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WRECKTHERION(仮題)  作者: montana
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命脈の力

「でもあんたあれよ、しつこいようだけど治療費はしっかりもらうんだから、その旨をちゃんと伝えといてよ!」

 ユニグルは俺を見上げながらいった。なぜこうなったのかよくわからないが……彼女は俺の膝を枕にして寝っころがり、チーズを挟んだパンをかじっている。さっきから俺の足やソファにパンくずボロボロ落ちてんだけれど……。

「どうしても支払えない場合は使いっ走りとかしてもらうんだから!」

「ああ、それはわかったが……」

「医療器具はほんと高いのよ! クリエイションマシンがつくるんだから労力なんてそうかかってないでしょうに!」

 クリエイションマシン、か……。やはりあれでつくってるんだな。

「そういや、どこから買うんだっけ? ギマの業者か?」

「そう、馴染みがいてね。ソ・ヴァーっていう女医を通してこっちに回してもらうの」

「へえ……え? ソ・ヴァーっていうのか?」

「そおよお」

 ユニグル……マジでパンくずこぼし過ぎだろ……!

「知り合いというか妹にソ・ニューっているんだ。親戚かな?」

「はあ?」ユニグルはがばりと起き上がる!「それってギマよね? なんでギマの妹がいるのよ?」

「いやあ……なんだかよくわからないが、そういう話になって……いまじゃ姉ひとりに妹がふたりいるんだ」

「なんなのそれ!」ユニグルはパンを振り回す!「なんなの、なんなのよそれっ!」

「待て待て、パンくず飛び交っているから!」

「じゃあ、私もそれに加わるから!」

 そしてドスンとまた膝に寝転ぶ……。いや、加わるってなぁ……!

 でも悪い気はしないな。……俺もこいつに甘くなったもんだ。まあ、あんなところを見てしまってはな。

「……それでさっきの話だけれど、苗字が同じだし親戚かなにかなのかな?」

「さあ? そもそもギマの名前って略称よ?」

 略称……?

「……そうなのか?」

「彼女はたしか、ソダリラ……なんとかかんとか、だったかな? とにかくすごい長いのよ、ギマの本名って。苗字……といっていいのか、家柄とか続柄に関係して名前が組み合わされているらしいの。本人ですら知らないケースがよくあるわよ」

 へええ……マジかよ!

「しかもね、まったく同じ苗字……こうなると苗字っていえないか、それがないらしいのよ。だからかなり略称して名乗ってるのもわざとかもね」

「わざとって?」

「うーん、なんていったらいいか難しいけど、混同させやすいじゃない? そうすると同じねーって協調意識が生まれる。そんな心理効果をどこかで求めてるってなにかで読んだわね」

 そういうものなのか……。

「逆にいえば本名を知るってことはただごとじゃないわけよ。だから不用意に聞かない方がいいわよ。関係性とか一変する可能性だってあるんだから」

 なるほど……。

 うーん、でも……。

 ニューやテーとか、家族とまでいってくれたのに、本名知らないってのもなんだかモヤモヤするなぁ……。

「それはそうと、まさかドラゴンブラッドとはね」ユニグルはうなる「しかも、武器に仕込むとは……」

「毒物としての利用、か……」

「どうかしらね? 簡易実験なのかもよ。とりあえず斬りつければ血は混入するし、それで生き残ったらサンプルとしてさらうとか」

 なるほど……!

