マッディ・ダンス
さて、さっさとグゥーに会うべきだな。冒険者の宿のコインがオンリーなら、標的にされてしまう可能性が高い。徒歩じゃ時間がかかりすぎるし、ぜひともグゥーの力を借りたいところだ。
ええっと、待ち合わせ場所は……ここの食堂だと? ということは、あいつもこの地下に入る権限をもっているのか。
「まずはグゥーと会おう。重要な情報が得られるかもしれない」
そして俺たちはまた食堂へ……するといたな、テーブルにグゥーはもちろん、ジューの姿もある。
「よお! 早かったな」
グゥーは片手を上げる。元気そうだ、完治したようだな。ジューは……青いネクタイをし、胸元と襟、そして袖先の部分しかない……妙に色っぽいシャツを着ている。しかし、その袖先の部分にはなんの意味が……?
「治ったようだな」
「ああ、医療さまさまだ」グゥーは笑む「しっかし、こんなところにまで足を踏み入れるとはなぁ! どうやったんだ?」
「蒐集者だよ。ここで戦力を強化しろってさ」
「なんでまた手を貸す?」
「いろいろあるが……ようは、なめていやがるのさ」
「ふーん……」
「それに、ジューも?」
ジューが……じろりとこちらを見やる……。
なんか、ご機嫌ななめな感じ……?
「ど、どうかした?」
「……最近、モテモテなご様子で」
モテモテ……? そ、そうかな……?
だが、そうだとしても素直に喜べないな。殺しにまつわる煉獄の環とやらに翻弄されているにすぎないのかもしれないのだから……。
「……ジューも元気そうだな」
ジューはじっと俺を見つめ、ふと笑んだ。
「うん、元気だよ。久しぶりだね、会いたかった」
「ああ……それで、話とはこの状況のことかい?」
「ああ」グゥーだ「ヤバすぎてわけがわからん状態だが、どのくらいヤバいか情報をやりとりしたくてな」
「そうできるほど把握していないぞ」
「俺たちもさ」グゥーは肩をすくめる「あれの情報は驚くほど少ないんだ。殺戮兵器と呼ばれていたらしいとしか……」
「ああ、聞いたな、それ」
「誰から?」
「メオ・ユー婦人さ」
「聞いた名だな?」
「たしか」ジューは飲みものを口にする「魔術学院の元理事長だったかな? 優れた魔術師のはずだよ」
「ふーん……」
魔術に縁遠いグゥーにはどうでもいい情報らしい。
「ところで……レキサルだっけか、あのフィンと合流したんだな」
「ああ、いろいろと悩んでいるようだが、いまは俺たちと一緒に動いている」
「そしてあのカウガールは?」
「カウガール?」
「あれも信用できるのか?」
「できる。なんというか、人となりがいい」
「なんだそりゃ? それにあれ、なにしてる?」
見ると、ロッキーがシリンダーとにらめっこをしている。……俺としても、わりと無茶な提案だったと思っているんだが、本当にできるんだろうか……?
「俺の新しいシューターの弾込めだ。具象魔術で刃をつくるんだよ」
「へええ」グゥーは仰け反る「お前のアイデアか? 妙なこと思いつくもんだな」
「それよりダイモニカスだろ」
「ああ、そうだそうだ」グゥーは前のめりになる「……でだ、なんで殺戮兵器と呼ばれていると思う?」
「そりゃあ……あの怪光線を見れば……すごい戦力を保有しているんだろうとしか……」
「ところが、ほんとにヤバいのは雨らしいんだ」
「雨……?」
「ああ、あれから降る雨がかなりヤバいらしい」
……雨だと? さっきもホーさんがそんなことをいっていたな?
なんだろう、毒か? それとも酸とか……?
「というかさ」ジューだ「なんか変じゃない?」
「なにが?」
「さっきの突撃、最前線でレポーターがいってたでしょ、かつて人類を瀕死に追いやったとかなんとか」
ああ、たしかにいっていたな。
「でもさ、それってシンがやったことなんじゃないの?」
グゥーはうなる。
「……さあな、混同されたのかもしれないし、時代が違うのかもしれない。オールドレリックだし、シンがくる前にもヤバい時代があったんじゃないか?」
「……でも、そんな情報、どこから入手したんだろう? 私たちですらろくに知らないのに……」
「最前線のルナか」グゥーは腕を組む「メランコリーヌ・ルナティック……」
なに? メラン、コリーヌ……?
