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WRECKTHERION(仮題)  作者: montana
66/149

閉じた煉獄の環

ありとあらゆる事象を繰り返すこの世は煉獄か。

ゆりかごから墓場まで傍に立つこの女は何者か。

前世を取り戻すごとに私は戦慄し、逃げ惑い、やがて諦め、いずれ狂気に至ることは必然だった。この女を殺せぬことへの代償として、数多の命を奪うことになんの不思議があるだろう?

輪廻は巡る、月と太陽のように。いつまでも、いつまでも……。


                  ◇


 俺たちは物陰に隠れ、奴らに備える。この辺りはやや森が開けており、近隣には石造りの遺跡がある。戦力に数えられない探検家とアテマタは遺跡の地下へ隠れてもらい、獣たちの襲来に備え、アージェルを彼らの護衛として任せることにした。あとは奴らを迎え撃つだけだ……!

 そして現れたのは二つの影、両者ともに白い衣装に銀色の鎧、そして仮面と同じような格好だ。

 ……よし、先制攻撃で仕留めるぞ! 奴らがくる間、何も準備をしなかったわけじゃあない。俺は手元の機械に映っている映像を見やる。これを操作すれば離れた場所からでも潜水艦の砲台を操作することができるらしい……。

 俺はアテマタに教えてもらった通りに機械を操作し、奴らに照準を合わせる。それに連動して、潜水艦の砲弾が静かに稼働する……。

 よし、もたもたしている場合ではない、すぐにやらなくては……! くっ、くらえっ!

 スイッチを押したと同時に銃弾が掃射されたっ……が、奴らはまるで知っていたかのように避けたっ……? こっ……この動き、まさか……!

「や、奴らは同じだっ……! 気配を読むぞっ……!」

 こうなったら仕方がない、俺たちは姿を現し身構える……! しかし奴らは特別な動きを見せない……。

「同じ、か……」優しく不気味な声「なるほど、君も輪廻を超えて私を呪うこととなるのだろうか」

「世迷い言をっ!」

 黒エリが光線を照射、奴らはかわす! そして木陰に姿を消した、エリの鳥が舞う、しかし次の瞬間、樹々がぶれたっ? まずい、向こうはエリがいる場所……と思ったと同時にエリが宙を舞う姿が目に映る、そしてすぐに烈風の余波がこちらにっ……!

「うっ、おおおおっ!」

 風に怯んでいる場合ではない、俺は駆ける、あれは空圧の一撃だ、面での攻撃はセイントバードでも防ぎ難い……! くそっ、安全のために少し離れた場所にいたことが裏目に出たか!

 エリがゆっくりと地面に向けて落下していく……! 受け止められるかっ……? そこに仮面の男が立ち阻む!

「じっ、邪魔だっ!」

 渾身の力で殴ろうと……しかし、受け止めたのは女だとっ? 他にもいたのかっ? そして蹴りが迫ってくる……! 片腕で防ぐが、凄まじい衝撃、骨が軋む……! そして吹き飛ばされ地面に転がるが、寝てなどいられん、すぐに起き上がり、光線銃を連射! しかし、かわされる……が、直後に女は炎に包まれる! これはきっとワルドの攻撃、そしてエリはどうなったっ……? ああ、黒エリが抱きかかえている、しかし、意識はないようだ……。

「はああっ!」

 フェリクスが仮面の男に斬りかかる、しかし、燃えながらも女が奴を守るように立ち阻み、フェリクスを蹴り返したっ! そして手にしている剣で追撃の構え、まずいっ!

「ニァー!」

 アリャの弓が女の頭に、そして首に突き刺さり、フェリクスは難を逃れる、しかしまだ倒れない……!

 馬鹿な、炎はおろか、矢すら受けたのに……? いや、焼かれた顔は爛れている、効いているはずだ……。

 そのとき女は足元の土をすくい上げ……顔に塗り付けた……? すると、みるみる内に顔が治っていく……だとぉ……?

