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WRECKTHERION(仮題)  作者: montana
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円と縁

 くそっ、いったいなんだったんだ? しかも、敵対していたとはいえヨデルが……。いくらなんでも、あんな死に方ってないぜ……。

「……みんな、無事だな?」

 みなは頷くが、やがて視線は黒エリに……。

 きちんと説明すべきなんだろうが……それは黒エリが俺を殺す可能性があると伝えることであり……だからといってこいつを避ける気は俺にはないし……ということは、余計な不安を与えないという意義において、話すのは一部だけにしておいたほうがいいだろう……。

「……融合しているアテマタが表に出ようとしたんだ。黒エリはそれを無理矢理に押さえつけようとして気絶した……ようだ」

 みんなはざわつく……。

「融合しているアテマタ……」エリだ「なぜ、こんなときに……」

「わ、わからない……」

 原因は俺に違いないが……すまない、少なくともいまは話さない方がいいと判断するよ……。

「あれじゃないかなー」フェリクスだ「カタヴァンクラーさんのところで暴走したじゃないか、あれと同じようなことが起こったんじゃない?」

「そ、そうかもしれないな」

 ひとまずはそういう話で決着がついたようだ。たまにはいいこというじゃないか、フェリクス!

 ……そしてだ、黒エリのことも大事だが、いまは他に話さなくてはならないことがるんだよな。

「問題は他にもある、実は……」

 ゾシアムとデンラ少年のことを話すと、アリャが飛び跳ねる!

「ムゥー! ゾシアム、ゴージョー! コレトキメタラ、マッシグラ!」

 まあ、貫通矢そのままの性格っぽいわなぁ……。

「ソレニデンラガッ? アノチョーバカヤロウ、ヨワイノニココマデキタ、キセキッ!」

「……やはり、彼はその……あまり腕ききではないと?」

「ゼンゼン! トッテモショボイ! ナニヤッテモフツーヨリシタ!」

 普通より下……? だとするなら、そいつは本当に奇妙だな? よくひとりでここまでこれたもんだ。途中まで協力者がいたのか? それとも身を隠すのは得意なのだろうか……?

「身を隠したり、気配断ちの技能は?」

「ムゥー? ゼンゼンダメ!」

 ……やはり、おかしいな。とても運がよかったか、自覚の有無にかかわらず協力者がいたか……。

「ともかくだ」ワルドだ「倒した輩に話を聞いてみようではないか。逃げられたり、獣に食われてなければの話だが」

 おっとそうだ、やつらが何者か知っておかないと!

 黒エリはエリとアリャ、フェリクスに任せ、俺たちはまず巨漢が倒れているところに戻り……って、ああっ! マジで獣にかじられてるっ!

 かじってるのは狐っぽい獣だ、でもあの鎧には歯が通らないようだな……って、おっと! 赤い帽子をかぶった女が木陰より現れた? しかし、俺たちに気づくなり慌てふためいて逃げていくぞっ? あいつがもうひとりの取り巻きか、ついでに狐も逃げていった!

「止まりたまえ」

 あっ、なんか転んだ! しかも立ち上がれないのか、もがいている……って、これはまさか……!

「シャドウ・サクションだ。そう、私は影魔術も扱える。先ほどもこれであやつを倒したのだ」

 そうか……! あれは対象を自身の影に吸い付ける魔術、浮いている相手は落下しただけでかなりの痛手になるし、ましてやワルドは光魔術の使い手、影をつくることなどたやすい。それであちこちに影をつくり、ヨデルを叩きつけまくって痛手を与えたんだ!

「……クルセリアはなんらかの方法で私を観察している。それゆえ、限定された環境でしか鍛錬できぬし、使用もはばかられたが……」

「これが前にいっていた秘蔵の魔術か……!」

「影魔術には強力なものが多い。あやつとの戦いに残しておきたかったが……あれほどの旋風を起こせる魔術師の上に、クルセリアに加担する者だ、仇の延長と見なし使わせてもらったよ」

「ギュザーも使っていたな!」

「うむ、あれも手練れであったが、私ほどではない」

「いうなぁ! でも、奥の手が……」

「いや、それはまだある」

 まだあるのか!