「メー・ルナは略称なのか?」
「おそらくメランコリーヌも本名じゃないだろうさ。パムらしい名前じゃないからな。そしてどうにもかなり古い家系の生まれらしいんだ。でも情報はそこまで、何者なのかさっぱりわからん。職業柄、ネタを仕入れやすいのはわかるが……たまに第一情報源としか思えないほどすごいものを引っぱってきたりするから驚かされる」
マジかよ、いったい何者なんだ……? いろいろと興味があるな……とは思うが、いまはそれどころじゃあない。
「さて、話は変わるが、冒険者の宿に戻りたい。またギャロップで送ってくれないか?」
「なに? なんで?」
「オンリーコインだよ、宿で渡されるコインがそれなんだ。ということは……」
「……略奪が起こるって?」
「可能性は高いと考えている。あそこには知人もいるし、なにも知らん冒険者だってたくさんいるんだ、いくら腕自慢が集まってるにしたってあそこは憩いの場だ、強襲を受けたらひとたまりもない」
グゥーはうなり、
「……なるほどな、ということはコインの製造元も狙われるか? 他にはコレクターなんかも……」
コレクター……。そういやいたなぁ、そんな奴……。
まあ、あいつは狙われてもいいか……ってわけにもいかないか? あいつ、いったい何枚もっているんだ? さすがにダイモニカスと交換できるほどじゃあないだろうが……他の勢力に渡さんとも限らないし……。
「コインの製造元はそのままオンリーコイン社だが、所在は不明なんだ。だから最初に狙われるのはコレクターと……質屋、あとはやはり冒険者の宿になるか……」
「コインは全部で何枚ある?」
「現状は10万枚ほどと聞いた。それが世界中に散らばっているらしい」
10万か……。総数としては決して多くないな。7777枚も集めるのはかなり困難だと予想する。
しかし、宿にはいったいどのくらいあるんだろう? 冒険者がやってくる頻度は知らないが、一万枚もあるとは思えない。多くて千枚程度……かな? まるで確信はないが……。
「よし、じゃあ、行ってやるか……」グゥーは肩をすくめる「その代わり、俺たちの問題にも手を貸せよ?」
「ああ。それと……」俺は耳の通信機をグゥーに見せる「これ、通信と翻訳ができるんだ、お前ともできるか?」
「ああ、できるできる、なんだよ、いいもん持ってんな! またスポンサーでも見つけたか?」
「いいや、ニューだよ。ソ・ニュー伍長。いたろ、見舞いの時にさ」
「……伍長?」
グゥーはジューを見やる。ジューも首をかしげる。
なんだ、二人とも忘れたのか? まあ、あの時はただの案内役だったしな、印象に残らなかったか。
グゥーは端末を取り出し、なにやら操作すると、すぐに通信機を返した。
「これで繋がるぜ」
「よし、じゃあ行くか!」
「ああ、そうだ」黒エリだ「途中で我らの駐屯地に寄ってくれないか。移動する手間が省ける」
そういやプリズムロウと合流するんだったな。そういう意味でも都合がいいか。
それにしても、またも宿に戻ることになるとはな……。だが、懸念が当たっていたらかなりヤバいぞ、あそこは大なり小なり腕の立つ冒険者が多い。略奪するにせよそれを阻止するにせよ、衝突した場合はかなりの大事となるに違いない!
俺たちはグゥーの後に続き、通路を進む。その先には……広々とした空間、様々な形状の、たくさんのギャロップが並んでいる!
「ここは……!」
「駐車場だよ。俺のはあっちだ」
グゥーの青いギャロップに乗り込み……天井が開いたぞ! そして飛び立つ!
あっという間に眼下は森となっている……はずだが、夜より暗いので飛んでいる感慨は薄いな。……頭上には漆黒と大小無数の赤い目が浮かんでいる……。
「おい、撃墜されないよな?」
「わからん……!」グゥーはうなる「いまのところ、手を出さなければ攻撃されないという話だが……」
撃墜されたら終わりか……。だがせっかくのゲームだ、無差別攻撃などしないだろう、そう祈るぜ……!
