赤より深く、孤独より黒い
風の都から降りて地上へ、そしてまたも走る走る、今度こそ元の場所へ戻ってくれるんだろうな……!
メオトラは森を縫うように進む、執拗に追ってくる黒いツタを引きちぎり、立ち塞がる謎の大きな毛玉を吹っ飛ばし、たまたま通りかかったギマの男を追い回した先は……あの瓦礫の荒野だ! おお、今度こそ戻ってこれたか……!
メオトラはそっと俺を解放し、隣に座った……。気配の感じからしても、わりと友好的な様子みたいだけれど……どう応対したらいいのかよくわからんのだよなぁ……。
それはそうと、遠目よりグゥーとミィーがこちらに駆け寄ってきているのが見えるな……。フィンたちの姿が見えないのはわかるが、ワルドとフェリクスもいないようだ、彼らと同行しているんだろうか……? グゥーとミィーは近くまでくると、息を切らしつつ歩いてくる。
「おいおい、どこに行っていた、なんだったんだっ……?」
「その前に、ワルドたちはどうした? フィンたちに同行しているのか?」
「ああ……フェリクスだっけ? あいつが遺物を探しに行くってんで、あの先生もついてったよ」
やはり……。俺は先ほどまでのことを簡単に説明し……その途中でアージェルが追いついてきたようだ、メオトラに向けてなにやら怒っている……というか、いつの間にやら声だけだったあいつがいるな……? どうにも左腕をなくしているようだが……一応は、無事だったみたいだ……。
「……とまあ、こういうことなんだ」
説明をし終えると、二人は揃ってうなる……。
「転生者に万能者……」グゥーは幾度も頷く「なるほど、仮説に近い話だな……」
「仮説って?」
「ああ、例えば……バックマンだな、奴らに個体差があるのが不思議だったんだ」
「個体差……」
「元の状態に近い奴もいれば、あまり原形を留めていない奴もいる。何が原因でそうなるのか、死亡要因や死体の状態などの情報を収集して共通点を探ってたんだよ」
「へえ、それで収穫はあったのか?」
「いいや、いまいち共通項に偏りがなくってな。あるいは個人の特性に関係があるんじゃないかって、身も蓋もない仮説を立てたんだが……それがあながち間違いではなかったってことさ」
「なるほど……」
「でも、アテマタに会えたなんて、すごいよね」ミィーはうきうきだ「肉眼では視認できないコロニーがあるのは確認できていたけど、入ることなんてできないもんね」
「彼らと接触はないのか?」
「うーん、まったくないわけじゃないけど、滅多に聞かないね」
「しっかし、この地でそんな争いが行われているとはなぁ」グゥーは腕を組んでうなる「まあ、アテマタが固執しているだけだろうが……」
「あまり周知のことじゃないのか?」
「そうだな。それにちょっと妙な話だ」
「妙って……?」
「前世の情報が受け継がれるならまだしも、そういったことができない、少なくともそういう実感がないのなら、いまの命はいまだけのものってことだ、主観的にはな。だったら魂があろうがなかろうがどちらでもよかないか?」
たしかに……その通りだな。俺は転生者にかなり偏っているらしいが、前世の記憶なんてまるでない……。だとするなら……。
「転生に意味なんてあるのか……?」
「個人としては、ないのかもしれないなぁ……」
ない、か……。
「ところで、みんなの様子ってわかったりするか?」
「ああ、わかるよ。探査ロボットで追っているしな。いまのところ無事のようだぜ」
「そうか!」
「まあ、待つしかないな。生きて戻ればよし、もし死んじまったら撤収しよう」
「撤収って……」
「仕方ないだろ、俺たち三人で追うか? 戦力的に無理筋だよ。犬死ってやつだ」
う、うーん……そうかもしれないが……!