「しかしヤバいな、一度でも斬られたら終わりってのは」

「それはあれよ、ADBを渡しとくわよ」

「本当か、いいのか?」

「死なれてもつまんないし……」

 ユニグルは立ち上がり、金庫のように頑強そうなケースから注射器を数本、持ってくる。

「この部分をボキッて折って中身を出して、こっち側を……押しつければ勝手に針が出て注射完了よ」

 注射の使い方を簡単に教わるが、

「それはフェリクスに渡してくれ。俺はすぐにこの場を離れるし、必要になるのはきっとあいつの方だろう」

 ユニグルは顎を引き「そうなの?」

「ああ。ところでADBってなんの略称なんだ?」

「そのまんま、アンチ・ドラゴン・ブラッドよ。ドラゴンブラッドに入っている成分を不活性化させて竜化を防ぐの」

「竜化……。もし生き残ったら人がドラゴンになる?」

「なりはしないと思うわよ」

「……ならない? 例えば……」俺はスクラトを思い出す「例えば、ドラゴンっぽい人間に変身することはないと?」

「ないわけじゃないわ。そう、先祖にディモがいるとか」

 ああ……。そういう種族もいるんだったな。

「母系特殊優性……」

「あら、よく知ってるわね。そうそう、フィン……つまり私たちみたいな種族ね、それ以外の異種族同士、例えばギマとウォルとか、そういう組み合わせでは子を成せないけど、オリジンとは子を成せる。そしてその外見的特性は母系に準じて決定されるけど、異種族の血が消え去るわけじゃないの」

「ちゃんと混血になっている?」

「ええ。そしてドラゴンブラッドはその血を引き出す可能性があるわ」

 血を、力を引き出す……。

「……じゃあ、例えば血筋次第ではギマやウォルとかに変化する場合もある?」

「ある……かもしれないわね。実例は聞いたことないけど。だからよ、ドラゴンだって環境に合わせて変化するってのは正しいけど、ニュアンスが違うのよ。もともともってる変化パターンが環境によって複合的に発現するの。だから同一個体はほぼ存在しない。でも、どれもが同一種であるわけ」

 へええ……そういうものなの。

「なんだかドラゴンって奇妙だな……」

「まあ、特別な獣だとは思うわね」

 次から次へと興味深い話が出てくるが……。

「そろそろ行くよ」

 ユニグルは鼻を鳴らし「今度はどこに?」

「ギマの特高を手伝うんだ。ワルドがクルセリアと戦うのにオンリーコインが必要でな。手を貸せば報酬として手に入るらしい」

「特高!」ユニグルはうなる「……あれ関係の仕事はまずいわよ。なんせギマでも最強クラスの集団だからね」

「え、マジかよ? そういうのは軍人なんじゃないの?」

「もちろん兵隊にもいるわよ、特殊部隊の精鋭ね。でも軍人ってのは基本、組織としての強さを重視するものだから。様々な兵器を適正な場所で正確に運用することを目的とした集団なのね。だからある意味凡夫の集団なわけよ」

「……そうなの?」

「考えてもみなさい、軍人の使命は国を守ることでしょ? ということはなにより帰属意識、愛国心が大事なわけよ。個人として強いから採用、精神性はどうでもいいなんて逆に危ないわけ」

「た、たしかに……」

「だから個人の能力を前提にはおかないの。もちろん優秀な方がいいでしょうけど、能力からふるいにはかけることはしない。それぞれ適性に合った場所に配置されるのみよ」

「なるほど、戦闘力は兵器の運用と訓練によって身につけさせるってことか……」

 優れたシステムは凡夫を好む。グゥーがいっていたことだな。……あれは軍隊のことでもあるのか。

「そう、だから重要なのは精神性であり、隊としての強さ。そういう意味ではギマとウォルの軍は最強の組織でしょうね」

「でも特高は違う?」

「あれは明確にマンハンターだから。立場は警察の延長だけど、追跡、捕縛、暗殺に特化した組織なの」

「……強いんだな」

「その表現は正しいけど、あんたの認識はそうでもないかもね。あんたのいう強いの定義ってなに?」

 強さの定義……。

「すごい破壊力とか……?」

「いいえ、例えばあんたの異能のことよ。あんたってば、あの方と似たような力があるんですってね?」

「……え、なんだよ突然?」

「つまり、生存力において強靭という意味よ。いい? 山を吹き飛ばせる力を持ち、無敵の盾を形成できる魔術師がいたとしても、二十四時間トップクラスの暗殺者に狙われたら殺されちゃうわよ」

「……まあ、そうかもな」

「生存において予知と潜伏の能力はとても強靭よ。特に潜伏能力は攻防において恐るべき力を発揮する。この才能に極めて秀でたごく僅かの者は、組織において必ず重要な位置にいるでしょうね」

 まさにニューのことだな……。殺しの異才と自身を表現していたし……。

「ダイモニカスだかなんだか知らないけど、あんなものを持ち出して、クルセリアだっけ? まず助からないわね。あんたのお仲間が戦うまでもなくいずれ死ぬわ」

 ……そう、だな。たしかに、あの魔女がいくら凄腕でも、この地の各勢力に喧嘩を売って無事に済むとは思えない。かといって外界に逃げる様子もない。いったいなにを考えている……?

