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WRECKTHERION(仮題)  作者: montana
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老婦人の占い

宇宙はありとあらゆる「なぜ?」に満ちている。

しかし、この問い掛けにただ一つの答えなどあるはずもなく、なぜの数だけ真実は瞬き、星を数える分だけ人は老いていく。

星座のように線を引き、描いたこの絵は何に見える?

きっと、何にだって見える。


                  ◇


 隣の部屋は書斎のようだった。色彩豊かなステンドグラスの窓が正面と左側より輝いており、あとは黒檀の本棚で埋まっている。

 本棚には分厚い書物が隙間なく収まっていた。背表紙のタイトルは読めたり読めなかったり……多彩な言語圏の書物が一堂に会している。あの老婦人はこれらを全部読めるんだろうな。

「はい、そこに座って」

 部屋の中央付近には黒い光沢のテーブル、ステンドグラスの色を受けて鮮やかに輝いており、それを挟む形にソファが二つ、置かれている。俺と老婦人は対面になる形で座った。

「それで、話とは……?」

 老婦人は黙って俺の顔を凝視する……。

「あ、あの……?」

「これはこれは……。では、手の平を見せて」

 何だ、占いかこれは……? 手の平を差し出すと、老婦人はテーブルの上にある、蔦に生る木の実のようなランプを灯し、虫眼鏡を取り出しては凝視し始めた……。

「……あなたはあれねぇ、女難の相が……ひどいわねぇ……」

 女難……。

「そ、そうですか……?」

「女性関係で困っていることとか、あるでしょう?」

 女性、関係……。

「関係というか、まあ、困ったことはよくありますね……」

「そうでしょう、お仲間も一筋縄ではいかないひとばかりでは?」

 まあ、確かになぁ……。

 そして老婦人は虫眼鏡を置くと、次はカードを取り出した。おっとこいつはあのカードじゃないか、蒐集者とポーカーをした……。

「多幸、薄幸、残酷、虚無……」

「ええ、人界四相と言うのよ」

「へえ……」

 老婦人はカードを……多幸、薄幸、残酷、虚無と、1から7まで綺麗に並べる。

 多幸は隆盛、裕福、賞賛、健康、親愛、叡智、恩寵……。

 薄幸は凋落、貧困、羞恥、病弱、孤独、蒙昧、不信……。

 残酷は壊滅、強奪、冷笑、暴行、迫害、詐欺、生贄……。

 虚無は荒廃、恐慌、粉飾、徒労、猜疑、盲信、偶像……。

 へえ、あの時は何が何やらよく分からぬままゲームをしていたけれど、全貌はこうなっていたんだな……。

 老婦人はカードを集め、手際よく切り始めた。そして十字形に四方、バツ字型に四方、さらに中央に残りの束を置く……。

「はてさて、どうなることかしらね」

 俺から見て十二時の場所にあるカードがめくられた。

「多幸の5、親愛の正位置ね」

 また5か……。前にもそれが揃ったんだよな。カードの中では、穏やかそうに人々が肩を寄せ合っている。

「ここは運命の円環において始まりと終わりを示すわ。愛されて産まれ、そして死ぬのね。幸せなことだわ」

「そう……なればいいですね……」

 老婦人は次のカードに手を伸ばす。十二時の方向が北だとしたら、次は北東の位置にあるカードだ……。

「残酷の3、冷笑……の、正位置。あまり幸福な子供時代ではなかったのね。不名誉なことが多かったでしょう」

 ……当たって、いる。生まれが生まれだからな、冷笑に晒されていたとは思う。カードの絵柄は、蹲る人物を笑う人々の姿……。

 老婦人はちらりと俺を見やり、次は東のカードをめくる……。

「残酷の5、迫害……の、逆位置ね」

 逆位置? ああ、俺から見て、カードが上下逆になっているな。

「逆位置の場合は、逆転した意味をも含むわ。あなたには心底落ち着ける居場所がなかったのではないかしら。でも、強い味方がいたようね」

 ……当たっている。そして強い味方……母さんか? それに、他にもよくしてくれた人たちはいたな。カードの絵柄は、意味の通りに、人々に追い立てられる構図だ……。次は東南の方向……。