「でも、ワルドやフェリクスがやばいなら俺はいくぜ」
「気持ちはわかるが、内部は虫だらけだぞ……」グゥーは親指でギャロップを指し「向こうにモニターがある。画面越しだが、応援でもしようか」
グゥーのギャロップが縦に半分だけ展開しており、立っている方の壁に像が映っているようだ……というか、周囲にいくらか獣の死体があるな……待機中に幾度か襲撃されたようだ。
「えっと、虫型の……ロボット? とかいうので追っているんだよな?」
「そうそう。五機飛ばして四機残っている。まあまあだな」
なるほど、フィン二人とワルド、フェリクスの四人が地下を歩いている様子が見える……。
「目当てのものがどこにあるのか、わかっているのかな?」
「歩調に確信が伺えるし、どうにもそうらしいな」
四人は危なげなく先へ進んでいく。それにしてもフィンの二人は強いな……ソリュウトは金色の連弩を得物にしており、ものすごい威力の矢を連続で射出しているし……ヨニケラは紐の付いた円形の刃物を巧みに操り、虫たちを両断しまくっている……。この二人に加えワルドもいるんだ、なるほど大抵の脅威は退けられるだろう。
「というかレクよ、あいつはなんなんだ……?」
グゥーはこちらを覗き込んでいるメオトラを見やる……。
「見た目はパムのようだが……」
「さあ……。アテマタが敬っていたし、相応にすごい存在なんじゃないかな……?」
「サンダーコールに似てるかも」ミィーだ「もしかしたらパムとの混血かもよ」
「げぇー! そんなのってあるかよ!」
「人工的にやったのかもしれないし……。あるいはサイボーグとか?」
サイ、ボーグ……?
「サイボーグ……ってなに?」
「一部ないし大部分を機械化した人間のことだよ」
機械化……。そんな話を黒エリから聞いたな……? それに先日戦ったあの黄色い奴もそれっぽかった……。
でも、メオトラは機械っぽくもないな。着ている鎧はそれらしいが……。
「なにより、かなり強いっぽいよね」
強いのは間違いないな。ワルドの光線もまるで通じてなかったし……。
「アテマタが敬っていたってことは、あれも魂の安定度ってのが高いのかね?」
「そうだろうな。というかあれだな、転生者の系譜は魔術が苦手らしいし、お前もそっちの系列なんじゃないか?」
「ああー」グゥーは頷き「そうかもなぁ。自慢じゃないが、俺は魔術がマジで不得意なんだ」
「よかったじゃん、リーダー。死んでも生まれ変われるよ」
「いいかぁ……?」グゥーは俺を見やり「お前って、前世の記憶とかある?」
「いや、まったくない」
「そうだろ? 転生して記憶とか引き継げるってんならそりゃいいかもしれないが、そういう特典がないなら意味ないんじゃないか? 死んじまったらいまのお前はいなくなるってことなんだからさ」
そうなんだよなぁ……。
「言われてみればそうだよね」ミィーは頷く「その都度まったく新しい自分になるんなら、体感としては普通の死と変わらないし」
「それに、分布ってのがひっかかるな。つまりはアイテールの配置がある状態を保ってるって話なんだろう? そして予知とも関係がある……。それって、お前個人の記憶や人格を考慮したシステムじゃないよな」
「安定度が高いと、基軸として採用できるって話なのかな?」
「ということは、なんというか……例えるなら、独楽の軸だよな」
独楽の、軸……?
「なんだそれ?」
「いやまあ、単なるイメージの話だけどさ」
まあ、たしかに外周より中心の方が位置の移動が少ないが……。
「うーん、じゃあ……多少珍しいっていっても、けっきょく大したもんじゃないってことか……」
「珍しいものほど、大局的に見て有用じゃないもんさ」
「有用じゃない……」
「鉄よりダイヤモンドの方が珍しいが、より普及しているのは鉄の方だろ? ダイヤはダイヤで使えるけどな、鉄ほどじゃない」
「たしかに……」
グゥーは俺の肩を叩き、
「だからこそ、俺たちは情報やツールを重視するんだ。優れたシステムは凡夫を好むものだからな」
「なんだそれ……?」
グゥーは肩をすくめて、にやりと笑んだ。
「あっとリーダー、なんか見付けたみたいだよ」
そうだ、四人はどうなった……って、なんだここは……!
「武器庫、だな……」グゥーだ「こいつはお宝の山だぞ……」
一辺、数十メートルはある部屋にずらりと火器が並んでいる……! そしておっと、フェリクスが何か手に取ったぞ、ちょっと大きめの拳銃みたいな形状だが……って、輝く刃が飛び出したっ!
「ライトブレイドか、美品だな、それに出力も安定している。しかし、あいつに扱えるのかぁ……?」
「あれは切れ味がすごいぶん、扱いも難しいよね」
「それでフィンたちはいったい何を……?」グゥーは眉をひそめ「ええっ? それなのかっ……?」
「なんだ……?」
「スキャンゴーグルだ……」
「それは?」
「いろんなものを視認することができるようになる。たしかに有用だし、あれは高級品だが、そのものはそう珍しいものじゃないぞ……。ウチにも何台かあるしな……」
風の都も見えなかったし、そういうものがたくさんあるみたいなニュアンスの話をアテマタはしていた……。あるいはそういうものを見付けようとしている、のかも……?
