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WRECKTHERION(仮題)  作者: montana
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脅威再び

 ……あまり、眠れなかった。

 天気は良さそうだが、窓から差し込む朝日は弱々しい。日光の多くが樹木の葉に遮られているせいだろう。

 俺は気怠い体を持ち上げ、昨夜のことを思い出す。

 ……あいつ、本気で俺の修行を手助けするつもりなのか? 俺が死に難くなることは奴にとっても得なことらしいが……。

 寝巻きより着替え、リビングの方へと向かうと……既にエリとワルドが起きていた。老婦人と伍長の姿もある。

「……おはよう。朝っぱらから悪いが、問題発生だ……」

 俺は昨夜のことを話す……。すると四人は顔を見合わせる。

「……で、どう思う?」

「彼……いいえ、今は彼女かしら」老婦人だ「ともかくその言い分には説得力があるわねぇ」

「……あるんですか?」

「あるわねぇ……」

 あるのか、やはり……。

「……そしてあの、こういったことはあり得ることなのですか?」

 俺は尋ねる、奇妙な符合について……。

 そうだ、おかしいんだ、伍長と蒐集者の話に関連性があることが……。ただの偶然かもしれないし、奴が盗聴でもしているのなら話は別だが……。

「あり得るわね、しかもよく」

 老婦人は真面目な顔で言った。

「この地での偶然は必然に近しい意味を持つわ。奇妙な符合に違和感を覚える者もいれば、それを神秘的と積極的に肯定する者もいる」

 奇妙な符合という表現もまた一致、か……。

「何を否定し、肯定するかは個々の問題よ。でもあなたは……否定したいようね」

「……誰だって、操られているなんて、思いたくないはずです」

「それは誰にしも共通する嫌悪感ではないわ。例えば、操っているのが最愛なる神様だとしたなら……受け入れる人は多いと思わないかしら」

 神様だったら、か……。

「もしかして、そういった信仰が?」

「白い教会の白は虚空の白と聞いたことはある?」

「え、ええ……」

「その虚空をアイテールと解釈する宗派も存在するの。そしてシンは神として崇められることもある」

 あれほど巨大な存在が生み出す未知の物質アイテール……。それは魔術という神秘を可能にし、その上輪廻転生すらも実現する……。ここまでくれば、そういった宗教組織があってもおかしくはないわな……。

 だが、それにしても……以前より感じていた奇妙な符合が勘違いではないとは……。

「さて、朝食を終えたら早速、修行を始めましょうか。誰でもいいけれど、ラマウィー草も採ってきてね」

 そして、みんなが起きてきたところで朝食が始まる。パンとスープに玉子のサラダというシンプルなものだが、味は抜群だ。この素材はどこから仕入れてくるのだろう? やはりギマの都市からだろうか?

 食事の最中に、ラマウィー草とやらを誰が取りに行くのかという話になるが、アリャとワルド、黒エリの三人で向かうことになったようだ。まあ面子としては心配ないだろう。

 そして食事が終わり、さて、修行の始まりか。伍長に先導され、俺たちは屋敷の屋上に出る。意外なことに足元には草が生えており、一帯を囲うように背の高い植物も生えている。丸太を加工した簡単なテーブルや椅子もあるな。伍長は頭上を見やり、

「高所とはいえ獣はやってきます。油断なさらぬように」

「ああ」

「さて、早速始めましょうか」

 そして伍長の姿が消える……。

 やはり、まったくどこにいるのか分からないな……。お嬢さまはニコニコしながら何もない空間を見詰めている。そこにいるのだろうか? 試しにそちらに近付くが、やはり何も感じない……。

「こちらですよ」

 おっと後ろか! そしてお嬢さまは笑う。

「引っ掛かりましたわねー!」

「あっ、何だよ! そういうことされちゃ、いよいよ訳が分からないじゃないか」

「こういう戦術もあるということですわー! ニューほどの次元ではないにせよ気配を消して戦う者はいるのですから、想定しておいて損はありませんわよー!」

「なるほど……確かにそうだな」

 しかし、伍長の気配断ちは高度過ぎるな……。探るにも取っ掛かりすら掴めない……って、何だ? この、気配は……?