 短めの髪に大きな耳……。白と茶色の体毛に包まれた、犬のような容姿……。女はウォル族のようだ……。赤を基調としたドレスのような鎧を身にまとい、右手には剣が……。

 しかし表情が……まったくないな、少なくとも健常そうな雰囲気には見えない……。まさか、バックマンとして使役されているのか……? 女は無表情のまま、矢を引き抜いた……。

「私はカバト・コッフフ。そして彼女はマカカ・メルダリオン」

 男は仮面を外す……。その下はやはりウォル、青っぽい灰色の体毛を持つ、犬のような顔の男……。ゼロ・コマンドメンツはギマだけで構成されているわけではないのか……。

「さあマカカ、彼らを始末するんだ。そしてできることなら、君も一緒に滅びてくれ……」

 俺は光線銃を撃つ! 同時にワルドの光も奔る! しかしマカカと呼ばれた女は手甲で防ぐ……が、次の瞬間、背後から剣で貫かれたっ? しかし、やったのはカバト……?

 な、なにをしているんだこいつは……? 剣を刺す男と、刺されている女……両者はそのままの形で、悠然とこちらに歩いてくる……。

「狂人がっ!」

 エリを抱えた黒エリが光線を撃たんと腕を突き出すが、白い影の強襲に遭い、飛び退いた。そうだ、敵はもう一人いる!

「さあ、崩れて消えるがいい!」

 うっ、奴の周囲から湯気が、霧かっ?

「こっ、これは!」黒エリはさらに飛び退く!「この霧に触れるな! 強酸だ!」

 なんだとっ? た、たしかに発生源の周囲にある草木が……枯れ崩れていく……!

「ニァアアー!」

 アリャが構える! そうだ、アリャだって風の魔術が扱えるんだ! アリャは弓を引いて、矢を放つ! すると矢は霧を巻き込んで遠くまで運んでいった!

「よそ見をしている場合かい?」

 くっ、奴らが迫ってきている、こっちはこっちでやるしかない! 俺はシューターを構え、撃つ! するとカバトはマカカを斬り裂きながらその場を離れる、そしてシューターの刃は防がんと構えたマカカの剣を折り、その首をもはねたっ……!

 よくわからないが、あれはおそらくバックマンかなにかだろう、動く死者とて、頭部を失っては活動できないはず……。

「ははは、そんなもので死ぬなら私も苦労はしない」

 なにぃ? 見るとマカカはまだ倒れない……。しかも、落ちた頭が崩れ出し、それは黒い蟲となって彼女の首元へ、そして頭部が再生した……!

 こ、これは見たことがあるぞ……! たしか、

「ヴァーマナス・ヘル……!」

「ほう、よく知っているな」カバトは頷く「外道魔術ヴァーマナス・ヘル、それを自分自身にかけるとこうなるらしい」

 こっ……これはまずい! あれはたしか、他のものを食って占領するもののはず、それを自身にかけたということは……おそらく周囲のものを食らって延々と再生し続けるのではっ……? 先ほど土を顔に塗りたくったのもそのため……。

「みんな、あの女に手を出すな! あれはおそらく、肉体に欠損が出た場合、周囲のものを食らって再生するんだ!」

 もしそうでなければ先ほどの接触ですでに食われているはず!

「つまり、傷付いているときに触れると食われるぞ!」

「賢いな」カバトは頷く「逆に言えば、欠損がなければ食らわないということ。ゆえにこうして、彼女を傷付け続ける必要があるというわけだ!」

 カバトはマカカを切り刻む、その都度マカカの姿が崩れるが、彼女はそれを意に介さずこちらに突っ込んでくるぞっ!

「ならば一斉に焼き払えばよかろう!」

 ワルドが炎を噴射したっ! だがやはりマカカが盾となり、カバトはその背後に隠れる……!

「狙いは正しい! しかし、その程度の炎では滅するに足りんな!」

 カバトは手を組んで構える!

「塵よ踊り、表皮を切り裂き、そして血肉を汚せ! ダスト・シュレッダー!」

 烈風とともに塵が飛び、それが無数の刃となる! そしてマカカの姿がさらに崩れる……! くそっ、今触れられたら危険だ、どんどんまずい状態になっていくぞ……!

 この状況を打破するには、迅速に彼女を治すしかない、つまりは餌をくれてやればいい!

「ワルド! 土塊をぶつけるんだ!」

「土塊……承知した!」

 ワルドは呪文を唱え、杖を地面に突き立てる、すると爆発するように土塊がマカカに直撃した!

「食う量は接触面に比例するとみた! 存分に食らうがいいぜ!」

 案の定、女はみるみるうちに再生し、元の姿を取り戻していく……!