 しかし相手はあの魔女だ、ルクセブラに認められるほどの魔術師、ワルドをここまで警戒させる強者……。はたして通じる魔術がどれほどあるのか……。

「さて、あやつに話を聞いてくれ。私はあまり動けんのでな」

 おっとそうだ、かなり集中力が必要な魔術なんだよな。ライトウォールとの併用もできないようだったし……。

 はてさて何者なんだ? 俺は女の元へ向かう。

「……よう、聞こえるな? あんたは何者だ?」

 女は顔を上げようとするが、すぐに諦める。

「ちょっと! なにこれ、動けないじゃん!」

「そういう魔術だもん。解放されたきゃ質問に答えろよ」

「アタシはロサマリア・スターキー! 冒険者だよ!」

「冒険者ぁ……?」

「遺物をくれるっていうから、護衛の依頼を請け負ったの! それだけだよ!」

 あっさり吐いたな、しかし冒険者とは……珍しい!

「依頼者は?」

「ブルース・リップってヤツ、素性は聞いてない! 冒険者風じゃなかった!」

 ぜんぜん知らん名だな。

「あの巨漢は?」

「ボン・ポワードだったかな? よく知らない、聞いてないし! ブルースがあいつと組めってさ!」

「どういう話の流れでゾシアムと合流したんだ?」

「ゾシアム? ああ、あのフィンか、よく知らない! ブルースに紹介されただけだし! とにかく戦闘になったら囮になれってさ! その間にあのフィンが倒すからって! これが本当のレディファーストってやつ? にゃはは、笑えないし!」

 肝はやはり、そのブルースって男か……。

「というかさっきの戦い、ぜんぜん援護とかなかったんだけど! 光る鳥がなんでも防ぐし、ニェー! とかいって空気の矢にぶっ飛ばされるし! ただの多勢に無勢じゃん!」

「まあ……俺がゾシアムを邪魔してたからな」

「なんなんだよー! サイテーな作戦だと思ってた!」

「えっと……それで、そのブルースはどこにいる?」

「ここいらにいるんじゃない? アタシらはあのフィンの護衛をするだけだし! 詳細は聞いてないけど、目的地はここみたい!」

「まだ会っていない?」

「まだだよ! ちくしょう! アンタらのせいで報酬もらえないかも!」

 ということは……ゾシアムはまだこの地を離れてはいない? そして地下にいたってことは合流地点はその辺り、また戻ってくる可能性もあるか……?

「クルセリア・ヴィゴットという名に聞き覚えは?」

「はあ? 知らない」

「クラタム・ミコラフィンは?」

「知らなーい! アタシ詮索しないから! 余計なこと知ると面倒ごとが増えるし!」

「ブルースの容姿は?」

「伊達男風だけどちょっと間抜けな感じ! 紫のシャツ着て、ポケットに薔薇を挿してた! 趣味ワルー! あと髪を油で固めてたね!」

 ……嘘はいっていない、と思う。というかこれほど気配に揺れがない奴も珍しい……。

「あんた正直者だなぁ!」

「そうでしょ! 正直者は馬鹿を見るってバアちゃんがいってたけど、こういう家業をしてると、正直者は意外と好かれるんだってアタシは思うね! ただし、余計な詮索は無用だよ!」

 なるほど、そうかもしれないな……。

「そろそろ解放してよ! あのフィンどっかいったし、もう戦う意味とかないし!」

「ワルド、解放してやってくれ!」

 女は解放されると、仰向けになって帽子を抱いた。なんか変わった形の帽子だな。

「あーもーやってらんない! これまでの労力を返せっての!」

 女……というか少女に近いか? 彼女はじたばた暴れる……。

「はあ……。あのデカブツ、まだのびてんの? 狐に噛まれてたし、ちょー笑えるんだけど!」

 そして少女は俺を見やり、

「おっ……? あれ?」

 茶色く、ふわっとした髪、鮮やかな緑の瞳……。そしてどうでもいいことだが、胸がでかい……。

「あれ、どこかで会ったことある?」

「……いや?」

「そっかー、なかなかいいじゃん!」

 なにがだよ……。

「用は済んだ、行っていいよ……」

 少女はひょいと起き上がり、カエルみたいな姿勢になる。

「ねえねえ、アタシと組んで遺物集めしない?」

 遺物集め……。そういや、最初の目的はそれだったなぁ……。

「そりゃあ遺物はほしいが、そんなことをしている暇もなくてね。それよりさっさとここを離れた方がいいぞ、戦場になるかもしれないからな」

「アタシ、ロッキー! アンタは?」

 話を聞いてねぇなこいつ!

