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転職魔王の勇者討滅録  作者: 先祖代々貧乏
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掌の上で

 またもや遅くなってしまい、申し訳ございません。




 爆風に煽られ無数の砂埃が舞う中、まだチカチカする目を押さえて立ち上がる。

 所々打撲したり擦り傷ができたせいで体が痛い。多少出血している感覚もある。

 あの爆発の範囲、その威力を見るに例の儀式魔法術だろうか。二発目が来るなんて予想もしていなかったが、決してあり得ない話ではない。

 想定外だったと思ったが、それはただの言い逃れだ。一番の脅威であった儀式魔法術は、一度使ったので二度目はそうそう撃てないだろうと考えたためにあえて気にしていなかった。



 未だぼやける視界で目にしたのは、地に伏す冒険者達の姿。地に刺さる黒の大剣を目にした俺は、震える思いでダカルの姿を探した。

 少し離れた場所にある、折れて黒ずんだ義足。その先にダカルは倒れていた。暫く様子を見てもダカルが動く様子はない。



 俺は目の前が真っ暗になったような気がした。何故か止めどなく溢れる涙が俺の視界を滲ませる。



 もやもやとする黒い影が俺の思考を犯し、誰とも知らぬ声が聞こえた。



 ―――あんなにしぶといダカルが、まさか死ぬ訳はなかった。ダカルは、俺の叔父は(ゴールド)ランク冒険者だ。最上位のモンスターの討伐資格を持ち、幾度の死線さえ越えている熟練の冒険者だったから。



 「何でだよ。さっさと起きて来いよ………」



 なおも語り続ける影の話に耳を塞いだが、聞こえる声は止まらない。



 ―――お前は分かっている。どうなったのかは分かっている。全てはお前の判断ミスだ。

  「二度目の儀式魔法術は無い」と。

   実に滑稽な話だ。



 「うるせえ、黙れ。俺は知らない、知りたくもない」



 ―――往生際が悪いな。お前は、彼を見殺しにしたんだ。盲目的に他人を信じ、今回も彼が生きて帰って来るとでも思ったのか。立派にも戦う覚悟は出来たと思い込んで、その実お前は戦うことを拒んだ。

 人を殺すのは精霊だけか?

 まさか人同士の殺しあいは無いとでも言うのか?

 お前は、何も変わってなどいない。求めてばかりで自ら得ようと動くことは無い、実に卑怯な存在だ。



 「っ、そんな、事は………」



 まるで諭すように非難を続ける影の言葉に、俺は地球にいた頃の俺を幻視した。

 とっくに捨てた過去だと思っていたが、成る程。当時の俺も今の俺も、全く変わり無い。



 「また、失敗か………俺は、変われなかった」



 ―――違うな。自らを省みる事もせず、過去の責任から逃げ仰せた事につけあがっていただけだ。

 変わったのは環境だけで、お前は「自分も変わった」等と淡い幻想を見ていたに過ぎない。

 思い起こせ、お前は深く反省したことがあったか?

 燻るだけのは反省ではない。醜い自己防衛だ。

 いいか、反省とは悔いる事ではない。むしろその逆だ。悔いる前に動け。



 言いたいことだけ言って俺の影は消えていった。いや、影など最初から存在しているはずがない。俺が自らの葛藤を幻視していただけだ。



 現実を理解すると同時に激しい虚脱感に襲われ、俺はその場にくずおれた。

 もはや俺に出来る事など何もない。ダカルは、死んでしまった。

 俺が何も学習しない、無能だったせいで。



 ……もう、全て諦めて逃げてしまいたい。

 そう思ったからなのか、眠るように意識が少しずつ遠退いていく。



 「――――ンヤッ!!」



 バチンッと大きな音がして、両頬に走る痛みに俺は目を見開いた。

 ノルが俺の両頬を挟み、怖い顔をしている。首筋に冷たい汗が流れるのを感じた。



 「シンヤ、いい加減に目を覚まして。叔父さんについては残念だったけど、今は考えるべき時ではない」

 「ノル……ノル……」

 「わっ!?ってもう……離して」

 「少しだけ。お願いだ」

 「そう言われても……困る」



 目の前に現れたノルに恥も外聞もなくすがり付いた。困惑しながらもノルは受け入れてくれ、俺は不安定だった精神が安定していくのを感じた。

 心を満たす圧倒的な安心感に包まれ、冷静な思考が戻ってくる。

 仄かな体温は染み入るように暖かな温もりを感じさせ、体の震えを止め、呼吸を穏やかにした。



 「落ち着いた?」

 「ああ、もう大丈夫だ。その、ごめん」

 「全く、ここは戦場。区別つけないと死ぬ」

 「そうだな。でも、俺は弱いんだ。そうでなくとも死ぬ時は死ぬ」

 「弱さは言い訳にはならない。強くても死ぬ事はある」

 「ごめん。浅はかだった。」



 周囲を見渡してみたが、アルトイラ陣営はまだ動いていないようだった。二度目の儀式魔法術で、最早冒険者達に勝機は無くなった。余裕をかましても問題無いとの判断なのだろうか。

 冒険者陣営で生きているのは、俺とノルの二人だけだ。俺たちは戦線には直接参加していない訳だし、そう考えれば冒険者陣営は全滅だ。皆、志半ばで命を落としたのだ。



 砂を踏む音に顔を上げると、丁度馬に乗ったガザルが近づいて来ている所だった。十メートル程手前で止まったかと思うと、下馬して恭しく礼をして見せる。



 「初めまして。私はガザル=アルトイラと申します。アルトイラ国の国王、そして数ある勇者に名を連ねる者です。この度の戦は私も望まぬものでした。しかし国の責任者という立場上、降りかかる火の粉は払わねばならぬ故、このような戦になってしまったこと御許しください」



