノルを幸せにするだとか大層な事を抜かしておきながら、やっていることは全く正反対だ。ガザルは自分がいかに満足かしか考えていないようなクズだ。
ノルがガザルと俺のどちらかを選ぶかを真剣に考えていたこっちが馬鹿馬鹿しく思え、ガザルを一瞬でもライバル視してしまった歯がゆさと、身の内から込み上げてくる怒りで血が沸騰するような感覚に陥った。
「うぐっ!?体が重い……?」
感情の爆発からか、気付けば魔力の制御が不安定になっていた。常時発動しているはずの【不落の鉄壁要塞】が停止しており、行き場を失った膨大な魔力が周囲に停滞している。
濃密な魔力は停滞することによって特殊な重力場を生み出す。
少量の魔力ならすぐに魔素へと変換されるが、大量にある場合は中々霧散しない。かといって適当な魔法術で消費しようにも魔力自体がエネルギーの塊である以上、下手な魔法術を使えばこちらがお陀仏になってしまう。
初歩的な光魔砲術に魔力を吸収させると、眩しい程の閃光を放ちながら魔力は消えていった。
感情に流され、自分の魔力に足元を取られている自分がどうしようもなく惨めに見える。
「はぁ、くそ……最悪だ」
俺は肩で息をしながら【不落の鉄壁要塞】を再起動し、拠点の宿屋まで歩きだした。
一刻も早くノルの元へ向かう。決行は今夜だ。
「ガザル……絶対に許さねぇ」
そう呟く深夜の声には異常なほどの怒気が含まれていた。
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深夜零時、日付が変わる時間。月の光が輝く空は快晴で、風も少ない。
ガザルのいる王城の王室は最上階に位置し、ノルは逆に地下牢に幽閉されていると見える。
王城の地下に刑務所施設とは随分なことだが、以外にもこの事実は公にされていないようだ。何故かは知らないが別の場所にもう一つ刑務施設があり、そこが牢屋として一般的に知られている。
王城の地下牢獄については、町の図書館で王城について調べていた際に偶然発見したものだ。ここ最近で別場所にある刑務施設に誰かが入所したという情報はない事も調査済みであり、ノルが王城内にまだ居ることはほぼ間違いないだろうと言える。
「巡回兵通過。よし、侵入するか。」
あまり時間がなかったせいか光学迷彩や気配遮断等の高性能な魔法術は作れなかったので、減音や保護色等の簡易的な魔法術を使っているが、王城に侵入しようとする者が居るなど露程にも考えていない兵士達の警戒は存外に甘く王城に入ること自体は楽だった。
(さて、地下は何処だ? おっと、ここにも兵士がいるのか)
城内を巡回する兵士の情報までは流石に知らない。最新鋭の注意を払いつつ、マッピングをしながら通路入り乱れる城の中を歩き回るがそれらしい扉や階段は見当たらなかった。確認のために二周だけ同じところを周り、何処かに隠しているか何かだろうと思った俺は、物陰に隠れて適当に時間が経過するのを待つ。
城のなかが分からなければ、時間ごとにのこのこやって来る巡回兵を捕まえて道順を案内して貰えばいい。毎日城内を歩いている兵士ならばきっと地下牢獄の存在も知っているだろう。
暗闇のなかでしばし待つこと二十分。
二人組の兵士が他愛もない話をしながら巡回してきた。
(来た……! だが二人か。後ろから襲うには分が悪いな。少し様子を見よう)
王城の中の警備は二人一組が基本のようで、いくらやり過ごしても巡回兵の数は変わらなかった。
余り派手な事は控えておきたかったが、二人同時に無効化するしか無い。少し道を訪ねるだけなのに難儀な事だ。
取り敢えず移動しようと顔を出した矢先にコツコツと足音が聞こえ、俺は慌てて物陰に身を潜める。
程無くして現れたのは巡回兵ではなく、華美な装飾で衣服をゴテゴテと飾っている貴族の男だった。
王候貴族の中でもガザルの住まう城内で生活出来るのは、ごく限られた数の重鎮だけだ。このような深夜の時間帯に何故城を徘徊しているのかは分からないが、そんな事は俺には関係がなく、むしろ護衛も連れず一人で歩いているのなら都合が良い。
俺は音もなくその男に近づくと、声が出ないよう口許を押さえて喉元に短剣を突きつけた。
「動くな。そして叫ぶな。それが守れない場合はお前を殺す」
「ヴー!!フーッ、フーッウブフッ!!」
「二度も言わせるな。喧しい、殺すぞ」
「フーッ、フーッ、ヴォーフ!!!」
鼻がおかしくなりそうな程強い香を衣服に焚き染め、ぶくぶくと肥え太った体を揺する男の姿はこれ以上なく醜く、俺は吐きそうな気分になりながら男を魔法術で縛り上げた。
二度も忠告してやったにも関わらず暴れるのを止めない男に懲りた俺は、脅しではないという意味も含めてその喉元の弛んだ皮を切り裂いてやった。男は掠れた声で悲鳴を上げ、ようやく立場が分かったのか急に大人しくなる。
俺はその男を引き摺って誰の出入りも無さそうな空き部屋に入ると、男を床に放り投げた。窓から入る月明かりが照らす男の顔はかつて無い恐怖に歪んでおり、下半身から生暖かい液体を垂れ流して震えている。
もしかするとこの男はトイレに起きてきたのかも知れない。不憫だとは思ったが、俺には関係の無い事だ。
沸き上がる不快感を隠すまでもなく、俺は無言で男の腹を蹴り上げる。体を丸め痛みに悶絶する男の髪の毛を掴み上げ、俺は無理矢理目線を合わせた。
「死にたくなければ余計な真似はするな。質問に答えろ、お前の回答は頷くか首を横に振るかだけだ。いいな?」
涙と鼻水でぐちゃぐちゃに汚れた顔で男は小刻みに何度も頷き返した。
「お前、精霊を知っているな?ここに幽閉されているはずだ」
男は頷いた。肯定だ。
「ほう。その精霊は殺されたのか?」
水を切る犬のごとく、男は首を横に振る。ノルはまだ殺されてはいないらしく、俺は少しだけ安堵を覚える。
「ほう、そいつは都合が良い。場所を教えて貰おう。発言を許す。但し、嘘を吐いたり大声で叫ぶならお前の命は無い。」
男の目の前に、先程首に傷付けた際の血が付いた短剣をちらつかせると、男は咽び泣きながらノルが幽閉されている場所の説明をし始めた。
この男が本当に真実を話しているかは怪しいが、この緊迫した状況で嘘を吐けたのであれば、俺の負けだ。
その場合は罠でもガザルでも、何でも受けて立つ。
話を終え土下座で命乞いを始めた男の意識を奪い、縛り上げ、猿轡を噛ませて床に転がしておく。
俺は部屋に目立った痕跡が無いのを確認し、大急ぎで部屋を飛び出した。
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増えた分だけ頑張って書きます!!
今後とも、転職魔王の勇者討滅録を宜しくお願いします!!




