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転職魔王の勇者討滅録  作者: 先祖代々貧乏
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奪還作戦

 お待たせしました。




 ダカルが生きていたのは、嬉しいニュースだった。



 ひとしきり再会を喜びあった後、今現在の詳しい状況について情報を訪ねる。

 襲撃を受けたのはリエル村だけではなく、その周辺の町や村までアルトイラは侵攻していたらしい。

 今コクリの冒険者ギルドにいる冒険者達は皆、被害に見舞われた者達だ。



 周辺地域の領主や貴族は奪還作戦を計画中だと発表しているが、表立った動きは無いとの事。

 大方、奪還した土地等を巡っての権力争いや、数々の根回しを行っているのだろう。全く、使えない者達だ。



 そうした背景もあり、村や町の奪還はダカルらを始めとした冒険者達が先導している状況だ。

 この一月の間は有志を募り、相手の戦力の把握や拠点の確保等に時間を充てている。

 時に傭兵まがいのこともやっているとは、冒険者とは本当に自由な職業である。

 ある意味では無法だと言われてもおかしくない。



 「戦争か。対人なら死人も出るのか」

 「何を言ってるんだ。それを承知であっちも攻めてるんだぞ。ま、お前はまだガキだしな。怖いんだろう、え?」

 「まぁ、そりゃあ当たり前だろ。人が死ぬんだぞ?」



 少し違和感がした。

 ダカルを含め、この場の冒険者達には殺人への抵抗が薄い。

 生きてきた世界が違っているのは勿論だが、それにしても何か引っ掛かりを覚える。



 周りを見渡すと、どの冒険者も一様にどこか血走った目で報復を口にしていた。



 俺もリエル村の惨状は直接目にしてきた。

 アルトイラの勇者、ガザルの行動は目に余るし、リエル村を奪われた怒りはある。

 だが、そこで戦争を仕掛けるのはどうか。

 この場の冒険者を見ていると、雪辱戦といったイメージさえ沸いてくる。



 果たしてそれは正しいのか、間違っているのか。

 俺の考えが甘いからなのか。



 ダカルに別れを告げ宿に戻る。ノルは外で俺を待ってくれていた。

 モヤモヤした気分は、俺が宿で眠りにつくまで続いていた。




  **************




 アルトイラ国の中心街で一番広大な建物である王城の一室。

 四季折々の花々をあしらった華美な装飾に囲まれた部屋で、王とその重鎮による会議が行われていた。

 王座に座るのはガザル=アルトイラ。

 アルトイラ国の勇者にして国王でもある。



 「それでは皆、報告を」

 「かしこまりました、ガザル王。レギナ王国への出兵から一月となりますが、周辺の貴族共が奪還作戦と称した戦争の動きを見せております」

 「いやはや、大臣。貴族共は動かんだろう。それよりも冒険者の動きの方が重要だ。勇者様、コクリの冒険者ギルドに集まっている、占領地の残党と思われる冒険者が報復を仕掛けてくるやも知れませぬ」

 「ふ、まあ大体予想していた結果という事か。冒険者の動向は。いつ攻めてくる」

 「は。冒険者の動向としては、最終的な準備といった所でしょうか。敵は三千を目安に、時間は恐らく一週間以内にはなるかと」

 「そうか。では、こちらは兵五千で叩く。異論が無ければ用意しろ。詳しい作戦などは追って伝える」

 「「「王の命、慎んでお受け致します」」」



 戦争の準備に重鎮達が部屋を立ち去っていく。

 ふと思い付いた懸念から、ガザルは大臣の一人を呼び止めた。



 「いかがなされましたか、ガザル王」

 「いや、少し気になってな。坑道の落盤事故についてなんだが、調査の結果は出たのか」

 「すっかり失念しておりました。ガザル王よ、不手際をお許し下さい」

 「それはいい。それで結果はどうなっている」

 「あれは自然に起こったものとの事でした、不自然な点はなく、専門の者にも入念に確認させました。死体の残らなかった奴隷については、地中に引きずり込まれたものと思われます。生存者はいないかと」