「レクテリオル・ローミューン……」

「そっか、テリーか! いいじゃん!」

「いや、なんか無理矢理じゃないかそれ……?」

「今度はアンタを護衛してやろうか? アタシ強いよ!」

 そして帽子をかぶり、ものすごい速さで銃を抜き、構える! たしかにすごいが、その口径じゃあ、この地の獣には通じんのでは……。

「そんな得物じゃあ、獣を倒せんだろう」

「見てごらん!」

 ロッキーは拳銃を連射する! 撃つ、撃つ……って、ええっ? すでに数十発は撃ってるけれど……? でもあれ、リボルバーだろ……?

「わかる? 弾丸をつくれるのアタシ! これは44だし、ホローっぽい弾もつくれるから見た目より威力あるし! 徹甲弾っぽいのも出せるよ!」

 弾丸をつくれるだってっ? そ、それは素晴らしい、俺というか、アリャにその魔術を教えていただきたい!

「具象魔術か、すごいな!」

「ちっちゃいの頃からカラの銃で遊んでたからねー! いつの間にか出てた!」

 そんなことで習得できたりもするのか……!

 いや、ともかくこいつは僥倖だ!

 ほんと、すごい偶然だぜ……!

 ……そう、あまりにも都合のいい偶然……。

 ……本当に、不気味なほどに……。

 蒐集者の仕業か? いや、それにしたって先見に過ぎる、いくら予知できるといっても、ここまで仕組んでいるとは思えない……。

 どちらかというとそう、ニプリャ……の件に近しいような……? あるいはこいつともそういう縁が……?

「でさー、驚くかもしれないけど、水なんかも噴射できるんだよねー、すごいでしょ!」

 ゾシアムの場合はまだわかる、メオトラやスゥーがいたことも。あそこはクリエイションマシンのある、人が集まる場所だから、たまたまってこともあり得る……。

 しかし、デンラ少年とこの地で、それもあんなどうでもいい場所で出会ったのは偶然にしてもおかしい。以前だって大規模な戦闘があった場所に彼はいた、そしてここもいずれは……。

「ちゃんとキレイな水だよ! 飲み水にはこと欠かないし!」

 なにげなく、森の奥を見つめる。想像に過ぎないが、もしかしたら、これから起こるであろう戦いは……縁を円に紡ぐための……?

 そしてそれを実現しているのはアイテール……。

 アイテールを生み出しているのは大巨人……。

 大巨人は宇宙の孤独を知っている……。

 だがなぜ、殺したり殺されたりすることで縁が紡がれる?

 人が常に争っているから?

 争いで進化してきたから?

 でも、そんなことじゃあ、人殺しほど縁が繋がることになるんじゃないのか? 殺意をもたない、抑え込める人ほど縁が紡がれないのでは? 善良かつ平穏であるほど孤独になる? 宇宙は善であり、平穏なのか……?

「でも、拳銃を介さないとだめみたいなんだ。しかも、リボルバー限定というね……」

 ふとエリの顔が思い浮かぶ。なにも悪いことをしていないのに、むしろよいことばかりしてきたのに、愛する子供たちは死に、彼女は孤児院を、国を追い出された。そして死ぬために、獣に殺されるためにここへきた。……あんまりな話だ。まるで、善良なひとが縁を紡ぐには、殺されるしかない……ような救いのなさ……。

 俺はどうだ? 周囲で妙な偶然が続くのは、運命じみた符合が散見できてしまうのは、俺がたくさん殺してきたから? それとも殺されてきたから……?

