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WRECKTHERION(仮題)  作者: montana
90/149

天魔降臨

突撃、最前線!

ありとあらゆる世界の盲点にスポットを当てる、スコトマハンター・ルナでーす!

はてさて大変な事態となりました! ごらんください! 昼間だというのにこの暗さ、上空に浮かぶは無数の赤い眼!

あれこそかつて人類を瀕死に追いやった天魔、その名もダイモニカスです! 我々はまたしてもその脅威にさらされようとしています!

さあ、この危機より世界を救うのは英雄か、それとも救世主か?

今後とも目が離せません、チャンネルはそのまま!

突撃、最前線! はウルトラスキップの提供でお送りしていまーす!


                ◇


 銀に縁取られた黒い封筒には、同様に装飾された便箋と招待状が入っており、本文もやはり銀色のインクで書きつづられている。なんとも優美な感じだな。

 招待状にはコインを集めてダイモニカスの継承権を手に入れよう……とあり、どうにもコインを巡るゲームの賞品として入手できるらしい……。

 そして便箋だが……こっちは完全にワルド宛てだな。

「手紙が入っている」

「そうか」ワルドはうなり「すまぬが、読んでくれんか」

「あ、ああ……」

 でも、なんかこの文……女言葉だし、内容も妙な感じだ……って、突然、文字がキラキラし始め、クルセリアの声が発せられるっ……?

『ハァイ! ワルド、ご機嫌いかが? 私は元気です。決着にふさわしい舞台を用意したの! もちろんあなたも演じてくれるわよね?』

 おおお、こんなこともできるのか!

『さあ、コインを賭けて私とゲームをしましょう! 勝てばさらにコインが手に入るし、得たコインは賞品と交換できちゃうわよ! ちなみに対象はオンリーコインのみ! それ以外のコインは受け付けませーん! さあ、賞品は以下の通りよ!』

 コインを賭けて、だと……?

『遺物と交換! 10から1000枚、ものによるわ! 私と対決する権利! 100枚! アフロディーテ……ダイモニカスのことね! それの継承権、7777枚! 私と結婚する権利! 10000枚! 他にもコインの枚数に応じていろいろ融通を利かせちゃうわよ! ちなみに賞品は早い者勝ちでーす! 私は戦艦墓場のどこかにいるから、がんばって見つけだしてね!』

 えっ、なに? 最後のやつ、結婚っていったか? しかも、継承権より高い……って、アフロディーテ?

『もちろん、コインは他から入手してきてもいいわよ! ちなみにアフロディーテの継承権を手に入れたとしても、ちゃんということを聞いてくれるかどうかは話が別だからね! そこまでは責任もてませんから……といっても、あなたには興味なんかないかしら。私との決着がすべてだものね! いままでありがとう、そしてさようなら』

 コインは他から持ってきてもいい……。

『そうだ、もっと違う未来があったと思う? もし私がゴッディアを滅ぼさなかったら、まったく別の未来になっていたのかしら? なんて、当たり前よね。でも、やってしまったものは仕方ないわよ。いままでありがとう、そしてさようなら』

 まったく別の未来……。

『ところで、私があなたから奪ったものは故郷と大切な人たちの命だけよ。これが意味していること、わかるわよね? あなたは私が死んだあと、どんな人生を送るのかしら? 寂しくない? たとえ憎悪でも、失ったら虚しいものなんじゃないかしら?』

 さようならといってるわりには続くなぁ……。

 しかし、意味しているものって、どういうことだ?

 まさか……。

『そう、あの頃の思い出を共有できる者はいなくなる』

『誰もいなくなる』

『ゴッディアなんて、最初からなかったのでは?』

『あなたが私に勝つなんて不可能よ』

『あなたが私に勝つためには、私の協力が不可欠よ』

『よく考えて、答えをだしてね』

『いままで本当にありがとう。そして今度こそさようなら』

 ……最後はどんどん被さるように言葉が続き、ぱったりと言葉が止んだ。ワルドからはなんの感想もない。ただ、黙しているだけだ。

 それにしても、これは、なんといえばいいのか……。

「……ワルド、余計な世話だとは思うが……本当に、戦う以外に決着の方法はないのか……? あの魔女はそう、まるで……」

 まるで……なんと表現したらいいだろう? 少女のよう? 気狂いのよう? どういったらいいのかわからないな……。

 だが、あまりに大きな罪を背負っていることは確かだ。あのダイモニカスを使い、一国を灰塵に帰した罪を……。

「私はあやつと戦う」おっとワルドが口を開いた「どちらかが、あるいは両方が死ぬまでな。それだけだ」

 エリはうなり「それだけということは……」

「ないとしても、やらねばならんのだ。なにもせずに捨て置くことだけはできん」

 ワルドはローブから頭を出し、マスクをも脱ぐ!

