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転職魔王の勇者討滅録  作者: 先祖代々貧乏
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終わりの始まり

 初投稿です。拙いですがよろしくお願いします。

  ~プロローグ~




 ビルの屋上。



 突き刺すような冷たい風が吹くなか、帰宅を急ぐ会社員が終電の迫る駅へと足早に歩いている。

 高所から見る都会の風景は無数の街灯で飾られており、黒い布の上に色鮮やかな宝石をばら蒔いたようだ。

 思わず溜め息を吐きたくなるような美しい風景をぼーっと眺めながら俺は、さらに上空に広がる闇空を仰ぎ見る。



 眼下で煌びやかに輝く宝石は、いくら手を伸ばしても掴み取れはしない。光などなく、夜の暗さを感じるビルの屋上は、自分が闇のなかにいることを否応なく感じさせる。



 希望に満ちた光のなかで生きる人々を横目に見ながら、俺は光を失った瞳で世界を見据える。

 何一つついていない人生だった。

 救いなどなく、残酷な現実はどこまでも俺を追い立ててくる。



 もちろん努力はした。抜け出そうとして、必死にもがいて努力した。

 だが、それでも。そんな努力さえ嗤って現実は俺に闇を植え付けていく。



 もう、十分だろう。俺は十分頑張った。そろそろリタイアするべきだ。



 俺はビルの柵を越え、幅が数十センチしかない縁に腰かけた。足元には何もなく、空中を掻いている。



 どうしてこんなことになったのだろう。──もう、俺にも分からない。



 俺は水澄(みすみ)深夜、二十二歳社会人。

 まだ小学生になったばかりの夏休みに、俺は両親を亡くした。

 逆走したトラックによる事故だった。顔にまで掛かった親の血と、見る果てもなく潰れた両親だったモノは今でも忘れない。

 親戚もおらず一人になった俺は児童養護施設で育った。



 そして高校卒業後。かねてからやりたいと思っていた仕事に応募するも不採用になり、約一年の就職活動の末、たどり着いた営業職の会社で働いていた。

 既に勤続年数は三年程で、そこそこ真面目でミスも少なく、堅実な仕事は高く買われている。

 営業なんてと思っていたが、慣れてみればこの仕事も悪くなく、このまま何となく時間が過ぎてゆったりと昇級していくんだろうと思っていた。

 


 当時会社では大幅な事業の拡大を図っており、その一環として重要な取引先との交渉や企画を任されていた俺は、色々とトラブルに遭いながらも着々と仕事を推し進めていた。上司が日々の努力を買って現場を任せてくれたのもあってか、成功できれば昇級もするだろうしと、ずいぶんと張り切った気がする。



 いよいよ仕事も大詰めといったその時、事件が起こった。

 就業時間も終わり、暗いオフィス中で書類の作成に残業していた俺宛に一本の電話が掛かってきた。電話越しの相手は取引先の代表人物で、話し合っていた取引内容に齟齬があったとの事だ。「こんな忙しいときに」と叱責する相手の話す内容は、何れも俺の身に覚えの無い事ばかりで、こちらからの一方的な物だった。



 結局、俺が慎重に時間をかけていた取引は白紙に戻り、信用を失った会社は事業の拡大に失敗。

 身に覚えの無い言いがかりをつけられたとはいえ、何の冗談か俺のサインが入った確認の書類を突きつけられた俺は、成す術もなく会社を追われた。俺の弁明など聞く余地も持ってくれない。



 会社を去る際、デスクの整理をしていた俺は、はっとした気分になった。取引に向けて用意していた重要な書類の一部が無くなっており、さらには様々なデータの入っていたメモリーカードも消えていた。明らかな悪意を持った人物の介入があったに違いない。恨まれるようなことをした覚えは無いが、一先ず不自然なトラブルの理由が分かった。