「……薄いが、でかい? この気配は一体……?」

 伍長は素早く屋根の縁へ、そして双眼鏡を取り出す。

「どうした? 何かいるのかい?」

 伍長は唸り「……あれは、なぜこんなところに?」

「あれって? ……何かが来ているのかい?」

「アーマードラゴンが……」

 アーマー……ドラゴン……?

 なっ……!

 なにぃいいいいいっ……?

 うっ、嘘だろっ? まさかカタヴァンクラーのところへ向かって来ていたやつかっ? 俺たちを追ってきた?

 ……ブラッドワーカーによる意趣返しか、あるいは魔女の仕業か? ともかく標的はこの屋敷に違いない!

「……それにあれは、クルセリア」

 クルセリア、そうか、呼んだのは魔女だったのか! くそっ、けっきょくでまかせじゃあなかったってことか!

「ということは、この屋敷のどこかにヘルブリンガーの印があるんじゃないかっ?」

「そうよ、ここに」

 頭上からの声、見上げると蒐集者……!

「お前……!」

「ああ、動いちゃ駄目よ、そこら中に蜘蛛の糸が張り巡らせてあるから。触っちゃったら痛いわよ」

 何だと……? いつの間に!

「あなたたちの組み合わせはわたしにとってとても危険だから、先手を打たせてもらったわ。でも安心して、糸はすぐに解くから。それにこの戦いにも干渉しないわ、印のことを除けばね。上で観戦するだけよ」

「どういうことだ、お前とあの魔女は組んでいるのか?」

「気になる男にちょっかい掛け合う仲間……ってところかしら?」

 なにぃ……? 何だそりゃあ……!

「まあ、アーマードラゴンは大して危険な相手じゃないわ。倒すとなるととっても大変だけれどね。最悪、このお屋敷が墜落するだけじゃない?」

 そして蒐集者は笑いながら上へと消えていく……。

 というか、意味が分からん! なぜ、何のためにこの屋敷を狙うんだよっ……?

「どうします?」伍長だ「彼女を排除しに行きますか?」

「しかし、樹の上だろう? 奴は糸を使う、非常に柔軟な動きが可能だと見るべきだ、地形的に不利じゃないか?」

「ニューの敏捷性ならば問題ないでしょうが、予知には不利でしょう」お嬢さまだ「また、わたくしならば予知合戦に持ち込めばなんとかいけるかもしれませんが、かなり接近しなければ力を発揮できません。しかも、ニューほどの敏捷性は持ち合わせてもいませんわ」