「よくわからないが、あんまり珍しいものじゃないみたいだな?」
「ああ……まあ、何を求めているか、詳しく聞かなかったしなぁ……。相談してくれれば貸し出し……はできないかな? 奴らはまだ信用できないし」
「……できないか?」
「できないなぁ……!」
少なくともヨニケラは善人っぽいと思うんだが……たしかにフィンにはまだ不穏なところがある、か……。
「ともかく目的は達成したようだ、すぐに戻ってくるだろうぜ」
その後も彼らの動向を見守るが、帰路もまた危なげなく進んでいるようだ、フェリクスを除いては……。
「あいつ、危なっかしいなぁ……!」グゥーはうめく「フィンや先生がめちゃくちゃ強いんだから任せてりゃいいのに……」
さっそく手に入れた遺物を使おうとして危険な目に遭っているようだな……。そしてハラハラすること小一時間、ようやく地上にみんなの姿が現れる……! ああ、無事に済んでよかった! 俺たちは彼らの元へ……。
「観てたよ、無事でなによりだ」
「うむ」ワルドはローブをほろう「存外、楽な道のりであった。あやつらは強いな」
「フェリクスも、持って帰ってきたな!」
「うん、これで僕も戦力になるよー!」
途中、幾度もやばい場面があったがなぁ……!
「そして……あんたら、求めていたものがまさかゴーグルとはな」
ソリュウトは口元を上げ、
「意外かな?」
「ああ、まあ、強力な武器かと思っていたしな……」
「狩人に必要なのはすべてを見抜くまなこさ」
そういうもの、なのかね……?
「ともかく目的は果たした、さっさと戻るか」グゥーはアージェルたちを見やり「……で、あいつらもくるのか?」
「ああ、そうらしい」
俺は彼女らの元へ向かい、ギャロップに誘う。しかしいまになってアージェルは逡巡する……。
「その、カタヴァンクラーのところって、人がいっぱいいるんだよね……?」
「そりゃあ……ある程度はな……」
「ふーん……」
おいおい、人見知りもそこそこにしておいてくれよ……。
「……というか、お前、片腕どうした?」
声だけだった奴は鼻がないのに鼻を鳴らし、
「見ての通り取れただけですが、問題ありますか?」
「……いや、それを聞いているんだけれど」
「いいみたいだからいいんでしょ」アージェルは冷淡に言い放った「そのうちどこかで代わりを見つけて勝手に直すよ」
う、うーん……まあ、そうならいいが……。
その後、ようやくアージェルが行く気になり、俺たちはギャロップに乗り込む。さすがにメオトラは乗れないので、走ってついてきてもらうことにする。
「よし、みんな乗ったか? 戻るぜ!」
そしてギャロップは上昇……そして飛行を始める。帰り道も問題なく進み、あっという間にカタヴァンクラーの城へ、乗り物はまた森の中へ駐める。
「さあ、またダッシュだよ、リーダー!」
「ああ……」
出発時と同じく俺たちは走る……! するとやはり巨人が反応し、こちらに光線を撃ってくるぅう……! そしてメオトラに当たった……!
「メッ、メオトラッ! 大丈夫かよっ?」
メオトラは転げるがすぐに立ち上がる。
「モ、ン、ダ、イ、ナ、イ……!」
まじかよ、どんな耐久力だ……!
そしていくらか光線を撃たれるが、被弾したのはメオトラのみ、俺たちは無事、屋内に……。
ホールには獣の死体がいくつか……執事たちが回収をしている。そしてその隣で返り血を浴びたシルヴェが煮るだの焼くだの、調理の注文をつけている……。
「おっ、どこか行っていたのかわん?」
「まあ、ちょっとな……。例の対立はどうなっている?」
「さあ? まだ話してるんじゃないかわん……って、なんかすごいのいるわん!」
シルヴェはメオトラに駆け寄る……。
「ソルス・アニマ……」
おっと、その言葉、前にも聞いたな? 波長が合うのか、メオトラとシルヴェはすぐに打ち解け、じゃれ合う。まあ、両者とも似たタイプだよな……と眺めていたら、突如、シルヴェがアージェルに急接近したっ……!
「なっ……なんだ貴様っ!」
「こっちも新顔だわん! それにお前、かわいいわんね!」
「かっ、かわ……? 失敬な……! 近寄るな、血なまぐさい!」
そして二人は追いかけっこを始め……ついでにメオトラもガフガフッとそれに参加する……。なんなんだいったい……?