そしていまのところギャロップは無事に進むが……周囲が暗くてどこがどこだかわからないな。ずっと先は輝くように明るいが……。
「スゲーナー」アリャが頭上を見上げて呟く「チョーデカイ……」
「よくこんなものが浮かんでいられるねー……。直径、数十キロはあるんじゃないかな……」
少なくとも戦艦墓場を覆い尽くす規模はあるな。撃破するといっても、可能なのか? 仮に戦力で勝っても、こんなにでかいものが墜落したら……その余波はどれだけのものとなるんだろう……。
「不思議ですね……」エリが闇を見つめながら呟く「よく動いていられるものです……」
……うん? なんか含みのある言い回しだな?
「どういうことだい?」
「えっ? ああ、いえ」エリははにかむ「素人考えなのですが……機械というものは大小様々な部品で構成されていますでしょう? そして大きなものほどたくさんの部品を必要とするものです。ですが、その数が多ければ多いほど故障する確率は上がり、その都度修理をする手間がかかるはず……と思いまして」
なるほど……?
「たくさんの方が乗り込んでいらっしゃるのでしょうか? ですが、そうなると大規模な補給が必要となるはず……。ですが、これまであまり人目には晒されなかったというお話です、あれほどの巨体なのに……」
「……うーん、見えなくしていた、とか?」
「それができても、存在を隠すことは困難なんだ」グゥーだ「例えば気流。あんなでかいものが降りてきたら、気流の著しい変化が観測され、逆算されてその存在が確認されちまうもんなのさ。それに加えて、大量の人員を抱えているとなると、どこからか情報が洩れちまうもんさ」
「搭乗員はアテマタなんじゃないか?」
「可能性は高いな。しかし、そうなるとこれまでの話と矛盾するぜ? お前の話からすると、クルセリア・ヴィゴットは明らかに色濃い万能者の系譜だ。でも、そいつらはアテマタと敵対してるんだろう?」
たしかにな……。
「そうなんだ。だから、利害の一致があるのでは? という話になっている」
「利害ね……。しかし、どこに?」
「わからん」
……などと話をしているうちに着いたな、砦の並ぶあの沼地だ。そして、橋の上にて立っている影が三つ、プリズムロウの面々だろう。ギャロップは着陸し、俺たちは降りる。
相変わらずのヘキオンとボイジル、そして見慣れない男の姿もある。きっと彼がヴォール・シミターなんだろう。黒くて先鋭的なデザインの甲冑のような容姿……だが、服装は赤と黒のジャケット姿だ。うーん、かっこいい技を繰り出しそうな雰囲気があるぜ……!
「やあ、久しぶりだな」
「おおよ、生きてたか! そして姉御、加勢が必要だとか」
「ああ、我らの宿敵は元老院であり、その兵隊が現在、この地にて活動している。その上、あんなものが空を支配しているのだ、野放しにはできんだろう」
「そうだな……。俺の拳がうなるぜ」
ヴォール・シミターは拳を握る……!
でるか、ファイアーパンチ! けっこう楽しみなんだよな!
「し、しかぁーし!」おおっと、ボイジルだ「このような輩ども、信用なぁーど!」
こいつも相変わらずだなぁ……。
「私が保証する。これよりプリズムロウはこのレク一行と行動を共にすることにする」
「なっなな……なぁーぜっ?」
やっぱり納得いかない感じか? ヒャオオォウ! みたいなことにならなきゃいいが……。黒エリは無視して続ける。
「まずは冒険者の宿を保全する。準備はできているな?」
「姉御、それまたなぜだ?」
黒エリは事情を説明する……。
「だが、本当に狙われるのか?」ヘキオンだ「待つだけ待ってなにも起こらず……ってことは?」
黒エリは俺を見やる……。
「……もちろん、絶対じゃあないさ。しかし、可能性はかなり高いと俺は考えている。少なくとも、警告だけはしなくてはならない。これは曲がりなりにも事情を知る者の義務だと俺は思うんだ」
「……ということだ。まだ異論はあるか」
ヘキオンは頷き「いや、ねえな」
「俺もない」ヴォール・シミターだ「開発した必殺技も試したいしな」
ボイジルは不服そうだが、ひとまずは受け入れる姿勢のようだ……と、グゥーが前に出てくる。
「ちょっと待てよ」グゥーだ「あんたらも宿にいくのか?」
プリズムロウの面々は顔を見合わせる。
「問題があるか?」
「あんたら、この地を出れるのか? シン・ガードが飛んできたら終わりなんだぞ?」
……そうか、考えてもみなかった。黒エリたちも遺物扱いになる可能性が……?