「そして俺は……奴の予知を無力化することが出来るが、正直、樹の上での戦いには自信がない……」

 俺たちは揃って唸る……。

「予知の無力化は、どれほどの距離で有効化するのですか?」

 距離? 距離か……。

 無制限な訳はないわな……。暗黒城後での一件を思い起こせば……。

「分かっている範囲では五、六メートルくらいか……」

「なるほど、では追撃は諦めましょう」

「アーマードラゴンに付けられた印を消す方向でいきましょう!」

 いささか諦めが早過ぎるとも思うが、きっと伍長たちの判断は賢明だ。相手が相手だし、ここは同意した方がいい。

「そうするしかないな。しかし、標的をアーマードラゴンに絞るとしても、仕組んでいるのはあの魔女だ、簡単にはいかないぞ」

「援護を頼んでみましょう」

 そう言って伍長は端末を取り出し、どこかに連絡をし始めた……。

「早朝から大事ねぇ!」おっと、老婦人が現れた「まったく、何のつもりかしら……!」

「済みません、これは俺たちの因縁です」

「どうかしらねぇ、因縁というのならば私にもあるから」

 そうなのか……? まあ、少なくとも良くは思っていないようではあったが……。

 そしてみんなが屋上へと集まってくる。

「厄介事が尽きんな」黒エリはため息をつく「まあいい、返り討ちにしてくれるわ」

 ワルドは唸り「ここで、決着か……?」

「作戦を練りましょう」老婦人だ「目標はあくまでアーマードラゴンね、ここを壊されては困るから」

 そりゃあそうだな……。俺としても、そんな惨状は見たくない……。

「でも、アーマードラゴンを倒すのはものすごく大変よ。それに悪意のある存在でもない。森の守護者だもの、むしろ尊敬しなくてはね」

「印を消すということですね」

「そう。どこかにあるそれを探して消して頂戴。それでアーマードラゴンは止まるはずよ」

「しかし」ワルドだ「あやつが邪魔をしてくるであろうな」

「そういうのは誰よりも得意なんだから、この人数でも気が抜けないのよねぇ……」老婦人は唸る「ええ、でも私が阻止してみせるわ! この屋敷を潰して私がガックリしたら彼女の勝ち、追い返したら私の勝ちってなもんよ!」

 なんだか、いつの間にか二人の戦いになっていないか……。

「おそらく他の獣も呼び込んでいるでしょうね。そうでなくとも喧騒に惹かれてやってくるかもしれない。そこでニューちゃんとテーちゃん、それにあと二人ほど必要かしら? 四人ほどで他の獣たちを追っ払って頂戴」

「はい」

「了解ですわぁー!」

「私と、同じく因縁が深いホプボーンさんの二人でクルセリアのお相手をします。残りはアーマードラゴンの印を探して頂戴。慌てて転んで踏み潰されちゃ大変よ、いくら相手が温厚だからって気を抜かないでね。あとそうそう……」老婦人は人差し指を立てる「ドラゴンを引き寄せる印よ、かなり大きいものが一つか、それなりに大きいものが四つか五つあると思うわ。でも、消すのは一部で大丈夫、召喚魔術はとてもデリケートなものですからね、ちょっとしたことで解けるのよ」

「そんなものなんですか」

「ええ、だから失敗しちゃ駄目よ!」

 そして俺たちは、やってくるアーマードラゴンを迎え撃つために各自動き出す。他の獣を追い払うのは伍長とお嬢さま、さらにアリャとエリだ。エリはこの屋上で待機しつつ、セイントバードを飛ばす役目となる。そしてワルドと老婦人は魔女の相手をし、俺と黒エリ、フェリクス、アージェルの四人が印を消す役割だ。

 というか、まあ、どうでもいいことかもしれないが……敵も味方も女ばかりだなぁ……。これもまた女難の影響なんだろうか……?

 そしてこう思わずにはいられない……もし、あの占いが本当ならば、その発端はエジーネにあるのではないだろうかと……。中身は別人とはいえ、こんなところに来てまであの姿を見ることになるとは……いささか、奇怪に過ぎるだろう……。

 そして蒐集者のあの姿、口調までそっくりなところを見るに、エジーネと接触したに違いない。その模倣は見事だ、不気味なほどに。しかし……やはり奴とエジーネは違う。奴は神の僕になりたがっているのだろうが、エジーネは……神になりたがる女だ。

 ……俺は頭上を見上げる。奴の姿はない……。

「どうした?」

 肩を叩かれ、見ると黒エリ。俺は自嘲気味に笑い、

「……アーマードラゴンも雌だったりしてな」

「雌だと?」察しのいい黒エリは頷いた「……ああ、確かに女ばかりだな」

「無関係ではないとはいえ、これは俺の戦いとは思えん……。敵はやはり男がいいよ」

「味方も、ではないか?」

 俺は黒エリを見やり、

「そんなことはないさ。だが、その方が気楽かもしれないな」

「そうか。私も男に生まれたかったよ」

「えっ?」

 黒エリはいち早く屋上から飛び降りた……。

「さて、始めましょう!」

 そして気付いた時には、エリの鳥で地上に降りた後だった。

 しかし、黒エリ……?

 ……いや、今は気を散らしている場合じゃあない、アーマードラゴンを止めなくては!

 そして俺たちは森を駆けていく。すると見えてきたな、巨大な影……!

