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WRECKTHERION(仮題)  作者: montana
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ゴッディアの凶星

 みんなで鍋を囲んでいる内に日が暮れて夜、俺たちは小型ヒーターを囲み、食後のお茶を楽しむ。お茶はギマ茶の他に紅茶もある。この地で紅茶まで飲めるなんてね……。

 それにしてもやっぱり狭いな。座るくらいならみんな入るが、寝る際にはやはり上部に張ったテントに何人か入るべきだろう。

「伍長、上には何人入るかな?」

 伍長は俺を見やり、

「三人といったところでしょうね」

「誰か上に行きたい人はいるかい?」

「ニアッ!」

 真っ先に手を挙げたのはアリャだ。うん、ああいうところが好きそうだとは思っていた。

「じゃあ、女性陣で固めるか。あと二人、いないかい?」

「私も」

 おっと、アージェルか、へえ……。なんとなくだけれど、アリャには若干、心を開いている感があるんだよな。

「よし、あと一人」

「あなたも」アージェルがエリを指差した「ちょっと、話がある」

 おおっ? なんだ一体……? エリとはほとんど口をきこうとしないのにな。教典がらみの話か、それとも……。

「は、はい……」

 エリにとっても意外だったのか、彼女はぱちぱちと目を瞬く……というかさ、というかさ! 今まで気づかなかったけれどっ……エリがアホグルの電撃棒を持っているぞっ……!

「あの、それ、なんで持ってるのっ?」

「はい?」エリは電撃棒を見やり「ああ、お忘れになっていきましたので……」

 いや、というか、あえて俺が捨てておいたんだけれど……。

「いいではないか」黒エリだ「お前に電撃を与えられる者は一人でも多い方がよかろう? それに護身具としても使えるしな」

「まあ……そう、かもしれないが……」

 でも、あいつが持っていたものをエリが使うってなんか複雑だなぁ……。

「捨ておくのもなんですし、しばし、お借りしておきます」

 そうしてエリは微笑む……。いや、黒エリの話ももっともだし、いいんだけれどさ……。

 ……さて、茶も飲んだし、歩き疲れたし……今日はさっさと寝てしまうか。俺たちはハンモックのように網を張り、そこに寝っ転がる。そして各々防寒シートを羽織った。これらは非常に細やかで薄いが、必要な機能は充分に果たしている。畳めばほとんどかさばらないし、さすがに素晴らしい性能だな。

 そしてアリャたち三人も上のテントに入っていった。アージェルのやつ、何の話をするつもりなんだろう……? かすかに声らしき音が聞こえるが、何を話しているのかさっぱりわからないな……。

 まあ聞き耳を立てるのも気分がよくないし、これでいいわな。それよりさっさと寝て、明日に備えなくては。獣などが襲来する可能性だってあるんだしな、休める時に休んでおくのがいい。

「思ったんだけどさー」

 うん……? 左隣のフェリクスだ。

「シスとアテナさんって似てるよねー」

 うっ! 右隣の黒エリがギロッとこっちを向いた気配がするっ! こいつ、いきなり何を言い始めるんだよっ……!

「そそ、そうかぁ……?」

「でさー、あの、テン・コマンドメンツの……デ、デ……」

「デュラ・ムゥー……か?」

「そうそう、あの淑女もそうだとしたら、なにか関連があるのかなぁー?」

「待て、何の話をしている?」黒エリが身を起こす「同じとはどこがだ?」

「ええっと、性別でしょ、同性への趣向でしょ、あと、アテマタって転生者に厚遇するんだっけ? だったら……」

 やばいキーワードをよくもまあそんなお気楽に……。しかし、言っていること自体はちょっと興味深いな?

「待てよ、デュラ・ムゥーが黒エリと同じ体だって言いたいのか……?」

「そうですよ」うおっと伍長だ「彼女はアテマタとのハイブリッドのはずです」

「なに……?」黒エリは伍長を見やる「アテマタだと……?」

「はい、アテマタと融合しているはずです」

 アテマタ……? いや、確かに機械と融合しているってのはそうなんだろうが、言い回しがやや奇妙だな……?