 そして溢れ出す黒い霧、顔なんてまるで見えない……!

「なにかはせねばならん。なにかは。たしかに、それは復讐だけに限らんのかもしれん。だが、復讐より得心のゆく選択などどこにあるというのであろう。私には見えん、闇しか見えん……」

 ……やはり、だめか。

 とはいえ、事情を知ればこそ説得できるなどとは思っていないさ。そうする資格だってあるかどうか……。

「……む、落ちたぞ」

 うん? 黒エリがなにかを拾った。

「いま、その封筒から出てきたものだ」

 手渡されたのは白いコイン……。ああ、手紙にあったな、これがそうか。

 しかし、たったの一枚か……。これで魔女とゲームをしても、負けたらどうしようもない。他から調達してもいいらしいが、どこにあるものなんだか見当もつかないし……って、あれ? このコイン、どこかで見たような? いや、まさかな……。

 懐を探り、二枚のコインを取りだす。赤と青、スゥーとシューから受けとったものだ。

 そして見比べる。いや、やはりそうなのかっ……?

「これは同じコイン、か……?」

 色こそ違うものの、直径や厚さがまったく同じだ……! 側面に細かく掘られている溝だって同じ……!

「まてよ、まさか……!」

 さらに懐から冒険者のコインをも取りだす! マジかよ、どうしていままで気づかなかったんだ! これらは銀色でやはり色が異なるが、大きさなどがどれも同じだっ!

 みんなが集まってくる、そして俺たちは互いに顔を見合わせる……。

「これらは同じコインだ。ぐ、偶然か?」

「四種類のコインがか?」黒エリはうなる「ないとはいわんが、ひっかかるな……」

「どれもオンリーコインなんだろう」ブルースだ「製造時期によって色が違うんだ」

 オンリー……コイン……。そうだ、手紙にもそうあったな。

「その、オンリーコインってなんだ?」

「知らんのか? その名の通り、この世に一枚しかないコインだよ。内部にはそれぞれ特有の空洞があって、その形状を知っている場合、割り振られた番号を知ることができるんだ」

「うん? そりゃあ、内部にあるんなら確かめようがないだろ?」

「そうだが不可能ではない。だが容易でもない。それが価値となっている特殊なコインなのさ」

 価値ね……。そういうものなのか……って、そいつは妙だぞ?

「たしか、この赤いコインで居場所を特定できると聞いたが? ただの空洞コインなら……」

「いや、可能だ。色、番号、空洞の形状がわかっているなら、正確な位置情報が確認できる。ありえない組み合わせを入力した場合はまったく見当はずれな情報が出てくるがな」

 へええ……?

「しかし、空洞の形で識別するって、具体的にどうやって知る?」

「スーパーレリックなど、アイテール関係の機械で調べられるらしい。つまり、感知に長ける者にも可能ってことだ」

 黒エリはうなり、

「アイテール関係の能力に頼らなくとも、内部の空洞を読み込むなど造作もないだろう?」

「オンリーコインは多重に異なる素材でできていて、強度はかなりのものだし、放射線なども通さないんだ。アイテールを利用せずに調べるのはコスト的に旨みがない」

 なるほどな……。

「ともかく、コインをなるべく多く集めろってことか。だが、俺たちはダイモニカスの継承権などに興味はない……というか、破壊するつもりだ」

「は、破壊だって?」フェリクスだ「あの、どういうものか知らないけど、一国を滅ぼしたものを……」

「実際にやるのは俺とメオトラだよ。なぜだかそういうことになったらしい……」

「本当ですかっ?」エリだ「で、ですが、なぜレクさんが?」

「さあ、予知に期待しているんだろう……」

「と、とはいえ……」

 やらんわけにはいかないさ。万が一、ヴァッジスカルのようなクソ野郎の手に渡っては、世界がどうなるかわかったもんじゃないしな。

「これは個人的な感傷だが」ワルドだ「ダイモニカスの破壊は私にとっても喜ばしいことだ。できることがあるならば、最大限に協力させてもらうぞ」

「ああ……」

 しかし、あの魔女はマジでなにを考えているんだ? なんでもかんでもゲーム気分なのか? しょせんは気のふれた狂人でしかないのか……? それともなにか理由がある? 裏の企みなど……。

「……なあワルド、あの魔女はなにを考えていると思う?」

 ワルドはうなり「なにも考えてなどおらぬさ。その一瞬が楽しめればなんでもよいのだ」

「そうかな、企てがあるんじゃないか? ダイモニカスを餌に殺し合わせて、敵対勢力の弱体化を狙っているとか……」

「殺し合わせるにしても、動機は愉快犯的なものであろう。いや、そもそもこの手紙があやつのものとも限らんぞ」

「騙っている可能性か……」

「うむ。ゆえにこのような招待状を方々へ送ったとて、真に受ける者がどれだけいるか……」

「そうだよなぁ……。もし証明するなら、実物を見せないとな」

 ……と、そのとき、場内が一気にざわめきだした?