ある……かもしれんな。特に黒エリがそうだ、アテマタと融合しているんだ……って、そもそもアテマタは外界へ出られるのか……?
「む、どうなのだろうな?」
どうやら黒エリたちも試したことがないらしい……。
「うーん、まあ、来ないかもしれない敵を宿でじっと待つわけにもいかないからな、ひとまずは警告をしに行くだけだ。お前たちはいったん留守番か……?」
「待て、また置いてゆくつもりか?」
意外というか、黒エリは悲しそうな顔をする……。
「まあ、すぐに戻ってくるから!」
「はあ、また留守番か……」黒エリはうなだれる「しかし、万一のこともある、近くまでは乗ってゆくからな!」
そしてギャロップにみんな乗り込み……って、ぎゅうぎゅうだなぁ! 大柄なヘキオンが膝を抱えて縮こまっている。
「せまいなぁ」おおっと、ロッキーが懐に入ってくる!「でも、ここなら窮屈でもいいや」
「ちょっと、なにしてんのっ?」
ジューが声を上げる!
「なにって、テリーのお願い聞いてるの」
ロッキーはシリンダーを手にしている……。
うう、頼みごとをしている手前、あまり強くもいえないんだよな……。
「やっぱり狭いんじゃないっ?」ジューだ!「サイボーグのみなさま、ちょっとお留守番しててくれないかしらっ?」
「嫌だ」
黒エリが断固拒否する。そんなに行きたいのか。
まあ、懸念しているんだろうな、主にエリの安否を……。セイントバードはすごい魔術だが、完璧とは言い難いしな……と彼女を見やったところで視線が合った。しかし、エリはさっと逸らしてしまう……。
「重量オーバーぎりぎりだ、あんまり動くなよ!」
「動きたくても動けねぇよ!」
そしてまた飛び立つ。うーん、狭いよ暑いよ……。ロッキーが重いよ……。
でも、熱心に刃をつくってくれているしな……。なんかまた周囲の視線が痛い気がするが……。
……ややしてギャロップが降下を始める。よし、着いたか……。
場所は……あの広場の近くのようだな。草を掻き分け進むと、例の大樹に絡みついた巨大な骸骨のお出迎えだ。
そういや、あれなんの骨なんだろう? ドラゴンっぽいような気がするが……?
「よし、プリズムロウの面々はここまでだな」
「小腹が空いたなー」フェリクスだ「おみやげ頼むよー」
「あれ? お前は……」
そういや、こいつもそうなんだよな……。見た目がただの人間だし、中身も超人ってわけじゃないからどうにも違和感がある。
いや、学習能力だか観察力だかが優れているんだっけ? 剣技は上達したのかな……?
「ああ、まあ、大人しくしてろよ」
下手に動いて、シン・ガードが飛んできたらマジで終わりだからな。というか、さっき作った武器は……さすがに大丈夫か。新しいものだし、基本構造は従来のものと変わっていないしな。みんなの装備にもヤバそうなものはない……はずだ。
「よし、行ってくる」
……さあて、グリンの奴は元気かね。山道を進み、橋を渡り、そして見えてきた、宿だ……なっ?
「うっ!」
も、門の前で人が倒れている! まさかっ、もうだと? 早すぎるっ! 俺たちは顔を見合わせる!
「くそっ……! 衛兵をやっているということは、隠密作戦じゃないってことだ、敵は凄腕だぞ!」
「うむ……!」
「急ぎましょう!」
エリの鳥が飛ぶ、しかし焦るな、どこで待ち構えているかもわからないんだ! 俺たちは慎重に急ぐ……! 裏門から馬屋の横を通り、宿の前へ……! 気配を複数、感じるぞ……! そしてこれは……奴のものか!
「チノニオイ、スゴイ……!」
だろうな! 普段の宿と比べて気配の数があまりに少ない! 慎重に扉に手をかけ、開く……!