「待った、えっと、確か……シルヴェは……そう、強化兵装とかって言っていたような……? だから、アテマタっていうよりは、装備と融合しているってことじゃないのかい?」

「ええ、詳しくはありませんので、そうかもしれません」伍長も身を起こす「詳細はユーさまにお聞きください」

「ああ……」

 黒エリはなぜか俺を睨み「フン!」と勢いよく寝転んだせいで、網を伝って俺たちが揺れる……。

 まあ、望んでなった体じゃあないしな、心中穏やかって訳にはいかんのだろう……。

 それにしても、唐突になにを言い出しているんだこいつは……! 言うだけ言って、一足先に寝息を立てているし……! しかも、スルスルと黒エリの手が俺の頬に迫ってきているっ……!

「おおい、言い出しっぺはこいつだぞ……!」

 黒エリの手がスルスルと遠ざかっていく……。来るにも去るにも黙ってやるな、怖いだろうがよ!

 まったく、休む時くらい大人しくしろってんだ……。

 あーあ、さっさと寝てしまおう……。


                  ◇


 そして翌日、夜は何事もなく過ぎたようで、俺は朝日に向けて平和な欠伸をする。フェリクスはまだ寝ていたが、黒エリに踏まれて「ウエッ!」と起きた……。

 そして俺たちはクッキーのような保存食とお茶の簡単な朝食を済ませ、テントをバックパック形態に戻し、色々と片付けをして、さて出発だ! アリャがズサッと格好よく幹を滑って地上に着地したので、俺も再び挑戦する……が、やっぱり転んだ! ケタケタとアリャの笑い声が聞こえてくる……。

 だ、だが、今回は怪我をしなかったぜ、成長はしているんだ……! しかしそんな自己満足など認められるはずもなく、無茶をしてはいけないとまたもエリに叱られる……。

 というか、これもまた撮られているんだろうか……? 俺は周囲を見回す、それらしい虫はいないようだが……?

「さ、さあみんな、出発しようぜ!」

 そうだ、さっさと行こう、今日中に着かないとな!

 それはともかく……昨夜は上で何を話していたんだろう? やっぱりちょっと気になるな……。俺がらみの話だと考えるのは自意識過剰かもしれないが……。ここでさらっと聞けないのが俺なんだよなぁ……。

 などと思いながら歩くことしばし、大きな気配を避けて進み、昼食には昨夜残った山菜と肉で簡単な串焼きを食べる。そしてまた歩く、歩く……。

 時間的には、そろそろのはずだが……まだ着かないのか……?

「伍長、あとどのくらいだい……?」

「残り、八キロほどですね」

 八キロかあ……。まあ、これまでと比べればもう少しって感じだが……。

 そしてさらに歩くこと一時間ほど、伍長の足が止まる……。

「到着しました。ユーさまのお屋敷は上方にあります。頭上をご覧下さい」

 えっ、上に……? 見上げると確かにあった! 樹々の間に挟まる形で、でかい屋敷が建っている……!

 よくもまあ、あんなところに……。どうにも木造のようだが、獣が徘徊する森でよく無事なもんだな……。まるでおとぎ話に出てきそうな風体だ……。

「これは……」エリは頭上を見上げる「このお屋敷に住まう方はご高齢なのでしょう、どうやって上まで……?」

「執事のロボットが上まで運んでくれますし、ユーさまご自身も飛べますので……」

 飛ぶ、だって……?

「そんな魔術が?」

「はい」

 ああ、魔女だって飛んでたわな……。

「そういや、ワルドって飛べるの?」

「飛べるとも」ワルドは肩を竦める「セイントバードを使えばな……」

「そ、そうだよな……」

 つまり飛ぶ魔術そのものは使えないのか。だよな、そんな便利なものがあったらとっくに使ってるだろうしな。

「魔術には適正があってな、例え熟練者であろうとも、何もかも使える訳ではないのだ」

「なるほど……」

「それでは行きましょうか」

 エリがぶわっと鳥を出し、俺たちを屋敷の正門まで運んでいく。

 しっかし、足場がドアの前方にしかないな……。八人立つことはできるものの、大して余裕がある訳でもないので、ぼうっとしていたら危ないぜ……。高さも十メートルは超えているし、落ちたら洒落にならんぞこいつは……。