 「そうか、それならいい。行け。」

 「失礼します」



 リエル村を侵攻した一月前のあの日、避難所と称して建てたテントに、最後にやって来た少年。

 目敏く企みに気付き逃亡を図ろうとした少年は、坑道の落盤に巻き込まれ死亡したが、死体は発見されていなかった。

 あの日、少年の瞳の奥に見た危機感がふと思い出される。



 「いや、考え過ぎたか。この話は忘れよう」



 ガザルはそれ以上追求することを諦め、執務へ戻った。




  **************




 コクリの冒険者ギルドでは、来るアルトイラとの戦争に向けて最終的な準備が行われていた。

 ダカルを始め、(ゴールド)ランク又は(シルバー)ランクの上位冒険者達が一連の計画を進行させ、実行は一週間後に控えてある。



 その日、地図を片手に戦術を練っていたダカルの元に、情報収集をしていた冒険者の一人が駆け込んできた。

 息を切らし走ってきた所を見ると、余程の事が起こったと思われる。



 「どうした、何か問題でも起こったか?」

 「はぁ、はぁ、ダカル様。至急の報告です。アルトイラが動きました。」

 「ほう。具体的に分かっている事は?」

 「まず、敵兵はざっと五千程。数時間前、中央街からの出兵を確認しております」

 「分かった。で、あっちの本拠地はどこだ」

 「それなんですが………」



 偵察役の冒険者が言い淀む。



 「どうした。ただ兵が移動しただけでは無いだろう」

 「はい。敵兵は軍隊を半分に分け、一方はリエル村付近の草原地帯に。もう一方は、その背後のミレイ大草原に陣地を構えております。恐らく、挟み撃ちのような作戦でしょう」

 「クソ、単純だがそれだけに悪手だ。こっちは三千。前後で攻められれば確実にじり貧だ」

 「ええ、勇者ガザルの戦術は噂通りやっかいですね」

 「感心している場合か。こうなったら、予定を早めるしかねえ。宴会とでも言って至急全員を呼び寄せろ」

 「分かりました。しかし、何故早めるのです?」

 「簡単な事だ。敵の準備が終わる前に叩く。敵も混乱してくれれば勝率も上がるだろう」



 偵察役の冒険者は、強く頷くと去っていった。

 ダカルはたった今聞いた敵陣の位置を地図へ書き込むと、椅子の背もたれに深く体重を預けた。



 「ついに始まったか。シンヤにも会ったばかりだから、色々話したかったんだがな」



 ダカルは一人ごちると計画の変更修正を始めた。



 ものの数時間の内に、通達を受けた各冒険者がぽつぽつと集まり始める。

 夜中には冒険者のほぼ全員が集まっていた。



 地図を片手にダカルが立ち上がると、それまで騒がしかったギルド内が一斉に静まった。



 「皆、情報の共有は済んでいると思う。俺らの狙いは、敵が準備を終える前に壊滅させる事だ」

 「おおおおおおお!!!」

 「重ねて言うが、時間との勝負になる。短期決戦に持ち込むつもりだから、忘れるなよ!」

 「おおおおおおお!!!」

 「なら、出陣だぁ!死ぬ気で戦え!!」

 「っしゃああああああ!!!」



 冒険者達が、口々に叫びながらギルドを後にする。

 最後まで残っているのは、ダカルを含む(ゴールド)ランクの猛者達だ。

 やがてその者達も戦場へと足を向ける。



 「ダカル、先に行くぜ。アルトイラを殴ってくるさ」

 「ああ、頼りにしてるぜ。」

 「おいおい、俺たちもいるんだ。恨みがあんのはお前さんだけじゃないんだぜ?」

 「お互いに上手くやりゃあ良いんですよ。私の家宝、持ってるやつがいたら教えてくださいよ」

 「思い出したらな。ハッハッハッ」



 彼らが戦う理由は様々だ。

 築き上げた財を焼かれた者、家族を殺された者、安寧の地を奪われたと感じる者、あるいはただ単にアルトイラ国に因縁のある者。

 それぞれの思いを胸に、冒険者達は敵陣へ我先にと急ぐ。




