月より遠く、影より近い
巨人の眠る地ではありとあらゆるものが与えられる。
日々の糧、修練の場、森羅万象の掟、そして禁断の英知……。
そのすべてが俺にささやきかける、人がどうあるべきかを。
三つの神器を集め、いまこそ大巨人を目覚めを待たん。
文明人を気取り、支配に拘泥せしめし愚劣な王たちよ、
いま一度、終末の炎にひれ伏すがいい!
◇
終わった、か……。
相手が相手だけに極めてヤバい戦闘だったが……相応の収穫はあったな。俺の能力は未来をはっきり見通せるような便利なものではない。こんな状況だが、この後どうなる? その場合、こうしたらどうなるだろう? と『なにか』に尋ねると、『なにか』がこうなるだろうという予測を見せてくれる感じだ。そしてその『なにか』はやはりアイテール構造体なんだろう。これがテーのいってたアクセス能力ってやつに違いない。
いろいろと縛りこそあるものの、扱い方さえ踏まえていれば強力な武器になり得るだろう。しかし、くじ引きし放題とはいえ時間は有限だ、引き方を誤るとその間にやられてしまうかもしれない。
そしてもうひとつ重要な問題がある。俺と蒐集者は天敵同士らしく、俺は奴の予知を妨害できるようだが、それは逆の場合にもいえるのではないのかという疑問だ。しかしスクラトとの戦いではそういったことが起こらなかった。これはどういうことだろう?
俺は蒐集者の天敵だが、逆は成り立たない?
成り立つが、有効射程距離などの条件がある?
成り立つが、予測の対象にしなければ影響はない?
対象にしたとしても、害しようとしなければ影響はない?
……わからないな、だが奴に聞くわけにもいかない。奴が俺の天敵ではないとするなら、そのことを奴に知られるわけにもいかないからな。あるいは、奴もその辺を探っているのかもしれない……ってなんだ? 黒エリに左手を掴まれる。
「……繋がったか? 動くか?」
動く……な、特に違和感はない。さすがはエリ、すごい治癒能力だ……。
「……大丈夫、みたいだ」
黒エリはため息をつき、
「……阿呆かお前は。男の戦いだかなんだか知らんが、あれは必要なことだったのか?」
必要かって聞かれればそりゃあ……。
「必要だったよ」と答えた瞬間、ゲンコツを見舞われる!
「あいった、なんだよ!」
「必要ではない! 大聖堂に関する情報なんぞ、あの騎士団だか名乗っている輩どもに問い質せばよかったろう!」
「いや、でも、さっきの戦いで予知の特性が掴めたし……」
「それはその辺の魔物との戦いでも考察できたろう」
うっ……まあ、そうかもしれないけれどねっ?
「いや、でも、とんでもなく強い男がサシでやりたいってんだから、断ったらダサいだろ!」
しかしこの主張に対する女性陣の反応は冷たい……。そしてエリがぼそりと、
「腕を……捨てたのですね」
その呟きに対しては、なんともいたたまれない……。
「今回は完全な形で繋がりましたが、次も同じようにできるかは……」
「まったくだ、馬鹿者め!」
うう、その点についてはなんとも強気には出られない……。
反論に窮していると、蒐集者がにゅっと顔を出す……。
「いいえ、彼の考えは正しいわ。格上の相手に勝つには相応に代償が必要なものよ。いっそ機械の腕に換装してもいいのだし」
そのとき、エリの目つきが厳しくなる……!
「なんということを、欠損を小事と見なすその価値観はあまりに冒涜的ではありませんか?」
「実際、小事だもの」蒐集者は肩をすくめる「強化の意味で機械化を推奨はするけど、そのまま再生だってできるのよ? 実際、あなたのお友達もそういった治療の恩恵を受けたでしょう?」
それは……グゥーのことか?