「次は多幸の4、健康の正位置……。冒険者になったところを見るに、体を鍛えたりして、強くなったのね」

 これも当たっている、な……。冒険の為というより、バックマンの出現に対抗してのことだったが……。カードの絵柄は筋肉に恵まれた男性と、元気な赤子を抱く女性の姿……。

「六時の方向、これが現在よ。薄幸の5、孤独の逆位置。孤独ではあるけれど、そう、仲間が現れた。これは現状を見れば明らかね」

 そう、母さんが死んで……俺は孤独なままここへ、でも、大切な仲間ができたんだ……。カードの絵柄は、砂漠で杖をついている男……。

「ここまで、思い当たることはあった?」

「は、はい……。当たっていると、思います。すごいですね……」

「そうでもないわよ。カードの意味も漠然としたものだしね、なんとなくそう思えるだけってこともよくあるの」老婦人は微笑む「でも、ここまで当たっていると思うのなら、これからも当たるかもしれないわね。ここからは近しい未来を占うわ」

「近い、未来……」

「そう固くならないで、これはあなたの運命そのままではないんだから。あくまでヒント程度のものよ」

「え、ええ……」

「はい次は……残酷の7、生贄の……逆位置」

 い、生贄……。

「……これは誰かを犠牲にするという暗示のカードね。でも逆位置か……」

「まさか、俺が仲間を……?」

「そうとは限らないわよ。どうでもいい人物かもしれないし、人ではないかもしれない。でもね、そうして怯えるのはいいことよ」

「怯えが……いいこと?」

「他者の死を踏み越えて当然と思うよりはね」老婦人はまたにこりと微笑む「でもこれは逆位置なのよね。つまり、あなたが犠牲になるのかもしれない」

 俺が……。

 まあ、仲間を犠牲にするよりはずっといいが……。

「次はどうかしら? 多幸の6、叡智の正位置……。これから、あなたは素晴らしい叡智を授かるかもしれないわ。なるほど、賢者様に会えるかもしれないわね」

「そ、そうですか……」

 それはいい話だが……。犠牲の余韻が重苦しいな……。俺が、俺も、誰を……?

「最後は……虚無の4、徒労……の、逆位置か……」

 と、徒労……。

「冒険者としては最悪かもしれないわね。でも、逆位置ということは、そう、同時にとても得難い何かを得るかもしれない」

「そう、ですか……」

「落ち込まないで、たかが占いよ?」老婦人は笑う「でも、私の占いって当たるのよね……」

 老婦人はこれ見よがしにため息をつく。

「ど、どっちなんですか!」

 老婦人は体を揺らし、

「大丈夫よぉ、ホーさんよりは当たらないから。つまり、これがあなたの運命そのままではないの。言ったでしょう? ヒントのようなものだって」

「も、もちろん、まったく信じ切っている訳ではないですよ……!」

「でも、私だってけっこう当たるのよね……」

 ああもう、俺の反応を見て楽しんでるだろこの人……!

「さて、最後の一枚よ」

「えっ、まだあるんですか?」

「あるわよ、中央の山から一枚」

 そして老婦人はカードを開く……!

「多幸の7、恩寵! しかも正位置よ、あらあ、よかったわねぇ!」

「恩寵……! で、でも、俺ってその、特定の宗教とか……」

「宗教と信仰は同一のものではないわ」老婦人は真面目な顔で言った「人はね、みんな信仰を持っているの。あなたはあなたの信仰を深めなさい」

「俺の……信仰……」

「私たちは分かたれた存在。自分と他人は違うし、世界は自分ではない。だからみんな、どうしようもなく、ひとりぼっち」

 ……一人、ぼっち……。

「だから人は信仰を持つの。宇宙の孤独を承認し切るほど強くはないのだから」

 広がり切った宇宙の孤独を誰が知りたい?