 俺は、謀られていたのだ。



 仕事をクビにされ、途方に暮れていた俺だったが、そんな俺に声を掛けてきた奴がいた。来栖啓太という名前で、俺がクビになる半年ほど前に職場を去った同僚だ。

 年も近くプライベートでも結構仲良くしていた間柄で、誰から聞いたのか俺の事を心配してくれていたらしい。



 久し振りに再開し、適当に入った居酒屋の席で、酒が入っていたこともあってかすぐに意気投合した所で聞いた話によると、来栖は何と起業を目前にしており、新しく起こす会社に来ないか、と誘われた。



 以前と同じく営業チームに就くことや、突然の失業にショックを抱えていた俺にとっては正に天啓とも言える有り難い話で、俺は二つ返事で快諾した。

 新しい仕事と、創業に立ち会うといった期待。「仕事ぶりは近くで見知っているし、お前なら安心して任せられる」という来栖の優しい言葉に、俺は涙もした。貯金を崩して起業に先立つ運営資金の投資にも協力し、これからを待ち受ける第二の人生に決意を固めた。



 そうして慌ただしい日々を過ごしながらも、人生に充実を感じていたのだが、現実は最悪なものだった。



 突如、来栖への連絡が出来なくなった。

 


 電話を掛けるも「現在は使われておりません」という音声ガイダンスが流れ、繋がらない。番号の間違いではないかとすでに十回は試したが、結果は同じ。電話に何かあったのではと来栖の住むアパートを訪ねたが、家を引き払ったのかドアのポストには「入居者募集」の看板。もちろん、居留守ではないことも確認済みだ。

 仕事仲間だと、紹介された人への連絡も来栖と同じで繋がらない。



 できる限りの全てが終わって漸く、俺は自分が騙されていた事に思い至った。



 起業への投資金、そのついでに勤務先の近くへ引っ越した費用。通信料の支払いや、クレジットの未払い等、既に俺は無一文と言っても差し支えない。今さら就職活動するには、のし掛かる支払いが多すぎる。あまり親しい人間関係の無い俺には、身近には頼れる人間も居ない。このまま行けば、日々の食事にすら困るほどではないかという状況だ。



 それでも最初の頃はまだまだやれるはずだと自分を励まし、すぐに入れるバイトを三つも掛け持ちし、休日には慣れない日雇いの仕事を入れてでも借金返済のため奮闘していたのだが、現実はそうはうまく運ばない。

 日々のストレスや睡眠不足もあり、慣れない仕事に体力が追い付かず、体調を崩せばそれだけ収入に響く。独り暮らしには割高な家賃はさらに財布を圧迫し、生活費を稼ぐのに精一杯の生活では借金の返済も目処が立たなかった。

 気を紛らわすための酒の量も少しずつ増えていき、精神科に通院する金や、薬の量も比例して増えていった。日雇いだけでは補いきれなかった分の金は借金として積み上がって行く。



 そうして数週間の間生きていたが、まるで沼にはまったような悪循環からは抜け出せず俺の人生は転落していくばかりで、あがけどもどうにもならない現実に、俺の心はついに折れた。



 もう、何もかもどうでもいい。

 騙されて失くしたものも。

 休みなく次々にやってくる仕事も。

 ひいてはこの、救いようのない人生でさえ。



 ただ、生きることに疲れた。

 不幸がまとわり付いているような自分とは逆に、歩きざまにすれ違う笑顔の人々は何だか違う人種に見える。まるで選別されたように、幸せを享受する者がいれば、不幸を負い続ける者もいる。必要の無いものとして世界に判断されたように感じた俺は、早々にリタイアすることを決めたのだった。



 だから今、ビルの屋上にいる。ここから身を投げれば、この煩わしい肩の荷を降ろすことができる。



 これが最後ならと、コンビニで買った350ミリの缶ビールを煽った。我ながら情けないとは思ったが、所持金では酒を買うのが精一杯だったのだ。これも仕方がない事だ。

 飲み干した缶を隣に置くと、風に吹かれて遥か遠くの地上へ落ちていく。

 程なくしてカラン、と音がした。



 「世捨て、か。思いきった事をするものだ」

 「うわっ、ていうか誰なんだよ!!」



 隣からいきなり声をかけられた。驚いて危うく落ちるところだった。



 まぁ、これから落ちるつもりだったのだが。

 