たしかに、医療の力でそういうこともできるらしい、な……。
「そんな、では、あなたはなぜ、そのような体で……」
蒐集者は意味あり気に笑む……。
だが、答えなくていい。こいつの場合、追及したとしても異常な理由が飛び出すに違いないからだ。
「やめておこう、エリ。こいつにいっても無駄さ」
「ですが……」
「容姿すらころころ変えてしまうような奴だからな。それに……その顔、いつまで続けるつもりだ?」
蒐集者は微笑み「さあ? あるいはずっとかもしれないわね」
「それで、嫌がらせのつもりか?」
「そんなつもりはないのよ。あなたの反応に興味があるだけ」
「……その顔を選ぶとは見事な洞察力だな。たしかに効果はあった。しかし、やはりお前はお前だよ」
蒐集者は、ふと真顔になって首をかしげてみせる。
「エジーネ、エジルフォーネはどうだった?」
蒐集者は顎を引き、
「あなたに会いたがっていたわね」
「……そうか」
「それに、とんでもない逸材よ」
「とんでもない、とは?」
「才能があるわ。それも最恐のね」
最恐、だと……? まさか……。
「……毒、か?」
「もっと素晴らしい才能よ」
なんだと? 毒よりヤバいってなんだ?
「……それは?」
「おのずとわかるわ」
そのとき、背筋に戦慄が走る……!
「まっ、まさか、来ているのかっ?」
「来たいとはいっていたわね」
うっ、嘘だろ……? あいつが、ここに……?
「ああら、よほど会いたくないようね」
蒐集者は笑う……が、ふと真顔になる。
「すごいわね……天敵のわたしよりも怖がっているみたい。あれほど純粋な子も珍しいというのに」
「……純粋だと? どこがだ、あいつは……悪女そのものだ」
「まあ、せいぜいこの顔に慣れておくのね」
なんだと、馬鹿な……。
だが、ここは獣の王国だ、都会に慣れ親しんだ女ひとりがどうこうできる場所なわけもない……。
「ともかく」ワルドだ「依頼は達成した。報酬を貰いに戻ろうではないか」
そうだな……そうだ、やることやったんだし、いま重要なのはそのことだ。あのウォルの爺さんのところに戻ろう……。
しかし、懸念は晴れず、頭を過ぎり続ける。まさかな、まさか……?
いや、ありえない、そのはずだ……。どんな才能があろうが、まさかこんなところにまで……。
杞憂とはわかっていても嫌な予感が拭えない、あいつが……。
そして気づけば地下の事務所、またウォルの爺さんが出迎える。
「よくやってくれた。奴らを退けたとなると、おいそれとは手出しできなくなったろう。今後の対処法を考える時間の猶予ができたよ」
「それで、装備の方は?」
「ああ、なんでも提供できる。しかし、重要な先約があってな、その件が終わり次第ということになるだろう」
黒エリは眉をひそめ「我々は貴様らのために危険を賭して戦ってきたのだぞ、後回しとはなんだ」
同感だが、ことを荒立てても仕方がない。
「まあまあ……」
「すまんな、最優先事項なのだ。ものも大きいしな、それに設計の時間も必要だろう?」
「……設計って?」
「どのようなものをつくりたいのか、設計図を用意すべきという話だよ。漠然とした要求でも制作はしてくれるが、その場合、意に沿ったものになるかは保証できんからな」
「……なるほど」
しかし、設計図か……。描けないこともないが、俺の知識では精密であるほどに武器の性能が下がりそうだな。ある程度、漠然としたものの方がいいかもしれない。ウォルの爺さんは咳払いし、
「ともかく要求をまとめておいてくれ。先約のそれは後二時間ほどで完成する。つまり最速で二時間後に制作開始となるだろう。そこの机が空いている、邪魔なものはどかして勝手に使ってくれ。デザインデスクを使用してもいいし、馴染みがないなら用紙やペンなどはそこにある」
デザインデスク……? 馴染みがあろうはずもない、紙とペンでやるか……。
そして俺は机に向かい設計を始めるが……なぜか向かいに腰かけたアリャが机に顎をのせてじっと見つめてくる……。
「……な、なに?」
「ハヤク、カク」
「いや、そうされていると集中できないんだけれど……」
「ヒマダモン」
「いや、お前もほしい装備を考えろよ」
「ムゥー? トクニナイ」
ないのかよ……! まあアリャは弓矢さえあればどうにでもなるからな。
「いいから早くしなさいな」
なぜだか蒐集者が隣に座っているし……。というかみんな集まってきたし……!