 つまりはあの女を傷付けず、奴を叩けばいいんだ。しかし、奴を叩こうとすればあの女が庇うだろう、そしてその間にもカバトは彼女を傷付ける……。とんだイタチごっこだな……。

「どうにかしてあの女の動きを封じなければ……! ワルド、ライトウォールで囲めないかっ?」

「一度に四方は無理だ! 一枚ずつ形成しなければ!」

 やはりそうなのか……!

「となれば……凍らせるしかあるまい! しかし、私は凍結魔術を多用せんのでな、いささか時間がかかるぞ!」

 ワルドは呪文を唱え始める……! 時間稼ぎをしなくては、しかしエリはもちろん、黒エリとアリャの加勢も期待できない。彼女らはあの酸を使う奴と交戦中……って、いつの間にやらニリャタムがいるな! アリャは少し離れたところでエリを守っている、戦っているのは黒エリとニリャタムだ……! なるほど、あの二人は酸に強そうだ、向こうは任せることができそうだな。

 つまりこちらは、俺とフェリクスにかかっているってことだ!

「フェリクス、やれるか!」

「もちろんだよ!」

 マカカが突っ込んでくる! 狙いはもちろんワルドだ! 攻撃せずに足止めは難しいだろう、俺はスティンガーを手にする!

「フェリクス、なるべく足を狙うぞ!」

「そ、それは難しいよー!」

 ワルドは後退しながら呪文を唱え、マカカはそれを追い、それを阻む俺たちに剣をふるう! だが二人がかりだ、攻撃が集中しないぶん、かわす余裕も……と、そのとき、烈風とともに全身に痛みが走るっ! これはさっきの魔術……!

 そして前方より気配、眼前にカバトが、剣の一閃っ! スティンガーの盾で防ぐが剣先が流れ、太腿を斬られるっ!

「くそっ!」

 反撃にとスティンガーを打ち込むが受け止めたのはマカカの腕、さらにカバトの剣が下から迫ってくる! 反射的に飛び退くがまた斬られたっ……! き、傷はそう深くない、といいが……!

「うああっ!」

 フェリクスの斬り下ろし、しかしマカカは胴体で受け止め、それと同時に胸部から刃が飛び出した! これは背後よりのカバトの一撃か……!

「フェリクスッ!」

 フェリクスは崩れ落ちる、そして倒れた……。

「うおああっ!」

 カバトにスティンガーをっ……! しかし、マカカが顔で受け止める、刃に蟲がっ! 思わずスティンガーを手放す……と同時にカバトの手から炎っ……! 右腕で防ぐが、そのせいで視界が覆われた、この瞬間はまずいっ!

 接近する気配、いちかばちか、俺は気配に向け、左手を伸ばす……! そして触れた、電撃だっ!

「ぐっ……?」

 俺は飛び退くっ……! た、助かったか……? ダメージはほとんど与えられていないだろうが、一瞬、動きを止めるには充分だ……! 奴は口元を上げ、

「ふっ、姑息な真似を……」

 そのとき、マカカが凍り始めたっ! 間に合ったか!

「ほう、これを狙っていたのか」カバトは余裕の表情だ「着眼点はいい、しかし……!」

 カバトは呪文を唱え、マカカに炎を浴びせる! やはりそうきたか! しかしワルドの冷気も負けてはいない、マカカは未だ動けるものの、カバトを守るにはいささか鈍過ぎる!

 それにしてもフェリクスが起き上がらない……。あるいはさっきの攻撃で……いや、あれはセイントバード! 傷口に一羽、張り付いている……!

 あの鳥がいるということはエリも無事のようだな、しかし一羽だけとは、痛手を負っていることには違いないようだ、さっさと決着を付けねば……!

「いくぞっ!」

 光線銃を連射、マカカに炎を浴びせたままこれをさばけるかっ?

「くっ……!」

 カバトは転がって木陰に隠れる、ならば樹木ごと貫いてやる!

 強力な光線が太い幹を貫く、やったかっ? いや、気配は上もっと上の方から感じるぞっ……! 樹冠より奴の姿が現れる!

「……魂を大地に引きずり落とせっ! ライトニング・ランス!」

 ここにきて電撃かっ! 好都合だぜ!

 数多の槍状の電撃を受けっ……力が滾ってくるっ……! 感覚が研ぎ澄まされ、奴の動きが鈍く感じる! 今度こそ確実に撃ち抜いてやるぜっ!

 光線銃を撃つ、撃つ……! 面白いように当たる、しかし奴の鎧もまた、光線を弾く性質があるらしい! ならばこっちだ、素早くシューターに持ち替える!