「あ、アンタさ、口径が小さいからだめっていってたけど、そんなことないからね! たしかに弾丸の場合は小口径だと威力が下がるけど、水鉄砲の場合は逆に上がるから! デリンジャーとか意外とヤバいよ? 特殊なアタッチメントでもっと絞ればスゲー威力になるし!」

 それとも人間だけの話ではない? 獣の死においても縁が紡がれている? 生きるためには食べなくてはならないし、食べるためには殺さなくてはならない。身を守るために殺さなくてはならないこともあるだろう。それもまた縁を紡ぐこと? だとするなら、人殺しもまた、数多に巡る縁の一部に過ぎない……?

「あ、どうせ水鉄砲だし、大したもんじゃないって思ったでしょ? 違うんだなー、水圧の怖さを知らないヤツ多すぎ!」

 そもそも殺しとはなんだ? 肉体を傷つけること、機能を阻害すること、構造の破壊……。殺意の有無は? 殺意のない、事故による殺しだってあるだろう。そこに違いがあるのか?

 ……黒い鳥たちが望む不要因子の死も謎だ。殺しで縁を紡ぐことと不要因子の排除には関係があるのか? もしや、表裏一体の関係とか……?

「あれ? ちょっと、聞いてる? おーい!」

 不要因子とはその個人に由来している要素ではないという。そのとき、その場所にいることも関係していると。そのときたまたま大いなる流れを阻害する場所にいた……なんて理由なのかもしれない。

「ねえねえ、おいったら!」

 ……流れ、流動、回転……。そう、縁は円であるかもしれない。アイテール構造体、超低密構造体は反復構造をもつという。そしてそれを調べているアテマタは円が必要といっていた。再会の円、繰り返される出会い、大巨人はそれを望んでいる?

「うおーい!」

 しかし、輪廻転生するには個人差、いや、個体差があるという。俺はその純度が高く、魂なのかただの位置的パターンなのか知らないが、ともかくなんらかの要素が転生を繰り返しているらしい。そしてその要素を共有している前世がレクテリオラ、その前はシュッダーレア……。おそらくそのさらに前もあるんだろう。

「足に水かけんぞこら!」

 しかし、やはり疑問だ、殺しで繋がる縁……。殺した者、殺された者が再会してどうなる? 殺された方が過去の記憶を得ていたなら、報復したってなんらおかしなことじゃない。

「ほーら、びしょびしょー!」

 ……そうして殺した者が殺され、またいつか殺す側となる。そんな循環にどんな意義がある? 世に争いが増えるだけなのではないだろうか……。

「……あれ、かけすぎちゃった、かも」

 そのときまた、あの切り株の言葉を思い出す……。

 まさか、赦せと……? 大巨人はそういいたい、それを望んでいるのか……?

 仮にそうだとしたら、いかにも身勝手ではないか……。それは個人が思い悩んで至る境地であるからこそ素晴らしいわけで、善意の強制の結果であっては……いや、絶対にいけないってわけじゃあないけれど、なんかなぁ……。

 それとも、生死を超えていがみ合うのを望んでいるとか? それはちょっとあんまりな話だ、そうは思いたくないところではある……。

「えっと、ごめんねぇ……?」

 足元を見やる。マジでびしょびしょだ……。

 もし前世で俺がこいつを殺していたとして、そのときを思い出したこいつは俺を赦してくれるのだろうか? また、こいつが前世の俺の死に関与していたとして、俺は赦せるんだろうか……?

「あれ、やっぱり怒ってる……?」

 どうだろうな、どうなんだろう……?

「ごめんってば! 聞いてるのってば!」

 ……というか、なんでまた俺の足元をびしょびしょにしたのやら……。

「……いいさ、気にするな」

 するとロッキーはにっこり笑う。ずいぶんとなれなれしいが、さっきまでエリたちと戦っていたんだよな……?

 ……いや、それも水に流すべきか? そうすべきなのか……?