「うっ……?」
血だまり、血の匂い……! ホール、商店側、そしてラウンジの方まで死体だらけだっ……!
たかがコインで、ちくしょう……!
「やあ、調子はどうだい?」
席のひとつにヴァッジスカルが、死体と同席して茶を飲んでいやがる……! 他にも奴の姿が複数、泥人形か!
だが待て、落ち着け、どこかに本物がいるはずだ! 本物は……カウンター側の奴か!
「そこかっ!」
バスターを撃つっ! 奴は身を翻す……外れたか!
「……ほおお、やっぱり、わかっちゃうんだぁ」
ヴァッジスカルの肩口が切り裂かれ、血が出ている。直撃はしなかったが、当たりはしたのか、再装填……!
「やーるねぇ……!」
今度は外さん! いや待て、奥より別の気配が近づいてくる! こいつは……!
「あまり甘く見るな」奴は、ゼステリンガー!「コインは頂いた、さっさと離れるぞ」
「まだ……残ってるだろ……もっと斬らせろよ……」
さらに真っ赤な剣を持った怪しげな男……。青い軍服、エシュタリオンの軍人か? しかし汚れてボロボロ、髪もほうほうとし、ひどい見てくれだ……。
「お前たちが……!」
「いやあ、やったのは主にこの……なんとか君と、彼の僕さ」
近づいてくる気配はまだある! 徐々に……でかい足音が聞こえてくる、何者だっ?
そして現れるは真っ黒い鎧で全身を覆い、手に馬鹿でかい戦斧をもった巨漢……! そしてその隣には白い仮面の男……!
「実によろしい成果だ。では私はこれで」
「待てっ!」仮面の男はこちらを向く「てめぇ、何者だ……!」
「名乗ることに……」
「意味はあるかもよ。俺様の駒なんだからさぁ」
「そうかね。では名乗ろう、私はエクス。現状はまあ、ネクロマンサーといったところか」
ネクロ……マンサー?
「まさか」エリだ「リザレクションを……?」
「その研究をしている」
なにぃ……?
「各地でバックマンを発生させてる元凶ちゃんだよ」ヴァッジスカルは笑う「失敗続きだけどねぇ……!」
「待て待て、今回はあのフィンと違う。生前の技術をそのまま受け継いでいるのはもちろん、それでいて私に従順なのだ。不死の軍隊まであと少しさ」
「死者を……」エリの鳥が溢れ出る!「操るなど!」
「ほおお、セイントバード! しかも、かなりの高次元!」エクスは不気味に笑う「私の専門ではないが、実に興味深い! よし、やれ!」
鎧の巨漢がこちらにやってくる! そして泥人形が溢れ出し、謎の軍人がふらふら近づいてくる……って、電撃だっ?
「活性、できましたかっ?」
「あっ、ああ!」
いきなりで驚いたが、これで先が視える!
「斬る、キル斬る……」
くるっ! 謎の軍人だ!
「斬るキルゥウウウウー!」
急に駆け出すか、だが……レキサルの矢で吹っ飛んだ!
「あーあ」ヴァッジスカルは肩をすくめる「君の僕の方が理知的なんじゃない?」
「もちろんだよ」
「き……斬る、斬らせてぇええええ……」
謎の軍人はまだ起き上がる。なんなんだあいつは? バックマンなのか? それとも狂人……?
まあいい、さてどうするか。さっさとヴァッジスカルをやりたいところだが、まず倒すべきはあの巨漢か? 強烈な一撃をもつのは明白、一撃たりともくらえない。だが俺なら予知で先読みできるし、バスターならあの鎧をもぶち抜けるはずだ!
「あの巨漢は俺が片付ける! みんなは残りに集中してくれ!」
ここは広い、巨漢相手なら障害物があった方がいいだろう!
「おいそこの鎧野郎、こっちだ! こい!」
カウンターに走る、巨漢が追ってくる! 話からして奴はバックマンだ、生前における致命傷がそのままの威力を持つとは限らない、最終的に狙うは頭部か、攻撃がくるっ!
斧の薙ぎ払い! カウンターを壁にしてかわす、次は上からか! 飛び退く、斧槍はカウンターを両断する! そして奴は跳び、カウンターの上に立つ! 重量級にしては身軽だな、そして上からの薙ぎ払いだっ!
