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転職魔王の勇者討滅録  作者: 先祖代々貧乏
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謀略

 お待たせしました。




 爆風が向かい風となって行く手を阻む中、馬を走らせる。

 先の閃光や爆発音を聞く限り、あまり悠長な事は言っていられそうにない。

 もう戦いが始まってから大分たつ。犠牲者も出ているだろうし、リエル村の跡地よりはマシだろうが同じような光景が待っているはずだ。

 だが、もう何も恐れない。死への恐怖は、ノルが何処かに吹き飛ばしてしまった。



 そして今は冒険者達が危機に晒されている。一刻も早く向かわなければまた多くを失うことになるだろう。

 そんな事態は何としても避けねばならない。



 やがて吹き荒れていた風も落ち着き、馬も疲労を顕にした頃、俺達は冒険者とアルトイラ兵の交戦する草原へ辿り着いた。

 遥か遠くではアルトイラの陣営と思われる兵団が拠点を構えており、軍用馬に乗った騎兵隊の姿も見える。その数はおよそ三千程。

 対して冒険者側はその数を五百名にまで減らし、アルトイラの陣営からは遠く離れた場所に待機していた。

 どちらも交戦中といった様子はなく、直線距離にして五百メートルの距離の間でにらみ合いをしているような状況だ。



 両者の間には、焼け跡によって黒く炭化した大地が横たわっており、俺は向かう途中に聞いた爆発音の原因を悟った。

 三千もの数で挑んだ冒険者達はきっと、この大規模な超範囲の爆発によって命を落としたのだろう。リエル村の時とは違い、死体は無いが酷い有り様と言える。



 「これは、儀式魔法術。上級魔法術士団が単位二十の規模で行うもので、確か大光爆発(プロメテウス)っていう名前だったはず」

 「儀式魔法術っていうのは何となく分かった。皆でやるやつだろ?単位二十っていうのは?」

 「儀式魔法術を行う魔法術士の集団では、百人を一単位として数える。そのなかでも単位二十は最上位」

 「つまり、戦略級の攻撃をした結果がこの黒い地面って訳か」



 状況の確認もそこそこに俺達は冒険者達の元へ急いだ。残った者は皆、満身創痍だというのに戦意を失ってはおらず、殺意に満ちた目でアルトイラ陣営を睨んでいる。

 冒険者達の中央にダカルが居た。少しばかりの安堵を覚えつつ向かうと、俺たちの存在に気づいた冒険者達が途端にざわめきだした。

 俺に気づいたダカルが軽く手をあげ、にこやかに近づいてくる。


 「おう、シンヤ。こんな所まで来ちまったのか」

 「来ちまったのか、じゃねーよ叔父さん」

 「そうだな。お前は魔法が得意だったな。剣術も体術も俺が教えたんだ、そこらの奴よりかは戦力になる。後ろの嬢ちゃんは初めて見るな。お前のツレか?」

 「ああ、そうだ。それよりもこの状況はヤバいんじゃないのか?」

 「奴らは本気だ。味方ごと俺達に儀式魔法術を放ちやがった。今、どう攻めるか考えていたんだよ」



 俺はダカルの言葉に耳を疑った。

 味方は消耗し、今やその数は五百人程度。相対する敵兵は目測でなら、その四倍以上はいる。そんな中でもまだ戦うというのだ。最早まともではない。



 「まだ戦うとか、本気で言ってるのか?勝ち目無いだろ。正気持てよ」

 「いや、お前こそ甘ぇ事言ってんじゃねえ。シンヤはまだ戦場にも立ったことねえから分からねえだろうが、戦争ってもんは数だけじゃねえんだよ。それに、ここまでやって来て無念晒した仲間の意思はどうなる」