「……じゃあ、軍とかはあのダイモニカスをも落とせるのか?」

「どうかしら? まあ可能だとしてもやらないでしょうね。考えてもみなさい、あんな大質量のものが落ちたらどれだけの被害と問題が発生するか。森を破壊して生態系が変わると、奥からとんでもない獣がやってくるかもしれないし、その点について慎重にならないわけがないわ」

 そんなに奥の獣はヤバいのか……。

「奥は本当に魔境なんだな……」

「そうよお」

 ……クルセリアはハナから死を覚悟している。少なくとも、あの手紙のニュアンスはそうだった。

 しかし、なぜだろう? ワルドとの決着をつけるにしても、なぜあんなものを引っ張り出してきたんだ……?

 ……やはり妙だ。きっとなにか意味がある。

 そして妙といえば気配があるな……! かなり薄いが……!

「……誰かいるのか?」

 一寸の間をおいて「ああ、こんにちは」と返事が……!

 そして黒い帽子を深々とかぶり、襟を立てたコートの男が入室してくる……。しかもこいつは……どうやらギマのようだ。宿に現れるとは……。

「なるほど、私に気づくとは聞きしに勝る感度」

 静かだが、深い声……。ニューに近いこの薄さ、これは只者ではない……!

「特高か……!」

「そうだ。私はゼ・フォー。君を迎えにきた」

「……迎えに?」

「我々は君に協力を求めたつもりだったのだがね、別行動をしているとはな」

 ……俺の、だと?

「俺の仲間は?」

「向こうにて待機している」

「……いったい、なんの任務なんだ?」

「ザヘル・ダッガの捕縛だ。奴は違法薬物を売りさばいている元締めのひとりでね、ともかく同行を願おう」

「オンリーコインの件ではないのか?」

「それもある。まあ、動きながら話そう」

 仕方ないな、みんなと合流したいし、行くか……。

「……じゃあ、後は任せた」

 ユニグルは肩をすくめ「私はできることをするだけよ」

 そうだな、医者だもんな……って、

「おおっと、いい忘れていた。あの皇帝な、シフォールに狙われているんだよ」

「シフォール?」ユニグルは首をかしげる「……誰?」

「知らないか? ヴァーミリオンとも呼ばれている」

「ああー、あいつね! ついに女になった?」

 ……なに? なんだそりゃ?

「なんの話だ?」

「性転換について聞いてきたから。あと女性ホルモン欲しがってたし、ヒョロっとしてるから女になりたいのかと……」

「いや、皇帝を女にしたいらしい……」

「ああ、そっちなの!」

「お前、女性ホルモンとかいうの渡してたの?」

「そうよ、払いよかったし」

 お前も一枚噛んでたのかぁ……! 俺がため息をつくと、ユニグルは頬を膨らませる。

「なによ、よかれと思ってやった面もあるのよ。聞けばあの皇帝……アレをアレされた……みたいな話あるじゃない?」

「……あ、ああ」

「そうなるとホルモンバランス崩れてよくないでしょ。だからどちらにせよホルモンを与えた方がいいんじゃない?」

「だとしても、皇帝は男だぞ……?」

「知らない。どうでもいいし」

 お前にとってはそうだろうがなぁ……。

「ともかく、奴が皇帝をさらいにくるかもしれない。その場合、下手に干渉するなよ、奴は危険だからな。あと……フェリクスとレキサル、それにヴォールも残していくから、なにかあったら彼らに頼ってくれ」