 なんだ、また元老院派の襲撃か……?

「おいっ、観ろよこれ!」

 先ほど世話になったギマの男だ、近くにある画面を指差している……!

「これ、この上空じゃないかっ? 降りてきている!」

 画面を覗く、空から……暗雲ではない、巨大な影が……! なんだあれは……って、傍らに映っているのはルナッ……?

『突撃、最前線! 緊急スペシャル!』

 ルナは例のポーズをとり、そして上空を指す……!

『ごらんください! 突如として上空より現れた謎の巨大円盤、あれこそ、かつて人類を滅亡の危機に追いやった殺戮兵器、ダイモニカスです!』

 あっ、あれが……!

『あまりに巨大、とてつもない巨体です! 空が覆われ、一転して周囲が闇に包まれました! 上空に浮かんでいる赤い光はもちろん星の輝きではありません! 我々を狙う悪魔の瞳なのです!』

 そして画面に赤い線が……? 空中にて爆発が起こっているっ……?

『ああっ、怪光線、怪光線です! 赤い光線が……ギマ軍のヘリでしょう、撃墜していきます!』

 あ、暗黒城なんか問題にならないほどばかでかい……! こ、こんなもの、破壊できるわけが……。

『あっと、また光りました! 戦闘が行われている模様です! しかし、その戦力差は……!』

 たしかに暗雲の下でちらちら光っている……軍隊が攻撃しているんだろうが、通じるのか? あの巨体に……!

『突撃、最前線! は以下のような事実を独自のルートで入手しました。あれはオールドレリックに属するもので、通称ダイモニカス、人類を瀕死に追いやった元凶のひとつとされています!』

 じ、人類を瀕死に……。

『数十年前、外界の一国であったゴッディアを滅ぼしたのもあの機体とされており、また、大気圏外への進出を阻んでいる元凶のひとつでもあると推測されています!』

 大気圏外に……?

「やはり、やはりそうだったか!」

 ギマの男だ!

「なにが、やはりなんだっ?」

「人工衛星の打ち上げを撃墜していたのはこいつだ!」

 じ、人工、衛星……?

「それは……?」

「星の周囲を回る機械さ! 観測、通信、軍事活動、とにかく有用なものなんだ!」

「そんなものが……」

「あったんだ、大昔はな! だがいまはない!」

「……撃墜された」

「テクノロジーとしてはとっくの昔に確立されている! それゆえに軍事衛星の打ち上げは幾度となく行われているんだが……すべて失敗さ! これは事故ではなく撃墜だろうと考えられていたが、何者による攻撃かは不明だった! だから尻尾をつかもうと数十年にわたってスパイ合戦をしてきたんだが……どこにもそれらしい情報はなかったとされている!」

 スパイ合戦……。

「……元老院?」

「もちろん暗躍はあったさ! しかし、奴らじゃない!」

「……じゃあ、まさか、大巨人……?」

「そう」男は頷く「どうにもそれくさいと思われていたが、オールドレリックだと? それはつまり、シンが来る前につくられたものってことだ! とんでもない骨董品だぜ!」

 男は画面に釘付けになる……っておいおい! クルセリアが画面に映っているっ? しかも、継承権のことを話している! ついでに蒐集者もいるぞ! なんか悪女三人組にしか見えなくなってきた! 現在の所有者は自分だとか、ルクセブラから譲り受けたとか、ヤバそうな情報をどんどん炸裂させている!