 見た所、20代後半辺りだろうか。黒いズボンに燕尾服。サーカス団の手品師みたいな格好だが、シルクハットや杖は持っていない。目を細め、ニコニコとこちらをのぞく優男の姿があった。

 いきなり現れた事もそうだが、ここはビルの屋上。既に夜も遅く、極めつけにはここの屋上に出るための扉は錆び付いており、開けたのなら必ず大きな音がでる。ここへ来るまでの間に、俺が気が付かない訳がない。

 怪しいことこの上なく、俺は警戒をあらわにする。



 「ふむ、警戒されてしまったか」

 「当たり前だろ。どう見ても怪しさ満点じゃないか」



 はは、とその男は楽しそうに笑った。俺の訝しげな態度を歯牙にかける風でもない。

 やがて男は立ち上がりズボンの埃を払うと、やや大袈裟に頭を下げた。



 「世は"贖罪" 幻想の住人(ファントム)が一員である私は、世捨ての案内者。今回の対象者、水澄(みすみ)深夜君はアナタか」

 「申し訳無い。言っていることの半分も理解できない」



 突然立ち上がるから、何をするかと思ったのだが、言動を見るに、ただの変質者だ。

 確か、こう言った手合いは早々にお断りするのが対処方法だったはずだが、どうするべきか。だが、名乗ってすらいないにも関わらず相手は俺の名を知っていた。いや、口ぶりからすると探していた、のほうが妥当か。とりあえずは話だけでも聞いておくべきかもしれない。

 そう考え、男に視線を向ける。



 「色々と分からないので、説明をしてくれ」



 待っていましたとばかりに男がうなずく。



 「ここでは空想のものとなっているが………異世界、というものを知っているか?端的に言えば、そこに君を招待したい。訳あって私は世捨ての案内をしている。世捨てとは、君のように自ら死を望む者の事だ。早い話が、この世界を捨てるなら別の世界で生きないかという訳だな。私の存在については………神のような者と思ってくれれば良い」

 「異世界…………神……?世捨てというのは何となく分かりました。今日のことは誰にも話しているはずは無いんですがね」

 「雰囲気で何となく分かるものよ。混乱するのは仕方が無いだろう。順を追って説明しようか。まずは……」



 自称神を名乗る男の話は、以下の通りだった。



 人間が生活し、文明のある世界は複数存在するらしい。それぞれの世界では個への不干渉をルールに、幻想の住人(ファントム)を名乗る者が管理を行っている。

 そしてこの男、自称神が管理するのが、世界識別名:贖罪という世界だという。

 その世界は、幻想の住人(ファントム)が過去に犯した過ちによって不幸な前世を背負った魂を持つ人間が暮らしているという。

 話の要点をまとめると、大体こんなものだ。

 


 その世界へと、俺が呼ばれたという。

 つまりは、そう言うことなのだろう。俺が不幸を被ったのは、どうやら幻想の住人(ファントム)とやらが起こした暴走が原因であると想像できる。具体的に何が関わってどこがどうなったのかは分からないが。



 「では、水澄深夜。こちら側へ来て頂けるか?」



 俺は首を縦に振った。



 「ありがとう、感謝する。ただ、一つだけ、勘違いをしている君に知識を授けよう」



 俺の頭に、幻想の住人(ファントム)の男が手を添える。

 狭まる意識のなか、その声だけははっきりと響いた。



 「君の不幸は、君自信の愚かさだ。あの世界は、前世が不幸だった者達への贖罪だ。現世に生きる君の境遇などは知らない。私たちの責任にするとは全く、反吐が出る」

更新はなるべく早くしたいですが、ストックが無いので遅いかもしれないです。

用意が悪くて申し訳ございません。

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