「いわれなくても、面倒ごとになんか首を突っ込まないわよ」

「深追いはさせないようにな。それに問題はフェリクスだ。あいつは皇帝を守ろうとしているからな。もしもの場合は……頼む」

「はいはい」

「お前はしばらくここに?」

「ええ。当面は救急ギャロップを買うための資金集めをするわ。ここは患者に困らないしね」

「そうか……そうか? ここの金で支払えるのか?」

「ええ」

 そうなのか……? 外界ですら、為替に苦労する場合があるのに……。

「ともかく、また世話になると思う。よろしくな」

「当然よ。それに……」ユニグルは俯きがちになる「どうしてもっていうなら……なるべく痛くしないようにするから、なにかあったら戻ってくるのよ?」

「ああ、ありがとう、本当にな」

「べ、べつにいいわよ……!」ユニグルはソファを叩く「感謝したいなら、いい感じに怪我でもしてきなさいよ……!」

 いやあ、怪我はなるべくしたくねぇよ……! 特高の男、ゼ・フォーは肩をすくめ、

「早くしてくれないか?」

 そしてフェリクスらに皇帝派の護衛を頼み、俺はロッキーと一緒にゼ・フォーと宿を出る。

「……あんた、よくここまで来たな。バレたら面倒だろうに」

「堂々としていれば意外となんとかなるものさ」

「相当、気配断ちに長けるみたいだな。あんたも姿を消せるのか?」

「迷彩を使えば」男は俺を見やる「ソ・ニューと面識があるとか」

「……ああ」

「彼女はどうだ?」

「……どう、とは?」

「精神的に安定しているかね?」

「……している。なぜ、そんなことを聞く?」

「危うい存在だからだ。彼女は通常時においてすら感知できん。しかも、その気になれば気配どころか記憶からも消えるのだ」

 なっ……?

「なんだと?」

「有効範囲は不明だが、記憶障害を起こすなんらかの能力を有していると推察されている。これは大変に危険なことだ」

「馬鹿な、そんなことが……」

 可能だというのか……?

「君とは懇意のようだな」

「あ、ああ……」

「軍部に加えたのは失策だった。あんな異才に戦闘訓練を叩き込むとは、大佐は最悪の戦闘員を生み出したな」

「……大佐?」

「ロ・エー大佐だ。森の中から彼女を拾った恩人だな」

「……拾った? ルクセブラではないのか?」

「拾ったのは大佐だ。ルクセブラが横取りしたようだが、どうにも教養を与えるのみに終始したようだな。有用だが、下手に干渉してはならないと考えたのだろう」

 ええ……? じゃあ、そこは俺の勘違いか……?

「……ええっと、その大佐が拾って、ルクセブラがさらって、黒い聖女の側近になって……?」

「その後、大佐と再会し、入隊した。そして専門知識と技能を得たのだ」

 ほう……そういう流れだったのか。

「現状はメオ・ユー邸にいるようだな」

「ああ、いまホーさんたちと一緒みたいだけど……そういや任務とかはいいのか?」

「重要な潜入任務が発案された際には招集を受けるが、それ以外は自由にさせているようだ」

「へえ、軍人のわりに緩いんだな」

「大佐にとっては娘か孫のような存在だからな。そして同時に、極めて有用な道具ともいえる」

「道具だと……!」

 ゼ・フォーは俺を見やり、

「大佐はある意味、強力な実権を手にしている。恐るべき暗殺者という駒があるのだからな」

「ニューは命令でも、殺しなどしない……!」

「それを望んでいないことは知っている。大佐もおそらく同感だろう。与えられている任務はあくまで情報収集に徹しているようだからな。しかし周囲はそう思っていない。先にも述べたが、高度な戦闘訓練を受けさせているからだ」

「……大佐はなにを考えている?」

「切り札のつもりらしい。なんらかの脅威に対する」

「なんの?」

「なんらかのだ」

 なんだそれは……?