「うおおっ!」
跳んでかわし……たはいいが、持ち替えて二撃目だとっ? やばいっ!
「させるかっ!」
バスターを撃つっ! 右足を両断、奴はバランスを崩し、振った勢いで転倒した!
あ、危なかった……。
しかし……いまの技はまさか……って、巨漢が立ち上がる、だとっ? カウンターを乗り越えてくる、足が繋がっているっ!
「くそっ!」
いったん距離をとる、奴は悠々と歩いてくるが、カウンター内はそう広くない、斧槍を自由に振り回すことはできないぜ!
「テリー!」
おっと、シリンダーが飛んできた、なかには確かに! 刃が入っているようだ!
この状況でつくったのかロッキー! 有言実行、敬服するぜ!
「助かるぜ、ロッキー!」
装填、アサルトを構える!
さてどうする、バックマンを止める確実な方法は頭部の破壊だが、奴は手練だ、当たるか?
いや、やるしかないな!
「くらえええぃっ!」
頭部を狙ってアサルトを連射、だが腕に阻まれる、しかしそれでもいい、こっちだって威力はあるんだ、腕ごとさらってやるぜ!
「うおおおおおっ!」
三十発は撃った、奴の前腕はほとんど原型がない、だがまだ弾数は半分残っている……と、奴は身をかがめ、斧槍で反撃を試みる! 突いてくるかっ! だが、動きは先読んでいる! 残りは頭に命中させてみせる!
斧槍をかいくぐる、ここだっ!
「終わりだっ!」
頭部めがけて全力連射っ! 鎧が剥がれ、顔が……!
やはり、ラ・コォー……!
くそっ! 決闘を望む戦士だったのに、あんな野郎に利用されて……!
だが……なぜだ、少し微笑んでいるような……。
しかし、その顔も瞬く間に崩れ……。
ラ・コォーだった者は、倒れ伏した……。
……くそっ……。
くそっ、くそっ、くそがっ!
「エクスゥウウウウウッ!」
許さん、ヴァッジスカルも、てめぇもっ! カウンターを乗り越え、バスターを構える!
「待て待て、私は戦闘員ではない!」
「黙れクソ野郎がっ!」
衝撃波! ヴァッジスカルたちが吹っ飛ぶ! レキサルの一撃か!
「げろげろ、これさすがにやばいでしょ!」
これは好機だ!
「くたばれ、ヴァッジスカル!」
「待て待てって!」
ヴァッジスカルが泥人形を射線に合わせて並べる!
馬鹿が、丸ごと撃ち抜いてやるぜ!
「くたばれぃっ!」
バスターが泥人形をぶち抜き、ヴァッジスカルは身をかわす!
「おおっ……とっと、なんだいその貫通力は……!」
また直撃はしていないが、裂傷を与えた! バスターを再装填!
「テリー!」
またシリンダーが飛んでくる! 二つめ、アリャの分か? 助かるぜ、受け取りこちらも再装填!
「いやいやいやいや、ホントにやぁあああるねぇー!」
「いい加減に! 死ねぃっ!」
アサルトを連射……いや、光だとっ? 爆弾かっ?
「爆弾だっ! 伏せろ!」
カウンターの裏に隠れる、そして炸裂する光!
しかし、爆風はないっ? 目くらましかっ!
「しまった、奴らが逃げるぞ!」
「ぬうっ!」
ワルドが光線を連射する! だが、気配は急速に遠ざかる!
「逃がさんっ!」
カウンターを飛び越え、突き破られた窓を通り抜ける! 裏門に向けて移動している!
「待てっ……!」
裏手に回ると奴ら三人の姿が! 速い、泥の道を滑るように移動している! 謎の軍人はいないようだ、ワルドたちに任せるか……!
「おおっとぉ? しつこいねぇ!」
アサルトを連射、だが奴らはいち早く壁の裏へ!
