上杉謙信はあえかな女で候!
天文21年、川中島の戦い。
永禄2年、小田原城の戦い。
まだまだ有り余る、名だたる数多の戦いを網羅してきた上杉謙信という名の武将を皆はご存知だろうか。まあ、絵描きが描いた肖像画が広く出回っているから、皆性別も含めてよく知っていることだろう。
だから、絶対にバレてはいけないのだ。
私が、実はあえかな女子だなんて...!!!
***
最近、もっと可愛い物に目覚めてきた気がする。気付けば、可愛い彩りの美味しいお菓子に手が伸びているし、押花や華道、茶道といったかなりインドア派のものまで好きになってきたのだ。勿論、戦国武将の身としては、鍛錬をしなければいけないのだが。
知らぬ、私は女子だ。
親に勝手に男とされたところで、自分の本質そのものは変わらない。知るかばーか、と心の中で叫んで耐えるのが関の山、世の中真実など知らぬが仏といったところ。悪鬼が犇めくこの世で一番怖いのは人の心とはまさにこのことだ。
だって知ってるか?
あのかの有名な豊臣秀吉、実は6本指だったという噂だってあるし、明智光秀とか頭の髪の毛をハゲ散らかしていたらしいじゃないか。
それらに比べたら、まだ自分が女でした、なんてマシな方だろう。
「おい、もっと菓子もって来い。」
口調だけ立派で達者な男言葉となった私は、本日3回目となるお菓子の催促をする。あ、少しやりすぎたかもしれない、従者がピクピクと眉を動かして「失礼ですが。」なんて言って横槍を入れてきた。本当失礼だな、と思いながらも、「なんだ?」と聞く。きっと小言を言われることだろう、耳を塞いでみる。
「上杉様、もしかして戦を開始するのですか...!?」
何処か嬉しそうなその言葉達は、私の少し外れた思考回路を持って聞いても繋がらない。
「何故そのような...?」
「あっ、これは失礼致しました、戦を開始することを従者にも言わない心意気、流石天下人で御座います。どうぞ、作戦会議を引き続きして下さい。」
...あ、分かってきた。成程、つまり私がお菓子のような甘い物ばかり催促するもんだから、頭を使う軍事でも考えているとでも思っているのだ。都合の良い頭だなぁ。
「そ、そうなのだ、だがこのことは誰にも言うなよ。言ったら貴様の首、掻っ切ってやろう。」
焦りながら威厳を持ってそう答えると、お菓子の催促を引き続きする私なのであった。
***
「お風呂に入る!!!!!」
お菓子を食べ終えたら風呂に直行する。これぞ贅沢の極み。本当はこれに琴や二胡でも弾けたら更に良いのだが、それをし始めるといよいよ頭がおかしいと噂されそうなので止めておく。
「...さて。」
湯のある所に入ると、まず私は扉の所に行って聞き耳を立てた。実は、お風呂に入ると高らかに宣言をして入るのは、見て欲しいからとかそんな変態的な理由でではない。というのも、実は...。
「上杉様、今日も凛々しゅう顔をしておりましたねぇ。」
「本当ですわ、きっと鍛錬も欠かさずやっておられてよ。あら嫌だ、またあの従者が此方に来るわよ。」
「どうせ覗くなとかそんな注意事でしょう。全く、誰がアンタの裸なんて見るもんですか。見苦しいったらありゃしない。」
...女官の噂話が聞ける機会なのである。今日の議題はお察しの方もいるかもしれないが、どうやらあの従者らしい。まだ話しかけてもいないのに、見苦しいと言われている従者に憐れみの念を持ちながらも、私は聞き耳を立て続ける。
「こら其処の女官!!今は上杉様が風呂に入っている時間であるぞ!!」
「ほら、またいらっしゃったわ。まぁまぁ、暇なのねえ。」
「ああやって犬のように五月蝿くして、全く去勢でもしてしまおうかしら?」
「ちょっとふきさん、面白すぎよそれ。」
クスクスと笑われている従者に、何時か女人でも描かれた書物を持っていって慰めてやろうと決意した私なのであった。
***
「...これ、何ですか、上杉様。」
「え、女人の書物だぞ?」
「そうじゃなくて、不謹慎すぎですよね...。これ、くれるんですか?」
「おう、やる。勉強して来い。」
何を、と口が動いている従者を見ず、頑張れ従者、と遠い目で祈っている私なのであった。
友人に、「上杉謙信って女だよ。」的なことを言われてインスパイアされたお話。
*諸説ありです。
物語の構成や歴史的要素皆無、作者が楽してるっぽい(?)只々作者の趣味小説。
【となりの吸血君】の更新は待って下さい(汗)