 「そりゃあ、俺はそこまで知らないけどよ………」



 改めてアルトイラ陣営に目を向ける。

 儀式魔法術を放ったと思われる、緑色のローブを纏った集団が二千。騎馬隊兵が五百に歩兵部隊が五百。

 いくら冒険者達が個々の能力に秀でた精鋭達だとしても、流石に無理がある。

 確かに、兵士と冒険者達では戦力の個人差が出やすい。だが、対人向けの戦術や連携の素早さ等では兵士の方に軍配が上がるのは当然の事だ。

 たかが数週間の間に集まった冒険者達に、そこまでの連携力があるのだろうか。普段が個人で好き勝手にやっている分、そこに期待は出来ないと、そんな感想が思い浮かぶ。



 魔法術は中~遠距離戦が主体となり、主だった狙いをつけられずとも数さえ撃たれれば逃げ場は無い。アルトイラ陣営までの距離、五百メートルを走り抜くのは、その時点で困難だ。

 そこからは近距離戦だが、あちらにいるのは魔法術士だけではなく、騎馬兵や歩兵など近距離戦が得意な部隊も控えている。敵の魔法術攻撃を受けて生き残った者達で考えると、最早勝機などない。

 更に言えば魔法術士だって近距離で戦えない訳ではないのだ。現実的に考えてみてもダカルの言葉は強がりにしか聞こえない。



 「やっぱり無理だぜ、叔父さん。折角生き残った皆も死んでしまう」

 「よせ、お前が考えてどうこうなる問題じゃない。黙っとけ」

 「でも、こんなの間違ってる。何事も命あっての物種だろ」

 「二度も言わせるな。シンヤ、お前は黙っとけ。戦うのが怖いってんならさっさと逃げな」



 ダカルの言葉を皮切りに、その他の冒険者達も口々に俺に非難の言葉を浴びせてくる。

 こんな状況でも、誰一人として撤退を主張するものが居ないのは不気味に思えた。

 ふと、後ろに控えていたノルが前に進みでてくる。



 「(ゴールド)ランク冒険者、及び(シルバー)ランクの上位冒険者と思われる計三十名。おそらく、それ以外の冒険者は敵陣営に辿り着くこともなく死ぬ。はっきり言って無駄死に。リーダーであるダカルに問う。それでも突っ込むつもり?」

 「調子に乗んじゃねえ。無駄死にだと?もういっぺん言ってみろ、女だからって容赦しねえぞ。おいシンヤ、よくもまあこんな失礼なガキを連れてきたな。どこでひっかけて来やがった?」