 また、あの言葉が脳裏を過ぎった。

「そして、私たちは他者を求める。どこまでも深く信頼できる他者を……」

 他者……。

「……あるいは、それが、神だと……?」

「どうかしら?」老婦人は肩を竦める「夢見がちなおばあちゃんの考え事よ。大して意味はないわ」

 他者としての神……。神は他者の象徴……?

「神は、いてくれると思わせてくれるだけで充分……なのでしょうか?」

「……そうね」老婦人は神妙に頷く「そうかもしれないわね」

「でも、神の沈黙は……信仰者にとってこそ、耐え難いものなのでは?」

「応えがあったら、私たちは神を失うわ」

 これは……。

 虚空への祈り、か……。

「さて、そろそろ実際的な話をしましょうか」老婦人は膝をひとつ叩き、カードの束を横にやる「修行をしたいそうだけれど、どんな魔術を望んでいるの?」

「力……? ああ、いや、俺は……」

 その性質から、魔術の才能がない……。

「どうにも、濃い転生者の系譜らしく、魔術で強くなるのは難しいと思います……」

「あら、そうなの」老婦人は顎を引く。

「後は……才能とは違いますが、蒐集者の予知に対抗できる特性があるようでして、奴も俺を半身だと……」

「あらまあ!」急に老婦人は立ち上がる!「あなた……! そうよね、レクテリオルだものね、なぜすぐに思い至らなかったのかしら……!」

 な、何だ一体……?

「ど、どうしたんですか?」

「あなた、レクテリオラ・シュッダーレアなのねっ……?」

「は、はい……?」

「ああいいえ、いきなりじゃ分からないわよね、そうよね、私のことも覚えていないし」

 老婦人は幾度も頷く。

「昔いたのよ、蒐集者と戦える力を持ったひとが! 巧みに罠を操るひとでね、ええ、女性で、そうだわ、レクテリオラという名前だったけれど、同時にシュッダーレアという男だとも言っていたわ。前世の骨、コードを手に入れたからよ」

 なにぃ、本当かよ……?

 それに何だ、罠だとぉ……?

「いや、俺にはとんと……」

「ええ、ええ、分からないでしょうね、私も輪廻のことをよく知っている訳ではないし、あなたがそうだとは言い切れないわね、でも……!」

 何やら老婦人は興奮し、ウキウキ状態だ……。

「そ、それで、その人物はどうなったのですか……?」

「目的を果たしたとかで、故郷へ帰ったわ!」

 ……そういえば、アズラが言っていたな、レクテリオの名を持つ者が数人いて、一人は目的を果たし生還したとか……。それがレクテリオラ・シュッダーレア、なのか……?

「ああ、ええと、取り乱したわね、御免なさい」老婦人はソファに腰掛ける「そうなの、いえ、そうとは断じれないわよね、でも……」

「仮にそうだとしても、今の俺には関係ありませんよ……」

「そうよね、ええ……」老婦人は幾度も頷く「ええっと、それで、修行の話よね……?」

 俺は唸り、

「魔術の才能は全然なくて……指先からちょっとだけ電撃を発することと、後は気配の探知くらいでしょうか」

「でしょうね、濃い転生者の系譜ほど魔術は苦手で、気配の探知に長けるわ。実はニューちゃんとテーちゃんもそうなのよ。ニューちゃんは気配断ちが神懸かり的に上手くて、逆にテーちゃんは探知がとても得意なの。なんと、ニューちゃんをも発見できるのよ」

「それはすごい!」

「ごく短期の予知もできるのよ。でもテーちゃんは探知範囲がとても狭くてね、こればかりはあまり伸びなかったの」

 へえ、何かに特化しているぶん、他が苦戦するって感じなのかな……?