「どのみち、周囲はそれを快く思ってはいない。ゆえに、かなり危うい立場にあると思われる」

「……ニューは大丈夫、なのか?」

「暗殺の可能性かね? 非常に困難であるし、失敗した場合、報復によって指揮系統に致命的なダメージを受ける可能性が高い。まあ、実行には移せんだろう」

 ……そうか、ならばいいが……。

「そういう意味においても、彼らは君を囲いたいと考えているようだ。彼女には大変気分よく生活してもらい、ときおり重要任務を完遂してもらいたいのだ」

「……俺を?」

「我々もまた、よい友人になれると思う」

 友人、ね……。

 まあ、特高とギマの上層とはつながりが深いそうだし、無下にしていいわけもないわな……。

「そうだな、妹の幸せを考えれば……」

「妹だと……?」ゼ・フォーは驚いたようだ「君は彼女に家族と認められたのか? 彼女の気配を感知できると?」

「……だから、声をかけたんじゃないのか?」

「いやはや、なるほど、面白い」そして彼は深く笑む「よし、ではさらに深い情報を伝えよう。彼女にはパムの血が流れている。異常な気配断ちの能力はそこからのものだろう」

「なんだと?」

「パムは他種族より気配断ちが得意な傾向にある。パムとフィンの混血がさらにギマと子を成したのだ。彼女の両親は事故死したとされているが、おそらく撃墜されたのだと我々は考えている。過激な純血主義に狙われたのだな」

 ……マジかよ、純血主義なんているのか!

「だがこのことはもちろん口外無用だ。復讐の芽を育て、殺しの花に魅せられては困るからな。そうではないか? 友よ」

 友と呼び合うには躊躇するが……いっていることは正しい、な。

 ニューがユニグルのように復讐をしないとは限らない……。

「……あんたは混血に反感を?」

「ないわけではない。私は愛国者であり民族主義者でもあるからな。しかし、他種族との混血がときおりすさまじい才能を開花させ、それがギマへの利益になるとしたなら歓迎しないわけではない」

「なるほど……」

 故郷を捨てた俺とは逆だが……俺たちに対立する要素はない。

 そして俺たちはまた橋を下り、森を進んで広場にたどり着く。

 もう何度もここを行き来しているなぁ……。茂みの奥に隠されているギャロップの方に近づくと、寝ぼけまなこのジューが出てきた。

「あ、どうだった……?」

「うん、無事に助かったよ」

「そう……あれ、誰?」

「特高のひとだよ」

「とっこう……特高?」ジューは目を大きくする「あらら、なんでこんなところにっ?」

「彼の力が借りたくてね。せっかくだ、送っていってくれないかね?」

「そ、それはいいですけど……」

「うん? あんたのギャロップは?」

「ない」

「ない? どうやってここまで?」

「歩きさ」

 歩いて……? んなアホな……。

 ……なんか怪しいな? さすが特高だけあって気配に揺れはないようだが……本当のことをいっていないような?

 まあ、変に追及してもよくないか。俺たちはギャロップに乗り込む……。

「……えっと、それでどちらまで?」

「カルザピオス台地まで」

「……あんなところまで?」ジューはうなる「……りょーかい」

 今度は台地か……。そこにダッガの拠点とかがあるのだろう。

 そしてギャロップは浮き上がり、発進する。その後はすることもないので休息をしつつ、自動運転で飛んでいくことしばし……。

 ジューは操縦席で居眠り、ロッキーは隅の方で丸くなり、ゼ・フォーはなにやら端末をいじっている。

 ……ジューが流しているのか、かすかにきれいな音楽が聞こえる。うーん、暇だし俺も昼寝するかな……と思ったそのとき、なにやら気配が近づいてくることに気づく……って、警報が鳴り響いた! ジューが飛び起きる!

「あわわ、エマージェンシー!」

 そしてギャロップが加速したっ!

「なんだっ?」

「ビッグウィング! つかまる!」

 おおおっと、すごい揺れるっ……?

「離せこのー!」

 外からバリバリと火器が火を噴く音……! そして天井が透明に……って、うおおおっ……! 赤と黒の羽毛をもつ、すっごいでっかい鳥がいるぅうう……!

「やめて、ひっかいちゃだめー!」

 揺れる揺れる車体が揺れるっ! 攻撃しようにも車内だし、こんなに揺れるなかドアを開けるのも危ない……って、ゼ・フォーが懐より小型の銃を取り出し、上に向けた、撃つのかっ? 細長い光の柱が暴れる巨鳥の頭を見事に射抜いた……!

「あっ、私の馬に穴あけた!」

「迅速な処理に対し、ご協力感謝する」

 おい、そんなことより、巨鳥の爪がギャロップに引っかかって離れていないぞ! 巨体の墜落に引っ張られる!