 「ノルをバカにすんなよ、ダカル。俺を養ってくれた恩はあるが、二度目は容赦しねえ。周りをよく見ろよ、復讐ばっかに気取られてんじゃねえぞ!」

 「シンヤ、怒ってくれてありがとう。でも、暫くは押さえて。ダカル、もう一度問う。無駄死にでも行くの?」

 「てめえ、このクソ(アマ)!!」



 ダカルが何かを答えるよりも速く、それまで俺たちの話を黙って聞いていた冒険者の一人がノルに殴りかかった。

 俺はすかさず冒険者の拳を受け止め、防具の襟をを掴み上げた。冒険者が喚きをあげもがくも意に介さず、首を絞める。



 「止めてやれ、シンヤ。アルトイラ以外と争うのはうんざりだ。何と言われようが俺の答えは変わらん。」

 「そうか、もう少し賢明な判断が欲しかったな。ちくしょう、どうにでもしやがれ」

 「本来ならお前にも参戦して貰うつもりだったが………まあいい、それでも戦うだけだ」

 「参戦なんかしねーよ」



 俺の言葉を聞いているのか聞いていないのか、ダカルは一瞬だけ微笑むと冒険者達に一声掛け、立ち上がった。



 「冒険者諸君。俺は、お前らの力を信じる。必ず、アルトイラを討つぞ!!」

 「「「うおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」



 勇ましい歓声が上がるのを合図に、冒険者達がアルトイラ陣営へ向け、怒涛の勢いで走って行った。

 その後ろ姿を見送る中、ふとダカルが最後に見せた笑みが脳裏に浮かぶ。



 「クソったれ、変に後味残しやがって。ふざけんなよ」



 何だかんだ言っても育ての親みたいなものだ。むざむざ死にに行く様を黙って見過ごせるはずもない。

 目に見えない運命だとか、定められた流れに乗せられているような気がして、苦虫を噛み潰したような気分だ。

 納得は出来ないし、したくもないが、やらなければ後々後悔するのだろう。



 今にも冒険者達はアルトイラの魔法術による攻撃を受け、一人、また一人と地面に倒れ臥している。



 「ああクソ、もういい、行けばいいんだろ、行けば!!」



 こうなったらもうヤケだ。俺は頭を振って雑念を払うと、ダカルに加勢するべく駆け出した。



 「あ、シンヤ。ダメ!!」



 俺が駆け出すと同時に、ノルが慌てたように俺の腕を掴み、俺を引き戻した。



 「おい、ノル?一体どうし―――――!?」



 目を焼く眩い閃光が走り、俺の視界が奪われる。

 轟音と共に宙を舞う感覚。

 直後、全身に走った衝撃。



 それが爆発の余波で吹っ飛んだのだと知るまでに数秒を要した。




  ***************




 アルトイラ陣営、中枢。



 軍隊の指揮総帥であり、アルトイラの勇者兼国王であるガザルは、後方部隊である魔法術士団の元で、次々と上がる報告を待っていた。

 ガザルの周囲には、主に軍事の権限を握る重鎮達が控え、寄せられてきた報告を元にあれこれ物議を醸している。



 テントの向こうに伝令役の影が現れた。



 「ご報告申し上げます。騎馬及び歩兵部隊が陣営の設営中に奇襲を受けました。直ぐに体制を整え反撃していますが、我々の兵は圧されている模様です。いかが致しますか?」

 「そうだな、モンスターを投入しろ。多少は調教に失敗したのも混ぜて放せ」

 「かしこまりました。では、そのように」



 伝令役の影がスッと薄くなり、消える。

 軍曹の一人がニヤニヤした笑みをガザルへ向けた。



 「流石はガザル様。敵の動きも全く予想通りに進んでいますな。」

 「媚を売られるのは好きではない。勝つために当然の事をしたまでだ」

 「これはこれは、失敬。媚を売るなど滅相もございません。アルトイラの建国以来、大きな戦はありませんでしたからな。こうしてまたガザル国王の勇姿が見られる事に興奮が押さえきれず」

 「言ってろ。それより、儀式魔法術の方はどうなっている」

 「はい、そちらは抜かりなく。あと半刻もすればあちらの陣営ごと飲み込む規模で発動しましょう」

 「それなら何も言わん」



 暫くの間、こちらの攻撃の成功の是非について伝令が飛び交った。

 どうやら上手く事は運んだらしい。

 儀式魔法術は成功し、冒険者、アルトイラの両陣営共に兵を多く失ったようだ。



 あらかたの報告を聞き終えた軍曹達が慌ただしく準備を始め、所定の位置へと動く。

 大臣が前に進み出て、王に恭しく跪いた。



 「ガザル王。準備は整いました。残党征伐に行かれてはどうでしょう」

 「そうさせてもらおう。行くぞ」



 出向いた先は一時的な休戦状態であった。

 望遠魔法術で冒険者陣営をみて、ガザルは少しばかり驚く。



 (………あの少年は。生きていたのか。あの地下牢をどう抜け出したのか。いや、落盤の中で生きていたのか。)



 冒険者達は、少年との間で何やら揉めているらしい。戦場真っ只中で、悠長なことだ。どうやら、最初の仕込みも上手くいっていたようだ。冒険者達には、少しばかりの同情も禁じ得ない。



 このまま攻め落とし、少年も確実に討てば良い。そう思ったガザルの視界に、一人の少女が映った。



 (…………………!!!)



 それは、ガザルがこれまでに感じた事のない衝撃だった。

 地位も名声も、巨万の富をも築き上げた男が、未だ手にしていないものが、そこにはあった。



 「………あの少女が欲しい。だが、少年は邪魔だ。」



 (………こんなにも強い独占欲を感じたのは、国を平定した時以来か。ふっ、所詮俺も一人の男という訳か。)



 誰にも聞こえない程の小さな呟きの裏で、ガザルの心の内は未だかつてない程の興奮と歓喜に満ちると同時に、少女を連れている少年へのどす黒い感情が爆発した。



 「魔法術士隊、儀式魔法の準備を」



 冷静を装い、ガザルは指示を出す。

 多少、内容の変更をするかもしれませんが、ご理解下さい。

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