 さらに接近していく、地鳴りが大きくなる、やがてその姿が露わとなる……!

 おおお、これはでかいぞ、体高が十メートル以上ある……! 草花が生えた体、しかし所々より金属の様な光沢のある表皮が垣間見える、石柱のごとく重厚な四本の足、広い円錐状の頭部は花だらけだ、そしてそこからやはり金属的に鈍く光る鎧のような頭部がせり出している……!

 ……でかい上に頑丈極まる出で立ち、歩く度に響く振動、こいつは確かに倒せる気がしないな……!

「おはようワルド」どこからか、魔女の声がする「それに御機嫌いかが? ユーおばさま……じゃなかった、おばあさま」

「小娘のような姿に執着して」老婦人は首を回す「中身も成長していないのかしらねぇ」

「あなたこそ、子供っぽくなっているんじゃない? 皺以外は」

「そうよぉ、老婆は少女に戻るものなのよ」老婦人はふわりと浮き上がる「小娘は永遠に小娘のままでしょうけれどね!」

 おっと、ドラゴンの背から何かが飛び出してきた! あれは魔女だ、その後を光の輪がざっと十個以上、追っていくぞ! あれはサラマンダーがあの兄妹に使用したものと似ているがっ?

「この量のカッターリング、相変わらずえげつないわね」

 光輪は大小に大きさを変え、魔女の行く先に先回りしようとする! しかもワルドの光線が宙を迸っているぞ!

「ワルド! 今日はちょっと違うのよ、この性悪な老人の相手をしなきゃならないから見逃してくれないっ?」

 しかしワルドが聞き入れる訳もなく「知ったことか!」と光線を乱射する!

「なかなか頑張るわねぇ、ではこれはどうかしら?」

 長細い竜巻が現れる! しかも草や石を巻き込んでいるぞ、魔女がそちらに引き寄せられていく……!

「レクッ!」声の方を見やると黒エリだ「ぼうっとするな、印を探すのだろうっ?」

「あ、ああ……」

 そうだ、俺たちの仕事は印を探すこと、しかしどこを探す……?

「じゃあ、とりあえず下から見てみようかー?」フェリクスだ「お腹の方とかさー」

「しかし……もし見ている最中に屈まれたら腹でぺしゃんこだぞ……」

「ひっきりなしに歩いているから大丈夫だよー」

「疲れて一休みするかもしれないだろ?」

「大丈夫さー」

 そう言ってフェリクスは足の間を縫って腹の下へ行こうとするが、黒エリに襟元を掴まれて逆方向に放り投げられた。

「下は私が見る。お前たちはエリの鳥で背中へ行け。エリ、頼んだ」

 すると鳥たちが集まり合体、大きな鳥となって俺たちの肩を掴み、上方へ運んでいく……。エリ本人は屋敷にいるはずだ、なのにこっちの声が聞こえるのか?

「おい黒エリ! 気を付けろよ!」

「ああ! お前こそ気を抜いて落ちるなよ!」

 そして俺たちはアーマードラゴンの背へ着地する……っと、結構揺れるなぁ……! ぼんやりしていると転げ落ちそうだぜ……!

 そして印だが、探そうにも背中は草花だらけだ。どうにもアーマードラゴンは土を大量に被っているらしく、そこからほうほうと草花が生えている。これじゃあどこに印があるのやらさっぱりだな……。

「ところで印はどういったもので描かれているのかなー?」フェリクスは周囲を見回す「塗料かな? それとも彫ってあるとか」

 そういやそこまでは聞いていなかったな……。

「ともかくそれらしいのを探そう」

「でもさー、文字らしきものがいっぱいあるんだよー」

「なに?」

「草が生えてないところにさー」

 本当かよ? フェリクスが指した場所はなるほど土がなく、表皮が丸出しのようだ。そこを覗くと……確かに、文字のような図形が浮き出している……。

「不思議だよねー、自然とこんな風になるものかなー?」

 確かに興味深いが……今はそれどころじゃない。もたもたしていると老婦人の屋敷がぶっ壊されてしまう。頭上では老婦人と魔女が飛び回り、光だの火炎だので攻防を繰り広げている……。