  **************




 かくして、アルトイラ兵と冒険者達による激突は起こった。

 リエル村付近の草原地帯で陣を構える準備をしていたアルトイラ兵は冒険者達による奇襲で大打撃を受け、後退を余儀なくせざるを得ない。

 出だしはまずまず好調だ。

 突然の出来事に指揮系統も麻痺している兵が崩れていく様は一目瞭然で、それにより味方の士気も高い。

 作戦は首尾よく進んでいた。



 「順調そうだな。どれ、俺も戦うか」



 後方で戦況を見ていたダカルが、怒号鳴り止まぬ戦場へと割り込んでいく。



 【魔法術:噴土大破】



 手始めに一発、大きなモノをぶちかます。

 地面が隆起し、大量の土砂が敵陣真っ只中で花開いた。

 少しずつ統率を取り戻しつつあったアルトイラ兵がまたもや混乱に陥り、比例して冒険者達の勢いが増す。

 陣形の乱れたアルトイラ兵はその数を半分程まで減らしていた。



 ダカルの周囲に冒険者達が集まってくる。

 彼は、確か情報収集を担当していた者のパーティだ。



 「ダカル様、心強いです!あっちでも強豪パーティが猛威を振るってますし、これはいけますね!」

 「ああ、そうだな。ただ、まだこれで終わりじゃない。ミレイ大草原にも同じ数が控えている」

 「それもそうですね。所で、さっきの土魔法術って連発は出来ないのですか」 

 「撃てなくもないが、多少時間が掛かる。乱戦中だと厳しいな」

 「ならば、俺たちがダカルさんをお守りしますので、お願いできませんか」

 「分かった。やってみよう」



 ダカルは魔力に意識を集中させ、地面に手をつけた。

 途端に違和感を感じ、眉をひそめる。

 小さく、気付きにくいが規則的な振動が感じられる。

 それは、人間の踏み込みより圧倒的に重い。

 紛れもない、モンスターのものだ。



 「畜生!お前ら、後退だ。全軍!!撤退!!!」

 「どうしてですか!?順調じゃないですか!」

 「どうしても何も、モンスターだ。レッサードラゴンの可能性もある。死にてぇなら残りな」

 「なっ………このタイミングでモンスターなんて!」



 冒険者達が、戸惑いつつも退却を始める。

 事情をまだ知らない冒険者が大半であり、そこに思考を削がれた状態では戦闘も疎かになる。

 討ち取られる冒険者が増え始めた頃、戦場にモンスターの群れが乱入してきた。

 大型のモンスターの中にはレッサードラゴンも数体混じっている。



 「モンスターだァ!逃げろォォ!」

 「クソッ、もっと早く動けば良かった!」

 「助けてくれぇぇ、モンスターなんか戦った事ねぇよ!」



 冒険者達は我先にと退却を始め、押し合いへし合い、もつれていく。

 アルトイラ兵は未知のモンスターに怯え、腰を抜かす者や恐怖心に囚われる者もいる。

 そうこうしている間にもモンスターは誰彼構わず襲いかかり、蹂躙は止まらない。



 「クソッタレ!これじゃあ、あの時と変わらねぇじゃねぇか!!」



 ダカルは地面を踏みしめ、唇を噛んだ。

 打開策を考えるダカルの視界の隅に、アルトイラ兵が映る。

 今まで戦っていた相手ではなく、ミレイ大草原で構えているはずの兵だ。



 後続の兵士二千五百名が、一斉に手を振り上げる。



 「嘘、だろ……。儀式魔法術とは」



 ダカルの呟きが虚空に消える。

 次の瞬間、天を割るような轟音が響き、辺り一面が真っ白な閃光に覆われた。

 魔法術という表記ですが、魔法か、魔術の方がいいのではないかと思い始めたこの頃です。


 「面白かった」「更新早く」


 と思った方は是非感想やレビュー、評価等、戴けると今後の励みになります。



 更新遅いですが、これからも頑張っていきますので、どうぞ宜しくお付き合い戴けると嬉しいです。

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