「あなたの場合は、二人に教わった方がいいかもしれないわね。あるいは……」

「なんです?」

「いえ、いいのよ。じゃあ、テーちゃんにここへ来てもらいましょうか。ニューちゃんにも会いたがっているだろうし、今後の事もあるでしょうしね」

 シスターズの抗争だな……。

「そうだ、仲間にその、アテマタと……融合した女性がいるんですが……」

「ああ、彼女でしょう。デュラ・ムゥーと同じ体の」

 やはり、コマンドメンツのあの女もそうなのか。

「それであの……」彼女らの趣向のことを話すのは憚られるか「他にもアテマタに手を加えられている者たちがいるんですが、なんというか、うちの黒エリにしても、そのデュラ・ムゥーにしても、そしてもう一名、知人がいるんですが、やはり女性で……彼女らの特異性が何なのか、疑問があって……」

「偶然とは思えない?」

「はい、そこから、あるいはアテマタの目的も推測できるかもしれないですし……」

「そうね、確かに男性のタイプは見ないのよね」老婦人は考え込む「……大前提として転生者の系譜だと思うわ。それもあなたのように純度の高い……」

「ええ、それはあるでしょうね」

「他に考えられる要素と言えば、当然、性差よね。おそらくだけれど、生殖に関係しているのではないかしら?」

「せ、生殖……?」

「あなたのお仲間と、残る一名は異性より同性を?」

「え、ええ……」

「そうなってくると、偶然ではないわね……」

「……子をつくらない可能性が高い?」

「そうね、逆に言えば、生殖が可能と推測されるわ」

「アテマタにとっては、子をつくられると都合が悪いと……?」

「そうかもしれないわね」

「でも、だったら……」

「融合の際に手を加えればいい? でも、そんなことはできないと思うわ。彼らは転生者の系譜を崇拝しているから」

「……なるほど、不敬に繋がる」

「でも、自分たちと融合はさせた。なるほど、トレマー……か」

「トレマー?」

「彼女らはアテマタ・トレマーと呼ばれているそうよ。何が震えなのか意味がよく分からなかったけれど、なるほど融合そのものが不敬なことなら、生殖能力を奪うなんてことをする訳もないわね」

「つまり、アテマタは禁忌を破っている?」

「ええ、そして、その際に男性ではいけなかった。これはあくまで推測だけれど、男性だと、相手の女性に強い負担を強いることになるのではないかしら。赤ん坊の成長に対し、母体が保たないとか」

 な、なるほど……?

「逆の場合なら問題はないのかも。ゆえに選ばれるのは現状、女性のみ……しかも子を残す可能性が低い対象……」

 へええ……?

 なるほど、それだと筋は通るな……。

 で、でも、ちょっとなんというか、話しててバツが悪くなってくるな……。俺は咳払いし、

「な、なるほど……崇拝する対象に近付きたくなる気持ちは分からないでもないですしね、彼らにも色々と葛藤があるのかもしれませんね……」

「でも、アテマタの動向は気になるのよね。彼らは転生者より生み出された存在だけれど、アイテールとも無関係ではないから」

「ええ、確かに」

「それに、あなたたちの話を聞いて、最近の動向も気になってきたわ……。もしかしたらその時が近いのかも。これは、おちおち隠居をしていられないかもしれないわね……」

「その時、とは……?」

「嫌な想像だけれどね」老婦人は真っ直ぐに俺を見詰める「機械ってほら、動くでしょう? 歯車やシャフトのみならず、電気や光が通ったりするものだし。つまりはエネルギーが行き交っている」

「……ええ、ですが、何の話です?」

「超低密構造体よ。あれはとどのつまり機械でしょう? そして私たちが部品なら、どういうことが想像できる……?」

 部品だったら……?

 だったら……。

「操られている、とか……」

「そうかもしれないわね。でも、いま重要なのは、エネルギーが行き交うってことよ」

 エネルギーが……行き交う……?

 行き交うということは……。

 ということは……。

「力の問題よね?」

 力の……?

 力のって……まさか。

 まさかっ……!