「おいおい、みんなもほしい装備を考えておいてくれよ、こんな機会、めったにないだろうし」
「ですが……」エリだ「武器は……扱いに困りますし、防具も……」
「え、なんでだい? 武器はともかく防具は必要じゃないか? いくらセイントバードがあるっていっても……」
そういえばエリはとても軽装なんだよな。いまこそ多少頑丈そうな冒険用の衣服を着ているが、以前はただのローブ姿だった。
「なぜでしょうね、軽装の方が調子がいいんです」
「ええ……?」
「よくある話だ」ワルドだ「重武装をすると魔術のキレが鈍るとされておる。魔術を扱う感覚は繊細なものであるからな、呪文で発動する場合にしても、実際にはそれのみに頼っているわけではないものなのだ。同時に決まった動作を行っておったりな」
うん? よくわからないが、呪文を唱える際の仕草やクセが装備で阻害されて、魔術を発動させる邪魔になっちゃうみたいな……?
「……じゃあ、黒エリ、お前は?」
「私は高栄養携帯食をもらう」
「え、食い物か」
「力を出すには食わんとならんからな」
「へえ……もしかして、いつもお腹すかしてたりする?」
黒エリは拳を振りかぶる……! じょ、冗談だっての……!
それにしてもなんだよ、みんないらないのか。でもフェリクス、お前には必要だろう?
「じゃあフェリクスは?」
「そうだねー、剣は手に入れたから、次は盾かなー」
「盾かぁ、剣が得物なら必要かもなぁ……」
「いいから」蒐集者だ「早くしなさいな」
なんだよ、なんでお前が急かすんだ。
まあ……時間は有限だしな、考えてみるか……。
それにしても、設計の前にスクラトと戦えてよかったな。動きが素早く、的としても大きくない接近タイプの敵だったし、あいつとの戦いから学べることは多いだろう。
命中精度や威力の面でも弾は大きい方がいい。やはりブレイドシューターか? しかし、あれにも大きな欠点がある。弾丸に比べると刃ははるかに重たいので、あまり多く装弾数を増やすことができないということだ。これまでは刃がなくなって撃てないなどの問題は発生していないが……今後はどうなるかわかったものではないしな。
そうなると光線銃もほしいが、あれだとある程度の質量を持つ攻撃を弾くことは難しいんだよな。現にスクラトの投げた剣には無力だった。それに直線的な攻撃は驚異的な視力や気配を読む相手にはさして有効ではないらしい。通じる相手には無類の強さを誇るが、この地にいる、ある種の戦力に限ってはどうにも通じ難いようだ。
「刃の種類を増やすの?」
蒐集者が口を挟んでくる……。
「……ああ、まあ?」
スティンガーのような強烈な一撃は必要だろうな。とはいえ、あの形じゃあ駄目だ。グリンには悪いが、そろそろ金属の盾という発想が通じる次元ではないように感じる。そういう意味じゃ、フェリクスの盾もただのそれじゃあ話にならないだろう。
「……そうだな、大型の刃を射出する武器は必要だろう。しかも、超振動効果がついている刃だ」
「それはいいわね」
「前提として繰り返し使うものだし、装弾数は五枚程度でいい。それ以上は重量がかさんでしまうしな。それと比較的小型の刃をたくさん……いや、あまりに小さいと回収が困難になるか? やはり……」
現地調達……か。もちろん必要な弾が都合よく手に入るなんてこともないだろう、となればつくるしかない。しかしその辺の森で金属の刃を? そいつは無理な話だ。ということは……。
……俺はアリャを見やる。
「ムゥー?」
「……アリャの具象魔術で、刃を生成する?」
そのとき、蒐集者が手を叩く。
「なるほど……! なかなか面白い発想ね。でも、長期保存はできないわよ」
「大量の刃を背負うよりは現実的かもな。アリャ、刃をつくることは可能か?」
「デキル」
う、即答か……。
「……マジでできるか? 本当に?」
「デキル!」
うーん、アリャの即答はかえって心配だが……できるなら大助かりだな。そしてワルドを見やり、
「ワルドもできる?」
「うむ、簡単な形状のものならばな」
よし、二人もいれば心強いな。もちろん実物も持とうとは思うが、これはあくまで緊急用だ、普段は彼らの助けがいるだろう。
よし、設計は固まった。機構はこれまでとほぼ同様だが、二種類のシューターを駆使することにする。一つは大型かつ超振動の刃を発射する……バスターシューター! そして従来より小型だが大量の刃を装填できる……アサルトシューター! このふたつだ!