 二度目の礼を挟み、面を上げたガザルの顔には人に安心感を与えるような穏やかな微笑みを浮かべていた。



 俺を謀った時とは口調も態度も違う。猫を被っているのは明らかで、一体何を考えてこんな行動を取っているのか検討もつかない。向こうは俺の事など覚えていないのか、その点に関しては何も反応がない。

 これだけの事を仕出かしておいて今さら情けなど冗談にも程がある。白々しいと言うべきか何と言うか、気味が悪いし嫌悪感しかない。

 あの打算的な思考の男がただで転ぶ訳がない。国の最高権力者という立場ならなおさら考えなしのバカではないはずだ。



 俺はガザルの言葉を鼻で笑い飛ばした



 「望まぬ戦だと?冒険者達を全滅させておいてよく言ったな」

 「何と、冒険者が全滅とは人聞きの悪い事を。彼らはただ気絶しているだけですよ」

 「何、気絶しているだけだと!?」

 「あっ、シンヤ待って………」


 さらりとガザルが漏らした言葉に、俺はノルの静止の言葉を無視してダカルの元へ駆け寄った。ダカルを助け起こし、心臓に耳を当ててみる。



 ………………………。



 何の音も聞こえない。震える手で脈を確認するも、反応は見られなかった。



 「ああ、その男なら今回の一連の戦いを蜂起させたと思われる主犯格ですので、殺しました。流石に首謀者を生かして帰したとなれば、国の威信にも関わる。捉える者によってはアルトイラが敵の逃亡を許したと考えられるでしょう。そうあっては非常に良くないのです」



 何でもない事を言うようにガザルは付け足した。丁寧な口調とは裏腹な涼しげな表情には、罪悪感など欠片も無い。そうすることが当然であったと信じて疑わぬ顔で、まるで世間話でもしているような雰囲気だ。

 


 「人を殺すことの何が威信だ。先にリエル村を攻め、罪もない村人達を惨殺したのはお前らだろうが。降りかかる火の粉だ?お前らが蒔いたんだろうが!!」



 ガザルの勝手な物言いに耐えられなくなり、俺は思わず激昂した。

 今まで穏やかな表情を保っていたガザルが片方の眉をピクリと跳ね上げさせる。その表情が一瞬だけ崩れ、暗い表情に変わったような気がした。



 「それは、言いがかりと言うものですよ。国同士の諍いはいつ起きるか分かりません。貴方の怒りは民を守りきれなかった国へ向けるものであり、私達に向けるのは間違っている。寧ろ戦犯の罪を首謀者一人の命で放免するというのは私の寛大な慈悲による救済であり、破格の措置なのですよ。主犯格の男は成る程、貴方にとって重要な方だったのでしょうが、これは仕方の無い事です」



 ひきつった真顔で話すガザルはその目が笑っており、明らかに侮蔑が含まれている。時々口角が上がっているのは込み上げる笑いを堪えているのだろう。

 断言してもいい。ガザルは、この場を楽しんでいる。俺が怒りに声を荒らげた事までも何かの余興程度にしか考えてないに違いない。大層にも一人でノコノコやって来たのは、きっとこの為だったのだ。



 ガザルに踊らされた事実に怒りが急激に冷めていった。

 恐らく他の冒険者が生きていると言ったのは本当だろう。二度目の儀式魔法術というのはギミックで、単に気絶させるだけの全体攻撃に派手なエフェクトを付けただけだったのだろう。だが、その中でダカルの命だけは奪った。大がかりで芸が細かく、嫌がらせとしては最上級だ。



 「ドッキリ大成功ってか、ガザル=アルトイラ。猫被るのはもういい。本性を現したらどうだ」

 「さて、本性ですか。それよりも答えて頂きたいことがあるのですが、シンヤ君?」

 「名乗ったことは無いはずだが、何故俺の名を知っている」

 「それなら、先程。ほら、君の連れていらっしゃる姫君が口にしたでしょう?」

 「そうか。記憶力が良いとでも褒めれば良いのか、勇者ガザル。残念だが、俺がお前に答えることなど無い」

 「いや、そう言うわけには行かないな。命が惜しくば答えろ。どうやって記憶を戻した?どうしてあの場から逃げ仰せた。全て吐け」



 ガザルは本気のようだ。目が据わっており、流石は勇者とも思えるような貫禄と重圧を感じる。

 だが、そんなものは俺には関係がない。



 「さて、何の事か俺にはさっぱり。そうだな、一つ教えるとすれば鉱石採掘の現場は酷いという事だ。二度とやりたくないね」

 「やはり、ただ逃げただけでは無いな。後で洗いざらい吐いて貰おう」

 「誰が情報をお前に渡すか、クソ勇者」

 「ふん、自白剤を飲ませれば済む話だ」



 自白剤とは、嫌なことを聞いた。兎に角、こちらも意地でもガザルを逃がす訳にはいかない。



 不意にガザルが馬の元へ歩みより、緑色の旗を取り出した。旗には獅子に絡み付く蛇のが描かれている。アルトイラの国旗か軍旗なんだろう。

 ガザルが旗を地面に差し立てると、遥か後方で控えていた兵士が同じように旗を取り地面に差した。



 「アルトイラ国を代表してガザル=アルトイラが此処に宣告する!!此度の戦において、冒険者五百余名は放免、対価として此処に控える少年、シンヤの情報提供及び側付きの少女の身柄の引き渡しを要求する!!」

 「…………………………はぁ?」



 その宣告は突然に、一方的に成された。

 新作も考えていますが、今は10万字を目指したいと思います。



 面白いと思って頂けましたら、是非評価・ブクマ等戴ければ今後の励みになります。

 感想等、どしどしお書き下さいませ。

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