 伍長がドアをノックすると、どこからか声がしてきた。

『あらあら、ニューちゃんじゃないの! いらっしゃい、いま開けるわね』

 ドアが開いた、そして現れたのはタキシードっぽい衣装の機械人間……。アテマタ、なのか……? 執事ではあると思うが……。

「いらっしゃいませ、どうぞこちらに」

 俺たちは機械人間に案内される。高価そうな壺が飾られ、赤い絨毯が敷かれたホールを右手へ、そこから廊下に出て、並ぶドアのひとつの前に立つことになる。

「どうぞ」

 執事ロボットがドアを開いた。その先はリビングのようで、格式の高そうな調度品や本棚が並ぶ部屋だ。そして中央にあるソファに品の良さそうなギマの老婦人が座っていた。白いドレスに花柄の入った黄色いカーディガンを羽織っており、ティーカップを手にして微笑んでいる。この香りはギマ茶じゃないな、紅茶だろう。

「いらっしゃい。お久しぶりね、ニューちゃん」

「はい、お久しぶりです、おばさま」

「また一段と綺麗になったわね」

「そう……でしょうか」

「そうですとも」婦人はより深く微笑む「それにしても、こんな僻地こんなにお客様が、珍しいこともあったものね。さあ、おかけになって」

 俺とワルド、そしてエリと伍長は婦人と対面になる形でソファに体を沈める。他のみんなは各々、空いている席に座った。すると今度は機械人間の侍女が現れ、俺たちに茶を振る舞った……。うーん、なんとなくだが、アテマタではないようだな……?

「もちろん、理由があっての来訪のようね」

 老婦人はお茶を口にする。俺は頷き、

「ええ、賢者と称されるダンピュール・ウィッカード氏に会いたいのです」

「まあ、ダンピュール様に……」老婦人は顎を引く「どうしてなのか、聞いてもよろしいかしら?」

「その、修行をしたくて……」

「修行ねぇ……」

「はい、身を守る術が欲しくて……」

「ええ、この地を歩むなら、特にそうでしょうね」

「それもそうなのですが、実力者があまりに多くて、敵対した場合は獣より厄介かもしれないのです……」

「どういうことなのか、最初からお話しして下さるかしら?」

 そして俺たちは自己紹介を兼ねて、これまでの経緯を話す……。

「なるほど……」老婦人は眼前のテーブルを見詰めながら頷く「でもね、ダンピュール様がどこにいらっしゃるのか、正確にはわからないのよね。ここかな? という場所は幾つか知っているのだけれど、どこも遠いから、おいそれとお勧めはできないの。それに、あの方は各地を転々としていますからね、行き違いもよくあるでしょうし」

「そう、ですか……」

「でも、あなた方はホーさんと懇意な様子、私でよければ力になりましょうか? これでも魔術に関してはなかなか詳しい方だと自認しているのよ」

 俺はエリを見やり、彼女は頷く。

「ええ、是非ともお願いします……!」

「はい、承知しました」老婦人は頷く「では、あなた方はこれより私の弟子ということよね? では最初にラマウィー草を取ってきてもらいたいわ」

「ラ、ラマウィー……?」

「おつかいも修行です。でも今日じゃなくていいのよ、明日にでもいってらっしゃい」

「は、はあ……」

 いきなり使いっ走りか……。でもまあ仕方ない。こちらは教わる立場だしね……。

 それはともかく、聞けることは早めに聞いておきたいな。

「それでどうですか、この事態、いったい何がどうなっているのか、わかりますか……?」

「いいえ、さっぱり」老婦人は小首を傾げて微笑む「こんな生活をしていますからね、最近の情勢には疎いの」

「そう、ですか……」

「でも、あの飽き性で面倒くさがりのクルセリアがねぇ……」

「あやつの事を知っているのなら」ワルドだ「なんでもいい、教えて頂きたい。何を企んでいるのか推測するためにも……」

「そうねぇ、噂は以前より聞いていたけれど、最初に会ったのはあの時よね、ホーさんが聖女の名を捨てたとき」

 婦人はカップを傾ける。

「ホーさんはね、聖女の役割に疲れてしまったの。当然よね、悪を研究し、世に平穏をもたらすなんて大変な試みだもの。そうそう上手くはいかない。だからね、その名と叢雲の城……今で言うところの暗黒城ね、それを手放したがっていたの。そんな時、あのクルセリアが現れた。連れてきたのはルクセブラ、今から二十年ほど前のことよ。あんな狂人を呼び込むなんて、ぞっとしたわ。やっぱりそうなのかって思っちゃった。ニューちゃんたちがやってきた頃だから尚更よ」