「まさか、戦いをっ……?」

「おかしいとは思わない? なぜ魔術がよく戦いの道具とされるのか。それに、この地にだけ大きく異なる人種が多数住んでいて、強力な兵器が眠っていて、強大な獣がいる。つまり力のやり取りを行うに容易い条件が揃っている。そしてね、冒険者の宿ってあるでしょう?」

「は、はい……」

「この地にはフィンがとても少ないのよ。冒険者って、知力体力共に優れていないと務まらないでしょう?」

「優れた戦士を、呼び込んでいるっ……?」

「機械としては、力のバランスが崩れてはいけないでしょう? つまり、私たちは……」

「巨大な機械の部品として……戦う運命に、ある……!」

 そしてその時、俺の頭に閃光が瞬いた!

 そうだ、あの時、電撃で門が開いた時……! 俺は、暴力的な衝動に突き動かされていた……!

 コードの暴走で凶暴になるのは、身体的に活性していることの余波か? それとも、コードにそういった性質が含まれているのかっ……?

「たぶん、避けられないわ。それがいつのことかは分からないけれど、この地は火の海に包まれる」

「し、しかし、おかしくないですかっ……? 外界が滅びた時、この地だけは無事だったのでは……!」

 婦人は腕を組んで部屋を歩き回る……。

「確かに、終末の炎は外界を焼き払ったわ。でもね、古い古い文献によると、どうにも終末の直前に、各国が協力してこの地に攻め入ろうとしたという記録があるのよ」

 なんだって? ここに大規模な侵攻があったとしたら……。

「先ほど話したSGLの話だけれどね、あの推測は、その記録から組み立てたものなのよ。一度に大量の戦力が投入されたらどうなる? もちろんこの地のバランスが崩れる。だから滅ぼされたのではないかしら? でも、完全に死滅してもらっては困る。だから救い主が現れた、いいえ、与えられた」

「ハイ・ロード……!」

 なるほど……! ということは、ハイ・ロードは超低密構造体の……! これまた筋は通る、か……!

「しかし、人間……生物を使ってアイテールの機械を動かして……何を成そうとしているのでしょう? ロード・シンとは何なんです? 会話など、できないのですか?」

「試みた例はあるわ。記録にあるだけで三回」

「……それで、どうなったんです?」

「皆、狂死したそうよ」

 きょ、狂死だって……?

「力では敵わない。話してもこちらが狂い死ぬ。私たちはただ黙って……いえ、絶望するには早いわ。確かに、私たちはアイテールに翻弄される部品なのかもしれない。でもね、進んで言いなりになる必要なんかないの」

 婦人はふと、カードを見やる。

「レクテリオラは言っていたわ、私たちの本当の戦いとはね、強かに運命をも利用することだって。それが人間の本当の力だわ。私もそう思うの」

 運命に逆らい……。

 いいや、利用する……か。

 それを、かつての俺が……? 老婦人はソファに腰を下ろす。

「何度も言うけれど、すべて推測よ。真実はまるで違うかもしれない。でも、私はこれが本当だと思うわ……。そう思えてならないの……」

「何にせよ……相手が何だろうと、言いなりになるつもりはありませんよ」

「もちろんよ」

 老婦人は強く頷き、ふと表情が柔らかくなる。

「さて、残った話は追々にね。他の子も占わないと」

「ええ」俺は立ち上がる「呼んできます」

 そして部屋を出ようとした時、老婦人に呼び止められる。

「はい、なんです?」

「これはどうでもいい話なんだけれどね、おしゃべりなおばあちゃんはつい口を滑らせてしまうの」

「はあ……」

「あのね、クルセリアって、ホーさんのこと、おばさまって呼んでいるでしょう?」

 おばさま……ああ、確かに、そう呼んでいたな。

「ええ」

「でも、実はホーさんの方がずっと若いのよ。嫌ねぇ、若作りは!」

 ええ……? いやあ、本当にどうでもいい話だなぁ……!

 でも老婦人は心底可笑しそうに、くすくすと笑い続けていた。

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