「くらえっ!」

 シューターを連射、刃がカバトを襲う! しかし奴は避けようと樹冠の奥へ身を隠す、だがこの好機を逃しはしないっ!

 再装填、樹の幹に刃を食い込ませ、足場をつくって駆け上る、そして俺も樹冠へ、奴の姿が見えた、さらに再装填っ!

「決着だカバトッ!」

 奴は呪文を唱えている、そうはさせるかっ!

「逝けぃっ!」

 いち早く、刃が奴に食らいついていくっ……! そして奴はぐらりと姿勢を崩し、地面へと転落していった……!

 だがまだ終わりとも限らない、俺も地面へと降りる、そこには倒れたまま動かない奴の姿が……。

「ニァー! ソッチ、イッタ!」

 なにっ? 気配の急接近っ! そして白い影が目の前にっ!

「崩れろっ!」

 手が迫ってくる、しかし掴んだのは横から飛び出した黒エリの腕だ! 奴の手は黒エリを腕を滑って顔へ向かう!

「おおおっ!」

 俺は渾身の力で奴の顔を撃ち抜くっ……! 奴はぐらりと揺れ、その隙に飛び込んでくる影、ニリャタムの飛び蹴りだっ! 奴は吹っ飛ぶ……が、すぐさま宙空にて姿勢を立て直した!

「はっはは……!」

 そこにカバトの笑い声……! まだ息があるのかっ? しかし、口からは大量の血が……。

「み、見事だ……。しかし、私を先に倒したとて、さして意味などないのだ……」

「なにっ……?」

「私はやがて転生し……そしていつか今の私をも取り戻すことになるだろう、マカカによって……。わかるか、この呪縛は死をも超越しているのだ……」

 なにぃ……?

「お、お前はいったい……」

 カバトは小さく嗤い「いつか、また会おう……」

 そして、絶命した……?

「カバトめ、輪廻に入ったか!」

 酸野郎は笑う……! なにが愉しい……!

「さすがに劣勢か、存外やるものだな」

 黒エリが前に出る、酸にやられた腕は……さほどダメージがないようだな、服の袖はボロボロに崩れているが……。

「ふん、逃すと思うのか?」

「俺の酸を浴びてその程度とは……貴様、あの方の同類か」

「……あの方?」

「相性が悪過ぎる。退くぞ、援護しろっ!」

 なんだ? 嫌な予感が……!

「なにかやばいっ、この場を離れろ!」

 俺たちが動いたと同時に、樹々や土が抉れ、吹き飛ぶっ! こっ、これは狙撃かっ!

「くっ、ここはやばい、退くしかない!」

 そして俺たちは後退、俺はフェリクスを拾って遺跡の物陰に隠れる! すると、狙撃は止んだようだ、酸野郎の気配もない……。

「終わった、か……?」

「それよりフェリクスだ、深手なんじゃないのかっ……?」

 息は……あるな! エリの鳥が癒しているようだし、ひとまずは様子見といったところか……?

「エリはどうだっ?」

「意識はないが、セイントバードが癒しているようだ」

「というか、お前、酸にやられていないのか……?」

 黒エリにもエリの鳥が数羽、張り付いているな……って、いつの間にやら俺の体にも張り付いているぞっ……? けっこうやられたわりに動けたのはこのお陰か……。

「問題はない、この体は酸にも強いようだ。それより、意識がないのにセイントバードが現れるとは……」

 意識がなくなったときのことを見越して、自動的に発動するようにしたのか? こんな短期間で……。

「ともかく、みんな無事でなによりだ……。恐ろしい奴らだった……」

 カバトもそうだったが、あの酸の魔術は極めて危険だ……。黒エリやニリャタムがいなければもっと厳しい戦いとなっていただろう……。

「そういや、あの女は……?」

「むう、冷気より解放されしいま、動き始めているやもしれんな……」

「様子を見てくるか……」

 狙撃は……完全に止んだようだな。マカカの元へ向かうと……彼女は凍った体を引きずりながら……カバトの元へ向かっている……。そして、その側に立ち、しばらくカバトを見詰めた後……カバトの体を背負い、重たい足取りで森の中へ消えていった……。

 そういえば、奴は今の自分を取り戻すことになるとか言っていたが……たしか、前世の骨があれば、その頃の知識や経験を得ることができるんだったな……。奴はそうして、幾度も復活している、させられている……?