 そうなのかって思っちゃった……? 何のことだろう? それを聞こうとするが、先んじて伍長が口を開いた。

「クルセリア……」伍長は首を傾げる「どなたでしたっけ……?」

「知らなくて当然よ、会わせないようにしていたんだもの。子供の頃からあんな人と付き合いがあったらおかしくなっちゃうわ!」

 婦人は膝を叩く。

「それでね、城を受け継ぐ候補者は他にも三人いたの。どれもルクセブラの弟子たちで、クルセリア、ダッガ、そしてアンヒソーヴァー……」

「あれ、シスターズはどのような立場なのですか?」

「私たちはあくまでホーさんの世話役であり、お目付役よ。ホーさんはルクセブラの弟子の一人だったけれど、私たちはあくまでホーさんのために動いていたわ」

 へえ、つまりはホーさんの身内ってことか。

「ルクセブラはホーさんに後継者を選ばせることにしたわ。思慮深いアンヒソーヴァーかと思っていたけれど、選んだのはクルセリア、少し意外だったわね。まあ、あの城は皆と過ごしたお家でもあったのだし、あまり弄られたくなかったのかもしれないわね」

「あやつは手に入れたものに対しては、すぐに興味をなくすからな」

「そうなのよ。なんせあれを捨てたくらいですからね、暗黒城なんかすぐに飽きちゃうに違いないと思ったのでしょう。それで案の定、一週間も経たずにポイよ、さすがに笑っちゃったわ。ルクセブラは怒ったけれど、クルセリアにとってはそれすらどうでも良かったみたい、弟子になったばかりだったのに、さっさと姿を消してしまったの。その後はダッガが暗黒城を陣取って何かしていたようだけれど、結局、どこの何ともつかない連中の溜まり場になってしまったようね。そして最後にはホーさん自らが落とすことになった。寂しいけれど、思い出にしてしまった方がいいこともあるわよね」

 ワルドは頷き「ところで、あれを捨てたのあれ、とは?」

「ダイモニカスよ。外界の国、ゴッディアを滅ぼした殺戮兵器」

 ダ、ダイモニカス……殺戮兵器だって……? ワルドは立ち上がる……!

「私は、その国の生存者だ……!」

 婦人は目を大きくし、

「あら……そう、だったの……。ごめんなさい、知らぬ事とは言え、失礼したわね……」

「そのことはよろしい。あやつはどこからそんなものを?」

「わからないわ。ルクセブラが怪しいけれど……」

 ルクセブラが……?

「待て、おかしいぞ」黒エリだ「そんな兵器を所有していたのなら、なぜだらだらとシンの意思を集めている? 一時は捨てたにしても拾い直して使えば良いではないか。それに、遺物は外界へ持ち出せないのではなかったか?」

 確かにそうだ……。ダイモニカスがどういうものかわからないが、一国を滅ぼす兵器だ、あの遺跡の戦力くらい容易に蹴散らせるはず……。それに外界の国を滅ぼすにしても、よくシン・ガードに止められなかったな……。

「シン・ガード・ライン……略してSGLと呼ばれているんだけれど、あそこの突破方法は不明なのよね」婦人はうなる「これは私なりの仮説だけれど、彼らが動くのはデウス・エクス・マキナの機能に著しい障害が出た場合なのではないかしら?」

 デウス・エクス……って、

「それは、超低密構造体のことですよね……?」

「ああ、そうそう、そうとも呼ばれているわね。ということは、魔術の原理もご存知よね?」

 え、原理……?

「……いえ、まったく。超低密構造体も、ちょっと聞きかじっただけですし……」

「そうなの? では簡単に説明するわね」老婦人は人差し指を立てる「魔術の原理は、機械兵器によるそれと本質的には変わらないのよ。ただ、アイテールを用いているので、かなりの低密度でも構造体として機能できるの。だから超低密構造兵器とも呼ばれたりするのよね」

 つまりはすべて、機械の作用ってわけか……。

「しかも、使用している機械はとっても大きいの。何もないところから出ているようで、その実、巨大な機械を用いているのよ。そしてその機械たちは独立している訳ではなく、それぞれ機能を共有し合って動いているらしいわ」

「俺たちは、機械の中で生きている……」

「機械を操っているのか、機械に操られているのか……それは文明社会における永遠の難問よね。でもわかっていることがひとつ、既に我々はアイテールとは切っても切り離せない関係にある。少なくともこの惑星にいる限りはね……」

「アイテールとは、いったい……? この星を包んでいるとして、何を目的としているのでしょう?」

「それはわからないわ。でも、我々に干渉することによって動作する何かであるとは言えるでしょうね。なぜなら、それそのもののみで動くならば、真空の宇宙空間にて行った方がずっと良いはずだから」

 確かに……って、宇宙って真空なのか……?