 さてどうするか……とそこで肩を叩かれる。振り返るとブルース・リップだ。

「人脈屋としての興味だが、あれの所有者がクルセリア・ヴィゴットというのは本当なんだな? さっきの手紙の内容も?」

「あ、ああ……そうらしいな」

「それで、ルクセブラよりあれを受け取ったと?」

「ああ……そうなんだろうさ。元は師弟関係とか」

「あんな強大なもの、なぜ譲渡する?」

「さあ? そこまでは知らんよ」

 しかし、本当になぜだろう? クルセリアのなにがよくて、あんな凄まじいものを与えたのか……。ホーさんはすぐに捨てると見越して暗黒城を受け渡した。それは複雑な心情あってのものだろうが、ルクセブラも同様とは言い難いだろう。

 ……いやあ、ちょっとヤバすぎて困ったな、なにが知りたいのかすらわからなくなってきた。なんでもいいから詳しい人に話を聞きたいところだ……となると、やはり彼女らか。

 この翻訳機は通信機でもあるらしいし、ニューに聞いてみよう。通話を試みると、すぐにつながった!

『ニューです、ご無事ですか?』

「ああ。こっちは問題ない。そっちは?」

『同じく、問題はありません。こちらから連絡するところでした、大変なことになりましたね』

「ああ、その関係で聞きたいことがあるんだ。……ええと、あれはもともとルクセブラのものだったんだよな?」

『そうと聞いています』

「しかし、ルクセブラはなぜクルセリアにダイモニカスを譲渡したんだ? あんなに凄そうな兵器を……」

『私にはわかりかねます。ホーさまに代わりましょうか?』

「ホーさん? ぶ、無事だったのかっ?」

『はい、つい最近、発見したのです。ですが……』

「なんだ?」

『元気がありません……。時々こうなってしまうのです。お兄さまの声を聞けばあるいは……』

 そのとき、ブルースが顔を近づけてくる……。

「な、なんだよ?」

「誰と話している? 情報源は?」

 ……なんとなくだが、教えたくないな。

「だめだ、教えられん」

 ブルースから離れたとき、テーから通信が入る。

『お兄さま! わたくしですわぁー!』

「おお、テーか! そっちはどうだい?」

『朗報がひとつ、ホーさまの無事が確認されました!』

「ああ、そうらしいな! よかった!」

『ですが、その、落ち込んだ状態でして……』

「それも聞いたよ、どうしたんだ?」

『ときどき、憂鬱になってしまうのです……』

「一緒にいるんだよな?」

『はい、いまはユーさまのお屋敷です。ホーさまは、ずっとお昼寝モードでごろごろしています』

 うん……? なんだそれ……?

「……なにそれ?」

『常にまくらを抱えた状態のことですわ』

 ええ……? あのホーさんが? まくらを抱えている……。

『しかも、使用しているのが暗黒に星々が輝く宇宙まくらです。これはなかなか立ち直らないとみていいでしょう……』

「よ、よくわからないが、とにかくごろごろしているんだな?」

『はい、ごろごろ転がっています』

「そ、そう……」

『ぜひとも励ましてあげてください。ですが無理はさせませんようにお願いいたしますわ。それでは代わりますわー』

 ……ややして、ホーさんの声が……。

『ふぁい……』

「……あ、あの、ホーさんっ……?」

『はぁい……』

 マジかよ、たしかにホーさんの声だがっ? マジでやる気のない感じだぞ……!

「ど、どうにもお元気ではないようで……?」

『ありませんよぉ……』

「ぶ、無事ではあったんですね、気になっていたんです、俺たちを助けるために……」

『がんばりましたぁ……そちらはご無事ですかぁ……?』

「ええ、おかげさまで……」

『それはよかったぁ……』

 う、うーん……! いろいろあるんだろうし、落ち込むのもわかるが、あのホーさんがこんなになってしまうとは……!

 ……いや、テーの話しぶりからして、以前にもあったことみたいだ。この状態も含めてホーさんなんだろう……。

 しかし状況が状況だ、聞くべきことは聞いてみないと……。

「あの、ホーさん、ダイモニカスのことですが……!」

『ああ……現れたそうですね……』

「あれは本当にクルセリアが操っているんですか?」

『どうなのでしょお……』

「というか、元々の所有者はルクセブラだったとか。あれほど強大なものを、なぜクルセリアに譲渡なんかしたんですか?」

『さあ……。理由でもあるのでは……?』

「理由、ですか?」

『映像にて……ちらりとその姿を見ましたが……あれだけ巨大な体躯で……多様かつ大量に武装しているのでしょうし……操縦は困難を極めるはず……』

 想像だが、たしかにそんな気はするな。

『となれば……多数の搭乗員がいるか……人工知能に命令を下しているのでは……?』

 なるほど……。

『ですが、人工知能やアテマタが……素直に命令を聞く対象は限られます……。つまりはオリジンの系譜……』

「オリジン?」

 そういやデヌメクがそんなことをいっていたような?