「グゥーに通信だ!」
一寸の間をおいて、グゥーが出る。
『こちらグゥー、どうだった?』
「敵が裏手よりそっちに向かった! 見つけたら銃撃でもなんでもくらわせろ!」
『えっ、なにっ? こっちに来るのかっ?』
「ああ、発見次第攻撃しろ! 三人組だ!」
『了解した!』黒エリか『だが、間違いなくこちらへ来るのか?』
「ああ、おそらく道沿いに移動するはずだ! 泥の魔術で滑るように移動しているからな、草むらより土の道の方がやりやすいはず! 敵はヴァッジスカル、ゼステリンガー、そしてエクスとかいう仮面の男だ!」
『ヴァッジスカルだと? それにゼステリンガーとはあやつか!』
「ようはクソ野郎の集まりだ、遠慮は一切いらん! 宿は冒険者の死体だらけだ!」
『……なんだと?』
「発見次第、全力で叩けっ!」
『了解……!』
みんなを待っている時間はない! 広場まであと少しだ! 案の定、奴らの気配も動きを止めた! 足止めに成功しているな!
そして広場に到着、対峙している!
「あーらら、あらら、これはちょっとまずいねぇ……!」
また逃げられては敵わん!
「様子見はかえって危険だっ! やるぞっ!」
アサルトでヴァッジスカルを狙う!
「うわわ、時間を稼いでベリちゃん!」
「ちっ!」
ベリウスは光の壁を周囲に張る、ライトウォールか!
「さあ、やっちゃうよ!」
ジューが大砲を構えている!
「あっ、ちょっと!」ヴァッジスカルは身を引く「それはだめでしょ!」
「バイバーイ!」
発射、大爆発が奴らを包む!
そして黒煙が舞う……!
うおお、これなら奴らも……。
「ぶはっ!」
地面からヴァッジスカルたちの頭が! なんだ、泥の沼になっている……?
くそ、しぶとい奴らだ……! ゼステリンガーはいち早く離脱したのか、やや遠目にいるが、ボイジルとヴォールに挟まれた形になっている……!
「いやぁ、危ない危ない!」
「死ぬところだった。潜って逃げられんのか?」
「泥のなかを泳ぐの大変よぉ?」
ヘキオンが跳んだっ! そして、両腕から太い光線が沼にめがけて照射されるっ……!
……どうだ、今度こそやったか?
「ぶはっ!」
……また奴らが顔を出す。沼地が広がっている……。
「危ない危ない!」
「なあ、このままではまずくないかね……?」
「待って、いま助けを呼んでるから」
「来るのか?」
「さあ……」
黒エリがヴァッジスカルの頭上を駆ける! あわよくば首根っこを掴もうとしたんだろうが、奴らはまた泥のなかへ逃げる……。
「ぶはっ!」
そしてまた顔を出す……。
「危ない危ない!」
「まったく、袋の鼠だな」
「なるようになるでしょ……」
こ、これは思った以上に厄介だな……! 泥の沼に逃げられては攻撃も通り難い……! バスターでも泥の沼ではすぐに勢いを失ってしまうだろうし……かといってあのなかに入るわけにもいかない……。
「なにあれー! ムカツク!」
ジューが……なにかをいくつか投げた……。
「あっ、だからそういうのダメだって!」
そして立て続けに爆発っ! 今度こそどうだ……?
「ぶはっ……!」
ま、まだ生きてやがる! しかし、ふらふらだ……。
そうか、泥でも衝撃波は伝わるはずだ、多少はダメージがあるのかもしれない。
「危ない……っていうか、くらくらするね……」
「私は深く潜ったから無事だよ」
「あんまり奥にまで沈むと大変よぉ……?」
くそっ、あと少しだというのに……! それに時間がない、助けが来てはさらに面倒になる!
「ジュー! もっとくらわせてやれ!」
「そうしたいけど、もう持ち合わせがないの!」
なんてこった、効果はあるのに……!
レキサルはまだか? あの衝撃波ならきっと……!
「ウァアアアア……!」
……なんだ、ボイジルか? 蹲っている……劣勢? いや、しかし、ヴォールもゼステリンガーも動いていない……!
「ボイジル・アヴァランテ……。まさか、またその顔を見ることになるとはな……!」
なんだ、知り合いなのか? いや、それよりいまは……そういや、みんなはどうした?