とはいえ、気に入られているんだからいいことか……? まあ、良くも悪くもここにいるのはあんまり普通じゃない連中ばかりだからな、あるいはアージェルが気に入る相手も見付かるかもしれない。
「さて、今後のことも踏まえ相談せんとな」ワルドだ「いったん部屋に戻ろう」
俺たちは各々の部屋に向かう。ああ、いろいろあったが、おそらくまだ昼頃じゃないか……? 午前中だけで疲れたよ……。
そしてのろのろと階段を上っていくと……なんだ? この気配、覚えがあるぞ……! 上からやってくる……!
思わず立ち止まっていると、フェリクスが振り返る……。
「レク、どうしたのー?」
「奴だ……!」
やはり戻ってきたか……! 近付いてくるのがわかる、足音も聞こえてくる……!
死んだと聞かされたときには信じられなかったが、こうしてまた現れたとなるとげんなりしてくるぜ……!
「奴とは……?」ワルドだ「まさか……!」
気配と足音が大きくなる、もう、すぐそこにいる……!
そして、その姿を現わした……が、そこにいるのはあの老人ではなく……!
ばっ、馬鹿な、なぜここに……?
なぜ、ここにいるんだっ……?
下りてきた女の顔は、よく知っている顔だ……あの冷たい瞳、凍ったような肌、妖しく微笑む唇……少し、波打った黒い髪……。
なぜだ、なぜ……ここに、エジーネがっ……?
いや、いやいや、違う、本人ではないっ……! 気配が違う、こいつは蒐集者だ、たしかに奴のものに違いない……!
それに服装も違う、あいつは高価そうなドレスが好きだった、しかし目の前の女は赤い頭巾にマント、黒い服にブーツ姿だ、あいつがこんな格好を好んでするわけがない……。
「……お前、蒐集者だな……! なぜ、その顔を……!」
「その顔って?」声音もエジーネと同じ……!「なんのことかしら?」
「ふざけるなっ……!」
俺は怒気に任せて蒐集者に掴みかかる! しかし次の瞬間、手に激痛がっ……!
「ぐっ、あああっ……?」
なんだこれは、焼けるように痛い……! あまりの痛みに、身動きがとれない……!
「あらあら、乱暴するから」
蒐集者は俺の手を取り、噛んだ……! すると、急に痛みが引いていく……。
「この服は灼熱蜘蛛の糸で編んでいるの。下手に触ると痛くなっちゃうわよ」
「お前……なぜ……」
「カーディナルは近々死ぬ予定だったの、もう歳だからね。そこで孫娘が現れるってわけ」
「そんなことではない……! なぜ、その顔を……!」
蒐集者は答えず、また妖しく笑むばかり……。
しかし、俺への当て付けなのは間違いない、こいつ、なんて嫌らしいことを……! この仕業すら、あいつにそっくりだ……!
「エ、エジーネに、手を出したのか……?」
「誰ですって?」蒐集者は肩を竦める「そんなひと、知らないわ」
「知らない、だとぉ……?」
「ええ、だから、もちろん何もしていないわ」
蒐集者は顔を近付け、恐ろしい笑みを浮かべる……。
「それとも、期待でもしたの?」
期待だと……? まさか、馬鹿な……。
「……アテマタに、会ってきた。お前と繋がりがあるらしいな」
蒐集者は笑み「あらそう」
「女に化けるとは、いい趣味だぜ……!」
「あら、もともと女かもしれないでしょう?」
なにぃ……?
「なんにせよ、今後ともよろしくね、わたしはスカーレット」
スカー……レット……。
そうしてスカーレットもとい蒐集者はクスクスと笑いながら、階段を下りていった……。
「……おぞましい輩よ」ワルドだ「大丈夫かね……?」
「あ、ああ……」
……俺は、ひどく陰鬱な気分でエリたちの元へ……。力なくドアをノックすると、エリが顔を出した……。
「あっ、レクさんっ……!」
エリが、起きている……。立ち上がっているところは久しぶりな気がする、な……。
「ああ、よかった……! 私が臥せている間にいろいろなことがあったみたいで……」
「ああ……体は、大丈夫かい……?」
「はい、もうすっかり!」
「まったく」黒エリは深く息を吐く「待つのも疲れたよ。対しお前はあれこれと忙しなかったようだな」
「ああ……そうだな……」
そこに体当たり、だ……。アリャか……。
「ベツコードー、ヤメル!」
「……ああ、そうだな。そして、少し話したいことがある……」
気分がすぐれないが……得た情報は早々に共有しておく必要がある……。俺は椅子に腰かけ、あったことを詳しく話す……。
「転生者と万能者……か」黒エリはうなる「つまりは、リザレクションとて万能の魔術ではないということ、だな……」
思わずエリの顔色を伺うが……彼女は俯いて、なにかを考え込んでいる様子だ……。
「わ、わからないがな……。あくまで難しいってだけで、まるで不可能とは言えないかもしれないし……」
「不明な点も多いぞ、もし対象が転生の系譜で復活が容易だとしても、あるいはすでに転生した後であった場合はどうなるのだ……?」
い、言われてみればたしかに……!