「……うわわっ? 重い重い!」

 車体が傾くっ! ジューが体勢を立て直そうとするが、ギャロップは巨鳥の重さに引っ張られて降下していく……!

「ちょっとちょっとなんとかして……!」

「そうはいってもよ!」

 また光線が放たれ、巨鳥の爪を焼き切った……直後にギャロップの体勢が整う……!

「もおお、また穴あけたっ!」

「ご協力に感謝する」

 愛馬を二度も貫かれ、ジューは憤慨しきりだ。

「修理費、払ってもらいますからね!」

「請求には応えよう」

「これけっこう希少な馬なのにー!」

 まあでも、あれじゃあ仕方ない……って、あれ?

 ……なんか、いますごい勢いでなにか飛んでいったような?

「ええっ……?」ジューだ「なにあれっ……?」

 前方を見ると、うっ……嘘だろ、地上から大量の……槍? それとも矢か? とにかく、大きく長細いものが、すげぇいっぱい飛んでくるっ……!

「やばいっ! かわせっ……!」

「わわ、わかってるけどぉ……!」

 ギャロップは上下左右に動いてかわすかわす、マジでなんなんだよ、森からこんな勢いで、こんなでかいものが……っと、そのときギャロップに衝撃! かすったか!

「いやああもおおおおっ!」

 続いて幾度も衝撃がはしる、しかし被害はあるものの……直撃していないだけマシだ……と思った矢先っ! ゆっ、床から鋭利なものがっ! 突き出してきたっ!

「いいいいっ!」ロッキーが抱きついてくる!「はっ、早く早く、アタシらのお尻が危ない!」

「あああん! 私のお馬ちゃんがぁー!」

 ギャロップは懸命に空を駆ける! 後ろからまだ撃ってくるぞ、なんなんだよ、俺たちがなにをしたってんだ!

「あれ?」ロッキーだ「……止んだ?」

 おっ? 本当だ……? 突然、ぱったりと止んだ……。

 よ、ようやく終わったか……。

「なっ……なんだったんだ……」

「お……お尻、無事でよかった……」

「お馬ちゃん……」

 放心していると、きれいな音楽がまた聞こえてくる……。気を休めながら外の風景を眺めていると……見えてきたな、台地らしき隆起した地形が遠くに鎮座している……。

「目立つのはまずい」ゼ・フォーだ「低空飛行し、ある程度進んだら着陸してくれ。そこからは徒歩だ」

「えっ、まさか、あの台地登るの……?」

「まあ、そうともいえるな。崖登りはしないがね」

 しない……? よくわからないが、ならいいか……。

「えっと、みんなはどの辺にいる?」

「台地の向こう側だ。二手に分かれて侵入する」

「挟撃か……」

「我々はダッガを生かして捕らえたい。くれぐれも殺さないようにしてくれ」

「……いつだって、殺すつもりでは戦っていないさ」

 そしてギャロップは森のなかに着陸した……途端に、ジューがバッタリと倒れ伏した……。

「ありがとう。帰りはこちらの馬で戻る。君は戻っていい」

 ジューはのっそりと顔を上げ、ゼ・フォーをじろりと睨む。

「……高くつきますからね」

「ご協力に感謝する」

 そして怨嗟の眼差しを背に、俺たちは森を進む……。

 しかし、台地はかなり先のようだ……。

「こんなところから歩くのか?」

「これ以上、あのギャロップで接近するのは難しい。撃墜される危険性がある」

 それなら仕方がない、か……。

「しかし、あんなところに隠れ家が……?」

「というより要塞がある。だが、下調べは済んでいる。ダッガの捕縛はそう難しくないはずだ」

「終わればオンリーコインをくれるんだな?」

「ああ。あそこにも相応にあるだろう。必要な分はもっていっていい」

「というかあんたらさ、ダイモニカスを止めないの? クルセリアもさ」

「命令があればな」

 なんだか悠長だなぁ……。違法薬物とやらの元締めを捕縛するのも重要だろうが、目前の脅威といえばあれの方が上じゃないのか……?

 いや、しかしダッガはルクセブラの弟子だったか、それにこの騒ぎにすぐさま乗じて動いたらしい。

 こちらから攻めた方があるいは早いのか?

 ……まあ、行けばわかる、か……。

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