「……それで、仲間になりたいって?」

「雇わないかって!」

「金なんかもっていないぞ。あげられる遺物もない」

「そこはまぁ、おいおいでいいよん」

 わりといい加減だなぁ……。しかしみんなが許すかな? というか、感情は抜きにしても、同行者が多くなりすぎるんじゃないか? どうやらレキサルも一緒に動くようだし……。

 ふと、ロッキーの帽子が目に入る。

「それはそうと、かっこいい帽子だな?」

「そうでしょ? カウボーイハットっていうらしいよ! これから流行るんだって!」

 カウボーイハット……。カウボーイってなんだ?

 その質問をしようとしたとき、みんながそろって近づいてくることに気づく。黒エリも起きたようだ。

 はてさて、ロッキーの加入にどんな反応があるのやら。

「……ということで、一緒に動きたいんだとさ」

「だめだ」

 うーん、黒エリらしい即答だ。どうやら大丈夫みたいだな。

「傭われとはいえ、敵対していた者をすぐさま味方になどできるか」

「そうか」レキサルだ「では、私もだめだな」

 いや! レキサルは必要だ!

「待てよ、そんなことをいったらあれだ、お前だって出会って早々、俺を鞭でしばいたじゃん」

「い、いや……あれはただの挨拶だよ……」

「どんな挨拶だよっ! あれマジで痛かったんだからな!」

「ぬう……! まあ、そうだな、かつての敵意を理由にはできんとしても、それがそのまま安全につながるとはいえんだろう。気を抜いたところで後ろからなど、私はごめんだ」

「それは……ないと思いますよ」エリだ「えっと、あなたは……」

「ロッキー!」

「ロッキーさんはその、水の弾での攻撃に終始していました。無害とはいいませんが、殺傷力はさほど高くなかったと……」

 へえ……? そういや水がどうこういってたもんな。依頼は遂行するが、無益な殺生はしない……ってところか。

「ですので、悪い方ではないかと……」

「わお、アンタいいひとだねー!」ロッキーはエリの肩を抱く「まあ、手加減はしたよ正直、だってアンタら敵意が弱かったし、なにより悪党に見えなかったもんね! アタシ、どうしようもないワルをバキューン! ってやっつけて、善良な人々の感謝を背に受けながら去っていくスタイルに憧れてんだ!」

 敵意が弱いと感知したのか! ある程度の魔術は扱えるようだが、やはり輪廻転生者の系譜だな……!

「ところで」ワルドだ「君は銃のそれ以外に魔術は扱えるのかね?」

「ぜんっぜん! 期待しないで!」

「むう、特定の銃を媒介にした場合にのみ、相応の使い手になれるということか。こういった制限のある魔術師はときおり見かけるな」

 おそらく俺と似たような性質だが、幼少の頃からリボルバーで遊んでいた……ある種の修行をしていたぶん、制限ありとはいえ、それなりに強力な魔術を扱えるようになったってことみたいだな。

「でも、ちょっと人数多くない?」

 おっとフェリクスが要点を突いたな。そうだ、これで仲間は八人、いまは見かけないが蒐集者やルナもついてきたら十人にもなってしまう。仲間が多いのは心強いが、同時に目立ちやすくなるし、気苦労も増えるんだよな、特に女性は……。

「うーん、人数があまり多いとそれはそれで問題なんだよな……」

「いっそ、分隊も考慮に入れるか?」

 おっと黒エリだ? なんだ、この流れにのって否定してくると思ったのに。

「志を同じくする仲間は多いほうがいいだろうが、多人数では目立ちすぎるだろうからな、隊を二つに分けるのだ。それで付かず離れずの距離を保ち移動する。そしてもし片方が戦闘になった場合、もう片方が有利な方向より接近、挟み撃ちにするなど……有効な戦術をも組み立てられる」

 ……うん? たしかにその通りかもしれないが、なんでまた突然……?

 俺は黒エリに近づき、

「……なんだ、なんで急に加入を認める方向に鞍替えした?」

「む、いや……? 考え直しただけだ」

 うーん、なんか怪しいな?

「……ところでお前、大丈夫か?」

「あ、ああ……その、先ほどは……」

「謝るな、いいんだ、お前が悪いんじゃない」

「……そうだ、なにか知っているのか? お前はあのとき……」

「お前のなかのアテマタが暴走した、それだけだ。ともかく、お前が俺にどうしようと俺は構わん。気にするな」

 黒エリは目を瞬く……。

「……鞭でしばいてもか?」

「それはやめろよ!」

 黒エリは残念そうにうなる……。お前、どれだけ俺をしばきたいんだよっ!