「その場合、リザレクションで呼び戻せるのか? そしてその場合、転生後のその人物はどうなる……?」
黒エリの言い分はもっともだ……。どうなるのだろう……?
「どうなるのか?」
うおおっ? またもデヌメクが窓辺に立っているっ……!
「あっ……あんた……!」
「転生後にも魂を呼ぶことは可能だ。その場合には、現在の肉体が骨に呼び寄せられることになる」
……骨に、呼び寄せられる?
「なんだと?」黒エリだ「まるで先の……」
「その通り」デヌメクは振り返ってニッと笑う「召喚魔術の原型だね」
「それで、骨の元へやってきて、どうなるというのだ……?」
「前世の情報を取り戻すことができる」
「なんだって……?」
さっきそれができないのなら意味がない……という話をしたばかりだが、可能なのか……!
「……ですが」エリだ「それは術者の、傲慢ですね……」
「もちろんそうだが、対象者の利益も大きいんだよ。前世の知識や技能が一瞬にして手に入るのだからね。大抵は喜ばれるんだ」
一瞬にして……前世の力を得られる……。
「ちなみに、転生の間隔は不定なんだ。数日のこともあれば百年以上かかることもあるので、気にしても仕方がない」
仕方が、ない……。
「……最近、ずいぶんと世話を焼いてくれるんだな」
「もちろん意図はあるさ」
デヌメクはニッと笑む……。
「……俺たちは、終末を防ぐための駒ってわけか」
「どのみち、情報は必要だよ。これからやってくる敵のことを知るためにもね」
これからやってくる、敵……?
「なんだ、それは……?」
「彼らは恐ろしいよ。ブラッドワーカーは裏の商売人だが、彼らは禁忌を恐れぬ暗黒の狂信者集団だ」
「だから何者なんだよ、そいつらは……?」
「すぐにわかる」
そう言ってデヌメクはまた、ニッと笑む……。こうなると問い詰めても無駄だな、他のことを聞いた方がいい……。
「……では話を変える。ロード・シンを操ることなど、可能なのか……?」
「操ることは不可能だよ。しかし、伝播を遮断することは、あるいは可能かもしれないね」
「……それで、どうなる?」
「夢を見なくなった巨人は起き上がるだろう」
「それで……?」
「どうなるかはわからない。しかし、伝播を遮断され孤独を思い出した時、彼は眼下に広がる世界を見てどう思うだろうね」
どう、思うか……。
「もともと彼はこの惑星の住人ではなかった。異邦人なのさ」
なに、この惑星だって……? デヌメクは俺を見やる。
「別の惑星に移り住んだ我々の祖先が作り出したものとも、あるいはそこで進化した人間だとも言われている。しかし、少なくとも彼は知っているんだね、宇宙の孤独を……」
宇宙の、孤独……。
広がりきった宇宙の孤独を誰が知りたい? あのとき、幻影がそんなことを言っていたな……。
「ある者は、彼はこの星に縋っているのだと言った。そうなのかもしれない。だとしたら、孤独を思い出させてはいけないのではないかな」
もし、そのときがきたら……シンは絶望して、この世界を破壊してしまう……? それが終末なのか……?
「まるで子供であるな」ワルドはうなる。
「宇宙の孤独はどんな賢者をも赤子にしてしまう。そして、彼が罪の名を冠されているのも、孤独という大いなる罰を受け続けているかのように見えるからだと聞くね」
ロード・シン……。それは大いなる破壊と再生の象徴なのではなかったのか……?
しかし、その実態は孤独に憂いる異邦人……? この星に縋り、アイテールの伝播を受け取り、寂しさを紛らわしている……?
「孤独、か……」
黒エリの呟きが、とても寂しそうに響いた……。