……いや、来たな、しかしアリャとロッキーだけだ。
あの謎の軍人に手こずっているのか? あるいはエリやワルドが怪我人を治療しており、レキサルが護衛として残っているのかもしれない。くっ……レキサルがいないのは運がなかったな……。
「テリー! 大丈夫っ?」
「トイウカ、ナニ、コノジョーキョー……」
「泥のなかに逃げやがって、うまく攻撃できないんだ」
「そうなんだ、じゃあ、ずっと攻撃してりゃいいじゃん!」
ロッキーは銃を撃ち始める、すると奴らは慌てて泥に潜った……。
そうか、いつまでも息が続くわけもない! 頭を出して撃たれるか、窒息するかだ!
泥で窒息……残酷だが、奴らに対しては手段を選んでいられん!
「よし、みんなで集中攻撃だ!」
グゥーがでかい銃器を運んでくる、フェリクスも銃を手にしているぞ!
そして数多の攻撃で泥沼の表面が躍り狂う! よし、このままいけばそのうち顔を……って、沼のなかから小さな旗がでてきた……。白旗のつもりか? ふざけやがって……!
「頭を出させるな!」
攻撃は続くが、泥の沼がどんどん広がっていく、だがそれも消耗に繋がるはずだ……と、ゼステリンガーが動くっ?
「ゼステリンガーが動くぞ! 足止めしてくれ!」
奴がびくりと足を止めた、先読みされて驚いたか!
「よしきた!」
ヴォールの拳が炎をまとう……が、その腕をボイジルが抑える……!
「すまない、こやつは私に任せてくれ……」
なに? 一対一でやるつもりか……と、待て、なんだこの気配は! 急速に近づいてくる!
「おい、敵機だぜ!」ヘキオンだ「ヤバそうだ、離脱しろ!」
機体よりなにかが投下された! 時間切れかっ! 俺たちはその場を離脱、そして大爆発がっ……!
くっ、くそ、爆撃してきやがった! 奴らはどうなった……! 周囲は黒煙に包まれているが、気配はわかる……いや、急上昇していくっ!
「いやあ、今回はさすがに危なかったねぇ!」
すでに空高い……! 航空機より下されたロープに釣り下がっている……!
『アーアー、マイクのテスト中……。聞こえるぅ?』
なんだ、奴の声がでかい!
『いやあ、お祭りだからって、衝動的にはしゃぐもんじゃないね、ほんと! 勝てるゲームも勝てなくなっちゃうところさ!』
「逃げるのか! かかってこい!」
『お前ちゃん、また成長しちゃったね! ただの駒から、頼もしい駒へと昇格したよ!』
「ふざけるなっ……! 戦えこの野郎っ……!」
『勝負はついた! だって俺様、泥まみれだもん!』ヴァッジスカルは笑う『勝利とは、数多のゴミが泥のなかで這いつくばってるのを、高い塔から見下ろすことさ! そういう意味じゃあ、今回は俺様の負けぇー……ガックリ!』
ど、どこまでもふざけやがってぇえええ……!
『ベリちゃんは強いんだから自力でなんとかしてね! じゃあ、ルーザーちゃんな俺様は、お家に帰ってシャワー浴びよっと!』
「馬鹿が、逃げられると思ってんのか!」
ヘキオンが軍服を脱いでいる、そして胸部が開いた! 光が収束する……!
「ぶっ飛びな! 負け犬野郎っ!」
まばゆい、猛烈な光線がっ……!
『いや! だから、なんでそうお前ちゃんたちは……!』
光が収まっていく、見ると航空機は高速で移動しながらも高度を下げていき……遠くで爆発音が聞こえた……。
や、やったの、か……?
「あー……」ヘキオンは尻もちをつく「エネルギー残量低下、ちょと休むぜ……」
おおお、すごい、すごいぞヘキオン、一撃見舞ったな!
……だが、あれで奴が死んだか? どうにもそうとは思えない……。
「ベリウス! 逃げるか!」
おっとそうだ、向こうのこともあったか!
「決着はつける、近々、必ずな!」
ゼステリンガーは森へ入っていく!
「亡霊め、あの国にお前の居場所などない! 姫も待ち疲れたろうさ、彼女は私の懐に収まることだろう!」
「なんだとっ……!」
姫だと、マジで姫がいたのか? ゼステリンガーは森に消える……!
向こうも逃したか……。
……くっ、なんてことだ、また逃すとは……!
俺は甘すぎるんだ……! ちくしょう……!
いや、落ち込んでいる場合じゃない、宿に戻らないと! やれることはまだあるはずだ……!