「それより、なにを隠している?」

「な、なにを、とは?」

「なんか隠してるだろお前……」

「そ、そんなことは……」黒エリはため息をつき「いや、ここまで隠す必要もないか。実は、プリズムロウのメンバーを集めようと思い立ったのだ。敵は強大、数も多い。我々だけでは戦力に心もとないとは思わないか?」

「ああ、なるほど……」

「……だがな、少々癖のある面子ばかりでな、この部隊に加えていいものかと……」

「ヘキオンはまともだろ? ボイジルか?」

「うむ、そして残るヴォール・シミターも厄介でな、あの男は機械化されて狂喜した変わり者だ。いわく、かっこいいとな……」

 まあ、ヘキオンだってかっこいいしな……。

「なんとも説明できないが、ヒーロー気質とでもいえばいいのか、とにかくその、わずらわしくてな……」

「なんだよ、ヒーローならいいじゃないか」

「攻撃のたびにファイアーナックル! とか叫ぶのだぞ? 戦術もなにもあったものではない……」

 なんだと……! むしろ興味が湧いてきたんだけど!

 ファイアーナックルってことは、炎の拳で殴るんだろ? ヘキオンみたいなのがさ! かっこいいんじゃないかそれ……?

 俺のなにを見抜いてか、黒エリはため息をつく……。

「どうして男というものはこう……」

 で、でもお前、男がよかったとかいってたじゃん……!

「お、男はな、こういうのが好きなんだよ! 俺の新しいシューターにも名前があってな……」

「わかったわかった、では、あの女を加えるかわりに、残る三人も加えてよいのだな?」

「え、いやそりゃあ……俺はいい、けど……? でもワルドが……」

「いいだろう!」黒エリが強行した!「加えてやろう!」

 しかし、ロッキーの反応は薄い……。

「いや、テリーの仲間になるって話だし」

「テリー……?」

 黒エリは首をかしげる、ああなんか面倒くさいなぁ!

「わかったわかった、ロッキーこいよ! 歓迎するさ!」

「わお! 報酬は働きに応じてちょうだいね!」

 ……あとはグループ分けか。八人を二つにわけるのはちょっと心細いが、プリズムロウの三名が合流したなら五人と六人だ、それならまあ、数もちょうどいいかもしれない。

 ワルドはなにもいわないし、特に反対意見も出ないようだ……っと、巨漢が起き上がったな。エリが治療したみたいだ。

「いてて……おっ? おおっ?」

 巨漢は飛び起きる!

「し、しまった、囲まれたか!」

「とっくだよばーか」ロッキーだ「狐にかじられてるところを助けてもらったんだ、感謝でもしとけっての」

「なんだとぉ? ゾシアムは?」

「さあてね、どっかいっちゃったよ」

「なに! では、報酬はっ?」

「知らなーい。アタシはこっちに加わったからね!」

 巨漢は腕を組んでうなる……。

「ちっ、ともかく生きてるんだな? そして勝手にどっかいっちまったと。まあ、依頼どおりここまで護衛したんだ、そっから先は知らねぇさ。ブルースも相応に出してくれるだろ……」

 そして巨漢は俺たちを見回し、

「はっ! 敵に情けとはな、ご立派なことだが感謝はしねぇぜ!」

 そうして去ろうとする……。

「待てよ、ブルースについて聞きたい!」

 巨漢は振り返り「ああ? 待ち合わせ場所はクリエイションルームだぜ、そこにいるんじゃねぇか? 用があるならそこで探してみな!」

 ほう、そうなのか。口は悪いが普通に教えてくれたな。巨漢はさっさと行ってしまう。

「よし、では戻るか! 目的地があそこなら、ゾシアムもまた現れるかもしれない!」

 そして俺たちはまた地下に戻っていく。そういやマジで蒐集者とルナはどこにいったんだ……? まあ、どうでもいいけれど……。

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