「よし、これでいくぞ!」
あとは細かい構造の表記だが、そこで腹が鳴る……。
「そういや、さっき戦ったばかりで腹減ったな……」
「食事なら」ウォルの爺さんだ「向こうに食堂があるぞ」
設計思想は固まったしキリがいい。ひとまず腹ごしらえをしようか。廊下に流れる案内にそって食堂へと向かう。
食堂は大きなホールで、ざっと百以上もの丸いテーブルが並んでいる。そして周囲をぐるりと囲うようにカウンターがあり、そこで各料理を注文する形のようだ。
「チョー、ウマソウ……」
アリャは周囲をうろうろしている。スシだのバーガーだの見慣れない料理も多いな。俺はまあ……変に冒険をするよりカリーライスにでもしようかな。
カウンターに立つと、なにやら料理の映像が現れた! ええっと、なにがどれだ……と触れるとあれこれ動いて……慌てているうちになんかよくわからないものを注文しちゃった……。
それからややして料理を乗せた小さいボートリスみたいなのがやってきて、俺の前に止まった。
やってきたのは謎の煮込み料理だ。なにかいろいろ煮込まれているようだが、ドロドロになっていてなにが煮込まれているのかはわからない。色だけはカリーに似ているが……。
そして着席すると左隣にはルナが腰かけ、右隣には蒐集者……。いちいち文句を垂れるのもなんだが、なんか落ち着かない……。
というかルナってあれじゃないか、いま思い出したけれど、そんな名前がシスターズのなかにあったような……?
「……あんた、もしかしてメー・ルナ?」
ルナはこっくりと頷き「そおですよぉ」
「シスターズか……」
「そおですよぉ」
マジかよ……? 普通に肯定したが……。
「いや、待て……? えっと、敵対しているだろ、ホーさんとかと……」
「うぇーあ」
ルナは大量に盛られた揚げ物を次々とフォークで突き刺し、口に運んでいる……。
「いや、ちょっと?」
「むぇーあぉー」
ルナは淡々と食べる。胸焼けしないのか……じゃなかった、シスターズならいろいろと問題だが……?
「ちょっと、大事な話なんだけれど……」
「むぁーあ」
「いや、ちゃんと答えろよ、もしそうなら同行も考えないと……」
「うぇあーあ」
「ホーさんの敵なのかってよ?」
「うぁーお」
「……おいったら!」
ルナの皿を引いた瞬間……目にも留まらぬ高速連打で手をぶっ叩かれたっ……!
「うおおおっ……?」
いい、いってぇー! マジでいてぇ! ゆ、指が曲がってる、これ、いろいろ折れてんじゃないのかっ……?
「おお、お前ぇ……!」
ル、ルナの眼差しはまっすぐにこちらを見つめている……! おいこれ、臨戦態勢じゃねーか……!
「お前、やはり……!」
「ああ、だめだめ!」ルナの相棒が割って入ってきた「こいつは食事の邪魔をされるのがすごく嫌いなんだよ」
そういって皿をもとに戻すと、ルナの視線はまた揚げ物へ、そして食事を再開した……。
「こいつに限らず、パムにはこういうところがあるんだ。特定の行為に対し猛烈に怒るんだな、そしてその際の瞬間的な腕力はとてつもない。というかお前、それ折れてるだろ……」
そうだ……とても痛い……。
テーブルにもひびが入っているぞ、わりと華奢っぽいのになんて腕力だ……!