 最初は奴があの女をいいように使役しているものだと思っていたが、実体はそう単純ではないのかもしれないな。奴自身も呪いと呼んでいたし、あるいは……。

「レ、レク……!」

 振り返ると、アージェルだ。

「ボロボロじゃないか! やっぱり一緒に戦うべきだった……!」

「いや、いつ獣の襲来があるかわからないんだ、彼らの護衛は必要だった」

 それにアージェルは本来、こっちの戦いとは関係がない。あまり巻き込むのもね……。

「でも、何人かやられているじゃないか。私がいた方が絶対いいと思うな」

「そもそも、貴様はどこの何者なのだ」黒エリだ「なにを目的としている?」

「な、なにって……」アージェルは俯く「そんなの、どうでもいいではないか……」

「いいわけないだろう、怪しい輩と同行などできるものか」

「あ、怪しくなんかないっ……! 私は、ただ……」

 廃墟巡りがしたいだけ……いや違うな、俗世のしがらみを嫌悪しているんだ……。

「というか、あの機械人間の連れは放置していいのか……?」

「いいよ、あんなの。カリステだかメオトラだかも言うこと聞かないし」

 どうするんだ? とでも言いたげな黒エリの視線が突き刺さるが……はてさてどうしたものやら……。故郷や錬鉄騎士団に戻るのが穏便だろうが、それは絶対に嫌だと言うだろうしな……。

「ともかく今は休息しよう、本来ならばすぐさまここを離れた方がいいんだろうが……怪我人を無理に動かすわけにもいかないからな」

「ふん、そうだな……」

「この遺跡、けっこう面白いよ。暇だし、ちょっと探検しよう」

 黒エリはジロリとアージェルを睨む……。

「ま、まあ、みんなが回復して、余裕があったらな……」

「だから、その時間が暇なんじゃないか」

 うおお、黒エリの鉄拳が炸裂しそうだ……! アージェルはこう、悪い奴じゃあないんだろうけれど、空気とかまるで読まない子なんだよな……。

 黒エリを宥めてなんとか収まったが……この二人、ちょっと相性が悪いようだな、くわばらくわばら……。

 そしてみんなの元へ戻ると、エリの意識が回復しており、フェリクスも治癒されていた。

「申し訳ありません、またも倒れてしまって……」

「いや、作戦が甘かったんだ」俺はうなる「俺たちはこれまでなんとなく困難を切り抜けてきたけれど……これからはもっと連携を重視しないと危険だろうな……」

 黒エリは頷き「そうだな、奴らはこれまでの相手とは違う。楽観視は即、死を招きかねん」

「そもそも彼らは何者なのかなー?」フェリクスは首を傾げる「それに、なんで僕らを執拗に追いかけてきたんだろう?」

「さあてな、ブラッドワーカーと敵対したからじゃないか?」

「それにしては」ワルドだ「いやに簡単にゼラテアを犠牲にしたものだ」

 うーん、たしかに奴らに仲間意識なんてものはないような気がするな……。

「奴らには謎が多い。凶悪って評判だけが知れ渡っているんだ」探検家だ「それより今後のことだ、まずは相棒を仲間の元へ戻したいんだけど……」

「ああ、そうか、そうだな……」俺はアージェルを見やり「風の都だっけ? あそこへ行く道、覚えているか?」

「えっ?」アージェルは首を振る「ぜんぜん」

 だろうな、森の中を突き進むばかりだったし……。メオトラがいれば連れて行ってくれるんだろうが、あそこに留まっているとも思えないしな……。

「じゃあ、ともかく近隣の村や里に向かうか」探検家は地図を取り出し、開く「ここから近いのは……ギマの村かな」

「ギマの?」

「ああ、まあ、村ってほど人がいるわけでもないが、立派な建築物があるところがあってな。取り立てて友好的ってわけでもないが、話ができないほどでもない。行ってみるか?」

「ああ……それしかないかな。では、行くか」

「ええー?」アージェルだ「この遺跡を見ていかないの?」

「阿呆か貴様は」黒エリだ「ここに留まっていたら危険だろう」

「あっ、アホとはなんだ! さっきから突っかかってきて!」

「こらこらやめろ、ケンカしている余裕なんかないんだ」

 そして俺たちはギマの村を目指すが、その間にも二人は口喧嘩を続け、エリが仲裁をしている……。

 ブラッドワーカーにゼロ・コマンドメンツ、他の勢力の意図だって怪しいところがあるってのに、まったく、先が思いやられるよ……。

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