『例えばあなたがそうです……。アテマタはあなたに平伏しているでしょう……? ですが、彼らはオリジンの奴隷ではありません……。彼らは次世代の人類……。我々が不可能だったことを……』

 ことを……?

「……なんです?」

『い、いえ、違います、違います……』

 なに? なにが違うんだ?

「あの、なんですか?」

『と、ともかく、彼らが素直にクルセリアに従うことなどないと思います……』

 じゃあ、いったいどうやって……?

『……ただ、ありえるとするなら、利害の一致……』

「利害の……? どういった?」

『それは……わかりません……。ただの想像ですし……』

「そ、そうですか……」

『それではそろそろ……よろしいでしょうか……?』

「いい……ですが、どうしたんですか? ごろごろしているとか……」

『ごろごろ……しては、いけませんか……?』

「い、いえ、だめじゃあないですが、その、こっちは大変な事態で……」

『私が介入したって、どうせろくなことにならないんです……。こうしてごろごろしていた方が世の中のためなんです……』

 う、うーん! どうしたもんか!

「そ、そんなことありませんよ!」

『ああ、ごろごろしたい……』

 いや、いましているんだよねっ? ……とはなんとなくいえない。

「じゃあ、その、ゆっくり休んでください……」

『人は争ってばかり……。このままではまた雨が降り……』

「……はい?」

『……でも、それでいいのかもしれない……』

「あの?」

『代わりました』ニューだ『すみません、ずっとこんな調子で……』

「……た、立ち直るのかい?」

『ええ、そのうちには……』

「まあ、仕方ないこともあるさ。でも、そんな状態で狙われたら……」

『いえ、その、お姉さまの来訪があったのですが……』

 お姉さま、デュラか!

『やる気を削がれたようで、帰りました……』

 帰った……。

「そ、そう……」

 どうやら殺意を抱いてはいないって話は本当らしいな。狙うならいまが絶好の機会だろうし……。

「わかった、ともかくなにかあったら連絡をくれ」

『お兄さまも、お気をつけて』

「ああ、君たちも」

 そして通話が切れた……ところにまたブルースだ。

「誰だ?」

「いったろ、教えられん。だが、あれをクルセリアが自由自在に操っている……ってわけじゃあない可能性もある、らしい。いわく、利害関係で協力しているとか……」

「利害関係、か……」ブルースはうなり「つまり、ルクセブラもそのクチってことか……?」

「あんたこそ、その辺の事情を知っているようだが? ルクセブラとはどんな人物なんだ? 性悪とは聞いたが……」

「ああ、裏社会じゃ有名な毒婦さ。……表向きは、イライザ・アンバーブライトと名乗っている」

「毒婦……」

「まあ愛人だよ、いろんな権力者のな。でも最近、売淫組織の大元締めになったとかって噂があったな……」

 なにぃ……? 愛人に売淫だと? 元とはいえ、とてもホーさんの師匠とは思えないな。

 ……いや、表向きはいい師匠ヅラをしていたとルナがいっていたな、そして同時にクソ女とも。ルナもまた妖しい女だが、ナン・シスターズの一員だし、つまりは尼僧の一種なんだろう。ホーさんに傾倒しているというわけでもないし、あるいは、あの悪態はルクセブラの情婦的な側面に由来しているのか……?

 まあ、そんなこといまはどうでもいいか。重要なのはクルセリアがあれを自在に操っているわけではないという点だ。それが本当なら、つけいる隙もあるかもしれない。

「よし、みんな、いいかい」みんなは俺を見やる「招待状と、あれがやってきたところからして、あの魔女は今度こそやるつもりらしい。今後はあれを巡っての争奪戦が始まるはずだ、間違いなくこの地は混沌に見舞われるだろう。かなり危険な状況になる……」

 黒エリはうなり「だからといって……」

「そうだ。あれの脅威はこの地のみならず、世界に広がる可能性が高い。ここでなにもしないということは、どこの誰とも知れぬ者に世界を預けることと同義だ。戦わなければならないと俺は思う」

 みんなは頷く……!

「よし、私はプリズムロウを招集する! 合流し、戦力を増強後、魔女のゲームに付き合ってやろうではないか! そして……」

 視線はワルドに集まる……!

「あやつは必ず私が打ち倒す。その時は、任せてもらいたい」

「ああ……! 勝って帰ってきてくれ! 約束だぞ!」

「……うむ」

 元老院は正気を失い、魔女は悪魔を呼び寄せ、眠っていた各勢力も本格的に動き出すことだろう……。

 だが、やるしかない! やらなければ、この世界が……いいように蹂躙されてしまいかねないんだ……!

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