エリが何事かと駆け足でやってきて、傷を癒してくれる……。
うう、マジで痛かった……というか驚いたぜ……。蒐集者はむこうを向いて肩を震わせ笑っているし、もう踏んだり蹴ったりだよ……。
しかし、ここで退くわけにもいかない。ちゃんと確かめないとな。でも、聞くのは食事が終わってからにしよう……。
そして粛々と食事を終え……あらためてルナに問いかけることにする……。
「……で、シスターズってことは、ホーさんたちと敵対しているのかって聞きたいんだけれど……?」
あの烈火の怒りはどこへやら、ルナは明るく答える……。
「敵対ぃ? 私がですかぁ?」
「あんたら、ホーさんが悪の研究をやめたことに納得していないんだろう?」
ルナは口を両手で覆って小さく笑う……。
「デュラやセラ、あとリリなんかはそうかもしれませんねー。でもルナにとってはどうでもいいことですもん」
「個人的に敵視はしていないと?」
「もっといえばデュラにだってそう強い敵意はないですよぉ。だって彼女はホーさんのことが大好きですもん。黒い聖女に戻ってほしいだけなんですよぉ」
「殺意にまでは至っていない?」
「そおいう意味じゃ、セラやリリの方が危険ですねー。だって彼女らはリガリスの手下ですし」
「リガリス? それは誰だ?」
「ルクセブラですよぉ、知りませんか? ルクセブラ・リガリス」
永遠の美女、か……。しかし……。
「……ルクセブラはホーさんの師匠じゃないのか?」
「ダーさまの娘だからですよぉ。ギマに負けたのが悔しいんでしょうね。リガリスはジルフィンを至上の種と見なしていましたから」
フィン……ということは俺たちに似た容姿の種族なんだな。
「……なるほど、ホーさんもかなりの使い手みたいだしな」
「ああいえ、男女の話ですよぉ。ダーさまは魔術とか使えなかったと聞きますし、普通の女性らしいです」
「ええ? 男を奪った女の娘を弟子にしたと?」
「そおです。ダー様の死後、そおしたらしいですよお」
こいつは……なにやらとても嫌な感じだな……。
「これまでの話からして、どうにもルクセブラはホーさんを好ましく思っていないようだが?」
「そおですよぉ、ホーさんをいじめるために迎えたんでしょうし」
「いじめって、なんだとぉ……?」
「もちろん表向きは優しい師匠ヅラしてましたよ、でもホーさんをそそのかして悪の研究をさせたのはリガリスです。少女の浅はかな決定を実行に移し、重責を与えたんです」
「な、なんてことを……!」
「でも大きな誤算がありました。知っての通り、ホーさんはとんでもない才能の持ち主だったんです、リガリスをも凌ぐほどの。しかも黒い聖女をやめて我が道を歩き始めた。おまけに抹殺するために用意しておいた異才もホーさんになついてしまった。こうなるとリガリスの心情も黒く煮えたぎりますよね」
異才、ニューとテーのことか……?
「そして、今度は手下をけしかけようとしている?」
「ええ、ルナのところにも打診がきましたよぉ。でもルナはいろいろ忙しいんで、無視してる次第です」
こいつはこいつで怪しいんだかそうでもないんだか……。
「ルクセブラとはいったい何者だ……? 大魔女とも聞いたが」
「純粋な万能者で、醜悪な心を持つクソ女です」
まあ……これまでの話からしてそうなんだろうさ。しかし万能者とはな、大魔女という異名の通り、相当な強さを誇っているんだろう。
「……で、あんたは何者なんだ?」
「ルナはしがないリポーターです」そしてわざとらしくため息をつく「最前線を走り回ることしか能がないんです」
ま、聞いても無駄か……。
そして俺たちは食事を終え、食堂を出て……帰り道に何気なくクリエイションルームに立ち寄った。あいかわらずたくさんの人が行き来している……っておいおい、あれは……メオトラじゃないか! なにやら端の方で丸くなっている、眠っているのか? その周囲にはアテマタたち、なにをしにきたんだ……?
「レクッ……レクレク!」
袖を引っ張られる、見るとアリャ、そして指を差した先には……!
「ゾッ、ゾシアムッ……?」
おおい、今度はあいつかよ! なぜここにいる!
「ゾシアムだと?」ワルドだ「あやつの気配は感じられぬが、いるかね?」
魔女か、いいや……俺にも気配は感じられない。
「クラタムや魔女は……いないようだな、だが見知らぬ取り巻きが三人……!」
くっ、装備がまだできていないが……ここで見逃すわけにもいかんか……!
「いくしかない!」
「……イク!」
この人数じゃ目立つ、二手に分かれ、遠巻きにゾシアムたちを追うことにする!
しかしどうする、奇襲をかけるか? だが単身ならともかく、他に三人もいる、制圧は難しいと考えた方がいい! しかも、周囲には無関係の人々、ここでおっ始めるわけにもいかない!
どうにか奴らをバラけさせるしか……って、あれ? この気配、勘違いか? しかし……。
「ハーイ、レク!」
そのとき腕に抱きつかれる感触、見るとやはりスゥーだっ!