「ともかくだ、草花が生えているところに印があるとは思えない。召喚魔術は一部が消えただけでも効果が消えるらしい。ということは、すぐに消える場所やもので書かれてはいないはずなんだ」

「この文字が印だっていう可能性はないのかい?」

「ない訳じゃあないが……可能性は低いだろうな。もしそうなら、カタヴァンクラーのところで暴れた獣たちの全身にも文字があっていいはずだ」

「なるほど、言われてみればそうだねー」

「むしろ、この文字と異なる絵や記号を探すべきかもな。あるいは土を掘り返した跡とか」

 そして俺たちは背中を探し回るが、あるのは草花と謎の文字ばかり、それらしいものは一向に見つからない……。

「見当たらないな、あるいは頭か、尻尾か?」

「でも、どっちも足場が悪くて危険だよー」

「そうも言ってられんさ、鳥の助力があれば転落はしないだろう。俺が頭に行く、お前は尻尾の方を見てくれ」

「尻尾はともかく、頭はすごい形しているし、気を付けてねー」

「ああ、尻尾こそ突然、暴れ狂うかもしれない。気を抜くなよ」

「わかっているさー!」

 そして俺は首元へ……。獅子のたてがみのように兜部分が広がっている。ここを上って顔の方へ行くのはやはり難しいか。

「……エリ、鳥でドラゴンの顔部分まで運んでくれないか?」

 意思が通じたのか、鳥は俺の肩を掴んで顔の方へ運んでいく……。顔は若干、鳥に近い形状をしており、色とりどりの花が咲いている。そして俺はそっと……顔の上に降りた。

「やあ……お邪魔かもしれないが、少し探し物をさせてくれ……。あんたを操っている魔術を解きたいんだ」

 そう言った時、ドラゴンが鈍く唸った……! さすがに顔の辺りに降りたのは不味かったか……?

 ……しかし、振り落とされるようなことはなく……これはあれか、もしかして俺の言葉が通じたのか……? あるいはドラゴンの方も自身の異状を察知していて、解放を願っているとか……?

 ともかく印を探さねば、屋敷を支える樹木まで後、二百メートルというところだ……!

 そして俺は顔を調べる、鳥の助けを得て顎の下まで調べる、ドラゴンの瞳が緑色に輝いておりとても綺麗だ、知性が伺える、そしてとても優しい性格に違いない……。

 しかし、印らしきものはない、あるのは花と謎の文字ばかりだ……。

 まさか、マジでこの文字が印なのか? これを消せばドラゴンは自由になる……? しかし、そんなに分かりやすいことをあの魔女がするか? よしんばそうだとして、とても頑丈らしいこの表皮を削り取ることが出来るのか……? 俺は超振動ナイフを取り出した……ところで気配がっ! 上からやってくる!

「止めておけ」たてがみの上に着地した影には覚えがある!「それはディモが彫った文字だ。印ではない」

 こ、こいつ、この女は……!

「デュラ・ムゥー……! なぜここに!」

「貴様はあの時の……。まあどうでもよい、足の裏は確認したか?」

「足の裏っ……? そこにあるのか?」

「他にないのならな」

 俺は眼下へ向けて、

「黒エリッ! 足の裏を調べてくれっ!」

「裏だとっ……?」黒エリはこちらを見上げ「……なにっ? その女は確か……!」

「こっちの事は気にするな! とにかく足の裏だ、あまり時間がない!」

「くっ……! 了解だ!」

 俺はデュラ・ムゥーを見やり、

「なぜ、助ける?」

「このドラゴンはディモの聖獣だ。このような所業、誰の為にもならん」

 ディモだと……? 確か、竜のような人種、だったか……。

 いや、それより……!

「そうだ、ホーさんをどうしたっ?」

「どうもしないさ。あの程度、ただの挨拶だ」

「生きているんだな?」

 デュラ・ムゥーは首を傾げ「なぜ、気にする?」

「……何かと助けてもらっているんでね」

「ほう? そういえば、貴様らを庇っていたな?」

 その時、黒エリの声が!