「では、我々を使って何らかの形にしようとしていると……?」

「あくまで憶測よ」老婦人は首を傾げる「どのような形になろうともアイテールは必要だし、消すこともできない。あまり想像を膨らませても、過剰な畏れに繋がってしまいかねないわ」

「そうですね……って、消すことができない……? シンの意思とやらにそういった効果があるという話もあるんですが……」

「アイテール阻害装置のことね……」老婦人はうなる「そういったものがあってもおかしくはないとは言われているわね……。ほら、この地の全貌を知っている者などいないでしょうし、一つ一つの遺物の機能を網羅している人もまた、いないわ。だから、可能性として、存在しないとは言い切れないわね……」

「例えば、デヌメクネンネスでも、知らないことがある……?」

「彼を知っているのね。ええ、彼でも全知には至っていないでしょうね」

「それで」黒エリだ「シン・ガードたちが超低密構造体の機能阻害を嫌うことと、シン・ガード・ラインを形成する理由にどんな関連が?」

「バランスを崩したくないのではないかしら。この地では何かしらの望まれるバランスがあって、ある遺物を外に出すことでそれが崩れてしまう。だからそれを阻止しようとシン・ガードが動くのかもしれないわ」

「そういえば、タイミング次第で外界への持ち出しが可能だという話も……」

「そうでしょうね。重要なのはある領域におけるバランスであって、遺物という要素ではないとも言われているわ。だからタイミング次第で可能になったりするし、あるいは時間を問わずに外に持ち出して欲しい遺物だってあるかもしれない。私はダイモニカスがそれだと思っているの。そうでなければゴッディア滅亡の説明が付かないのね。そしてそう考えると、現在のクルセリアの行動にも納得できるわ」

「なるほど」ワルドは頷く「この地ではダイモニカスが使えない、というのだね?」

「そう。だからクルセリアは自らシンの意思を追っているのではないかしら?」

「ダイモニカスの外界進出はシン・ガードの目的にかなう?」

「ええ、彼らとていたずらに遺物を破壊したくはないはず。外に出してもらえれば、一先ずはその存在を保留できる。ダイモニカスのような大物なら尚更でしょう」

 さすがはシスターズ最年長、話は……繋がるな。

「しかし、なぜ直径五百キロの領域なのでしょう?」

「いいえ、ボーダーランドは時と共に広がっているわ」

「そうなんですか? では、いずれ……」

「この星を包むほどになるには相当な時間が掛かるでしょうけれどね」老婦人は肩を竦める「とはいえね、憶測を重ねても真実とは言えないわ。そしてかりそめでも真実を知るためには生き残らなくてはね。さて、修行の準備に入りましょうか」

 老婦人はすっくと立ち上がる。

「あなた方の潜在能力を引き出すためには、あなたがたの事をよく知らなければならないわ。そこで個別に面談したいの。まずはあなたから」

 婦人は俺を指差す……。

「隣の部屋でお話ししましょうね。他の皆さんはここで談笑でもしていらして。お茶やお茶請けのお代わりは執事や侍女に頼んでね」

 そして俺は婦人に連れられ、隣の部屋へ……。

 それにしても殺戮兵器、ダイモニカスだと……? しかもそれが外界にあるかもしれない……? とんでもない話だ……!

 しかしまだ疑問は残るな、そんなすごいものを所有しているのならフィンを救うのも容易なはず、なのになぜフィンはシンの意思を欲するんだ……? フィンに対する脅威は外界の話だ、ダイモニカスを使用することに制限はないはず……。

 現状では使えないのか? それともシンの意思を欲しているのは魔女の方とか……? フィンはダイモニカスの力を借りるために、魔女を手伝っている……?

 くっ、これも憶測に過ぎない……。やはり老婦人の言う通り、知るためには強くなって、魔女の前に立つしかない、か……。

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