「お久しブリリアント!」
なっ、なぜここにスゥーまでっ? いや、それより……!
ゾ、ゾシアムがこっちを見た、見ているっ! そして案の定、足早に逃げていくっ……!
「くっ……! 待て!」
追いかけるが人混みが邪魔だ、奴らは先の通路に姿を消していくっ!
「ちょっとちょっとどうしたのっ?」
「魔女と同行してるフィンだよ! 追っているんだ!」
「ああら、それはごめんあそばせっ?」
スゥーを残し、俺たちは追う、だが奴らの気配は覚えた、離れ過ぎない限りはなんとか追えるぞ!
「こっちだ!」
通路を進み、階段を上っていく、昇降機の類は使用しないようだな、地上へと向かっている……!
「敵は四人だ、気を抜くなよ!」
「ふん、やはりフィンの若者三人だけではなかったか」黒エリだ「しかし、あの場所にいるとはな、後ろ盾も相応に大きいのか?」
「みなさん、お気をつけて!」エリだ「気配が……動きをとめました! 待ち伏せをする気でしょう!」
そう、奴らは待ち構えている、やる気のようだ!
地上へ続く長い階段、俺たちは慎重に上っていく……!
「誰か、電撃を……」
「はいっ!」
エリの電撃棒だ! 最近、素早いねっ? いや助かるけれども!
よし、活性した、予知能力解放……! 階段を上りきると……すぐに外だ、そこへ閃光のような矢が飛んでくるっ……?
「視えた、出た途端に矢を放ってくるぞ、まずは俺が飛び出す、次に黒エリだ、二人で奴らを引きつけるから、後のみんなは隙を見て出てくれ!」
「そのような危険を冒さなくともセイントバードで……」
「どうにもただの矢ではないようだ、待ち構えられている現状じゃ万が一もあり得る。黒エリ、いいな?」
「了解した」
いくぜっ……!
飛び出した瞬間、閃光の乱射が背後を通る! 樹木の倒れる音がいくつか、見なくとも凄まじい威力だとわかる……! そして木の陰に身をひそめたとき、黒エリが猛烈な速さで飛び出してきた! 樹木を蹴って周囲を駆け回り、閃光の攻撃がその後を追う! その隙にみんなも地上に出たようだ、黒エリが身を屈めてこちらにやってくる。
「黒エリ、無事かっ?」
「かすってもいない。あれはゾシアムの矢なのか?」
「ああ、幹を貫通するほどの威力だ、脅威だな」
黒エリは鼻を鳴らし「いや、命中精度は低い。どうにも気配の探知には優れていないと見える。単体ではさして脅威ではないな」
「しかし、他に三人か……。動きはないようだが……」
「ここまで追いすがってきただけはあるな!」
おっとゾシアムの声だ。
「お前たちを倒すことは容易だ、しかし、いまは構っている暇はない! 見逃してやる、ただちに消えろ!」
どうにもお急ぎのようだな。
「いや、奴らはここでやる!」
なに? この声、ヨデル・アンチャールかっ? 声のする方、頭上を見ると宙に浮いている……!
しかし、なんだこれは? ゾシアムらと繋がっているのか? しかし、あの魔女にやられたんだろう?
「なぜだ、なぜあんたが立ち阻むっ?」
「馬鹿者……!」
黒エリに引き寄せられる!
「大声を出すな、撃ち抜かれたいのか……!」
「いやだって、おかしくないか?」
ヨデルの笑い声……!
「無論、相応の罰は受けてもらう。誰に縋るべきか教え込まないとな……!」
「容姿は若かろうが」ワルドの声だ「その齢は老年に達しておるのであろう。情愛に狂うにはいささかおぞましくはないかね?」
さすがワルド、どうやっているのか、あちこちから声が聞こえてくる。あれでは居場所を特定できないだろう。
「貴様がいうと皮肉に拍車がかかるな」
「御託はいい!」ゾシアムだ「退かぬなら射抜くまでだっ!」
「ガキはせっかちだな。意気込まずとも……」ヨデルの気配が激増する!「そうなるさ!」
まさかここで衝突することになるとは! しかし、倒して連れ帰るには絶好の機会だ、やるしかない!