「……あったぞ! 足の裏にそれらしいものがある!」

「そうか!」

「だが、どうやって消すっ?」

 ……どうやって? 確かに、どうやってだ? 足の裏に回ったところで踏み付けられてしまうだろう……。

「用意はある」デュラ・ムゥーは何やら大きな円盤を取り出した「この爆弾を踏ませる」

「爆弾……」

「大型だが、アーマードラゴン相手ならば問題ないだろう」

「……そこまでする必要が?」

「あるな。足の裏ということは印は彫られたものだろう。このくらいせねば消すことは難しい」

「そうか……じゃあ、やれるんならやってくれ!」

「ふん」

 デュラ・ムゥーは下に降りていく……って、ここにいちゃ不味いんじゃないかっ……?

「エリッ! 下に降ろしてくれ! フェリクスもだ! それにワルドも早急に離脱させてくれっ!」

 そして俺たちは地上へ、黒エリと合流し、その場を離れる!

「大型爆弾だと?」黒エリは唸る「どのくらいの威力なんだ?」

「それが分からないからこうして逃げているんだ! 他のみんなはドラゴンの近くにいないよな!」

「ああ、それは大丈夫のようだが……」

 その時、閃光が迸った! そして光の柱が天を劈く……! 眩しくて目を瞑る、猛烈な突風に吹き飛ばされそうになる、地面が激しく揺れる、どんな威力だよっ……! これじゃあいくらアーマードラゴンだって……!

 それからややして、目を開く……と、アーマードラゴンが横転している姿がある……。

 しかし、あの威力で五体満足だと? しかも、のっそりと起き上がった……!

 うおお、マジで大丈夫みたいだ、どんな頑丈さだよあれ……! しかしあんな荒療治、怒り狂ってもおかしくはない……と思ったが、ドラゴンは暴れる訳でもなく、その場に佇んでいる……。

「無事であったか」

 見るとワルドだ、衣服が少しボロくなっているな。

「魔女は?」

「逃げたようだ。まったく、何を以てこのようなことを……!」

 まったくだ、いたずらにしちゃあんまりだぜ……ってそうだ、

「そういえば、デュラ・ムゥーが……」

 遠目に、老婦人たち三人と向き合っている姿が……。一触即発かと思えば、そうでもない気配だな……? 俺は彼女らの元へ向かう……。

「……そうか、それではな」

「はい」

 デュラ・ムゥーは……伍長の頭をひとつ撫でると、ものすごい跳躍を見せ、姿を消した……。

 ……どういうことだ? 伍長たちとは敵対しているはず……。

「あの……なぜ、デュラ・ムゥーがここに?」

「私が助力をお願いしたのです」伍長だ「印が彫られていた場合、強力な爆弾が必要かもしれませんので」

 なんだって……? いや、確かに、どこかに連絡をしていたな……!

「いやでも、敵対しているんじゃあ……?」

「まあ、彼女はニューちゃんに甘いから」

 老婦人は苦笑いする。いや、甘いって……。

「元は皆、家族ですから」お嬢さまだ「少々、複雑なのですわー」

 家族、か……。

 まあ、殺し合いが前提って話よりは余程いいがな……。

「ともかく、アーマードラゴンを止められて良かったですね」

「ええ、私の勝ちぃー!」老婦人は小躍りをする「今日は久しぶりにお酒を嗜もうかしら!」

「そ、それにしても、あの魔女はなぜここに……?」

「ああ、きっと私が嫌いだからよ。気になる人が嫌いな人のところへ行ったら面白くないでしょ? 理由なんてそんなものよ」

 ええ……? ワルドが老婦人の元へやってきたから、わざわざアーマードラゴンをけしかけてきたってぇ……?

 敵対しているようで助力に駆け付けてきたり、ほとんど意味もなく攻撃してきたり……女の仲ほど不可解なものもないな……。

 俺は静かに草を食んでいるアーマードラゴンを眺め、溜息をついた……。

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